異説鬼退治Ⅱ⑥
アロハのロリコン男襲来からしばらくした、ある日のことです。
今度は身なりの良い男が現れました。
黒いスーツ、黒いシャツ、黒いネクタイ。黒づくめです。
頭髪は白く染まっていますが、風貌は精悍でした。
男は大柄で禿頭の男を伴って、桃太郎の家に近づきます。
「今日も大漁じゃ」
彼らの後ろから声がします。
お爺さんです。
両手いっぱいにスイカを持っています。どこからか、かっぱらってきたのは言うまでもありません。
何故って?
パトカーのサイレンが聞こえますから。
「失礼、あなたはこの家の方ですか?」
白髪の男が丁寧に尋ねました。
優しい声です。
「そうじゃが。もしや……」
「はい、実は……」
「もしや! このワシをスカウトに来たんじゃな? このワシこそが美少女パラダイスに君臨する、主人公にふさわしいと」
「いえ、そうではなくて……」
人の話なんて聞くはずがありません。
彼らにとっての不幸は話しかけた相手がエイリアン並みだったということでしょう。
「よし! ならばさっさとババアと離婚届を提出して、第二の人生を歩むのじゃ! 美少女とキャッキャウフフな毎日を過ごすのじゃ!」
「ですから……」
がはははと大口を開けて笑っているところに、紫色のみたらし団子が投擲されました。
それはすっぽりとお爺さんの口に入ります。
お爺さんはにやけた表情のまま、ばたりと倒れて意識を失いました。
「もう、駄目じゃないかツンデレラ。ちゃんと座敷牢に閉じ込めておかないと。何するか分からないんだからね?」
「あら、この爺なら簡単に脱獄するわよ」
開いた玄関から桃太郎とツンデレラが出てきました。
「あ、お客さんですか?」
「……はい」
白髪の男は少し戸惑っているようです。無理もありません。こんな地球外生命体と遭遇したのですから。
「お騒がせしてすみません。僕はここの住人で桃太郎と申します」
「いいえ。職業柄、騒動は慣れています。申し遅れました。私は関東竜胆会のヒイラギです。君のことは長倉から聞いていますよ」
「はあ。それで今日は一体どうされたのでしょうか」
「はい。ここで孫娘を預かっていただいていると聞きました。彼女を返していただきたいのです」
桃太郎は数日前の出来事を思い出した。
確か、ツンデレラは組に嫌気がさして脱走してきたのだということを。
「嫌よ、帰らないわ」
話を聞いていたツンデレラがきっぱりと言います。
「言ったはずでしょ? 組を継ぐのは嫌だって。お爺様は私に組を押し付けるおつもりかしら?」
ヒイラギはツンデレラに柔らかい視線を注ぎました。
「今日はその話をしにきたんだ」
「まあ立ち話もなんですから、中にどうぞ。あ、そこのジジイは放置したままで結構です。自動的に蘇生しますから。ああ、長倉さん、薬とかも要りません。もったいないです。ジジイにあげるくらいなら、テントウムシにあげたほうがマシですから」
さりげなくひどいことを言う桃太郎。
「ありがとうございます。では、ご厚意に甘えましょう。長倉、お邪魔させてもらうとしよう」
長倉は無言で頷いて、家の中に入っていきます。
「ツンデレラ、中で話そう。落ち着いて、ね?」
「……お兄ちゃん」
「何だい?」
「……私、邪魔な子じゃないよね」
「もちろんだよ。ずっとここにいてもいいんだよ?」
「うん」
ツンデレラは満足そうに頷いて、家の中に消えていきます。
桃太郎はお爺さんがまだ動いていないのを確認すると、家に入り、お茶請けの準備を始めました。
こんばんは、jokerです。
ストレス解消にまたもや書きました。
これ、新人賞に応募しようかしらと愚考が頭の中に浮かんで一瞬で消えました。
こんなの出したら、『こいつバカじゃね』と思われるのオチでしょう(笑)
そろそろ、異説鬼退治Ⅱも佳境です。
もう少しお付き合いくださいませ。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……