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終焉コード:闇神話  作者: 雪沢 凛


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14/15

- Ephemeral Rewrite - 殘響編

 ——「もし、世界が彼を忘れても……私の記憶が彼の存在証明だ。」——

 ——“Even if the world forgets him… my memory is the proof of his existence.”——




 黄昏の残光が、再構築された都市を静かに染めていた。


 高層ビルが静かに聳え立ち、整然とした道路に人々の流れが交錯する。

   その秩序は、まるで最初から崩壊などなかったかのような滑らかさだった。


 ——Nova(ノヴァ) Tokyo・トーキョー


 終焉も、崩壊もなかった世界。

   Rewriteにより、“汚染された歴史”そのものが削除され、

   この都市は「はじめから静謐だった世界」として再定義された。


 白霧は、群衆の中に立っていた。


 白髪が風に揺れ、氷藍の瞳はどこか遠く、届かぬ日常を映している。

   彼女の指先に握られたのは、微かに光る懐中時計。


 表面には戦いの名残——焦げた跡、亀裂、紅黒い染み。

 針は止まり、時の流れを閉じ込めたままだった。

 

 それは、かつて“彼”が持っていたもの。


 足が止まる。

   風が、都市の隙間を撫でてゆく。

   ビルの谷間から射し込む夕陽が、彼女の影を細く延ばす。


 白霧は視線を上げた。


 誰もいないはずの空間に、一瞬だけ、

   掠れた低い声が、空間に“残響”として刻まれる。


「……俺は、ここにいる。」


 それは記憶か、錯覚か、幻聴か——

   それは、データに刻まれた彼の微かな亡魂なのか。


 白霧は、振り返らなかった。

   その声が「存在」ではなく、「殘響」であると理解していたから。


 彼は、もうこの世界にはいない。

   Rewriteの最終プロトコル——“Rewrite: Zero”。

   それによって、鏡夜の存在は世界の構造から完全に削除された。


 名も、記録も、因果すらも——存在しなかったことにされた。


 だが、それでも彼女だけは、知っている。


 ——唯一、“ロックされなかった記憶”。

   ——唯一、“再起動の外に置かれた記録保持者”。


 白霧シロギリ

   |Conciliatorコンキリアトール(調律者)。


 彼女に課されたRewrite最終指令は——


「観測し、調律し、そして忘れないこと。」


 そして、今。


 彼女の胸の内で、そっと一つの言葉が浮かぶ。


「もし、世界が彼を忘れても……私の記憶が彼の存在証明だ。」


 それは誰にも共有されない独白。

   だが、確かに存在する意思。


 懐中時計をそっとポケットにしまい込む。

 それは記憶の遺物ではない。

   使命の記録でもない。


 ただ、「誰かと過ごした確かだった時間」を閉じ込め、輪廻を繋ぐ器。


 白霧は静かに群衆の中へ歩を進めた。


 歩きながら、そっと胸元を押さえる。

   そこには何もない——

   だが、確かにそこにあった何かを思い出す仕草。


 交差点の向こうで、誰かが立ち止まった。

   一瞬、影が交錯する。


 ……だがすぐに、溶ける。


 誰も気づかない。

   誰も、それが異物であったことに違和を覚えない。


 Tenebris(テネブリス) Gladius・グラディウス(闇刃)も、

 Signum(シグヌム) Terminus・テルミヌス(終焉刻印)の疼きも、

   この世界のどこにも存在しない。


 ——だが、


 九重鏡夜ここのえ きょうやという名は、彼女の“記憶層”にだけ、静かに存在している。


「……どこにいるの?」


 呟いた声は、風に混ざって消える。

   答えは返らない。

   いや、返ってくるはずもない。


 彼は、Rewriteの果てに、“起点”へと戻った。


 そこに選択はなかった。

   ただ「零へ還る」という決断のみ。


 それは、「世界を書き換えた者の代償」。


 新たな世界、新たな時間、新たな運算——

   既に、この都市の“静寂な秩序”として稼働している。


 鏡夜はもう、「殞存者」ではない。

   彼はただの——


「エラーのない最初のコード」



 To Be Continued.

 Or maybe—just rebooted.

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