第4話 冒険者ギルド
肩を押さえながら歩いていると、
声をかけられた。
「おい、兄ちゃん」
振り向く。
髭の濃い男だった。
「さっきの見てたぞ。運が良かったな」
「……ああ」
男は肩をすくめる。
「一人でふらふらして良い腕じゃない」
「なら、どうすればいい」
少し間があって、男は親指で通りの先を指した。
「ギルドだ。生きたいなら、まずそこだ」
―――
建物は大きくなかった。
だが、人の出入りは多い。
扉を開ける。
中は騒がしい。
笑い声、怒号、酒の匂い。
血と鉄の気配が、空気に混じっていた。
視線が集まる。
好奇心、警戒、無関心。
その中のいくつかが、こちらに引っかかった。
受付の女が、こちらを見る。
「登録?」
「……たぶん、そのつもりだ」
視線が、肩に落ちる。
値踏みするような目だった。
「たぶん?怪我しているようだけど、もう初仕事したのかしら?」
「さっき、路地でな」
周囲の冒険者が、ちらりとこちらを見た。
「運が良いのか、悪いのか……」
受付の女が、小さく息を吐く。
「名前は?」
「……」
一瞬、迷う。
だが、嘘をつく理由もない。
名を告げると、
女は木札に書きつけた。
「ランクは最下位からで、
依頼を受けるなら掲示板を見て、私のところに来てちょうだい。」
「あ、それと忠告」
女は顔を上げる。
「一人で英雄気取りは、早死にする」
「……覚えておく」
踵を返しかけて、足が止まる。
「……一つ聞いていいか」
女は眉を上げた。
「異世界から来た人間って、いたりするか」
一瞬、周囲の空気が変わった。
女は、少しだけ声を落とす。
「昔は、いたらしい」
「今は?」
「……いない」
それだけだった。
男は、掲示板に目を向ける。
紙切れが、何枚も貼られている。
討伐。
護衛。
雑用。
どれも、命を使う仕事だ。
「……ここが、スタートか」
誰に言うでもなく呟く。
紙の端が、わずかに震えた。
自分の手なのかは、分からなかった。
取り戻すための場所。
返すための場所。
この世界で、生き続けるための場所。
男は、一枚の依頼書に手を伸ばした。




