第二章: 俺様将軍の標的捕捉
第二章: 俺様将軍の標的捕捉
図書室での壁ドン事件から数日後、ミナトは徹底的に「物理的距離確保作戦」を実行していた。
王宮の廊下を歩く際は常に壁際に張り付き、視界に入る人間(特に男性)の半径10メートル以内に近づかない。書類の受け渡しは極力第三者を介し、目線は常に床に固定。完璧なif distance > safe_zone: maintain()ロジックだと思っていた。
```python
# ミナトの新回避戦略 Ver.2.1
safe_zone = 1000 # cm単位で10m
for entity in all_entities:
if entity.gender == "male" and entity.threat_level > 50:
if current_distance < safe_zone:
immediate_retreat() # 最短経路で逃走
print("Retreat success probability: 87%")
else:
print("Neutral zone maintained")
```
「これで王子ルートは完全にシャットアウト。後は事務仕事に徹して、誰とも深く関わらない。平穏な老後まで一直線だ。」
そう信じて疑わなかったその日の午後だった。
王宮の中庭で、ミナトは書類の束を抱えて急ぎ足で移動中だった。すると、正面から重厚な足音が響く。まるで大地を踏みしめるような、威圧感のある歩みにミナトは顔をあげたその瞬間、視界に赤い警告が点滅した。
```python
# CRITICAL WARNING: 新規高脅威対象検知
target_name = "ラング・フォン・クリーク"
age = 40
position = "ヤオイ国大将軍"
romance_flag_risk = 95 # 急上昇中
character_type = "俺様・強引系攻め"
desire_to_steal = 98 # 王太子から奪う気マンマン
danger_level = "OVERKILL"
```
背の高い、筋骨隆々の男が立っていた。銀灰色の髪を後ろで束ね、肩から掛かる深紅のマントの下には、重厚な軍服と飾り剣。顔には無数の戦傷が刻まれ、鋭い金色の瞳がミナトを射抜く。
ラングは一瞬でミナトの存在を捉え、口の端をわずかに吊り上げた。
「ほう……噂のベルンシュタイン家の小僧か。王太子が妙に執着しているという、あの小鳥のような美少年。」
ミナトは反射的に後退しようとしたが、背後には噴水。逃げ場なし──あれ、デジャヴ?
```python
# ミナトの即時判断
if retreat_path_exists:
execute_retreat()
else:
freeze() # フリーズ(最悪の選択)
# 結果: freeze() 実行 → 固まる
```
ラングは大股で近づき、ミナトの顎を指で軽く持ち上げる。距離、15cm。危険領域突破し、ミナトは混乱した。
「逃げ足は速いと聞いていたが……今日は逃げないのか? いい判断だ。俺の前では無駄な抵抗は命取りになる。」
低音ヴォイスが耳元に吹きかけられ、ミナトの脳内コードが悲鳴を上げた。
「ちょ、待て待て待て! これはただの物理的接触回避失敗だ! affection_level は上がらないはず……!」
```python
# 実際の実行結果(想定外のバグ)
affection_level = 0 + 45 # 顎クイで+45(想定外の上昇値)
interest_level = 72 → 120 # オーバーフロー発生
print("Warning: Overflow detected! romance_flag_risk = 95 → 142% (critical overflow)")
```
ラングの金色の瞳が細められる。仕様書に書き加えられるキャラクター設定があるとすれば、バリトンヴォイス、命令調。
「お前、王太子から逃げ回ってるらしいな。……面白い。俺は逃げる獲物を放っておけない性分だ。」
彼はミナトの腰に片腕を回し、そのまま軽々と抱え上げた。まるで小動物を拾うように。
「なっ!? 離せ! これは明確な違反行為! 接触禁止ゾーン突破! 訴訟ものだ!」
お姫様抱っこでないことが有難い。
ミナトがじたばた暴れるが、ラングにとってはただの可愛い抵抗にしか見えないらしい。
「暴れるな。落ちるぞ。……それとも、落ちてもいいのか? 俺が下で受け止めてやるが。」
ラングはそのままミナトを抱えたまま歩き出す。中庭の端にある、将軍専用の休憩所へ向かう。
「今日からお前は俺の傍にいろ。書類仕事ならいくらでもある。王太子の鼻を明かしてやるのも一興だ。」
ラングの言葉にミナトの頭の中はパニック状態だ。
「待て、これは完全に俺様ルート突入だ! 回避行動が逆に『逃げる小動物』として捕獲欲を刺激したに違いない! ロジックの前提が間違ってた……! 物理距離を取る → 逆に追いたくなるという、俺様属性の仕様を見落としてた!」
さらに悪いことに、この一部始終を遠くの回廊から見ていた人物がいた。
マーク・ド・ブリュン伯爵。銀髪を優雅に揺らし、唇に薄い笑みを浮かべている。
マークの思考(脳内コード風):
```python
if target == "ラングの獲物":
competitive_spirit += 150
desire_to_steal += 200
strategy = "従兄からも、将軍からも奪う"
print("NTRルート開放条件: 充足")
```
ミナトはラングの腕の中で小さく震えた。
「これは……マルチエンドどころか、全員同時攻略状態じゃん……。デバッグ不能。コンパイルエラー連発。俺の人生、Segmentation Fault だ……。」
こうして、ラングルートの俺様捕獲イベントが、ミナトの意図とは全く逆に、むしろ華々しく(?)幕を開けたのだった。




