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異説鬼退治Ⅱ③

 玄関の前に立っていたのはグラサンをした大柄な禿頭の男でした。ブラックのスーツがいかします。

「お嬢様、探しましたぞ」

 ドスの効いた声で男は言いました。

「さあ、会長が心配しておられます。そろそろご実家にお戻りください」

 この場合、会長はPTA会長を指します。もちろん、嘘です。

「嫌よ」

 少女はきっぱりと返事しました。

「大体、私は組の跡継ぎなんかにはならないわ」

「わがままも大概にしてください。跡継ぎは貴方様以外におられません。そろそろ、関西最大の雀武ジャンブ組と抗争に入るのです。その時、貴方様に陣頭指揮をとっていただかなくてはなりません」

 桃太郎の目の前では信じられない会話が行われています。

 あの可憐でツンデレな少女の正体が何と、頭に「や」のつく自由業の後継者だったとは。

「雀武組の若頭には藻夏瑠モゲルとかいう実力者がいると聞いています。この男を止めるのは、貴方様の知略以外にはありません。どうか、ご決断を」

「うるさいわね。私はここの生活がいいの」

「お嬢様、関東が関西の組に征服されてもよろしいのですか」

「私は組の抗争なんか、どうでもいいのよ。とっとと、この呪わしい身分から解放されたいくらいなのよ」

「先代会長の残された、天下統一の夢はどうなりますか」

「知ったことじゃないわ」

「待てぃ!」

 闖入者が現れました。余計なところで余計なことに首を突っ込みやがって、と桃太郎は頭を抱えます。

「ワシの可愛いロリを誘拐しようなどとは無礼千万! 月に代わって、この爺が天罰をくれてやろうではないか!」

 頭に鉢巻を巻いて、ふんどし一丁になった変態が吼えました。

「なんだ、この……」

 男は言葉に詰まります。別に圧倒されたからとか、驚いたからではなくて、こんな常識のベクトルに真っ向から逆らっている男に対して、どういう表現を使えばいいのか分からないだけです。

 桃太郎は躊躇なく、正宗を抜いてお爺さんを殴り倒しました。放っておけば、間違いなく我が家が組の標的になるからです。

「すみません、エイリアンは無視して、どうぞお続けください」

 厄介ごとになる前に、お爺さんに再び暗殺用のみたらし団子を食わせます。とりあえず、十個くらい食わせておけば一日くらいは復活しないでしょう。

 男は咳払いをして続けます。

「とにかく、近いうちにお迎えにあがります。その時までに覚悟をお決めください。最近は関東第二位の秀英しゅうえい組も動き始めているのです。そのためには」

 男の携帯が鳴りました。

「長倉だ」

「ぐふふ、桃太郎はおるか? 婆は今警官隊を五百人殲滅したところ……おや、相手が違ったかのぐへへ」

 ぶつり。

「……」

 怪電波を受信したようです。男の顔が引きつります。だらだらと汗が顔から流れます。もう逃げ出したいオーラが全身から出ています。でも、会長の命令ですから、そうもいきません。自由業も楽じゃないですね。

 今度は桃太郎の携帯が鳴りました。

「ぐふふ、桃太郎か。さっきは番号を間違えてしまっての。今警官隊を千人撃退したところじゃ。烈風婆波動旋風の威力が上がったのじゃ」

 技の名称がダサいとか言ったら、後でボコられるじゃ済まないので、やめておきます。とりあえず次は国際指名手配でしょう。

「お婆さん、ちょっと今お客さんが来てるから電話切るよ」

「客じゃと? それはお茶を出さねばなるまい。光速で戻るから、待っておれ」

 数秒後、独楽のように回転しながらお婆さんが現れました。またひとつ厄介な要素が増えたと内心桃太郎は頭を抱えましたが、既に手遅れな気がしていました。

「そこでくたばっているジジイ以上の常識破壊人物が帰ってきたわ。あなた、もう帰った方がいいんじゃない?」

 諭すように少女が言います。

 しばらく黙った後、男は口を開きました。

「そうさせてもらいます。それから、この家は組の方で要注意危険人物としてリストアップしておきます」

「その程度じゃ駄目よ。せめて核ミサイルの三つくらい持ってこないと。特にここのジジイはゴキブリ並の生命力だから。名神高速を逆走引き回しにされても翌日にはピンピンしてるもの」

「人間ですか?」

「だからエイリアンよ」

「そんなに褒めるでない。照れるではないかぐふふ」

 お婆さんがニタリとして男にじりじりと詰め寄ります。

「イケメンではないか。ぐへへ、我が家に住まんかの」

 男の顔が引きつりました。誰かもう帰してやれよ。

「そんなに感激してくれるとは嬉しいの。ぐふふ」

 この顔を見て感激していると認識するお婆さんの脳みそは大分おかしいと桃太郎は思いました。今に始まったことではありませんが。

「お婆さん、そろそろ帰るって」

「にゃにおう? まだ婆とイイコトしてないではないか」

「お婆さん、お爺さんが博多の中洲でイイコトするとかいって出て行ったわよ」

「何? あのエロジジイ、徹底的に東名高速逆走引き回しにしてくれるわぐへへ」

 お婆さんは突如として現れたF15戦闘機に飛び乗って、遠くへ消えて行きました。

 ツンデレラ、GJです。

「こんな家、関わりたくないでしょう?」

 ツンデレラは駄目押しを決行します。

「いえ、会長のご命令です。何としても、お嬢様をお連れせねばなりません。今日は装備もありませんので、引き上げますが、後日必ず組にお戻りいただきます」

 返ってきたのは予想に反した答えでした。

「頑固ね。爺様に感謝してるのは分かるけど、命あってのものだねよ?」

「分かっております」

 男は桃太郎の方を向きます。サングラスをはずしました。

 左目には大きな傷がありました。右目は竜のように鋭い瞳を持っています。

「君、お嬢様を頼む。近日中にこちらに伺うから、それまでお嬢様を守り抜いてくれ」

 大変な頼みをされたものです。

 ですが、男としてここでこれを引き受けないわけにはいきません。元々、我が家のジジババがやらかしたことです。身内が責任を取らなければ、と桃太郎は思いました。

「全力でツンデレラを守ります」

 男はサングラスをかけなおして、去っていきました。

 その数日後、つかの間の平和は再びぶち壊されます。いや、別に中国自動車道をお婆さんが戦闘機で爆撃したのがニュースになったからではありません。お爺さんが中洲でラーメン屋台食い逃げしたからでもありません。

 ツンデレラに向けられた牙はゆっくりと、しかし着実に忍び寄っていました。


こんにちは、三ヶ月ぶりの更新です。


相変わらずストレス発散のために描いています。


ツンデレラに向けられた危機とは?

ではまた次回お会いできることを祈りつつ……

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