異説鬼退治Ⅱ⑤
桃太郎は頭の中で計算します。
「答えは……」
じっくりと溜めます。
「答えはなんだ?」
「答えは……太郎はキティちゃんの親友で、前世ではアーサー王として幻想世界に君臨していた、詐欺師である」
サングラスの男は桃太郎を凝視します。
そして頭を抱え込みました。
「……まさかここまで絶妙な答えを導き出すとは。やるな」
「ふふふ、達人の頭脳をなめてもらっちゃ困るよ」
「アホが二人に増えたわね」
ツンデレラは冷ややかに見守っています。
「面白い! こうなったらとことんキティちゃん談義を――」
ミサイルが降ってきました。
こんなことをするのは世界で一人しかいません。一人いれば十分です。
「そこなあんちゃん。世界三大美女に数えられるワシを無視して話を進めるとは、よほど断頭台の露と消えたいらしいの?」
世界三大美女とはブケファロス、佐々木小次郎、そしてお婆さんです。ここはテストに出ますよ多分。え? 人間じゃないのが混じってる? 気のせいですよ、旦那様。
男はお婆さんを一瞥しました。
ここで当たり障りのないことを言って、お婆さんを口車に乗せて操縦できるほどのスキルがあれば、この危機的状況を難なく回避できるのですが、もちろんこの男はロリ以外に興味ありませんから、そんなことができるはずもありません。多分できたとしても、しないでしょう。
「黙れこのクソババア」
最悪のシナリオでした。
お婆さんは気合一発、右の拳を鉄球に向けて突き出します。刹那の後、それは粉々に砕け散りました。
「俺様はな、ロリ美少女以外に興味ねえんだよ! あの成長期途中の瑞々しい肢体、大人と子供の中間に位置する声、背伸びしようとしているところもいいぜ。だが、ババア! あんたには何もねえッ! というか、そろそろ舞台から消えろ。この物語はな! 主役俺様! ヒロインロリ美少女多数のギャルゲー的ビューティフルサクセス激萌ラブストーリーなんだよひゃははははは!」
ここまでお婆さんに罵詈雑言、暴虐愚行を尽くした人間は初めてでしょう。一応、あのお爺さんですらも気を遣っているのです。一万分の一パーセントくらいかもしれませんけどね。
お婆さんの様子がおかしくなります。
いや、いつもおかしいのですが、今回はいつも以上におかしくなります。おかしくない時なんて数えるほどしかないんですけどね。
「ひひひ……この愚者には徹底的なセラピーが必要のようじゃの。婆が優しく丁寧に、一から骨の髄まで、ぐっきりと美について教えてやろうではないか」
ぐっきりという表現はとても穏やかではありません。というか、言葉の使い方間違ってます。
お婆さんはにひにひと笑いながら男に近づきます。
男は近づくなだのうひぇーだの奇声を上げていますが、どこ吹く風です。
そして、お婆さんは男の頭をわしづかみにして家に引きずり込みました。
数秒後。
「ぎひゃああああ!」
男の悲鳴が聞こえます。
「それは……ふぎゃああああああ!」
その悲鳴を聞いて桃太郎たちは身震いを始めました。
「あの鬼畜お婆さん、何してるのかしら?」
「覗いちゃだめだよツンデレラ、君には刺激が強すぎる。というか、あの刺激に耐えうる人間なんて多分いない。エイリアンなら話は別だろうけど」
家の中からは
「せっかくじゃから、婆はこっちの階段を使おうかの」
「ぎにゃああああ!」
「ほれ、しっかりせい! 鍋焼きの刑に処されたいのかの」
「……この鬼ババ……ぐほぉ?!」
一時間後、魂が口から抜け出た状態のサングラス男を連れてお婆さんは家から出てきました。
「これで真実の美というものが何か分かったはずじゃ」
お婆さんは満足げに男をどさりと地面に放り捨てて、戦闘機に乗ってどこかへ行ってしまいました。
「ツンデレラ、いいかい。今日のことは忘れるんだ。あれは地球外生命体なんだからね。マネしちゃだめだよ」
「……あなたも今日までよく生きてこれたわね」
しみじみと彼女は言いました。
こんばんは、jokerです。
勢いに任せて五分程度で書き上げました。
次回作はミステリ+ラブです。今度はちゃんと(今度こそ)プロットを作ったので、筋の通ったストーリーになっていると思います。とりあえずは宣伝をば。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……