第2話 始まりの場所
――ここは、どこなんだ。
土の感触。
冷たい空気。
肺に流れ込む、知らない匂い。
体は動く。
痛みは、ない。
それだけで十分だった。
起き上がり、周囲を見渡す。
石と木で組まれた、簡素な空間。
壁際には干し草が積まれ、
粗末な寝台代わりにされている。
獣の匂いはしない。
だが、人が長く使っていない場所でもない。
――倉庫か、
あるいは、馬小屋の一角。
灯りは弱く、
外はまだ暗い。
思考は、驚くほど冷えていた。
泣き叫びも、混乱も、もうない。
代わりに胸の奥で、
硬い塊が沈んでいる。
忘れるな。
あの夜を。
床に伏していた姿。
返事のなかった声。
小さな体の重さ。
「……待ってろ」
誰に向けた言葉かは、
分かっている。
扉を開ける。
外は、石畳の通路だった。
建物と建物の隙間を縫うように、
ランプの灯が等間隔に並んでいる。
夜明け前の街。
静かだが、死んではいない。
遠くで扉の軋む音。
低い声で交わされる会話。
革靴が石を叩く、乾いた足音。
人影はある。
だが、互いに深入りしない距離感があった。
歩き出す。
迷いはない。
探すために。
取り戻すために。
そして――
返すために。
その時だった。
視界の端に、文字が浮かび上がる。
――スキルを確認しますか?
一度、足を止める。
「……確認しない理由は、ないな」
この世界で生きるなら。
この世界で、やり切るなら。
必要なものは、すべて使う。
男は、そう決めていた。




