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異説鬼退治Ⅱ①

この物語は前作『異説鬼退治』の続編となっております。前作を読まれなくても、話は分かるようになっておりますが、前作をお読みいただき、登場人物の概要を知っておかれることをお勧めいたします。なお、前作には美少女は登場しません。あしからず。

 むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。

 お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。

 お婆さんが洗濯をしていると、川上から桃太郎がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。手には何故か盗撮用のカメラが右手には握られています。お爺さんから仕込まれたようですね。面倒くさいので、そのまま流しておいて家に帰ります。

 家に帰ると小さな女の子が台所にいました。十歳くらいでしょうか。

「ぐぇっへっへっへ、うちに何か用かい、お嬢ちゃん?」

 お婆さんはよだれをたらしながら、その子を見下ろします。

 今夜の鍋の具にでもしようとか考えています。

「私、迷子になったの。助けてください」

 白銀の長い後ろ髪につけられた大きな白いリボンを揺らしながら、懇願します。

 顔立ちは西洋人形のように整っており、世の男性全てを魅了するほどでした。印象的なのは紅色に染まった瞳です。身に付けている純白のドレスも彼女の美しさを際立たせています。

「うむ、めんこいから助けちゃる」

 ということで、お婆さんは家でこの子を預かることにしました。

 数時間すると、お爺さんが大きな桃を抱えて戻ってきました。

「婆さんや、隣村の金太郎さんの家からかっぱらってきたぞい!」

 人はそれを窃盗と呼ぶのですが、お爺さんにそんな概念はありません。

「ようやった! 今日は桃鍋じゃの」

 というわけで、お婆さんは青龍円月刀を物置から取り出すと、思いっきり振りかぶって、桃を叩き割りました。桃の斬り方が間違っているとか突っ込んではいけません。あらゆる常識は彼らの前では紙切れ以下になるのですから。

 なんと、中から出てきたのはサルのホームズです。かつて、桃太郎と共に株式会社鬼が島を倒しに行った仲間です。

「何でコイツがおんねん」

 大阪弁です。お婆さんは刀を投げ捨てます。

「む、婆さん。あの炉理ロリは誰じゃ?」

 お爺さんの鼻息が荒くなったのは秘密です。

「この子は帰りに拾ってきたのじゃ」

「婆さんGJ(グッジョブ)!」

 お爺さんはさらに鼻息を荒くして、女の子に近づきます。

「ハァハァ」

 どこからどう見ても変態です。

「近づかないで汚らわしい」

 ばっさり。

「この爺とイイコトしようではないか」

「警察呼ぶわよ」

「おお、ツンデレか。愛いのお、愛いのお」

 じりじりと女の子に歩み寄ると、桃太郎が金属バットで後ろからお爺さんをしばき倒しました。

「大丈夫?」

 頭にはタコが乗っかっています。

 女の子は変な少年を見つめました。別に一目ぼれしたとかじゃなくて、『何この不思議な生物は?』くらいな目です。

 桃太郎の後ろには下僕一号、犬のダイゴロウがいました。ダイゴロウの頭の上にはキジのポアロがいます。サルのホームズはみたらし団子を食べながらソファに寝転がって、テレビを見ています。

「ああ、はじめまして。僕は桃太郎。都立大江戸高校2年生です。こっちが犬のダイゴロウ、キジのポアロ。そしてあそこでみたらし団子を喉につめているアホはサルのホームズ」

 てきぱきと自己紹介します。

 女の子も

「よろしく」

 とだけ返事をしました。表情は幾分か和らぎます。

「ワシのおにゃのこはどこじゃ」

 よろよろとお爺さんが起き上がります。

「これ以上セクハラしたら、鬼が島㈱の座敷牢に放り込むからね」

 桃太郎は脅し文句を吐きますが、そんなのどこ吹く風。

「セクハラのない人生なぞ、水のない海のようなものじゃ」

 つまり、これはお爺さんの日常というわけですね。

 女の子はじりじりと寄ってくるお爺さんを

『うざってえなこのクソジジイ』

 的な目で見ています。

 一方、お爺さんは内心

『このおにゃのこはワシに惚れておるなぐふふ』

 とか思っているのですが、悲しいカン違いです。

「ねえ、君の名前は?」

 桃太郎はお爺さんと女の子の間に割って入りました。とりあえず、このセクハラジジイをどっかに行かせなければなりません。教育上よろしくありませんから。

「私の名前は……ないの」

 悲しそうな声です。でも、鈴の鳴るような綺麗な声でした。

「じゃあ、僕たちがつけてあげようか」

 と桃太郎の提案。

「ティラノサウルス!」

 とお婆さんが開口一番叫びました。恐竜の名前を持ってくるあたり、既に色んな意味で終わってます。

「お婆さん、可愛い女の子にそれはないでしょ」

「にゃにおう!? ならば、ゴーヤチャンプルがいいのか?!」

 駄目だコイツ早く何とかしないと。

「お婆さんには女心が分かってないでしょ?」

 女の子そっちのけで口論です。

「あ、あの……」

 あっけにとられている女の子。

「やかましゃい! 動物保護団体を返り討ちにしたワシの女心はパーフェクトじゃ!」

「どこが女じゃクソババア」

 お爺さんが乱入します。が、乱入する場面を間違えたようです。

「ほう、死兆星を見たいようじゃな爺さんや」

 お婆さんは太い縄をお爺さんの首にくくりつけます。そして、それを持ってバイクにまたがりました。ペイントされた『極悪罵馬亜連合』の文字が素敵です。どう見ても賊です。本当にありがとうございました。

「hんが;dhん;あbんd;bが」

 お爺さんの言語化できない絶叫と共にお婆さんは走り去っていきました。名神高速を三百キロくらい逆走したら戻ってくるでしょう。

 一連の出来事を女の子は見守っていました。怯えるでもなく、恐れるでもなく

『コイツら絶対頭イカれてる』

 くらいの目です。まあ、あながち間違っていませんけどね。というか大正解ですけどね。

「ごめんね、驚かせちゃって」

 穏やかな声で桃太郎は言います。

「別に、優しくしてくれたって何とも思わないんだからね!」

 このセリフで桃太郎は目を丸くしました。

 しばらく頭を抱えた後

「うん、決まった。君の名前は『ツンデレラ』だ」

 というわけで、ツンデレラと桃太郎たちの新しい日常が始まりました。


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