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最強の魔術師、更なる高みのために初心に返りたいと思います。  作者: おおあし


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第6話

 「おい…どうなってんだよこのダンジョンは…ここは、セーフティゾーンだろ!?何で魔物が出てくるんだよ!?」



その光景に冒険者達は嘆く。

魔物が現れないセーフティゾーン、その場所にBランク冒険者を簡単に殺めた殺人狼がニヤリと笑いながら立っている。

殺人狼は大きく息を吸っている。



 (!マズイ!)



カトレアは瞬時に耳を魔力で覆う。



 「ワォォォォー!」



狼らしい雄叫びという名の咆哮を冒険者達はその身に受ける。

殺人狼の咆哮は、その音の振動に魔力を込めて放たれる。

結果、ノーガードで受ければ、最悪死に至る程の威力を誇る。



 「がはっ」



魔力で耳をガードしているカトレア以外の冒険者は鼓膜が破れ、その場に倒れ込む。

中には血を吐き、内臓も傷ついている者もいる。



 (まさか……)



 「誰も、魔力でガードしていないの!?」



殺人狼の攻撃は基本的に魔力で防げる。

しかし、殺人狼はBランク以上のダンジョンに住まう魔物、今4階層に残っている冒険者の中に、殺人狼と戦闘経験があるのはカトレアだけだ。



 「ワォォォォー!」


 「!?待て!」



殺人狼は雄叫びを上げながら、自ら開けた穴に入り下層に降りていく。

追いかけようとするカトレアだが、



 「……さすがにこのままって訳にはいかないよね」



カトレアは気絶した冒険者達を見て追いかけるのをやめた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



殺人狼がその場を去って数分、気絶した冒険者を一箇所に集めて、回復魔法で傷を癒す。

その間もカトレアは焦っていた。

なぜなら、穴に落ちていった者の中には、アンリもいるからだ。



 (早く追いかけないと……アンリが危ない!私が無理にダンジョンに誘ったからだ。私の責任……)



アンリを心配する自分を、このダンジョンに入ってからの自分の事を考え、カトレアは自分に失望した。



 (……思えば、私が最初からちゃんとしていれば、あの人達は死ななかった。あの殺人狼が出てきた時に、さっさと殺していれば……)



カトレアは気づいてしまった。

自分が常に他人事だった事を。

ペルシアのBランク冒険者が死んだ時も、周りが喧嘩している時も、自分には関係ないと何もしなかった。

自分が強くなる事しか考えていなかった。

アンリが危険な目にあって初めてその事に気づいた。



 「……何が初心に返るだ。初心なんて、持ってすらいないじゃない……」



人の命を大切にする。

それは誰もが最初から持っている感情だ。

それが、カトレアには欠けていた。



 「………」



カトレアは顔を上げる。

回復を終えた事を確認し、一人で大穴に飛び込んだ。


飛行魔法を最大まで加速させ、殺人狼の痕跡を辿る。

殺人狼の魔力を感じ取ったのは目測10階層の辺りだ。

魔力を辿りさらに加速、そして見つける。

奴の爪が、アンリを殺すために振り下ろそうとしている姿を。



 (氷造魔法『断罪の剣』)



カトレアが心の中で唱えると、氷の剣が殺人狼の腕を切り落とす。

苦しむ殺人狼、そのうちにカトレアはアンリを救出する。



 「アンリ!」



アンリが気絶しているだけだと確認し、カトレアは安堵する。

額から流れる血を見て、すぐに傷を癒す。



 「……ごめんアンリ。私が無理にダンジョンなんて誘ったから、こんな事に……」



カトレアはアンリをゆっくりと寝かし、殺人狼の方を向く。

腕を切り落とされ、怒りに震えている。



 「……何でお前がこのダンジョンにいるかなんて、私にはどうでもいい。けど」



カトレアは杖を構え、殺人狼を睨みつける。



 「感謝する。私に初心を教えてくれて」



カトレアは炎を作り上げ、温度を上げていく。

炎を見て、殺人狼から動揺が見える。



 「そういえば、魔物は相手の魔力属性が分かるんだっけ……そんなに不思議?私が炎魔法を使えるのが?」



人間の持つ魔力には、適性が存在する。

炎の魔力属性を持つ者は、水の魔法を上手く扱えない。

逆に、水の魔力属性を持つ者は、類似する氷の魔法なども高い出力で発動出来る。

これは魔力の本質的なもので、覆す事が出来ない。

しかし、カトレアは例外である。

カトレアは、この世で唯一、全属性の魔力を100%の出力で発動出来る存在である。



 「……もう、ここに居る誰も死なせない」



カトレアが発生させた炎は温度を上げていき、遂に青色へと変化する。

ダンジョン内の岩が溶け始めるが、人間に害は出ない。

これは、カトレアの緻密な魔力コントロールの賜物である。



 「私に初心を教えてくれたお礼、最大出力であなたを殺す」



怒りに震えたカトレアの姿が、殺人狼には悪魔に見えた。

殺人狼は気づけば、彼女に背を向けて逃げていた。



 「逃がすと思う?」



その時点で、カトレアの魔法は完成していた。



 「蒼炎魔法 『火虎』」



虎の姿をした蒼炎が、逃げ怯える殺人狼を喰らい尽くす。



 「……この威力は……」



カトレアは、今までの『火虎』以上の威力であることに気づく。

彼女は今まで、一人で戦ってきた。

自分が強ければよく、守る存在など居なかった。

しかし、今初めて、誰かを守るために魔法を使った。

その守りたいという想いが、カトレアの魔法に思わぬ変化をもたらした。


蒼炎の虎が全てを喰らい尽くした時、殺人狼は灰となって消えていた。

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