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思い出の種




 息子の作った借金を返す事に疲れはて、命を手放そうとした母親の話。





 その人は、死に場所を探していました。もうすぐ生きる事を止めてしまうのです。



 その人は、四十歳の頃長い闘病の末、旦那さんを亡くしました。それから女手一つで子どもを二人育てました。


 子ども達は、畑仕事を良く手伝ってくれました。毎日が大変で、贅沢なんて一つも出来無かったけれど、それなりに幸せでした。子どもたちは、母親を助ける為に高校に入るとすぐにアルバイトを始めました。


 長男は高校を卒業すると、県外の靴屋さんへ就職しました。人懐こい性格の長男は店主に気に入られ、店を任されるように成りました。その店では、売れ残りが出ると店長が買い取らなければ成りません。毎月売れ残るので、長男の給料は足りなく成りました。そのたび家に靴を持って帰り、代わりにお金を借りて行きました。


 一年足らずで、長男は店を辞め実家に戻って来ました。地元で働く場所を探して、おもちゃ屋さんで働く事にしました。人当たりの良い長男は、ここでも上司に気に入られ、又店長に成りました。


 その店は商品が盗まれる事が多く、万引きされた分の代金は店長が補てんしなければ成らないのでした。


 長男は、色んな場所で借金をする様に成りました。借金を返す事が出来無いので、又新しい店で借金をする。その繰り返しでした。


 返せ無いのに、母親にも、弟にも、何度もお金を借りました。その内母親は長男の保証人に成り、母親も毎月沢山のお金を返さなくてはならなくなりました。



 子どもが大きく成り、やっと自分自身の為に働ける。やっと楽に成れると思っていたのに、いつもお金の心配をしなくてはなりません。もっと借金は増えて行きました。


 長男は、余り家に寄り付かなく成りました。でも、お金が無くなると母親の給料や祖母の年金を当てにして、戻って来るのでした。


 母親は、何とか成らない物かと心を痛めました。母親のお金だけでは足りずに、隣近所、親戚の家、思い付く限りの場所から借りました。もうどれ位借りたかも分から無い程に……。


 次男の方は、良い何処に就職出来て、良い相手に巡り会い、可愛い子ども達にも恵まれました。


 次男には家族がいる。あてにしてはいけ無いと思いながら、どうしても長男を突き放す事は出来ませんでした。やがて次男の子ども達も大きく成り、借金を断られる事が多く成って来ました。


 相変わらず長男は、母親をあてにして借りに来ます。でも、次男には頼れ無い。もう一杯一杯でした。



 母親も長男も弁護士に相談して、自己破産する事にしました。そうする事でかなり借金も無く成りましたが、自己破産してもまだ、支払わなければ成らない何処があって、完全に借金が無く成る事はありませんでした。 自己破産しても長男はいい加減な生活を繰り返し、又色んな所から借金する様に成りました。又同じ事の繰り返しです。



 母親のところに、借金の取り立て屋がやって来ます。長男は、出て行った切り帰って来ません。でもお金が必要な時だけは帰って来るのです。




 もう全てが嫌に成りました。



 何もかも投げ出して、逃げたく成りました。どうして、こんな事に成ってしまったのだろう。ただ一生懸命残された子ども達を守って、育てて、がむしゃらに生きて来ただけなのに……。何がいけ無かったの? どこで間違ったの? そんな思いで一杯でした。


 母親は電車に乗り、宛ても無くさ迷いました。駅で『樹海』の文字を見付けて、行って見ようと思いました。まだその時は、命を手放すつもりはありませんでした。



 樹海に辿り着き、遊歩道を道なりに歩いて行きました。どれ程歩いても景色は変わらず、思考力を奪って行くのでした。


 ふと、ロープの手すりを越え林の中に一歩踏み入れてみました。もう、どうでも良いと思っていた母親は、そのまま何の躊躇いも無くどんどん林の奥へ進んで行きました。何日も樹海を歩き続け、木の根に座り込み意識がもうろうとした時に、夢をみました。



『そんなに簡単に、命を手放して良いのですか? 会いたい人はいないのですか? 貴女が居なく成って、悲しむ人はいないのですか?』


 神は、問いかけます。


「私なんかが生きていても、迷惑を掛けるだけだから……」


『では……貴女に“思い出の種”を植えましょう』



 その人は、もうろうとする意識の中、記憶の中を歩き出しました。



 そこには、少女時代の若くてキラキラした自分の姿が見えました。セーラー服を着ています。早起きして、ご飯の準備をして、お弁当を作って、朝食をとり学校へ出掛けます。父親は、四十歳の若さでこの世を去りました。


 母親は、毎朝早くから仕事へ出掛けて行きましたから、弟の世話をしながら学校へ行きました。


 やがて、別の街へ就職し糸を造る工場で働きました。友達も沢山いて、毎年社員旅行があって……。とてもとても、楽しかった。


 会社を辞め、実家に戻った頃のお見合いの場面です。自分より三つ年上の真面目そうな人でした。是非とも嫁にと乞われて、結婚する事にしました。


 夫が、二人で住む為の新居を捜しています。もう何年も放置されていたあばら家を見付けて来ました。そこを二人で修繕し畳を入れて、建具を入れて、掃除をしました。二人は畑を耕し生計を経てました。けして裕福では無かったけれど、子どもも二人産まれました。家族四人で囲む食卓。屈託の無い笑顔。犬と散歩したあぜ道。空には沢山の星たち。



 とても……とても……幸せな時間。



 眠っている母親の顔には、笑顔が浮かんでいました。


 たまたま樹海を取材していたスタッフが、母親を見付けて警察に届け保護されました。次男家族が迎えに来ました。そして「俺達と、一緒に暮らそう」と、言ってくれたのでした。






 人生の中で、とても辛い現実に直面した時。どうにも身動きが取れ無い現実に直面した時。死んだ方が楽かも知れ無いと思ってしまいます。



 誰かに、相談出来れば……


 誰かに、助けを求めれば……


 少しは違った人生が待っているかも知れません。


 一人で悩まないで下さい。


 誰かに相談して下さい。



 きっとその先に、道は現れる筈です。


 このお母さんは、自殺を思い留まってくれて、本当に良かった。






 おしまい。








 終わり方が、上手く無くて済みません。

 現在進行形の事なので、きちんと終わらせる事が出来ませんでした。


 身近過ぎて…。


 兄の為に支払った金額は、約一千万円に成ります。

 今でも、支払って居る物が有ります。早くスッキリしたいです。

 後、早く縁を切りたいです!


 母は兄に

「早く、死ね」

 と、何度も言ったそうです。

 母親にそう言われ、息子はどう思ったでしょうか。


 息子にそんな事を言わなければ成らなかった親の気持は、どう言った物だったでしょうか。


 兄が悪いのでしょうか。


 育て方が悪かったのでしょうか。


 今兄は、借金取りから逃げる為に 橋の下で生活をして居るそうです。


 ちなみに母は、自殺志願者では有りません。


 私は、次男の可愛い嫁です。

 兄弟なのに、違い過ぎです。


 お金は、人の人生を狂わせます。


有り過ぎても、不幸に成る。


ほどほどが一番と云う事ですね。









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