第7話 酒場の話
ギルドを出ると、街は完全に朝へ移っていた。
人の数が増え、
荷車が通り、
通りには生活の音が満ちている。
受付の女性の言葉を思い出す。
「宿でしたら、
通りを二つ行ったところにあります。
一階は飲食もできますので、
食事にも困らないかと」
教えられた通りに歩くと、
古い木造の建物が見えた。
看板は色褪せているが、
人の出入りは多い。
中に入ると、
一階はすでに客で埋まっていた。
酒と、温かい料理の匂い。
朝から飲んでいる者もいる。
――宿、というより、
半分は酒場だ。
空いている席に腰を下ろし、
水を頼む。
壁際。
周囲の会話が、自然と耳に入る。
「……また、出たらしいぞ」
「どこだ」
「南の街道。林の近くだ」
指が、わずかに止まる。
「今回は、一人生き残りがいるらしい」
声が、少し低くなる。
「刃物を持った男が、何人かいて襲われたんだと」
「山賊か?」
「違うって言ってた」
水を飲む音。
「統率が、妙だったらしい。
無駄がなくて、
役割が分かれてる感じだって」
別の男が、鼻で笑う。
「傭兵崩れか?」
「さあな。
ただ――」
一拍。
「一人だけ、
やけに楽しそうなやつがいたらしい」
空気が、変わった。
「笑ってたってよ。
刃を弄びながら」
「そりゃ、なかなかイカれたやつだな。」
男の喉が、わずかに鳴る。
「……逃げたやつは?」
「さっき言った特徴を話して、
死んだんだとよ」
それきり、話題は流れた。
別の噂。
別の愚痴。
店内は、
元のざわめきに戻る。
男は、水を飲み干し、
席を立った。
外に出ると、
空はすっかり明るくなっていた。
街道へ向かう人の姿も増えている。
荷を担ぎ、
朝の仕事へ向かう背中。
――安全だと、
思われている時間帯。
確証は、ない。
証拠も、ない。
それでも――
聞いてしまった。
あの夜と、
重なりすぎる話を。
男は、踵を返す。
気づけば、
街門の方へ歩いていた。
考えが、先にあったわけじゃない。
足が、
そちらを向いていただけだった。




