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上手く行かなくなる種




何をやっても駄目な男の子と人気者の男の子のお話し。





 僕は何をしても駄目だ。もうすぐ運動会なのに、走るのが遅いから皆の足を引っ張るだけだ……


 人間界から悲しみの声が聞こえて来ました。


 その男の子は何をやっても上手く行かず、友達からも家族からも、いつも馬鹿にされていました。走るのはいつも一番最後。歩いていてもすぐに転けてしまうし、忘れ物も多いし、勉強も出来る方ではありませんでした。



 神様が気に成って見ていると。今日も一人残って走る練習をしています。


「お前が練習をしたって、一秒だって早く成らないよ!」


「お前がいると、俺達のチームは負けちゃうだろ!」


 そう言うのは、走りの早いグループの子ども達。


「そうだ。お前、運動会の当日は休め!」


 それが良い。そうしろよ。と口々に言います。そのグループを率いる子どもは何をやっても良く出来る子どもで、勉強も一番。スポーツも一番。遊びでも必ずリーダー的な存在のその子は、駄目な子の気持なんてまるで分らなくて、いつも男の子をなじるのでした。


 男の子は淋しい気持に成りました。努力はしているのに。人よりも頑張っているのに、どうして出来無いんだろう。何で上手く行かないの? いつも悲しんでいました。


 神様はどうにかして上げたかったのですが、それだけの力が有りません。何か良い方法は無い物かと考えました。


 そうだ、この“上手く行かなくなる種”をリーダーの子に植え付けよう。そうすれば少しは変わるかも知れ無い。


『この種を 君に植えよう。』


 リーダーは、何だか変な感じがしました。でも別に何とも無いので、そのまま家に帰りました。その夜。宿題をしていると、何だか頭がぼんやりして上手く答えが書けません。


 お風呂の中でも、転けてしまうし。変な夜だなと思いながら布団に入りました。


 朝に成りました。何時もは自分で起きられるのに寝坊してしまいました。時間割りの用意もしていなかったので、忘れ物をしてしまいました。


 学校へ急いでも、いつもの様に早く走れません。リーダーは初めて遅刻をしてしまいました。


 どうなってるんだ? 今日の俺、何だかいつもと違うぞ? リーダーは不思議で成りませんでした。


 今日は体育が有る日です。体操服を忘れてしまいましたが、そのままの服で走る事にしました。リーダーは、自信満々です。いつもの様に一番でゴールする筈でした。


 なのに、今日はどうした事だ一番びりだなんて……。誰もが信じられませんでした。


「今日は調子が悪かったんだね」


「たまには、こんな事も有るよ」


「あんまり、落ち込むなよ」


 などと友人は口々に慰めます。しかし日にちが経つにつれ、段々とその言葉は悪口へと変わって行きました。


「冗談じゃ無い。」


「何?あの遅さ!」


「まるで、別人だよな。」


「リーダーがあんな風じゃ、俺達のチーム負けちゃうじゃん!」


「何考えてるんだよ!」


 皆そんな風に言いました。


 でもたった一人、リーダーの悪口を言わない子がいました。男の子は、出来無い事の悔しさを誰よりも解っていたから、リーダーの力になりたいと思いました。


「一緒に頑張ろう。毎日練習しようよ」


 そうリーダーに声を掛けたのでした。男の子は、あの日から毎日放課後欠かさずに走っていました。


「俺は、お前とは違うんだ! 一緒にするな。お前なんかと練習できるかよ!」


 リーダーはそう言って走って行ってしまいました。男の子は少し寂しい気持に成りましたが又、独りで練習するのでした。


 男の子は毎日練習したお陰で、少しづつ早く走れる様に成って来ました。それに走る事だけじゃ無く、前の日に準備をし何度も確認して忘れ物も無く成って来ました。勉強も解らないないところは、先生に聞いて少しづつ苦手を無くして行きました。


 とても簡単な事では無いけれど、毎日一生懸命努力して出来る様に成ったのでした。



 リーダーは、今の自分は俺じゃ無い。明日に成れば又、元の自分に戻ってるさ。と、今の自分の姿を認めず、過去に縛られ、明日を生きようとはしませんでした。


 リーダーの母親も、こんなグズな子私の子どもじゃ無いと、酷い事を言って自分の子どもを突き放すのでした。


 リーダーは悲しい気持に成りました。どうして? 何で俺だけが、……俺だけが……涙が零れて来ました。止めど無く……止めど無く……。悔しくて。哀しくて。淋しくて。どうしようも無くて……。どうにも成らなくて……。リーダーは、ふとあの男の子の事を思い出しました。


 あいつは、今までどんな気持で過ごして来たんだろう。いつも俺達になじられ、独りぼっちで…。意地悪されて。耐えて。それでもあいつは練習して……。自分自身とも闘っていたのか……。


 自分のクラス皆と、自分自身と闘って。たった独りで……なんて強いんだろう。俺とは全く違う。俺は弱い。


 俺は強がっていたけど、あいつに比べれば……。俺なんていつも人に囲まれ、独りに成る淋しさなんて……全然知らなかった。



 ……あいつ、凄い奴だ。



 リーダーは、思わず外に飛び出しました。男の子の家に向かって走りました。星空が見えました。


 どうしても今日の事を謝りたくて。一緒に練習しようと言って貰った事が嬉しかったから……。その気持を会って話したかったから。一直線に走りました。


 心の中で謝りました。今まで酷い事言ってご免。沢山悪口言ってご免。本当にご免。心からそう思いました。


 やっと、男の子の家に着きました。でも、いざ男の子を目の前にすると、話したい事が有っても言葉に成りません。頭の中ではぐるぐると沢山の言葉が渦巻いているのに。ご免の言葉も。嬉しかった事も。何も、言葉が出て来ませんでした。


「どうしたの? こんな夜中に……」


「………」


 リーダーは何も答えません。



「星が きれいだね。」


 男の子が空を見上げて言いました。リーダーも空を見上げました。


「沢山の……沢山の星空。明日から一緒に練習しよう。」


「………」


「一人より二人の方が、ずっと楽しいよ!」


「…うん…有り難う…」


 リーダーは、頷きながら涙を流しました。それで全てが許された気がしたのです。




 次の日から一緒に練習をする様に成りました。リーダーは自分が早く走れていた頃の事を思い出して言います。


「もっと顎を引いた方が良いと思うよ」


 二人でその走り方を試してみます。少し速く成った気がしました。


「今度はもっと腕を振ってみよう。」


 又二人は試してみました。


「うん。又、早く成ったね。」


「そうだね、この調子で頑張ろう。」


 二人は汗をかきながら笑顔で笑い合いました。初めは遠巻きに見ていた同級生達も。一人又一人と、一緒に練習したり、応援したりする様に成りました。そして、とうとう運動会の日がやって来ました。



 二人は今まで練習した全ての力を出し切って走りました。いつも一番最後だった男の子はなんと二位に! リーダーは一位に! 学年中の子ども達もとても驚きましたが、一番驚いていたのは、リーダーと男の子でした。


 まだ信じられ無いと云う様な顔で向き合っていましたが、本当に起こった事だと確信し抱き合って喜びました。今まで成しえ無かった快挙に男の子の両親も涙を流して喜んでいました。


 皆の拍手が、いつまでもいつまでも止みませんでした。



 運動会が終わって何日か経ちました。リーダーは、又スポーツ万能で勉強も出来る以前のリーダーに戻っていました。でも隣には、あの男の子がいます。二人はとても仲の良い親友に成っていました。





 努力と友情の力で、植えた種が枯れてしまったのでしょうね。でもそれで良かったのです。“上手く行かなくなる種”で、全てが上手く行ったのです。良い事ですね。神様はうんうんと頷きながら言いました。







おしまい。







この男の子は、幼い頃の自分です。

自分は、何をやっても駄目な子で…。

でも、この男の子の様な努力なんて、 全くしませんでした。

のほほんとした子どもでした。




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