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翌朝、アメリアがダイニングで遅めの朝食を摂っていると、侍女のマリーが新聞を手にやってくる。

「アメリア様、ご存じですか? 今度、王都の商工組合が新しいファッション展示会を開くらしいですよ」

「へえ、ファッション展示会? 以前もチラッと聞いたけど……今回はどんな?」


新聞の記事には、“若き仕立て屋やデザイナーを集めた新作ドレスや帽子の展示会”があると書かれている。社交界の令嬢たちにとっては興味をそそられるイベントだが、昔のアメリアなら「王太子の意向に合わないかも……」と躊躇したに違いない。

「今は誰の許可もいらないわ。面白そうなら行ってみましょう」

満面の笑みで宣言し、さっそく会場がどこにあるかマリーと話し合う。公爵家に特別な招待状は届いていないが、一般参加も可能らしい。


「気軽に入れるなら、なおさらいいじゃない。うん、決まり。明日行くわよ!」

そうしてアメリアはあっさり決定。父や母には「また遊びに出かけるのか」程度に思われているが、もう何も言われまい。彼女が自分の好きな道を歩むのは、もはや公然の事実なのだ。


そして翌日。

会場である大きな倉庫のようなホールに足を踏み入れると、そこには仕立て屋やデザイナーのブースが並び、各々が自分の作品を並べている。来場者には令嬢や紳士、さらに職人志望の若者など多種多様。

アメリアは「すごい、こんな感じなのね」とワクワクしながら見て回る。ごく小規模な私的展示会を想像していたが、想像以上に盛況だ。


「見てください、アメリア様。あちらのドレス、肩に羽根をあしらってますよ。まるで翼みたい……!」

マリーが指差す先には、ステージ上で披露されているドレスがあり、モデルらしき令嬢がぎこちなく歩いている。

それを見たアメリアは目を輝かせ、「こんな斬新な発想、いいわね! 私も次はこういう羽根を取り入れてみたい!」と興奮。


見渡せば他にもさまざまなテーマの作品がある。クラシカルなものから怪しいゴシック風まで、殿下の“上品”一辺倒とは正反対の多彩さにアメリアの胸は弾む。

ただ、観客が少し冷ややかに見ているブースもあり、「こんなのは実用性がない」「あまりにも派手すぎる」と囁かれている。だが、アメリアからすれば「実用性なんて二の次でしょ? 面白ければそれでいい」と思う。


ひとしきり見て回っていたところ、関係者らしき男性がアメリアを見つけて突然話しかけてきた。

「そ、そちらはパルミエーレ公爵家のアメリア様でしょうか! 噂は伺ってます。“新しいドレススタイルを楽しんでいる”って……」

「ええ、噂なんてあるんですね。まあ、好き放題やってるので目立つのかも」


男性は意を決した様子で頭を下げる。

「突然ですが、ここで行われているミニランウェイにご協力いただけませんか? 実はモデルさんの一人が急に来られなくなって……」

「モデル? 私が?」

アメリアは面食らうが、男性は必死だ。「ええ、短いステージですが、新進の仕立て屋さんが作品を披露するのに、一人でも多くモデルが欲しいんです。お恥ずかしながら、報酬は少ないですが……」


迷うアメリアに、マリーが「面白そうじゃないですか?」と耳打ちする。確かに普段できない経験だ。前のアメリアなら“王太子の許可”がないから無理と諦めたかもしれないが、今は違う。

「……わかったわ。せっかく来たんだし、面白そうね。やってみましょう」

こうして彼女は思いもよらない形で、ファッションショーの即席モデルを引き受けることになった。


スタッフに案内され、控室で衣装に着替える。今回は数名の仕立て屋が交代でドレスを披露していく流れで、アメリアは二着ほど着用するとのこと。

最初の一着は“花”をテーマにした淡いピンクのフリルドレス――アメリア自身が選ぶ派手系とはちょっと違うが、この展示用ドレスはまた別の魅力がある。

手伝ってくれる係員から「すみません、勝手に色々お願いして……」と恐縮されるが、アメリアは「いいえ、こういうのも楽しいわ」と笑う。


そしていざステージへ。

会場中央に設けられた小さなランウェイは簡素なものだが、スポットライトが当たるとそれなりの華やかさがある。観客は数十人ほどが集まり、次のモデルはどんなドレスかと興味津々。

アメリアが一歩を踏み出すと、「あれ……あの人、パルミエーレ家の娘じゃない?」「本人がモデルやってるの? すごい大胆……」と囁きが広がる。


(ちょっと恥ずかしいけれど……やるからには楽しまなきゃ)

殿下に押し付けられた歩き方と違い、いまはアメリア自身の自然なウォーキング。視線を感じても緊張というより好奇心が勝っている。ゆっくりとスカートを揺らしながらランウェイを進み、端まで行ってくるりと回る。そのとき会場から拍手が上がった。


「わあ、あのドレスは地味だけど着こなし次第では映える……!」

「モデルが上手いのかしら。それとも本人の雰囲気があるのかも」

観客の言葉がちらほら聞こえてきて、アメリアは内心嬉しい。殿下の頃なら「どんな注意されるかしら」と怯えていたのに、いまは純粋に称賛を楽しめるから。


一度舞台袖に戻り、次は少し派手めな黒と金のドレスへ着替える。襟元が大きく開き、背面には羽根のアクセサリーがついていて、まるで闇夜の鳥のようなイメージ。

スタッフが「このドレス、着る方によっては“恥ずかしい”と言われるんですが、大丈夫ですか?」と心配するが、アメリアはにっこり微笑む。

「むしろ大好物。行ってきます!」


再びランウェイへ登場すると、会場が一気にざわめく。黒と金が照明に反射し、一段と派手な印象を与えているのだ。

モデルとしての歩き方など教わっていないが、アメリアはありのままの自信を持ってステージ中央を歩いた。振り返る動作のたび、金の羽根飾りがきらりと光り、観客から感嘆の息が漏れる。


(私、こういうスポットライトにさらされるなんて想像してなかった。でも、思ったより楽しい……!)

昔は王太子妃候補として“控えめに微笑む”ことが常だったし、主役は殿下と決まっていた。しかし今は、アメリア自身が舞台の中心に立っている感覚がある。それが心地よかった。


一通りショーが終了すると、仕立て屋やスタッフが口々に感謝の言葉をかけてくる。アメリアは「こちらこそ素晴らしい体験をありがとう」と爽やかに笑い、「またこういうイベントがあれば呼んでね」とまで言ってしまう。

周りには「さすが、最近噂のパルミエーレ令嬢……」と漏らす人もいれば、「ただの破棄された娘のはずが、こんなに堂々としているなんて」と舌を巻く人も。だが否定的な視線はほとんどなく、むしろ拍手が多い。


ショーを終えた後、アメリアが控室で休んでいると、一人の若い仕立て屋が興奮気味に話しかけてきた。

「パルミエーレ様、ありがとうございました! 私の作品も今回ランウェイで着ていただいて、本当に感激です。ずっと殿下の趣味に合わないデザインばかり作ってきて“売れない”って嘆いてたんですけど……こういう形で評価されるとは」

聞けば、彼は殿下の“上品路線”に迎合せず自分の路線を貫いていたため、仕事が少なかったらしい。


「あなたのデザイン、すごく素敵だったわよ。派手なんだけど、ちゃんと計算されたラインがきれいで……」

アメリアが率直な感想を言うと、仕立て屋は目を潤ませて「いつかあなたのために、もう一着特注で作らせてください!」と言い出す。

「私でよければ大歓迎よ。ぜひ相談しましょう。遊び心のあるドレス、どんどん着てみたいしね」

そう言われて仕立て屋は大喜び。マリーが横でクスッと笑いながら「アメリア様、また忙しくなりますね」と言葉を添える。


アメリアは快い疲れを感じながら、会場を後にした。まだまだ色んな人との出会いがありそうだ。だが、こうして積極的に自分から関わることで、新たな仲間や楽しい時間を得られる。

(殿下のもとで過ごしていた頃は、こんな自由な関係を築くなんて想像できなかったのに……人生わからないものだわ)

かすかな充実感とともに、アメリアは家路へ。頬を撫でる夕風がなんとも心地よい。

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