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夜のしじま

どうも、斜メイナ(ななめいな)と申します。

完全趣味の書き連ねであるオリジナル作品です。

読んでくださる方に感謝を。

 神がいなければ滅ぶ世界なんて。



 ─────


「はは、そこで()()か。意地が悪いよなあ、お前。」


 人気のない夜道に、カラカラと乾いた笑い声が響く。先ほどまであんなにも光を注いでいた月はどこからともなく表れた分厚い雲に覆われ、姿も見えず、この場を照らすのは切れかけの街灯のみであった。


「…何のことです?」


 空を切る音が聞こえたかと思えば、街灯の光を鈍く反射させる鋭い刃が暗闇から浮き上がって見えた。それを扱うのは黒いスーツの男。片目は眼帯だろうか、黒と白地の紋が刻まれている布に覆われていた。


「何のこともなんもねーだろうが。まあ良い、あとは知らんぞー、()()()()()さん?」


 声の主は揶揄うように述べていた。依然として姿は見えないままに、お目付け役と呼ばれる男と楽し気に、一方的に会話をしていた。片やその場に佇む青年は嫌がるようにため息をつき、慣れた手つきで刀に付いた血を払い、鞘へと納めた。


「わかっとるんなら口出さんといてくださいな。…こっちとしてはアンタも別に、もういらんのやけど。」


 空気が凍り付くような冷え冷えとした、先ほどまでの緊張感の薄い空気が、糸を張ったかのようにピン、と音さえ聞こえた気がした。それほどまでに青年の機嫌は最悪だった。


「はいはいオレが悪うござんした。嫌われモンはここいらで退散退散。んじゃまたさよなら10分g…」


 キン、と澄んだ音が響いたかと思えば、先ほどまでは可愛らしいぬいぐるみであった綿の塊が地に落とされた。目付け役と呼ばれた男は刀でわざわざぬいぐるみの首と胴体を切り分け、どちらも抱えたかと思えばしっかりとした足つきで仄暗い路地へと消えていった。





 ─────


 十分後。ほどなく歩いた先には朱色の鳥居と、奥に見えるは神の祀られる場所である本殿。

 鳥居の端を一礼してからくぐり抜ければ、かすかに香る花の匂いがした。鳥居をくぐった男は刀を片手に持ち、もう片方の手でぬいぐるみを抱いていた。その見た目はあまりにも違和感しかない。それに何より、動く気配のない仏頂面がその絵面の面白さを加速させている。そんな男は敷き詰められた石畳の上を歩かず、わざわざ砂利の上を歩いていた。


「ただいま帰りました。」


 良く通る声で静かな空間に音を響かせたかと思えば、境内の奥にある建物から、とたとたと元気な足音が聞こえてくる。


「スガメ!おかえりなさい!」


 飛び出てきたのはまだ成人してもいないであろう少女だった。大人の女性というには未だあどけなさの残る顔立ちが印象的であった。特異な点と言えば、その髪がおよそ人には見受けられないような真白であることと、両の瞳が夜でもわかるほどの鮮烈な赤に染まっていたことであろうか。男はぬいぐるみをその場に放り投げれば、刀も縁側の廊下に置いて少女のもとへ馳せ参じた。


「私がおらんかった間、変わったことは?」


「なあんもお変わりありませんよ、スガメ君。」


 少女の後ろから現れたのはこれまた黒いスーツを着こなす男。銀縁の眼鏡と胡散臭い笑みがよく似合っていた。かと思えば、その場に捨てられている無残な姿となり果てたぬいぐるみを見つけたのか、驚きと呆れの入り混じった表情でぬいぐるみを拾い上げた。


「途中で意識が切られたと思ったら、こんなにしてたたき返すとか流石にひでーんじゃねえの。ああ、それとも怒っちゃったか?幾ら補佐をして10年と言えど中身はまだまだ子供だもんなぁ?」


「アンタにケイのことは聞いとらん。それと、こないなったんはアンタが任務中にしょうもない駄弁りをするからやろ。自業自得や。ガキのほうが仕事出来てもうてすまへんなあ。」


 傍目から見てもよく分かるこの折り合いの悪さ。互いに互いを煽りあって既に始まってしまった論争はそう簡単に終わりそうもない。ケイと呼ばれた少女は小さくため息をついて何回目かも忘れた喧嘩の仲裁に割って入った。


「ほーら!!スガメも鴉さんも喧嘩は終わり。仲直りできないならあたし、()割るけど?」


 言い切るまでが早かったかどうか。


「やめろバカ!」

「それはあかん!」


 二人揃って止めに入るのはどこまでも息ぴったりであった。それに二人自身も気づいたのか互いに顔を見合わせれば心底嫌そうな顔をしてあさっての方向を向いてしまう。その様子を見た少女は肩を揺らしてくすくすと笑うばかりであった。


「…はあ、分かりました。今日はこのくらいにしてやるんで…てかさっさと報告書いてこいや、言われへんと分からんのかアンタは。」


「あーはいはい分かってるって。んじゃ書類まとめてくんわ。おやすみ、ケイ。」


 そう言って眠たげに大きなあくび一つをその場に残せば少し危うげな足取りで自室のある離れへと戻っていく。そして残るのはケイとスガメの二人きり。


「アイツあんなこと言っとりましたけど、ほんまになんもあらへんかった?痛いところもないな?」


「…もう、スガメは心配性のお母さんみたい。大丈夫、何もなかったよ。」


 その言葉を聞いてようやくスガメの顔から険しい色が抜けていく。ふう、と安堵したようにも聞こえるため息が聞こえた。

 10年前のあの日から、この地、美作の平穏は齢17の少女の手によって守られていた。…少女というのは名ばかりの、実際はこの地を守るために遣わされた神が。

 人と神は、互いに共存していた。実際には、共存しなければ人は生きていけなかった。

 神は敬われることで人に力や知恵を授け、時に襲い来る天災の退け方をも教えた。

 今では神がいなければこの世界は回っていかない。

 この歪な世界で神になることを強いられた人間、それがケイだった。

 とっくのとうに塞がった片目の傷を眼帯の上から撫でる。その傷は一生消えない恩と、この世界の過ちを示す傷でもあった。


「…このまま神などに、させてたまるか。」


 独り呟いた言葉は夜風に乗って遠くへと流れていく。

 これより始まるは神と人との浮世の話。

 鏡の向こうの己の話。

 それでは今宵はこの辺で。

 お次は空の宝の羽衣の前にて、語るとしましょうか。

はい、ということで第一話でした。

更新頻度などは全く予測がついてませんので気長に待ってていただければと存じます。

今回の登場人物はケイとスガメと鴉さん。ちなみにスガメの関西弁は全くのエセ方言なので細かい間違い等ありましても優しい目で見ていただければ幸いです。皆様気になったであろうケイ、スガメ、鴉さんの年齢は17歳、21歳、35歳とそれぞれなっています。こんな感じで愉快なケイの仲間たちでした。次回はもう少し踏み込んで書いていく予定ですので良ければブックマークや感想、評価等お待ちしております。

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