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異カイの探偵  作者: KAlaN
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#4 闇色の桜

”出会い”を恨め


いつか”別れ”を呼ぶ

 青空が広がる13時


目的地まで運転をしながら、一昨年の4月にあった出来事を思い出す。


樟ヶくぬぎがさき小学校は、一昨年の4月、男子児童2人の行方不明者を出していた。


その時は、2人の友人によると、2人は“学校の七不思議”を解明すべく、夜の学校に忍び込むと公言していたらしい。


その為、人為的事件と言う可能性を残しながらも奇怪事件と処理され、私たちも紗嶋さじま刑事の同行の元、怪異と児童の捜索に当たった。


結果的に、児童は小学校にある大きな桜の木の下に埋まっていて、生きたまま養分になりかけていた。


当時の樟ヶくぬぎがさき小学校の七不思議は、


“トイレの花子さん”


“真夜中の音楽室のピアノ”


“動く人体模型”


“美術室の動く石膏像”


“保健室の赤いベッド”


“無人の放送室”


“桜の木の下”


であった。


なので、これら全部の怪異を探し、花子さん以外は回収した。


トイレの花子さんは、学校の七不思議の信憑性を残し、子供たちの中で七不思議の内容に変化が起きないように、未練と悪意だけを抜き、殺意の無い脅かし役として残ってもらっている。


その為、樟ヶくぬぎがさき小学校の七不思議は、児童が悪戯に巡っても、実害の無いものになっているハズである。


なのに、今回、樟ヶくぬぎがさき小学校で新たな行方不明者が出てしまっている。


もしかしたら、七不思議の内容が変わっているのかもしれない、とあまり考えたくないことを考えながら、目的地に辿り着いた。


近くの駐車場に車を停め、“KEEP OUT!”と書かれたテープで遮られている正門の前に立つ。


塀の内側にある桜並木が風によって揺られ、桃色の雨を降らす。


グラウンドを挟んで向こう側の昇降口に見覚えのある茶色のロングコートが見える。


怠いと思う気持ちを抑えながら頭を掻き、テープの下を潜って勝手に入る。


けいは、他の警察官に会釈をしながら、ちょこちょこと私に付いてくる。


私たちが昇降口に一歩踏み入れれば、ロングコートを着た男と、見たことの無い男がこちらを見る。


黒い手袋をし腕を組んだ、オールバックの真面目そうな顔立ちの男が、私たちを瞳に入れた瞬間、無駄に端正な顔を顰める。


こっちも顔を顰めたいが、表情を崩さないように我慢をする。


「…なんで居んだお前ら。」


その言葉に、けいが反応する。


「お久しぶりです!“香雅かが刑事”!」


「久しぶりしたくねぇわ。帰れ帰れ。」


彼女の言葉に香雅かが刑事と呼ばれた男は、しっしっと追い返すように手を動かす。


突然手の動きを止めると、私に向かって指を差し、


「つーか、お前ら、また紗嶋さじまに集ったか?奇怪事件は俺らの仕事だから、部外者が関わんじゃねぇ。」


と、怒気を込めた声を出す。


集ったんじゃなくて、紗嶋さじま刑事が呼んでくれたがな?と言いたくなる気持ちを押し殺し、


「うるせぇ、プライドだけが高いおじさん。」


と、心の声の一部を漏れ出させる。


この発言を皮切りに、香雅かが刑事は私を睨みつける。



香雅かが かおる


奇怪事件対応課の刑事で、一般人にしては珍しく、見えるし祓えるタイプの人間だ。


そのせいか、自分が居れば怪異に対抗でき、警察だけで奇怪事件を解決できると考えているプライドの高い刑事だ。


確かに怪異に対する知見も並みにある、洞察力も人並みよりある、ある程度であれば怪異も祓うことが出来る。


警察官の力だけで、刑事の力だけで、部外者の協力を得ずに解決したいというプライドを持ってしまうのも仕方がない。


だからと言って私を目の敵にするな。


後、余計に祓うな。


祓って一旦退けたとしても、未練は循環して生まれるんだよ。



一々突っかかって来る面倒なおじさんだな、と考えながら、土足で学校内に上がり込む。


「そういえば、この方はどなたですか?」


私と香雅かが刑事の空気感に言葉を失っていた知らない男の方を見ながら、けい香雅かが刑事に質問を投げる。


香雅かが刑事は「あぁ此奴は…」と言いながら、その男の方に向き直り、彼の背を、ぽん、と叩き、


「奇怪事件対応課の新顔、“元技もとぎ 海兎かいと”だ。…一応自己紹介しとけ。」


と、彼に自己紹介を促す。


かっちりとスーツを着て、少し髪の毛がふわっとしている眼鏡をかけた若い男が、背筋を伸ばし緊張した様子で口を開く。


「は、初めまして!先日奇怪事件対応課に配属されました、元技もとぎ 海兎かいとと申します…!」


なるほど、一先ずおじさんがいないタイミングに何の問題を起こしたか聞くか、と悪いことを考えながら、香雅かが刑事の下なら独り立ちするまで関わらないだろ、と予想をする。


念のため自己紹介だけはしようと、着崩したスーツを直すことなく、元技もとぎ刑事の方に身体を向ける。


「どうも、阿崇探偵事務所の阿崇あたか めいです。」


続いて、けいも、


「初めまして!妹兼助手の阿崇あたか けいです!」


と、一礼をする。


釣られるように彼も頭を下げる。


「此奴らは呼んでもなく来る部外者だから、来たら追い返せよ。」


香雅かが刑事は元技もとぎ刑事に余計なことを吹き込む。


それに対して、元技もとぎ刑事は「はい!」と返事をする。


良くも素直、悪くも香雅かが刑事の忠犬か。


こりゃ、独立しても関わることなさそうだな、と察する。


私たち、主に私に関する余計なことを元技もとぎ刑事に吹き込む香雅かが刑事を横目に、男子児童が亡くなった現場を探しに行こうと、私たちは勝手に歩き出す。


そんな様子の私たちに、香雅かが刑事は静止の声を上げる。


「おい、部外者のお前らが勝手に現場周ろうとすんな!」


彼の言葉に足を止め、


「許可出さないの知ってるし、追い返す気しかないのも知ってるから、勝手にするしかないんだよ。」


「おう分かってんじゃねーか、さっさと出てけ不法侵入者ども。」


彼の言葉に返す余地も反論する気もない。


実際私たちは許可なしで入っている不法侵入者だ。


あーあ、紗嶋さじま刑事なら何も言わないのにな。


まぁ、香雅かが刑事は私たち、主に私を厄介者扱いするが、実力を認めていることは知っている。


認めていなきゃ、刑事としてのプライドを全面に出し、私たちと紗嶋さじま刑事を完全に関わらせないようにしていただろう。


自分の見えるところで部外者が勝手にするのが刑事、警察官としてのプライドが許さないだけで、追い返してくるときに素直に追い返されて、自分の知らないところでやってる分には少し文句を言われるだけで済む。


仕方なく追い返されとくか、と頭を掻いて廊下から降りる。


「はいはい、私たちは出ていきますわー。」


けいを呼び、そのまま昇降口から細かな砂利の上に足を動かす。


彼らに背を向けていれば、少しの違和感を覚える。


いつもなら、素直に出て行くときも「もう二度と来んじゃねぇ。」とか「勝手に入って来んな。」とか、文句と言う名の丁寧なフリをしてくるんだが、今回は珍しくそれがない。


首だけ動かし後ろの彼の方を見ると、顎に手を当てて何か考える様な素振りをしている。


少し嫌な予感がするな、と眉間に皺を寄せながら、さっさと出ていこうと正面にならって、門へと向かおうと足を踏み出す。


ぽん、と肩に手が置かれる。


「おい。」


明らかに香る後ろからの面倒臭い気配に足を止め、ゆっくり振り返る。


私の後ろを付いてきているハズのけいは、視界の端に避けている。


「捜査の許可を出してやる。代わりに、彼奴をお前に付いて行かせる。」


香雅かが刑事は私の肩を掴みながら、親指を若い男、元技もとぎ刑事に向ける。


「え?俺ですか?」


私は、おじさんと若いのを交互に見て、


「は?」


と、唖然とする。


「許可は出してやるけど、監視付きが条件だって言ってんだよ。」


「…ソイツ、新人だろ?」


「あぁ、最近来た新人だが。」


「…あー、なるほど?」


いつもの彼とは異なる様子と言葉から、彼の意図を察する。


「頭を打ったガキの遺体は一見怪死体に見えない。階段下にあったてこともあり、転落事故の線を追ってる。行方不明も多いいが、一応人によるモンだってのを考慮して、昼間は捜査一課が中心に捜査している。俺らも駆り出されているが、完全にこっちの案件って感じで任されてはいない。まぁ、昼間と言えど、お前なら居るなってのは分かるだろ。」


「居るし、なんなら…」


彼に肩を掴まれたまま、学校の2階の窓を見る。


「見てる。」


子供のようなソレが窓に手を付き、こちらを2つの目で見つめている。


小学校は休校、校舎内にいるとしたら、捜査をしている警察官か捜索をしている教師だろう。


微動だにせず、じっとこちらを見つめるソレに、目を細める。


香雅かが刑事とけいも、私の視線の先を見る。


「全然居ますね。」


「居るどころか見てたか。」


「え、香雅かが先輩、何を見つけたんですか?」


元技もとぎ刑事も釣られて見るが、視線が定まっていない。


「…おじさん、まさかだけど…」


「あぁ、そのまさかだ。此奴はこれがこっちに来てから初の現場入り、おまけに見えないし感じも取れない。今は勉強段階だ。」


「学びの段階で私の監視役マジ?紗嶋さじま刑事みたいに危険察知能力高くて、ちょっと居るな―ってのが分かるぐらいのが私の監視するならまだしも、ぺーぺーが監視役マジ?お守りだろコレ。」


「だからこそだ、一夜使って行方不明者が1人も見つからない、おまけに、…どうやら行方不明者のガキ共と死んだガキは、昨日の昼、クラス内で学校の七不思議を解明するとでっけー声で言ってたらしい。これはもう8割ぐらいこっちの案件だろ。」


彼は面倒臭そうに視線をこっちに移す。


「だから今日の夜、奇怪事件として校舎内を見て祓いに行こうと思ってんだが、俺は今此奴の教育係だ。」


彼は、元技もとぎ刑事を見る。


「はい!香雅かが先輩に教えて頂いてます!」


元技もとぎ刑事は、背筋を伸ばし敬礼をする。


その様子から真面目そうな性格が伺える。


「捜査にしても祓いに行くにしても、此奴には奇怪事件がどういうモンか学ばせないといけない。だから、基本的には連れて行かねぇといけねぇんだが…」


「だが?」


「出現場所が決まっているなら、俺でも此奴を連れて祓うことは出来る。だが、今回は、…お前が一昨年対応した七不思議が、今、内容が変わっている可能性がある。」


彼の発言に口を一の字に閉ざす。


「お前は一昨年、“七不思議とか、そういう怪談のモンは、基本的に口伝いで広まる内容が変わらなければ、出現する怪異は変わらない”って言ってたよな。そんで、お前は、トイレの花子だっけな、ソイツだけ残して、学校の七不思議の噂を定着させていた。確かにあの件から、この小学校で奇怪事件は起きていない。だが昨日、行方不明者と死亡者を出した。…これが奇怪事件なら、広まる七不思議の内容が変わったってことだろ?」


流石、何度も奇怪事件に関わり、時には自分で解決したベテラン刑事だ。


左遷されていなければ、立派な一課の刑事として活躍していただろう。


「今、この学校に広まっている七不思議の内容は知らねえ。だから出現場所も分からねぇ。」


「…で、私たちなら、新米に学ばせながら予想外にでも対応できるだろうと。」


「そういうことだ。」


彼は私から離れ、元技もとぎ刑事の隣に立つ。


元技もとぎ刑事の背を、バシッと叩き、


元技もとぎ、お前の初仕事は此奴らの監視をしながら、この奇怪事件から色々学ぶことだ。此奴らが勝手なことをしねーようにちゃんと見張れよ。」


と伝える。


「え、先輩は!?」


「俺は行かねぇよ、此奴に任せるとか本来なら嫌だが、今回は仕方がねえ。」


「しかし…!先輩は先ほど、この人たちは部外者だと…!」


「今は、捜査の協力者だ。」


「っ、しかし…」


「お前は俺から色々教わりたいとか言ってたが、こっちのことは、俺より此奴の方が詳しい。」


彼は、私の方に親指を向け、指し示してくる。


「お守りをするって言ってないけどな。」


「するだろ。つーか、これが飲めねぇなら、厳重に警備させて入らせねえようにするぞ。」


「うわっ!うわー…」


「お前なら、此奴一人守りながら祓うことぐらい余裕だろ。」


彼とは無駄に言い争う仲ではあるが、私も彼も、その職の人間としては、互いに力量を認めている。


そんな彼が、無駄口を叩かず、自分の後輩の勉強の場を作るために、私になら預けられるという信頼を乗せて言葉を投げかけてくる。


2つの意味で任せてくれるのは、まぁむずがゆくとも嬉しいが、一言言わせて欲しい。


「私のは祓うじゃねェぞ!同じにするな!」


大きな声が空気を揺らす。


「うるさ…、…んじゃ、任せたぞ、俺の後輩と事件を。」


彼は私の声に顔を顰めながらも、すれ違い様に私の肩をぽんっと叩き、校門に向かっていく。


元技もとぎ刑事は、「先輩…!」と言いながら彼のことを追おうとするも、一歩踏み出したところで動きを止める。


そして、私とけいを見て、困惑しながらも少し嫌そうな表情を浮かべる。


香雅かが刑事が私たちを厄介者扱いしていたからだろう、先輩の意志を継ぐ出来た後輩だ。


言葉にしないだけ面倒臭さはないが、顔に出されるのもそれはそれである意味面倒ではある。


彼は、眉間に皺を作りながら不服そうに、


「…先輩がああ言ってましたので、あなた達のお目付け役、及び見学をさせていただきます。」


と一礼をする。


良くもではなく、悪くもの方だったかと、外れくじを引いた時のような気分になる。


視界の中に桃色の花びらが舞いこんでくる。


4月の出会いは、枯れた桜を眺めている時と同じ気持ちになるようなモノだった。



「転落事故とされている男児の事故現場を見に行ってもいいですか?」


「現場にはもう遺体も無いので、こちらの資料でご確認ください。」


「あ…、ありがとうございます。」


「お姉ちゃん、今から探索する?それとも、夜から?」


「もう少し日が落ちたら、今は流石に明るすぎるからな。何時だ?」


「今は、15時半!」


「なら、20時まで時間潰すぞ。」


「はーい!」


「…自分は20時になったらまた来ます。では。」


「…こんな奴任せられたマジか。」




大体は書きたいものを全部書いてから置いてます。


自由です。


by.KAlaN

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