- Prologue - プロローグ
——「このタイムラインは、ここで終わる。」——
——“This timeline ends here.”——
崩壊都市の縁で、俺は立ち止まる。
ここは、かつて「███ (Obliteratus) 」(オブリテラトゥス)と呼ばれた場所。
高層構造物の残骸が風に軋み、空間には紅い粒子が漂っていた。
都市の輪郭は途中でちぎれたように断絶し、その先には——ただ、灰白の虚無が広がる。
存在ごと、根こそぎ「削除」された痕。
もはや“かつて存在した”という事実すら、希薄だった。
五年前、この目で見た。
都市が「Reformatio(再構築)」される瞬間を。
全てが呑まれ、全てが静寂に溶けていく様を。
「……またか。」
呟きは意味を持たず、ただ風の中に溶けていった。
右手の甲に刻まれた Signum Terminus(終焉刻印)が脈動する。
それはまるで、体内の“何か”を無理やり起こそうとしているようだった。
——この痛みも、もう慣れた。
その時。
電子音が空気を裂くように響いた。
「目標確認:Reliquiae(殞存者)。削除プロトコル、起動。」
闇の中から、影が現れる。
黒装の兵体——かつて“人間”であったもの。
今はただの構造体。魂なき命令の殻。
その瞳に、紅光が宿る。
それは命令信号——Kill Signal(殞殺波紋)。
俺は黙って、右手を上げた。
「……Reformatio(再構築)」
空間が凍る。
次の瞬間、俺の姿は消える。
残像が闇を裂き、敵群の間をすり抜ける。
Tenebris Gladius(闇刃)が微光を帯び、一閃。
時間の境界を切り裂くような静音が走る。
反応する間もなく、滅魂体が崩落していく。
紅黒の残滓——Rubrum Particula(紅微塵)が霧散する。
俺は足を止め、静かに刃に付着したData Reliquiae(残響データ)を払う。
「この世界に適合しないなら、消去されるべきは——お前だ。」
その瞬間——
銀藍の閃光が夜空を裂く。
「……そんな使い方、正規じゃない。」
低く鋭い声が、空気を震わせる。
振り返る。
白い長髪が風に舞い、氷藍の瞳がこちらを真っ直ぐに見据えていた。
その視線は、分析ではない。
——まるで、全てを見透かした“確信”だった。
「……お前。」
「Reformatio の本質が、見えているのか?」
彼女は剣を構える。
Alba Noctis(白夜剣)に映る、俺の影。
その瞬間。
世界の歯車が、ひとつ「カチリ」と音を立てて噛み合った。
——すべては、ここから再び回り始める。