1.地球は『実在する〇〇世界』だ
しいなここみ様主催「宇宙人企画」参加作品です。
……と思ってたら遅刻だった!?どうしようこれ……
「こんちは〜」
「いらっしゃいませ、こんにちは」
永州主税が喫茶『黒舟』のドアを開け挨拶をすると、マスターの黒瀬鉄舟が挨拶を返す。
と、カウンターの奥の席でヘッドホンを掛けてタブレットを眺めていた薩浜勇人も永州の入店に気付きヘッドホンを外して挨拶を返す。
「おお、永州君か、こんにちは」
「ども」
薩浜は永州よりかなり年長なのだが、永州とは気の合う友人でよくこの店でマスターを交えて雑談することも多かった
「あ、マスター、ブレンドティー1つー。で、薩浜さん、何視てんです?」
「ああ、今日はこれ視てたんだ。って見せられても何だかわからないかもしれんが」
そう言って薩浜はタブレットの画面を見せる。
そこには初老の西欧人男性が2人椅子に座ってインタビューに答えたりしている場面が映っていた。
「んー、でも視たことあるような……『宇宙人』?『未知の飛行体』?あー、思い出しましたよ。視てますこれ。『宇宙人は既に地球に来ていて政府はそれを隠蔽してる』とかってモキュメンタリーですよね」
永州はインタビューの日本語訳から以前にそれをネットで視たことを思い出した。
なお、彼が言ったモキュメンタリーというのは『ドキュメンタリーに似せて演出されたフィクション映像作品』のことである。
「おっ、永州君も視てたのか。でも1つ勘違いしてるな。このシリーズはドキュメンタリーとして放送されている。モキュメンタリーじゃないぞ」
「はああ!?じゃあこれノンフィクションなんですか?このおっさん達俳優じゃないんですか?」
「少なくともここに出てる2人のおっさんのうち1人はこういうオカルト系専門のジャーナリストだし、もう1人はUFOや宇宙人の存在を世間に訴える活動をしている通称『UFOロビイスト』だ。他の証人達とかが本物かまでは調べてないけどな」
「このおっさん達本気でこんなこと言ってるんですか?」
「そういうていで制作されて放送されている。本人達の腹の内は分からんが」
「ええ、マジですかそれ……あ、ホントだ」
永州がスマホで調べてみると確かにその番組の種類は『ドキュメンタリー』になっていた。モキュメンタリーなら『ドラマ』となっているはずなのに。
「これ、薩浜さんは信じているんですか?」
「いいや。ここまで都合よく話を解釈できる能力には感心するが。ただ思考の素材としては面白いなと」
「思考の素材ですか」
薩浜がこんなことを言い出すのはいつものことなので永州も特にとまどったりはしない。
「例えばだ。まずは彼らの『宇宙人が既に地球に来ている』という主張が正しいとすると2つの疑問が湧いてくる。
1つ目は『彼らが地球に来る目的は何だ?』という疑問だ」
「まあそうですね」
「この疑問に対するUFOロビイストたちの答えは『宇宙人はその高い倫理観から人類が滅びず進化するよう見守りに来てる』のだそうだ」
「うさん臭っ」
「俺も同じ感想だ。宇宙人が来てるならもっと実利的な理由からだと思う」
「実利的?」
「永州君はなんだと思う?」
「ん〜、自分達より明らかに科学レベルの低い地球人から得られるものなんて無いでしょう?あ、もしかして資源とかですか?」
「それも含めてだ」
「でも宇宙人が鉄鉱石やら石油やら強奪してったとかって話は聞きませんけど?」
「鉱物とかエネルギーとかの地下資源のことじゃない」
「え?どういうことです?」
資源といえばそういうものだと思っていた永州が戸惑う。
「例えば地球でも昆虫の仕組みからより効率の良い音響設備を作ろうという研究がされてたりする。そういう生物なんかも資源といえる」
「ほえ〜、そういうことですか」
「で、地球は恐らく宇宙人たちの母星とは大きく異なる環境、異なる進化をしてきた生物相、異なる歴史を歩んできた知的生命体である地球人が存在している。これらを研究すればコンピューターシミュレーションでは絶対に得られない成果を出せるだろう。いわば地球は彼らにとって『実在するif世界』になるんだよ。この貴重さからすれば地球人の科学レベルの低さなんてたいした問題じゃないだろ。これが俺の考える宇宙人が地球に来る目的だ」