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『努力で世界を取り戻す観測者~灰の巫女と終わりの塔』  作者: ちゃぴ


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第3話 灰盗団の野営地

 塔へ向かう道の途中、風が止んだ。

 代わりに、空を覆う灰が”音”を立てて落ちて

くる。


 ーー静かすぎる。

 はるひは、そんな違和感に立ち止まった。


「セレス、この辺り……妙に気配が濃いな」


「ええ。人の”観測”が、まだこの付近に残って

います」


 彼女の視線の先、崩れた石造りの街並みが見

えた。

 壁も屋根も崩壊しているが、かつては交易の

町だったのだろう。

 そこかしこに放置された荷車や、崩れた石畳

がその名残を伝えていた。


「人が……いるのか?」


「正確には、”生き残っている”者たちです」


 セレスの声がいつになく冷たかった。


 次の瞬間ーー

 背後から、灰の中を裂くような声が響いた。


「動くな!」


 灰色のマントを被った数人が、武器を構えて

立っていた。

 ボロボロの皮鎧、無骨な剣、そして警戒に満

ちた瞳。

 明らかに、敵意を含んでいる。


「……おい、セレス。これ、敵だよな?」


「”灰盗団(アッシュレイダ-ズ)”。この辺り

を縄張りにしている盗賊です」


「盗賊!?いや、もっと早く言えよっ!」


 言い終わる前に、灰盗団の一人が突っ込んで

きた。

 反射的に灰剣を構える。

 だが、相手の動きは速い。

 しかも彼らも、灰を扱う技術をもっているら

しい。


 ーー灰が、武器の刃にまとわりついてい

る!?


 火花が散り、はるひの頬をかすめた。


「くっ……!」


 攻撃を受け止めるのが精一杯だった。

 体勢を崩したその瞬間、背後から別の盗賊が

襲いかかる。

 灰の刃が振り下ろされーー


 だが、その刃がはるひに届くことはなかっ

た。


 セレスが指先を動かした瞬間、空気が震え

た。

 無数の灰粒が一斉に弾け、攻撃の軌道を逸ら

す。


「観測の流れを乱しました。今です、はる

ひ!」


「助かった!」


 灰剣を握り直す。

 心の奥で、再び”灰律”がざわめいた。


 ーー見るんだ。

 敵の動き、呼吸、灰の流れーー全部。


 視界が灰色に染まる。

 再び発動した《観測同期》。

 世界の速度がわずかに遅れる。


 盗賊が剣を構えた瞬間、はるひは逆に踏み込

んだ。

 灰剣の軌跡が残光を引き、相手の武器を弾き

飛ばす。

 続けざまに胴へ一撃。


「ぐっ……がはっ!」


 盗賊は崩れ落ち、灰に包まれて消えた。

 残る二人も後退し、剣を下ろす。


「待て! こっちは戦う気はねぇ!」


 先頭にいた男が叫んだ。

 その目は、恐怖と混乱に満ちている。


 ーー人間、か。


 はるひは剣を下ろした。

 荒い息を吐きながら、男を見据える。


「……お前ら、本当に盗賊か?」


「違う……! 生きるためだ。灰獣に追われ、

食料も尽きた……

 塔へ行けば何かが変わるって聞いて……!」


 男の声は震えていた。

 その背後には、飢えたような顔をした子ども

や女の姿もある。

 戦う理由など、最初からなかったのだ。


 セレスが小さくため息をつく。

「彼らもまた、灰に呑まれた世界の犠牲者で

す」


「……助けてやること、できないのか?」


「観測者は”救う”のではなく、”記録する”存在

です」


 その言葉に、はるひの胸が痛んだ。

 理屈は分かる。

 でも、見過ごすなんてーーそんなこと、でき

るわけがない。


「記録だけじゃ、何も変わらないだろ。

 俺は……見るだけの観測者じゃない」


 はるひは歩み出た。

 盗賊たちの中心で、焚き火のような微かな炎

が揺れていた。

 灰の世界で唯一の”温もり”だった。


「食料はどこにある?」


「……な、なんだ?」


「手伝うよ。せめて腹を満たしてから、塔を目

指そう」


 沈黙のあと、男はポツリと呟いた。

「……お前、変わってるな」


「よく言われる」


 はるひが微笑んだとき、

 焚き火の灰がふわりと舞い、空に消えた。


 その瞬間、視界に小さな通知が浮かぶ。


 ーー≪観測ログ更新:人の絆/灰律容量+3≫


 セレスが目を見開いた。

「観測……が、変質した? そんな……!」


「変わったんじゃない。努力の”結果”だよ」


 はるひの声には、わずかな自信が宿ってい

た。

 その目はすでに次の目的地ーー塔の彼方を見

据えていた。


 灰に覆われた空の下、

 観測者の旅は、少しずつ”意味”を取り戻して

いく。

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