表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『努力で世界を取り戻す観測者~灰の巫女と終わりの塔』  作者: ちゃぴ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/17

第6話  灰の塔

 霧が晴れた先に、それはあった。

 空を貫くように立つ巨塔ーー灰の塔(アッシ

ュタワ-)。

 石ではない。灰そのものが凝り固まり、まる

で世界の骨のように屹立きつりつしている。


 その足元で、はるひは息をのんだ。

 塔の周囲には、古代の文字が刻まれた円環が

広がり、そこから淡い光が走っている。

 セレスが静かに口を開いた。


「この塔は、かつて”灰律”を記録した場所。

 今は歪められ、記録が獣と化している……塔

の内部は、灰の迷宮です」


「……つまり、ここが本番ってことか」


「ええ。あなたの《観測》がどこまで通じる

か、試される場所です」



 塔の扉は、まるで彼らを試すように、ひとり

でに開いた。

 中は静寂だった。

 壁一面に灰の結晶が埋め込まれ、淡い青光を

放っている。

 足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 ”何かが見ている”。

 そんな感覚が、はるひの背筋を、撫でた。


「……セレス、気配がある」


「ええ。塔は生きています。記録を守るため

に」



 灰の回廊を進むと、音がした。

 金属の軋む音。

 影の中から、二つの人影が現れる。


「……おい、そこの連中! 生きてる奴がいる

なんて珍しいな!」


 声の主は、赤毛の男。

 鋭い目つきに傷だらけの皮鎧。腰には短剣を

二本差している。

 その隣に、白い修道服の少女が立っていた。

 灰の中でも清らかな光を放つような存在感。


「俺はジル。元盗賊、今はこの塔に閉じ込めら

れて三日目だ。

 こっちはシオン、祈祷会の……え-と、なん

か偉いとこのお嬢さんらしい」


「偉くなんてありません。……あなたは、観測

者?」


 はるひがうなずくと、少女の瞳がわずかに揺

れた。


「観測者が、まだ生きていたのね……」




 彼らの案内で塔の第一層を進む。

 だが道は複雑に入り組み、何度も同じ場所に

戻ってきてしまう。

 かべが生きて動いているようだった。


「くそ……完全に迷路だな」


 ジルが舌打ちする。

 はるひは深呼吸し、目を閉じた。


「《観測同期》ーー起動」


 灰の流れが、視界に浮かぶ。

 だが、塔内部では情報が歪んでいた。

 ”形”ではなく、”意思”が動いている。


「……この塔、まるで俺たちを試してるみたい

だ」


「試練の塔ーー灰律を継ぐ者が通るべき道で

す」

 セレスの声が響く。



 しばらく進むと、突如、床が鳴った。

 灰の文様が赤く光り、天井から灰の槍が無数

に降り注ぐ。


「罠かっ!?」


 ジルが反射的に跳び退く。

 シオンは祈りの言葉を口にし、淡い光の障壁

を張った。

 はるひは即座に灰剣を構える。


「《観測連携》ーーシオン、光を固定!ジ

ル、右の通路へ!」


「了解だ!」


「はっ!」


 はるひは《灰識》を発動。

 罠の”意思”を読み取るーーそれは、”侵入者を

拒む”という単純な命令。

 なら、上書きすればいい。


「《灰識再構築》……”通す”に変更だ!」


 灰紋が一瞬だけ震え、赤光が静まった。

 槍が止まり、道が開ける。


 ジルが驚いたように振り返る。

「おいおい……あんた、いま罠を”書き換えた”の

か?」


「少しだけ、命令を観測し直しただけだよ。

 ……けど、頭が痛ぇ」


 はるひは額を押さえる。

 スキルの反動ーー観測を深めるほど、自身の

記憶が削られていく。

 それでも、彼は立ち止まらなかった。



 迷宮の最奥、扉の前に刻まれた古代文字が光

る。

 セレスが目を細めた。


「”第一の試練・灰の守護者”。

 この扉の向こうには、塔を護る存在がいま

す」


「ボス戦ってことか」


「そういう言い方もできますね」


 はるひは灰剣を構えた。

 扉が静かに開き、灰の風が吹き抜ける。


 そこにいたのはーー人の形をした灰像。

 しかし、その内部では炎のような光が揺れて

いた。

 《灰の守護者(アッシュガ-ディアン)》


「行くぞ、みんな!」


 戦いが始まった。

 ジルの短剣が閃き、シオンの祈りが光を放

つ。

 はるひは《観測同期》で動きを読むが、灰像

はそれを嘲笑うように予測不能な動きを見せ

る。


「速い……っ!」


 剣を受け止めるが、衝撃で膝が折れた。

 その瞬間、灰像の腕が燃え上がる。

 《灰焔衝(アッシュバ-スト)》ーー範囲攻

撃。


「下がれ、はるひ!」

 セレスの声が響く。

 はるひは瞬時に判断する。


「《観測干渉・冷却律(コールドフロ

-)》!」


 灰剣が蒼く光り、炎を切り裂いた。

 衝撃波が塔を揺らし、灰像の胸が砕ける。


 ジルが叫ぶ。

「今だ、トドメを!」


「《灰識連結ーー終端観測》ッ!!」


 はるひの剣が灰像を貫いた。

 灰の光が弾け、音もなく消滅する。


 静寂の中、灰が舞う。

 扉の奥に、淡い光の階段が現れた。


「……第一層、突破だな」


 ジルが息を吐き、笑った。

 シオンは小さく祈りを捧げ、セレスははるひ

の肩に手を置く。


「あなたの《観測》が、世界を少しずつ修復し

ています。

 でも、その代償も大きい。無理をすれば、あ

なた自身が”灰”になります」


「大丈夫。俺は、努力でここまで来た。

 まだ倒れるつもりはない」


 その言葉に、セレスはほんの少しだけ笑っ

た。


 塔の上へ続く階段。

 その先に、さらなる試練が待っているーー。


 灰堂はるひは剣を握り直し、仲間たちと共

に、静かにその一歩をふみだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ