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心の芯の種




不良少女の話。





 先輩の神様がことわりを侵してしまいました。



 先輩の神様はある少女をずっと見守っていました。少女は幼い頃から親にしいたげられ、ずっと反抗して生きてきました。


 娘の成績が悪いのはお前のせいだと父親は母親をなじり、母親も仕事にかこつけて家庭をかえりみない父親に不満を募らせて、両親はいつも喧嘩ばかりしていました。少女はそんな家が嫌で、夜遅くまで街をふらついていました。補導された事も何度もありました。


 両親が離婚してからは家出を繰り返し、友達の家を転々とし、不良と呼ばれる道を一歩 一歩進んで行きました。煙草、シンナー、援助交際。


 誰も私を愛してくれ無い。必要とされてい無い。何の為に生きているのか分かりませんでした。自分がどうなろうと悲しむ人なんていない。でも誰かに見て欲しい。認めて欲しい。愛して欲しい。心の中で、いつも叫んでいました。認めて貰いたいけど、何をして良いのか解りませんでした。




 やがて少女は妊娠しました。十四歳に成ったばかりでした。相手は、十八歳の不良グループの少年でした。荒れた生活をしていたので妊娠している事には全く気付かず、それが分かった時にはもう六ヶ月に入っていました。六ヶ月を過ぎてしまうと産むしか無いのです。


 少女と少年は新しい命が宿った事に戸惑い狼狽え逃げ出したい衝動に刈られました。でも、胎動を感じた時。この中に確かに命があるんだと実感し、親に成る事を決意しました。


 そして、自分達を育てたあんな親には成らない。子どもが悲しむような事は絶対にしないと心に誓いました。


 少年も少女もお金が無かったので、月一回の定期検診には行けませんでした。子どもを育てる為には、沢山のお金が必要です。少年は、工事現場でアルバイトを始めました。夜中の仕事で、毎日クタクタに成りました。


 少女も、せめてこの子が産まれるまで。この子の物を買う為にと。十八歳と偽り、近くのコンビニでアルバイトを始めました。


 十ヶ月に成り陣痛が始まり、近くの病院へ駆け込みました。 毎月の診察を受けてい無かったので母体の状態も赤ちゃんの発育具合も、全く分かりません。医師達は慌てましたが、命が誕生しようとしているのですから、今更追い返す事は出来ません。少女は母子手帳すら持っていませんでした。


 何とか、無事に赤ちゃんは産まれました。赤ちゃんが産まれてから、数日以内に出生届けを提出しなければ為りません。でも二人は、婚姻届を出していませんでしたから、どうしたら良いのか分かりませんでした。



 病院に少年と少女の親が呼ばれました。親達は自分の子どもに腹を立て、初孫の誕生を誰も喜んではくれませんでした。新しい命の誕生よりも、怒りや憎しみの方が大きかったのでしょう。


 少女達の親は、長い時間話し合いました。そして、少年と少女は離れ離れにされました。少女と赤ちゃんは、無理矢理連れ戻されたのでした。


 大事に大事にお腹の中で育て、苦しい思いをして産んだ赤ちゃんは、親の子どもとして育てる事に成りました。やっとの思いで産んだ我が子が、戸籍上では妹と記されるのです。私は姉では無く、母親なのに。親は私より世間体の方が大事なんだ!


 初めて愛し合った人と引き離され子どもを取り上げられ。少女は又反抗するのでした。



 少女は、美容の専門学校へ通う事にしました。一人で生きて行く為には、手に職を付けなければ成りません。利用出来る物は何でも利用してやろうと、大嫌いな親に頭を下げお金を出して貰いました。今さえ我慢すれば、こんな家出て行ける。そんな思いで一杯でした。



 やがて少女は手に職を付け、アパートで一人暮らしを始めました。朝早く仕事へ出掛け、夜遅くに灯りの無い部屋へ帰って来る。そんな生活でした。



 数年後、お店のお客さんと結婚し子どもが産まれました。今度こそ幸せに成れる。そう思っていました。不景気のため夫が職を失い、少女一人が家計を支える様に成りました。


 夫は仕事も探さず昼間から酒を飲む様に成り、少女と子どもに暴力を振るう様に成りました。少女は堪らずに、子どもを連れて逃げ出しました。しかし、何度逃げても必ず見付かり連れ戻されるのでした。



 もう、少女はどうして良いのか解りませんでした。




 先輩の神様は少女に“諦めの種”を植えてしまったのでした。それが元で、少女は子どもを道連れに、岸壁から海へと身を投げました。本当の寿命は、もっともっと先でした。




 神達は輪廻から外れ、天界へ召し上げられた時歩んで来た全ての記憶が甦ります。その思い出をい抱いて上界を目指すのです。


 少女を見守っていた先輩の神は、自分の人生と重ね合わせてしまったのかも知れません。この先、生きていてもきっと幸福は訪れ無いと。




 でも、希望を与えるのが神達の役割です。決して死を与える為に使ってはいけないのです。少女と子どもは、まだ輪廻の中にいる筈でした。それなのに先輩の神様は、二つの魂を輪廻から外し自分の元へと呼んでしまったのでした。


 これには、最上界の神々が怒りました。理を侵してしまった先輩の神様は、天界を追放される事に成りました。そして業を背負わされ、輪廻の中に身を置く事に成ったのです。呼び寄せられた二つの魂も輪廻の中に戻されました。


 神だった人は又永い時間を掛けて転生を繰り返し、背負った業を少しづつ軽くして行きます。きっと辛く過酷な運命がその人を待ち受けている事でしょう。


 神様は、その人に“心の芯の種”を植えました。


 どんな困難が待っていても、全てを跳ね返せる芯の強い人間に成って欲しいと願いを込めて……。




 神様は、手の中を見つめました。まだまだ色んな種がありました。それらを本当の意味で、正しく使って行かなければ成りません。中にはどう扱って良いのか分から無い物も数多くあります。“諦めの種”もその中の一つでした。


 神様はまだ、成り立てのほやほやです。成長過程にあるのです。これらの種も素敵な使い方を思い付く時がきっと来ます。神様はこの神だった人を、これからもずっと見守って行こうと思うのでした。








 おしまい。









読者の方から、“死の種”と云うアイディアを頂いたのですが、自分はまだ力不足で

“死の種”を使って良い結果を出すお話しを、書く事は出来ません。

が、いつかきっと…!



…たぶん…







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