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竜提督は盾の乙女をとかさない  作者: 佐賀ロン
第三話 イルマタルはアマドがわからない
15/25

イルマタルはアマドとデートがしたい①

『あなたは本当に、見返りを求めない人なんだな』


 アマドくんがそう言った。

 それは、私が少年に対して、『私の事忘れるぐらい、たくさんいい出会いがあるといいな』と言ったことに関してのものだった。

 その言葉を聞いて、涙が引っ込んだ。サアッと、少しだけ外の日差しで熱くなっていた身体の熱が引く。

 


『そんなことない』


 硬い声が出た。思わず、貰った手紙をうっかり握り締めそうになる。

 違う。少年は子どもだから。子どもは庇護されなきゃいけないから。だから当然のことをしただけ。

 私は、見返りを求めないほど、立派な人間なんかじゃない。

 彼女にはなれない。

 ――そう思った時、二つ結びをした甘栗色の彼女が、こちらに振り向いて笑っている姿を思い出した。


『……イルマタルさん?』


 私の変化に、アマドさんが心配そうに覗いていた。

 私は、あえて明るい声でこう言った。


『そんなことないよ? 例えば、三週間も放置したパートナーには、今後の改善に期待してるし』

『すみませんでした!』


 私の言葉に、勢いよくアマドくんが頭を下げる。

 あの、ええと、と言い淀むアマドくんを見て、思わず笑った私は少しだけ力が抜けた。


『まあ、君の事情は察するけど、「見返りがなくてもいい」都合の良い人間だと思われちゃー、こっちの立場がないなー』


 わざとらしく間伸びをして言うと、なぜか頭を下げたままのアマドくんが、俺の事情……? と不思議そうに呟いた。


『だから、その埋め合わせ。して欲しいな?』


 私は、彼に「埋め合わせ」の内容を伝えた。

 すると彼は、何故か顔を真っ赤にしたのだった。



 ■



 なんで彼は、私と結婚したんだろ。私の異能力についても、私が『盾の乙女』と言われた理由も、ちゃんと知っていなかったみたいだし。

 私の異能力を理由に求婚したとばかり思っていたから、この三週間放置されて拍子抜けしてしまった。

 途中で貴族として、子どもを残すために、氷の異能力者と結婚しないといけなかったのかな、なんて思ったんだけど。このトリド家、どうもそんな堅苦しいお家じゃないらしい。

 先代、つまりアマドくんのお父さんは、実は結婚をする気も子どもを作る気もなかったそうで、彼が亡くなったら部下の人を養子縁組して、その人に家督を譲るつもりだったんだとか。ところがアマドさんのお母さんと出会い、大恋愛の末結婚したらしい。

 だから別に、結婚を強制させられるような環境でもなくて。でも、()()()()()()()()()()()()

 だから見極めようと思った。


 そう――これから私は、アマドくんとデートをする。

 夜になったトリドの街で、ええと、とアマドくんは言った。


「ひとまず、何をしたいのかを、聞いておきたいんだが……」

「アマドくんに全部任せる」

「いやあの」

「アマドくんに。全部。任せる」


 私がゴリ押しすると、はい、と困った顔で了承するアマドくん。

 思えば、私はアマドくんの社会的位置とかは調べても、アマドくんの好きなものは知らない。普通人間関係は、そこから知るもののはずだ。そりゃ血の通った交流が生まれないわけだ。

 さあ、アマドくん。まず、君はどこに連れて行ってくれるんだ?





「……図書館?」

「図書館」


 連れてこられたのは、トリド大聖堂に隣接された、トリド図書館だった。

 トリド大聖堂に合わせて、入口には神殿風の柱が立っている。


「図書館!?」

「そんなに驚くことか?」

「いやあの、君……ここって……」


 めっちゃ紙あるじゃん。本だから。とても失礼な偏見かもしれないけど、火の異能力者は避ける場所だと思ってた。特にアマドくんは暴走しがちだし。


「……氷の国では、図書館はすごく重要な施設なんだろ」

 アマドくんが言う通り、氷の国の国民にとって、図書館は重要な場所だ。本を読むだけじゃなく、人々の憩いの場、趣味の場所、遊びの場所……人生において大事だと思えるものは、全部詰め込まれていると言っていいほど。

 それに本は、雪に囲まれる生活の友のようなものだ。好みというより、そこにあって当然のものだった。

 ……って、


「もしかして、私のためにここに連れてきてくれたの?」

「え?」

「え??」

 お互いクエスチョンマークを飛ばすこと数十秒。

 あ、これはあれだな。カルチャーショックとか、価値観の齟齬とか、とにかく言葉にしていない何かで食い違ってるな?

 とりあえず私は、思いつくところから確認してみる。


「私、てっきりアマドくんが好きな場所に連れて行ってくれるのだと思ってたから」

「え……『デート』で『男に任せる』って言うのは、女の行きたい場所へ行くって意味だと」

「何それ。え? テレパシーで理解しろってこと?」


 無理では? 私、行きたい場所言ってないのに、連れていくとか無理では?


「火の国ではそうなの?」

「いや知らんけど……アムスがそう言ってたから」


 アムスさん。確かアマドくんのお父さんアマネセルさんの部下で、めちゃくちゃ女の人にモテる人だっけ。確かお年が七十七。

 なるほど。カルチャーショックじゃなくて、ジェネレーションギャップだ。どっちもかもしれんけど。なんか暗黙の了解とか文化的なアレがあるんだな。知らんけど。


「私は、行きたいところがあれば目的地を言うし、誰かに任せたい時は任せるって言うから、そのままの意味でとって欲しいな」

「……そっか」

「でも、図書館は嬉しい! マジで! 私のためにしてくれたことも、ありがとう!」


 まさか、真っ先に私が好きそうな場所に連れて行ってくれるとは思わなかった。

 

「アマドくんの好きな本知りたいな。あ、本読む?」

「人並み程度。あんまり難しいやつは読まねーけど、小説とか」

「へえ! 何読むの?」


 私が尋ねると、アマドくんは少し緊張が抜けたのか、頬を少し緩ませて話した。

 しばらくして、にやける口を抑える私の様子にアマドくんが気づいたようだ。

「……イルマタルさん?」

「あ、ごめん」

 かわいいなアマドくん。それは口にはしなかった。

 成人しているアマドくんに失礼な話だけど、私は、今まで警戒心マックスだった生き物が懐いてくれる瞬間にめちゃくちゃ弱いタイプなんだ。



 ■


 次に来たのは、セル・ウン・ソル広場。

 大理石とガラスで出来たアーケードには、たくさんのお店が並んでいた。

 こないだメアリーさんと一緒に来た時は、道として通り過ぎただけだった。アマドくんに任せるとか言っておきながら、すぐ自分の興味に走っちゃうよ。ごめんよ。


「そう言えば、トリドの人たち、たまにこの広場の名前を呼んでたりしない?」


 私はディアス家であったことを思い出す。

 なんか、褒め言葉みたいに言ってたけど。


「セル・ウン・ソルは、トリドの古い言葉で、『太陽のよう』って意味で、転じて『あなたは素晴らしい』……みたいな」

「へー」


 そう言えば、メアリーさんもアマドくんのことを太陽のような人って言ってたな。

 アマドくんが太陽か。

 きっとトリドの人達にとって、アマドくんは太陽のように照らす人なんだろう。だってほら。


「お、ようやく夫婦そろってお出かけか!」

「まったく、三週間も花嫁さん放置するんじゃないよ! 最低な夫だね!」

「メアリーだな? それ、メアリーが言いふらしてるんだな?」

「「うんにゃ、ヴィルヘルムさん」」

「……」


 火の国は貴族階級が厳しいって聞くし、実際彼は軍事のトップなわけだけど、こんなに普通に声掛けられてるし。

 ……というか、メアリーさんも執事長(ヴィルヘルム)さんも、アマドくんに容赦ないな。これ二人で歩くたびに言われてんぞ。多分皆、私の境遇を慮ってのことだろうけど。

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