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『努力で世界を取り戻す観測者~灰の巫女と終わりの塔』  作者: ちゃぴ


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第4話  灰の修道院

 灰の風が、夜を運んできた。

 灰堂はるひたちは、盗賊たちの野営地を後に

し、塔への道を進んでいた。

 空は相変わらず灰色で、星のひとつも見えな

い。

 それでも、焚き火の記憶がまだ胸の奥を暖め

ていた。


「セレス、塔まではあとどのくらいだ?」


「半日ほどでしょう。ですが……この先に、”灰

の修道院”があります」


「修道院? この世界にも宗教があるのか?」


「ええ。観測を”神の奇跡”と崇める者たち。け

れど、彼らの信仰はすでにーー歪んでいます」


 セレスの声はどこか沈んでいた。

 やがて、丘を越えた先にそれは見えた。


 巨大な建物が灰の中にそびえ立つ。

 壁は崩れ、屋根には灰が積もっている。

 それでも、中央の塔から放たれる微かな光

が、この世界に残る最後の”祈り”のように見え

た。



 中へ入ると、空気が変わった。

 灰の匂いが薄く、静謐せいひつで、どこか冷たい。

 壁一面に古びた聖句が刻まれ、中央には巨大

な祭壇。

 その前で祈る白衣の男が、ゆっくりと顔を上

げた。


「……ようこそ、旅の観測者よ」


 男の目は灰色に濁りながらも、異様な光を宿

していた。

 彼の背には、灰色の翼のような紋章ーー≪灰

の祈祷会≫の印。


「俺たちのことを知っているのか?」


「知っているとも。観測者はこの世界を”救う”

存在。だが、ーー君は違うな」


 男が立ち上がると同時に、灰が渦を巻いた。

 床に描かれた紋章が光り、空気が震える。


 ーー灰律発動。


「”神に選ばれぬ観測者”よ。ここで灰に還

れ!」


 灰が槍の形を取り、はるひめがけて飛ぶ。

 反射的に灰剣を抜き、構えた。


「《観測同期》ーー発動!」


 視界が灰色に染まり、世界の流れが遅くな

る。

 槍の軌道が見える。

 だが、数が多い。避けきれないーー!


「はるひ、右に跳んで!」

 セレスの声が響いた。

 指示通りに飛び退く。

 灰の槍が壁を貫き、爆発するように灰を撒き

散らす。


「くっ……こいつ、ただの信徒じゃない!」


「灰律を自分の信仰で増幅している。……”灰導士

 (アッシュプリ-スト)”です!」


「つまり……灰を使う魔法使いってわけか!」


 はるひは剣を握り直し、再び集中した。

 槍の流れ、風の歪み、ーー全部”見ろ”。

 見えた瞬間、足が勝手に動いた。


 ーー”見る”だけじゃなく、応える!


 灰剣が淡く光り、刃の縁に灰粒がまとわりつ

く。

 それは《灰剣・第一式(アッシュブレ-ド・

フォ-ムワン)》ーー 努力で得た観測の反射

を自ら制御した、はるひ初のスキルだった。


「スキル発動……っ!」


 灰剣を振り下ろすと、斬撃が灰を裂いて走っ

た。

 灰導士が放つ槍を切り裂き、そのまま距離を

詰める。


「な、何だその力は……!」


「努力の結果、だよ!」


 斬撃が走り、男の杖を叩き折る。

 灰の渦が途切れ、空気が静まった。


 灰導士は崩れ落ちながら、口を動かした。

「観測者よ……この世界は……”塔”がすべてを喰

らう……」


 その言葉を最後に、彼の身体は灰になって散

った。



 沈黙が訪れる。

 セレスは祭壇の前に歩み寄り、残された灰を

拾い上げた。


「彼らもまた、観測を恐れ、神に縋った《すが》者た

ち……

 けれど、観測を拒む信仰は、やがて自分を灰

に変えるのです」


「……見たよセレス。

 信仰も、灰も、全部

 でも俺は、信じるなら”生きるため”に信じた

い」


 はるひは剣を収め、手を握りしめた。

 その瞬間、視界に光が走る。


 ーー≪新スキル獲得:灰剣・第一式(アッシ

ュフォ-ム)≫

 ーー≪灰律容量:15→21≫


「観測が進化……しましたね」


「これが、努力の積み重ねか……。

 なら、もっとみてやるさ。どんな灰の中で

も」


 セレスが微笑む。

「あなたの”見る力”が、世界を少しずつ変えて

います」


 外に出ると、灰の雲がわずかに晴れていた。

 塔の先端に、微かに光が差している。


「行こう、セレス。塔が俺たちを待ってる」


 はるひは剣を背負い、再び歩き出す。

 灰の風が舞い、夜が明けていく。

 観測者の旅は、確かに前へ進んでいた。

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