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第8話 カップ焼きそばを食べてみよう

カップ焼きそば食べるだけでものすごく内容が膨れ上がった件について……

〔・とりあえず、耕助が落ち着いたところで

 ・まずはしっかり朝ごはん〕


 耕助がエロトラブルの犠牲になってから十数分後。ようやく状況が落ち着いたところで、立て札がそう宣言する。


「それはいいんだけど、二人分も食材ないぞ?」


〔・ガチャを用意したから、大丈夫〕


「それで何がどう大丈夫なのか、俺には分からない……」


 なぜかガチャに話を持っていく立て札に対し、即座にそう突っ込む耕助。


 ラインナップ次第とはいえ、ガチャで本当に食材の問題が解決するかは疑問である。


 特に耕助の場合、今のところまともなものは初日の完全栄養食バーとデイリーミッションの報酬の塩コショウしかなく、大爆死していると言っても過言ではない状態だ。


 この戦績でガチャを用意したから大丈夫と言われても、大丈夫と思えないのは当然であろう。


「あの、ガチャとは一体何でしょうか?」


「ああ、そっちにはなさそうだからな、こんな悪い文化」


〔・簡単に言うと、くじ引きとか福引。

 ・何が出るかは引いてみてのお楽しみ。

 ・今回は食料品カテゴリーからランダムで一つ〕


「地球のは基本的には金払ってくじを引くんだが、中身がほぼ全部公開されてる奴はともかく、目玉賞品以外は非公開のやつがえげつなくてなあ……」


〔・千円のやつとかソシャゲとかのは

 ・まさしく悪い文化。

 ・ただし、見てる分には面白い〕


 ガチャというものを知らないシェリアに対して、そんな風に説明をする耕助と立て札。


 それを聞いてもいまいちピンとこないシェリア。


 福引やくじ引きというものはシェリアたち翼人族もやってはいるが、それが悪い文化である理由がよく分からない。


「実際にやってみるのが早いんだが、今回の場合はガチャのえげつなさを見せるには向かなさそうだよなあ……」


〔・外れでも、ポテチ一袋。

 ・ついでに言えば、同じネタは面白くないから

 ・食品や消耗品系は一度出たものは

 ・以降五回は同じものは出ないようになってる〕


「つまり、ポテチ一袋と完全栄養食バーはしばらく出ない、と」


〔・ん。

 ・ただし、数が違うと別物扱い。

 ・逆にフレーバー違いは同じもの扱い

 ・今回はジャンルが主食だから

 ・そこまでひどい外れは出ないはず〕


「……なんで主食ジャンルでポテチが入ってるんだよ……」


〔・ポテチはジャガイモだから主食。

 ・異論は認めない〕


「ちょっと待て、その理屈はおかしい」


 なかなかの暴論を言い切った立て札に対し、思いっきりそう突っ込む耕助。


 だが残念ながら、世の中にはポテチを主食と言い切ったり、ビールは麦とホップからできているからサラダだと言い張ったりする人間が普通に存在する。


 そういう人種が存在する限り、立て札の暴論を全否定するのは難しそうだ。


「ポテチ、ですか?」


「ジャガイモを薄くスライスして油で揚げて、塩を振って味付けした料理だ。基本的にはお菓子とかおつまみの認識だな」


「揚げ芋なら、主食になるのでは?」


「そういう文化文明の地域があることは知ってるし、それは否定しない。ただ、個人的にはポテチといわゆる揚げ芋は別の食べ物だと思っている」


 恐らく現物を知らないであろうシェリアに対し、やたらきりっとした表情でそう言い切る耕助。


 股間に葉っぱ一枚の裸族男がシリアス顔を決めて言うようなことではない。


「てか、立て札よ。その理屈だと、アメリカではジャガイモ料理はフライドポテトですらサラダ扱いだから、それこそサラダとか野菜料理のカテゴリーでもポテチが出てくることにならないか?」


〔・もちろん出てくる〕


「出てくるのかよ……」


〔・実際にそう扱われている時点で

 ・ガチャのカテゴリーも適用される〕


「……つまり、ポテチを主食だと主張して実行してるやつがいる時点で主食カテゴリー、アメリカでサラダ扱いされている時点でサラダカテゴリーに入ってくるってことか……」


〔・ん、そうなる。

 ・野菜料理に関しては元からジャガイモは野菜扱い。

 ・だから野菜料理でポテチが出てくるのは何の不思議もない〕


「カテゴリー広いな、ポテチ!」


〔・というか、ジャガイモがカテゴリー広い〕


 恐ろしくいろんなところに顔を出すポテチに対し、思わずそう突っ込む耕助。


 実質、出てこないのが肉と魚介のカテゴリーぐらいしかないので、耕助が突っ込みたくなるのも無理はないだろう。


〔・まあ、とりあえず回してみる。

 ・せっかくだから、ここはシェリアから。

 ・今日の食料品ガチャは複数回チャンスがあるから

 ・深く考えずに回す〕


「えっと、回すってどうすればいいんですか?」


〔・今回は、ガチャを回すと宣言〕


「分かりました。ガチャを回します!」


 シェリアの宣言に合わせ、初回仕様のガチャ演出を表示してレバーを回す立て札。


 レア以下だったようで、特にこれといったレアリティ演出なしでカプセルが出てくる。


〔・これで、抽選は終わり。

 ・今回は説明のためにここで止めてるけど

 ・基本的には抽選が終わったら自動で開封される〕


「開封ですか?」


〔・諸般の事情で立て札ガチャはイラストだけでやってるけど

 ・本当はこういうカプセルが出てくる。

 ・カプセルの中身がいわゆるくじの結果〕


「なるほど」


〔・という訳で、オープン〕


 そう言って、カプセルを開く立て札。


 中から出てきたのは菓子パン業界のモンスター商品の一つ、ミニス〇ックゴールドであった。


「……また、いろんな意味で危険な奴が出てきたな……」


〔・味の面では大当たり。

 ・でも、カロリーの面では危険物もいいところ〕


「後、この環境下でそんなうまいものを当ててしまって大丈夫なのか、ってのもあるぞ」


〔・ん。

 ・しかもこれ、何気に中毒性がえぐい〕


「何がいやらしいって、三つセットなんだよな。っていうか、俺の記憶にあるよりでかいような……」


〔・ミニス〇ックゴールドって名前になった直後ぐらいのサイズ。

 ・だから、今売ってるのより大きい。

 ・しかも、材料も微妙に違うから、カロリーもそれのほうが多い〕


「何その追い打ち……」


 恐ろしい情報の数々に、思わず戦慄せざるを得ない耕助。


 このパンは今でこそ一個五百キロカロリー代に収まっているが、昔はサイズが大きかったこともあって平気で一個千数百キロカロリーあった。


 一個で一日分の基礎代謝を補えるほどのカロリーはさすがに問題があったのか、今ではすっかりサイズも小さくなったが、それでも五百キロカロリーである。


 常食すれば肥満待ったなしの代物だが、そういうものに限って美味くて常習性があるのが厄介だ。


「これって、そんなに危険なものなんですか?」


「ああ。何が危険って、宗教とか文化の面で食っちゃダメなものはともかく、麻薬とかそっち方面でダメなものは入ってない、完全に合法な代物だっていうことだな」


〔・ん。

 ・主要材料は、どれも特別に体に悪いわけじゃない。

 ・ただただひたすら、一個に使われてる量がすごいだけ〕


「……はあ」


「なんにしても、そのパンに関しては食ってみれば分かるとしか言いようがない」


「そうですか」


 説明しようにもパンに関してさほど詳しいわけでもないため、諦めてサクッと話を切り上げる耕助。


 本職か趣味でパンを焼いている人間でもなければ、この種のデニッシュ系のパンにどれほどの量の砂糖とバターが使われているかなんて分かるはずもない。


〔・という訳で、次は耕助の番〕


「どうせ、ろくなものが出ないんだろうな……。っと、そういえば、今更なんだけど」


〔・ん? なに?〕


「こっちの世界って、主要言語は日本語なのか?」


〔・ああ、シェリアと言葉が通じてる理由?

 ・シンプルに、自動翻訳で通じるようにしてるだけ。

 ・ボクの言葉も、シェリアの目には自分の種族の文字に見えてる〕


「ああ、よくあるやつか」


〔・そう、よくあるやつ。

 ・という訳で、さっさと回す〕


「はいはい。ガチャを回してくれ」


 立て札にせかされ、自分の分のガチャを回す耕助。


 シェリアの時と違い、今回は演出をすべて省略して、カプセルを開けるところまで一気に終わらせる立て札。


 出てきたのは、一時期なぜか一部のメーカーで流行していた、スイーツ系カップ焼きそば三種セットであった。


 具体的にはショートケーキ味が一つ、チョコレート味がメーカー違いで二つの合計三つである。


「……鮒ずし味のポテチに続いてか……」


〔・さんざんポテチをこすり倒してたから

 ・今度もポテチの微妙なのかと思った〕


「そっちのほうがましじゃないか、これ……」


〔・かもしれない。

 ・あっ、でも、シェリアなら美味しく食べられるかも〕


「というと?」


〔・ヒントはこの世界

 ・本来砂糖は超貴重品〕


「……ああ、甘けりゃなんでもうまいってことか……」


 立て札の言葉に、いろいろ納得する耕助。


 砂糖に関しては、それこそ日本でも庶民が塩と同じぐらいの感覚で使えるようになったのは戦後のことで、庶民の口に入るようになったのは江戸時代に入ってからと意外と最近のことだ。


 そう考えると、よくあるファンタジーな世界であるらしいこの世界において、砂糖が超貴重品であることも不思議ではない。


「ってことは、ミニス〇ックゴールドの前に、このチョコ味のを手伝ってもらったほうがよさそうだよな」


〔・ん。それが危険物なのは否定しない。

 ・主に、味覚の不協和音的な意味で。

 ・先に美味しいものを食べてからだと

 ・ある種の拷問〕


「ショートケーキのは焼きそばだと思わなければまあ、ってレベルだったし、チョコのも片方は好き嫌いの範囲だとは思うんだけど、こいつだけはなあ……」


「……なんとなく、不穏な話をしているのだけは分かりました」


 耕助と立て札のやり取りを聞いて、率直な感想を口にするシェリア。


 さすがに、この内容と雰囲気で、褒められる話をしていると思えるほどシェリアもおめでたい頭はしていない。


「まあ、個人的にまずいと思ってるものを押し付けようって話だからなあ……」


〔・それ、正直に言うんだ〕


「ごまかしたって無駄だろ?」


 馬鹿正直に説明した耕助に対し、あきれたように突っ込む立て札。


 その立て札の突込みに対し、思うところをこれまた正直に言う耕助。


〔・それはそれとして

 ・味について妙に詳しかったけど

 ・食べたことあるの?〕


「前に職場でな。さすがに丸一個食わされたわけじゃなくて、適当に取り分けてそれをノルマって感じで。字面やパッケージの印象が一番あれだったショートケーキのが一番ましだったのに驚いたもんだ。逆に、そっちは何で知ってるんだ?」


〔・母の一人が、インスタント食品マニア。

 ・食に対してもかなりのチャレンジャーで

 ・普通に巻き込まれて食べさせられた〕


「ほほう? だから、味覚の不協和音なんて率直な感想が出てきたわけか」


〔・ん。

 ・でも、美味しいと感じる人がいる可能性は否定できない。

 ・そんな印象だった〕


「それについては、俺も同感だな。一緒に食った先輩の一人は、これが三つの中で一番うまくて唯一まともに食えるって言ってたし。世の中、何をうまいと感じるかは個人差が大きいからなあ」


 そう言いながら、お湯を沸かしはじめる耕助。


 それを見たシェリアが、不思議そうに首をかしげる。


「なんでお湯を沸かしてるんですか?」


「こいつは、お湯を入れて三分待つ必要があるんだよ」


「はあ……」


「まあ、全部食えとは言わないから、半分だけでも手伝ってほしい……」


「分かりました」


「もちろん、食ってみて気に入ったなら、全部食ってくれてもかまわない」


 シェリアの疑問に答えながら、個人的に一番まずいと思った銘柄のパッケージを開封する耕助。


 そこに、立て札が口をはさむ。


〔・あちらこちらからの要請で

 ・一般的なのを一個ずつ支給することになった。

 ・そっちに送るから、食べるといい〕


「ありがたいけど、なんでだ?」


〔・普通のカップ焼きそばはどんなものか知らないと

 ・いろいろ誤解されそうだっていう意見が多数。

 ・後、標準を知ってから食べたほうが

 ・反応が面白いんじゃないかって〕


「ああ、なるほど」


 立て札の意見に耕助が納得したのと同時に、足元に円盤型のカップ焼きそばが落ちてくる。


「こいつなんだ」


〔・それが代表格だと思う〕


「ああ、そうかも。俺の分もあるのはありがたい」


〔・それは、うちの母から。

 ・あまりにも不憫すぎるから

 ・一つぐらいはいいんじゃないかって。

 ・本来はもっと渡したいって言ってたけど

 ・それで意欲をそぐとかえってマイナスだから我慢するって〕


 立て札の母とは思えない優しい言葉に、思わず涙ぐみそうになる耕助。


 立て札のやり方に文句を言うつもりはないし、相手の立場を考えると十分配慮されているのは分る。


 が、それはそれとして、優しい存在にちゃんと見守ってもらっていると確信できるのはうれしいものなのだ。


 せっかくだからと伝言板を確認すると


・さすがに不憫になってきたので、たまにはボーナスを

・やっぱりちゃんとした焼きそばを食べてもらわないと

・さて、砂糖が超貴重品な世界で、普通のカップ焼きそばはどんな反応を引き出すのか

・これをきっかけに、投げ銭的な機能が欲しい

・苦労してるのを見るのが面白いとはいえ、前世のことを考えるともうちょっと甘やかしてもいいはず

・不幸一辺倒は、それはそれで見てて面白くないぞ~

・いやいや、この絶妙な不幸さ加減がいいんじゃないか


 などなど、予想以上に不幸を喜ぶ意見が少なく、もう少し報われるべしという意見が多かった。


「……で、スポンサーの意向を汲むなら、まずはこっちの円盤のを食ってからか」


〔・ん。

 ・丸一個半は多いかもだから、最初はそれを折半で〕


「だな」


 そういいながら、円盤型カップ焼きそばにお湯を注ぐ耕助。


 いまいち分かっていないシェリアは、耕助の作業を首をかしげながら見守る。


 そんなシェリアを横目に、箸とフォークをクラフト台で作る耕助。


 クラフト台で作業している間に、大体三分経過する。


「で、こうやって中のお湯だけを捨てて……」


「あっ、お湯はいらないんですか」


「ここにある奴は、使わない」


 湯切りしながら、説明になってるようななっていないような説明をする耕助。


 きっちりお湯を切り終えたところで、蓋をはがして中のソースを手早くまんべんなくからめる。


 いい具合にソースが全体にいきわたったところでふりかけを振り、大体半分になるように二つの皿に取り分ける。


「これが、いわゆる普通のカップ焼きそばっていうやつだ。食ってみてくれ」


「はっ、はい……」


「箸は使えるか?」


「この棒ですか? ちょっと無理ですね」


「じゃあ、フォークで」


 シェリアが箸を使えないことを確認した耕助が、箸と一緒に作ったフォークを差し出す。


 耕助からフォークを受け取り、パスタを食べる要領で焼きそばを巻き取って口に運ぶシェリア。


「……これ、すごい!」


「口に合ってよかった」


「こんな複雑な味の料理、初めて食べました!」


「そっか。翼人族の料理に、こういう麺類はあるの?」


「ありませんねえ。そもそも、汁物とソーセージをゆでるとき以外で、こんなにたくさんのお湯を使いません」


「なるほど」


 シェリアの反応に満足げにうなずくと、先ほどパッケージを開けたチョコレート味の焼きそばにお湯を注いだ後、自分の分の焼きそばに手を付ける耕助。


 この生活になってからまだ四日目ながら、すでに懐かしい感じがするその味に思わず涙ぐみそうになる。


 カップ焼きそば自体は、最後に食べたのは先月のこと。


 いずれにしても懐かしがるにはまだ早いのだが、下手をすると今後一生食べることはなかったかもしれない。


 そう考えると、耕助が懐かしがるのも無理がないかもしれない。


「……もう、無くなってしまいました……」


「まあ、半分だからなあ。というわけで次、一番問題児のやつ」


 そろそろいい具合に戻っているはずのチョコ味を湯切りし、同じようにソースとふりかけを手早く混ぜて取り分ける。


「味の系統が全く違うから、気を付けて」


「はい!」


 一応注意を促しながら、チョコレート焼きそばをシェリアに渡す。


 注意を受けたシェリアは、恐る恐る渡されたチョコレート焼きそばに口をつける。


「……! 甘い!」


「最初の味が普通になってるもんだから、この味がどうしてもなあ。しかもこの商品は、もう一つのと違って麺自体は完全に普通のやつなんだよ……」


「そうなんですか? 私はおいしいと思いますけど……」


「麺の油が、チョコといまいち相性がなあ……」


 そう言いながら、根性で割り当て分を食べきる耕助。


 その隣で、実に美味しそうに食べきるシェリア。


「やっぱり、甘いのはうまいか?」


「はい! 甘いのは、それだけでおいしいです!」


「なるほど。じゃあ、その感想を持ったうえで、まだ食えそうならそのパンを食ってみな」


「えっ?」


 唐突に妙なことを言い出した耕助に対し、思わず怪訝な顔を向けてしまうシェリア。


 翼人族は生態的にカロリー消費が激しいため、これぐらいならまだ普通に食べられはする。


 が、なんというか、雰囲気的にものすごい罠が待っているような気がしてならない。


「入らないなら、後でいいぞ。食料は貴重だから、無理して食べることはない」


〔・ん。単に甘くて美味しいにもいろいろあるというか

 ・耕助の国の甘くておいしいの基準の一つがそっちのパンっていうか〕


「へえ……」


 立て札の言葉に、興味津々という感じでミニス〇ックゴールドを見るシェリア。


 好奇心と欲望に負け、一個全部食べずに少しだけにすればいいと結論を出してしまう。


「ちょっとだけ食べてみます。全部食べずに、残りはお昼に回します」


「まあ、食えるなら食ってくれ」


 シェリアの言葉に、結局食うのかという表情を隠しもせずにそう答える耕助。


 耕助の言葉にうなずき、直感で袋を破って中身を少し引っ張り出し、小さくかじるシェリア。


 口の中に広がった、甘さを主成分としたさまざまな複雑な、それでいてとても調和がとれたうまさに、まるで頭をガツンと殴られたかのような衝撃を受ける。


 これと比べれば、さっきのチョコレート焼きそばがまずいというのは、少なくともシェリアの味覚においては否定の余地がない。


「……なんですか、これ。伝説の美食か何かですか……!?」


「いんや。値段的にはカップ焼きそば系とさほど変わらない、大量生産されてて庶民が普通に大体いつでも買える代物。まあ、今だとガチャで出るのを待たなきゃいけないから、確率的に伝説の美食って言っても間違いじゃないかもだが」


「……もぐもぐ、耕助さんの国って、すごいんですね……」


「庶民が食える値段の食いもんに関しては、多分世界で一番レベルが高いと思うぞ」


「……もぐもぐ、一度行ってみたいですね、もぐもぐ……」


「シェリアが行ったら、絶対大騒ぎになるぞ」


「もぐもぐ、……そうなんですか?」


「あっちの世界の人類は、俺みたいなタイプの角も翼も尻尾も生えてなくて耳も丸い種族しかいないから」


「もぐもぐ、……へえ……」


「つうか、一個食い終わりそうだが、大丈夫か?」


「えっ? ……ああ!!」


 耕助に指摘され、手元を見て愕然とするシェリア。


 無意識のうちに、ミニス〇ックゴールドをほぼ食べ終わっていた。


「……伝説の美食、恐るべし!」


「いや、シェリアが食いしん坊なだけじゃないのか?」


「食いしん坊は否定しませんけど、これ絶対おかしいです! 指摘されるまで、無意識にずっと食べてましたよ!」


「だから、危険物だって言っただろ?」


「危険すぎます! ……まあ、チョコレート焼きそばというものをまずいって言った理由は理解しました。私はそんなにまずいと思いませんけど、これが基準なら美味しくないのは分かります」


「もう一個のはもうちょい開発に手間かかってるから、さっきのよりはマシだった記憶があるけどな」


 ミニス〇ックゴールドという危険物に完全にやられ、耕助と立て札のやり取りを完全に理解するシェリア。


 なお、後に食べたもう一つの銘柄のチョコレート焼きそばとショートケーキ味の焼きそばについては


「これはこれで、そういうものだと思っていればそれなりに美味しいですね」


「まあな。ただ、カップ焼きそばでやる意味はとは常々思ったが」


「いろいろ知れば知るほど、最初のチョコの銘柄が残念に思います」


「まあなあ。あのメーカーは、チャレンジ精神旺盛なのはいいんだが、もうちょい違うほうに手間をかけられなかったのかっていうやつもよく作ってるから……」


〔・むしろ、そこで日和るようでは

 ・あのメーカーは終わり

 ・あそこの焼きそばとガ〇ガ〇君は

 ・変なの作ってなんぼ〕


 という感じで、それなりに無事に消費されるのであった。

カップ焼きそばのスタンダードを円盤にしたのは、シンプルに売り上げ一位の頻度が一番高いのがあれだったからです。

ショートケーキとチョコレートはダイスの目がネタ系のカップ麺で、真っ先に出てきたのがあれだったという。

作者は食べる機会がなかったので、味の評価はネットで多かったものをそのまま採用しています。


今回に関しては、どっちかというと日本の飯をマンセーするというよりは、砂糖が超貴重品で調味料が基本塩と一部の簡単な発酵食品しか使えないような文明レベルだと、先進国で普通にうまいという扱いのものは全部伝説の美食レベルになるという話だったり。




ここからは作品全体の余談。


立て札の素性は、澪の影響を受けそうな存在からダイス振って決めた結果、某創造神と某時空神の間に生まれたこの時点での末娘になりました。

まだ孫はいませんが、嫁一人あたり4~6人産んでいるので、子供だけでチームスポーツの試合ぐらいはできるぐらいの大家族になっています。

なお、立て札の正体以外、フェアクロがらみは基本的に直接の関係はありません。


それはそれとして現在、本編中に立て札の中身のビジュアルを出すべきか否か、出すとしたらどういう形でかというのを悩んでおります。

個人的に、出すなら立て札の上のほうにゆるキャラ的にデフォルメされた中身の顔をちょこんと出す感じがいいかなと思っているのですが、どうでしょう?

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― 新着の感想 ―
[良い点] へたれ男さん嫁さんとそれだけ子作りできるほど回復しましたか。めでたい(単にそれだけ襲われて別のトラウマに昇華しただけかも知れませんが。その場合は合掌)。
[一言] ガリガリ君懐かしいですね。そう言や、作って食べてましたね。それに子沢山はめでたいです。既に100年以上経ったのか。
[気になる点] 新潟にセイヒョーという美味しい氷とももたろうというリンゴ果汁のイチゴ味の桃色のガリガリ君みたいなのを売ってるメーカーがありまして…絶対赤城乳業はセイヒョーを買収したらいいと常々思ってま…
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