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ささやくもの

作者: 東雲未だき

俺は自分で言うのもなんだが、もともと騒音には神経質な性質たちだった。近隣のちょっとした生活音が気になって、気にすれば気にするほど、気になる。

このままでは睡眠不足に陥ってしまうだろう。そうなっては仕事に差し支えると考えた俺は、ついに耳栓を買ってきて装着して眠るようになった。だがその頃から、寝ていると耳元でささやき声が聴こえ始めるようになった。

「眠れないみたいよ」

「かわいそうだね」

女性ふたりの声。しかもふたりともなかなか魅力的な声。右の方からはセクシーボイス。左の方からはプリティーボイス。確認のために耳栓を外すと聴こえなくなる。

まさかと思い、耳栓をジッと見る。信じられない。耳栓に口が着いている。セクシーな右の耳栓には整った歯並びに口紅まで塗ってある。プリティーな左の耳栓には八重歯とつやつや透明リップ。

妖しいささやき声の正体が彼女たちだと分かると妙な安心感に加え、おトクな気分にまでなってきた。今ではめっきり寝る前のお楽しみだ。両方を付けていると聴き分けが難しいので、左右を日替わりで片方ずつして寝床に就く。

今夜はセクシー。

「嬉しいわ。あなたが眠るまで話しかけてあげる」

次の晩にはプリティー。

「お兄ちゃん、お話いっぱいしてあげるね!」

次はセクシー。

「今夜は眠らせないわ」

次はプリティー。

「ダメダメ。寝ちゃダメだよ~」

考えれば騒がしい声だが、勝手なもので女性だと思うだけで心地よい。いつしか話を聴きながら寝てしまう習慣が当たり前になった。

ところが、何日かすると、ふたりが嫉妬し始めたようだ。

「あの子はお休みにして。明日の夜も私にするべきだわ」

「お姉さんよりウチを選んで! ずっとずっと選んで!」

仕方なく、今夜はふたり一緒に装着。最初は穏やかに話し合っていたセクシーとプリティーだったが、そのうちケンカを始めた。

「小娘のくせに! 彼は私のものなんだから」

「おばさんは静かにしてて! お兄ちゃんはウチのものなんだよ!」

女性ふたりが俺を取り合って言い争っている。にやにやしてしまう。俺を巡っての口げんかを聴いていると何だか気持ち良くなってきた。気が付くとぐっすり眠りの中。

うわっ!

いきなり耳の中に水がビチャビチャにあふれ出した。何だ?! 何だ!? どうやら耳栓女性ふたりが罵り合って、互いに向かってツバを吐いたらしい。まさに寝耳に水ならぬ寝耳にツバ。おかげで目が覚めてしまったじゃないか。



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― 新着の感想 ―
> 気にすれば気にするほど、気になる。 本当にそうなんですよね。 耳栓ASMR、怖いという感情より先に欲しいと感じてしまいました。 でも呪われるというより、むしろ病気になりそうです……はっ、これが呪い…
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