第8話(1章完)
アンリの病室を出て、私は街を歩く。
たくさんの人が行き交い、楽しげな会話をしている。
そんな当たり前の光景を私は見た事がなかった。
(思えば、あんな風に誰かを守りたいなんて考えた事もなかった)
ダンジョンでの事を思い出す。
アンリをあの殺人狼から必ず守ると思った。
そう思うだけで、今まで感じた事のない力を感じた。
思えば、今までダンジョンは一人でクリアしてきた。
一緒に入るのは同じギルドメンバーで、危険かもなんて考えた事すらない。
圧倒的な個の力。
私はそれを持つ人達しか知らず、そんな人達としか関わってこなかった。
誰かとダンジョンを攻略して、苦楽を共有する。
それがとても素敵な事だと私は知った。
『また一緒に冒険しようね!』
アンリにそう言われて、私も行きたいと思った。
もっと知りたいと思ったんだ。
誰かと一緒に冒険をする楽しみを、アンリの苦しみを分けて欲しいと思ったんだ。
(……私、今からでも強くなれるかもしれない。アンリとなら!)
初心に返る。
そうすれば、自分の魔法は更に高みに行けるかもしれない。
アンリとなら、それが出来るかもしれない。
これは、最強の魔術師である私が、更なる高みを目指す物語だ。




