表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/39

第6話 生活環境を整えよう その5 東屋を作ろう

「そろそろ行けるか?」


〔・多分大丈夫〕


 昼食時。大急ぎで作った巨大な鍋を前に、耕助はカニが茹で上がるのを今か今かと待っていた。


「それにしてもこのカニ、だいぶデカいんじゃないか?」


〔・ん。ベニズワイガニとしては巨大。

 ・たぶん、タラバガニの大きいのと同じぐらいある〕


「でかいズワイガニって、味の面ではどうなんだ?」


〔・うろ覚えだけど、あまり育ちすぎると美味しくなくなるはず〕


「やっぱりか?」


〔・ただ、そもそもダシ素材もポン酢もないから

 ・そんなに差はないと思う〕


「かもなあ」


 そう言いながら、茹で上がったカニを鍋から上げる耕助。


 カニは、とてもいい色に仕上がっていた。


「さあ、食うか」


 まだ湯気が上がるほど熱々のカニを、わざわざこのために作ったトングを使って押さえて足をもぐ耕助。


 ハサミなんて作れなかったので、まな板の上でこれまたこのためだけに作った楔とハンマーを使って甲羅を割っていく。


 これらの道具は、魚介類を獲るミッションの報酬で得たレシピを使って作っている。


 食欲という後押しがあったからか、カニを食べるための道具類は今まで作った中で最も性能が良かったりする。


「……獲れたてだからか、こんなやり方でもうまいわ……」


〔・ん、よかった〕


 足をじっくり堪能し、ため息とともに感想を漏らす耕助。


 機材や調味料が十分にあれば、もっといい状態で美味しく食べることもできただろう。


 さらに言えば、うまいカニの定義からすれば、このベニズワイガニはかなり育ちすぎている。


 だが、この島に飛ばされる前からろくなものを食っていなかった耕助にとって、しっかりしたカニの味を感じられる時点で、十分すぎるほどのごちそうであった。


「……これ以上は、いろんな意味で無理だな……」


〔・カニだけで、味変もなしにその量食べるの、すごい〕


「腹減ってたしな」


〔・そういや、ラディッシュを食べてみたりしないの?〕


「素で忘れてたな、それ。つっても、今は入らないから、食べるのは夜にだな」


〔・ん〕


 ほじれるところを今の道具での限界までほじって身を食べつくし、満足そうにそんな話をする耕助。


 実のところ、口の中をリセットするという意味では、大根の辛い部分の味がするラディッシュはちょうどよかったのだが、そもそも意識してラディッシュを食べたことなどない耕助は当然そんなことは知らない。


「さて、腹も満ちたことだし、次は東屋だな。足りない材料はっと……」


 伝言板を覗き、足りない材料を確認する耕助。


 ついでに、念のためにほかのミッションについても確認しておく。


「……畑に関しては、晩飯の時にラディッシュ食って一つ、明後日にジャガイモを収穫してもう一つって感じか」


 ミッションの内容を確認し、一つうなずく耕助。


 カニと一緒にラディッシュを食べていれば一つは終わっていたのだが、どうせ午後からは東屋関連の作業に専念するのであまり関係ない。


「飯関係の緊急ミッションは……、カニ食ったから一個完了してるわ」


 獲った魚で腹を満たすというミッションが完了扱いになっているのを見て、素直に完了させておくことにする耕助。


 ミッション報酬は、釣り竿一本と関連レシピであった。


「さっき塩の時にもらったレシピにはなかったリールとかのレシピもあるあたり、しばらくは素直に食う分だけ釣れっていう圧を感じるな……」


〔・それはそう〕


 耕助のミッション確認を黙って見ていた立て札が、そんな風に茶々を入れてくる。


「晩飯のこともあるし、東屋作って時間あったら、軽く釣ってみるか」


〔・ん、そのほうがいい。

 ・毎回カニなのも、健康的とはいいがたい〕


「まあ、今は健康云々以前に、食えるものは何でも食わないと飢え死にするけどな」


〔・炭水化物は、最短で明後日。

 ・ジャガイモ収穫できるまで待つ必要が〕


「正直、あるだけましだと思ってる」


 そう言いながら、斧とハンマーを手にする耕助。


 畑仕事や籠罠づくり、調理器具で消費した分を穴埋めするため、木を三本と石を二つ分ほど回収してくる必要があるのだ。


 欲を言うなら、クラフト台や斧、ハンマーの予備を作るための材料も余分に欲しいところだが、クラフト台はともかく斧とハンマーはそれぞれ三つは予備を持っているので、今は気にしなくても大丈夫だろう。


「クラフト台はまだまだ壊れそうにないから、予備の材料は東屋を作ってからでいけるな」


〔・ん、それぐらいは余裕。

 ・斧とハンマーに問題がないなら

 ・今ある材料は全部東屋に回しても大丈夫〕


「だよな。じゃあ、今日のところは後の作業時間も考えて、調達するのは必要最低限だけにするか。ちょっと集めてくる」


〔・行ってら〕


 方針を決め、材料集めに行く耕助。


 さすがに三日も同じことをやっていれば慣れてくるもので、若干ではあるが各種作業が早く終わるようになっている。


 足りない分の材料集めは、十五分ほどで終わる。


「たぶん、これで足りるはず」


〔・おつ〕


「にしても、丸太五十本っていうと、結構な数だよな」


 資材置き場となっている一角を眺め、しみじみとそんな感想を口にする耕助。


 大小さまざまなうえに雑に積み上げられているとはいえ、丸太五十本はかなりの威圧感がある。


「というか、東屋作るのに、こんなに大量の材料がいるのか?」


〔・その疑問に関しては、ミッションを進めれば分かる〕


「そうか。じゃあ、とりあえず完了、っと」


 立て札に言われ、素直に材料集めのミッションを完了させる耕助。


 その直後に、頭の中にいろいろなレシピが思い浮かぶ。


「……なるほど。梯子に足場か……」


〔・逆の話、なしでどうやって作る?〕


「……だなあ……」


 立て札に突っ込まれ、思わず目をそらしながら同意する耕助。


 そこまで深くは考えていなかったのだ。


「ただ、これなら、足場の分は次から必要な材料に含まれないな」


〔・ん。

 ・ただ、足場の数が足りない場合

 ・当然後から作り足すことに〕


「東屋づくりに使った分を超える数の足場は、当分いらないだろうけどな。正直、そんなデカい建物を作るのは手に余る」


〔・というか、根本的に

 ・その規模の家は一人で建てるものじゃないと思う〕


「だよな。正直、今だと横になるスペースとテーブルとか置くスペース、あとはかまどを置くスペースを壁と屋根で囲えれば十分なはず」


〔・ん。大体1LDK十四畳ぐらい?〕


「収納もないし、そんなもんか?」


 立て札の提示した広さに、そんなもんかもとうなずく耕助。


 なお、レシピをもらった東屋の大きさが、大体それぐらいである。


「さて、レシピももらったし、まずは材料の加工だな」


〔・がんばれ~〕


 何はともあれ、材料とレシピがそろった以上、やることは一つ。


 資材の加工である。


「作らなきゃいけないものも多いから、今回は大仕事になるな」


 頭の中で加工手順を考えながら、そうつぶやく耕助。


 こうして耕助は、生まれて初めてとなる建物の建築作業に着手するのであった。








「まずは何を置いても柱と梁だな」


 山積みになった丸太を物色しながら、優先順位をそう決める耕助。


 家を作る予行演習という側面もあるため、実際に建物を作る際にどこをしっかりしておく必要があるかを考えているようだ。


「問題は、スキルの補助があっても、どれがいいかいまいち分からないことなんだが……」


 自分で集めてきた資材を前に、そんな非常に大問題となることをつぶやく耕助。


 困ったことに、現時点では加工手順と組み立て手順が分かるだけの素人と大差ない。


 当然のことながら、材料の良し悪しなんて見極める能力はないのである。


「よし、見た目に立派な感じのやつを使っていこう。見た感じどれも虫食いとかはなさそうだし」


 結局どれだけ見比べても太さと長さ以外の違いが分からなかったので、サクッと見てわかる違いだけで選ぶことにする耕助。


 何度も頑張って鑑定したが、標準品質の丸太としか出てこなかったので、いろいろあきらめたのだ。


 立派に見える丸太の中がひどい虫食いだったり枯れてスカスカだったりとかは割とよくあることなのだが、そもそもこの木材は八割がミッション報酬としてどこからともなく落ちてきたもので、残り二割が伐った翌日にリポップした木材だ。


 鑑定結果も標準品質ということなので、少なくとも虫害などに関しては気にする必要はないだろう。


「そういや、この島に来てから、虫とか鳥とか見かけないな」


 虫食いからそんなことを連想しつつ、とりあえず丸太を柱と梁に加工していく耕助。


 もともと途轍もなく不自然な島なので気にしてもしょうがないのだが、それでも春先ぐらいの暖かな気温で木も草も十分生えているのに、虫の類が一切いないのは気になる。


「というか、この気温で花も咲いてないのか……」


 なんとなく、花が咲いていないことにも気が付いてしまう耕助。


 いくらゲーム的な仕様が支配しているとはいえ、花も虫もないというのは不自然に過ぎる。


「……後で、立て札に確認しよう」


 深く考えると怖い結論ばかり出そうなため、いろいろ先送りにする耕助。


 どうせ考えたところで何も分からない。


「てか、一晩で実ったからか、ラディッシュも花とか見なかったな。いや、そもそもラディッシュの場合、芽が出るところすら見ないうちに収穫になったんだが」


 ゲーム仕様の罠ともいえる事実に、梁を作りながら遠い目をする耕助。


 ラディッシュは寝て起きたら実る仕様だったこともあり、ジャガイモと違って育つ過程を一切観察していない。


 鑑定などでも島ラディッシュだと明記しているところから、あのラディッシュが特殊なのは間違いないだろうが、普通の成長過程を経ずに実るというのは何とも不安をそそる話である。


「これ、何が怖いって牧畜とか養殖とかやり始めた時、子供がどうなるのかが分からないってのが怖いよな……」


 気が早い話だと分かりつつ、この島で暮らしていくのであれば将来手を出すであろう産業について考えてしまう耕助。


 普通に妊娠出産もしくは産卵を経て子供が育って増えていくのであればいいが、リポップの要領で単細胞生物が細胞分裂で増えるようなノリでポンポン増えられるのは、困りはしないが怖くはある。


「こりゃ、早いとこ東屋を建てて、そのあたり立て札に確認したほうがいいな」


 あまりにも怖い想像がどんどん湧いて出てくるに至り、そう結論を出す耕助。


 すぐに関係してくる話ではないが、正直怖くて仕方がない。


 とはいえ、たとえ簡単な東屋と言えど、建物は建物だ。


 ゲーム仕様に助けられたところで、ほぼ素人の耕助がそんなに早く建て終えることができるわけがない。


 なんだかんだで、足場も含む使うもの全ての加工が終わるまで、二時間以上かかってしまった。


「……やばいな。立て札に聞くこと云々以前に、早く終わらせないと日が暮れる」


 時計などないので正確な時間は分らないが、おそらくもう三時は過ぎているであろう時間に、焦りが募る耕助。


 建てる場所はよく考えろと言われたが、そこまでこだわる余裕はなさそうである。


「……よし。細かいことは考えずに、畑のすぐ隣ぐらいに建てよう」


 ざっと何もない草原を見渡し、サクッとそう決める耕助。


 そうと決まればまず、起点となる柱を立てることからである。


 なお、耕助の能力では不可能なので、測量なんて難しい作業は省略している。


 特に深く考える必要がない最初の一本を、焦りに任せた勢いで手早く打ち込んで立てる。


「柱と柱の間隔を間違うと悲惨だから、ここは慎重にやらないとな……」


 そう呟きながら、慎重に二本目を打ち込む耕助。


 いわゆる釘を使わない工法で作るため、微調整をするのもなかなか大変なのだ。


 特に間隔が広すぎた場合、新しく梁を作り直す必要が出てくるのでかなり悲惨である。


「……よし、これでいけるな。次は直角を見ながら……」


 梁を置いて慎重に位置を決め、三本目と四本目を打ち込む耕助。


 文章では省略気味に書いているが、実のところ微調整や確認を何度も繰り返しているため、ここまでですでに一時間以上経過している。


 むしろ、よく一時間強でここまで進んだというほうが正しいぐらい、耕助の作業はたどたどしい。


「よし、ここまで来たら、足場を組んで梁と屋根だな」


 そう言いながら、大急ぎで足場を組んでいく耕助。


 急がねば、そろそろいつ日が暮れてもおかしくない。


 今回は一番高いところで約三メートルとさほど背が高いわけではない建物なので、足場といってもそれほどの規模ではない。


 が、それでも不慣れな作業なので時間はかかってしまう。


 なんだかんだで、足場を組み終えて梁を取り付けたところで、日が落ち始める。


「ヤバいな。屋根の取り付けまで終わるか?」


 大急ぎで四角錐になっている屋根の骨組みに一枚ずつ屋根板を取り付けていく耕助。


 場合によっては、屋根の状態は明日になるなと思いながらも、必死になって一番下から順番に板を重ねていく。


 取り付けが一番上の四枚と天辺および各辺の目張り用のパーツだけ、というところで、無情にも完全に日が暮れてあたりが暗くなる。


「……暗いけど、取り付けだけなら何とかなるか」


 無謀にもそんなことを考えながら、急激に暗くなって見えづらくなった中、半ば手さぐりで屋根板を取り付けていく。


 あと少しだからと無理をするのは、恐らくブラック企業に長年勤めてきた社畜根性のなせる業であろう。


 暗くなった影響で作業効率が落ちたこともあり、耕助が最後のパーツを付け終えたのは一時間後のことであった。


「さて、これでミッションのクリア判定が出るか?」


 慎重に足場から降りながら、やり切った気持ちとちゃんとできているかの不安とが入り混じった表情でそう呟く耕助。


 すでに足元もろくに見えないほど暗くなっているので、早く戻って火を熾さないと困ったことになる。


 三日目にして社畜っぽい考え方でかなりの残業をしてしまった耕助は、暗い中を大急ぎで帰る羽目になるのであった。








〔・おか~〕


 拠点に戻り、火を熾し終えたところで、立て札が声(?)をかけてくる。


〔・大分遅くまで頑張った。

 ・ちょっと無理というか無茶しすぎだと思う〕


「もうちょいってところだったから、一気に終わらせた」


〔・なる。

 ・それで、ご飯の調達は?〕


「さすがに釣りは厳しいな。一応仕掛けなおした罠があるから、それ確認してみる」


〔・りょ〕


 立て札に問われ、個人的に妥当だと思う調達方法を告げる耕助。


 おそらく昼と同じような結果だろうとは思うが、もしかしたらもう少し調理しやすい小ガニがかかっているかもしれない。


 そんな淡い期待をもとに、たいまつを焚火に突っ込んで火をつけて、獲物を入れる桶をもって立ち上がる。


 そのまま歩くこと数分。昼に籠を仕掛けたポイントに到着する。


「暗いから、中の確認も慎重にやらないとな……」


〔・ん、もちろん〕


「やっぱ来たのか」


〔・こういうのは、間近で見るのが面白い〕


 ポイントに到着すると同時に生えてきた立て札と雑談しながら、慎重に籠を引き上げる耕助。


 最初の籠は、開けるまでもなく正体が判明していた。


「こんだけ暴れてるってことは、ウツボだな」


〔・多分そう〕


「リリース、リリースっと」


 そう言いながら、海に向かって籠の中身を放り出す耕助。


 実は中に入っていたのはウツボではなくアナゴだったのだが、どちらにしても耕助の手に負える食材ではないので同じことである。


「次は……、なんで貝が入ってるんだ?」


〔・貝だって泳ぐ〕


「いや、そりゃそうなんだが。こいつらどう見ても岸壁に張り付く系の連中じゃないか?」


〔・基本的に狭いところに入る習性があるのを引っかけるっていっても

 ・それしかかからないわけじゃない。

 ・三割ぐらいの確率で、この種の罠じゃかからないのがかかる〕


「そうか。……これ、塩コショウでいいのか?」


〔・他にない〕


「だよなあ……」


 サザエやアワビに似た貝をごりっという音を立てて籠から引っぺがしながら、そんな話をする耕助と立て札。


 正直なところ、この種の貝は醤油かバター、せめてレモンが欲しいところだが、ようやく塩を自力調達できるようになったばかりだ。


 そんな贅沢は到底言える状況ではない。


 むしろ、塩コショウがあるだけマシである。


「最後の籠は……、これはサンマか?」


〔・ん〕


「なんでだってのは言うだけ無駄だとして、この海で獲れるんだな……」


〔・似たような魚は大体いる。

 ・ちなみに、サンマの寿命は二年ほど。

 ・おいしい時期が限られてるだけで

 ・いないわけじゃないから一年中獲れることは獲れる〕


「そういうもんか?」


〔・そういうもの。

 ・禁漁期って基本的に水産資源の保護と管理が目当てだけど

 ・それとは別に美味しく育つまで待つためっていうのもある。

 ・実際、全部が一年二年で死ぬわけじゃないから

 ・その気になれば獲るだけなら大体の魚は一年中獲れる〕


 漁業に関する豆知識を、そんな風に語る立て札。


 その言葉にそんなもんかと思いつつ、なんでそんなことを知っているのか不思議に思ってしまう耕助。


「……とりあえず、サンマなら塩焼きでいいから簡単だな」


〔・ん〕


「にしても、なんで禁漁期のこととかまで知ってるんだ?」


〔・親が日本とは、いろいろ縁があるから。

 ・といっても、耕助がいた日本とは違うだろうけど

 ・多分、漁業関係のルールとかは変わらないはず〕


「そうか」


 立て札の言葉にうなずきながら、もう一度籠罠を仕掛ける耕助。


 ぽちゃんと音がしたのを確認後、背を向けて拠点に戻る。


「そういや、作業中に気が付いたんだが、この島って虫も花もないよな」


 夕食の貝とサンマを下ごしらえし、火にかけたところで立て札にそう話を振る耕助。


 ちょうどいい時間だからと、気になったことを聞いておくことにしたのだ。


〔・それは単純に

 ・環境の安定化とシステム調整の問題。

 ・まだそのあたりをちゃんと生態系に組み込んで

 ・うまく働く状態になってない〕


「そうなのか?」


〔・ん。

 ・これは耕助の相手をしているうちに気が付いたんだけど

 ・耕助ががんばると、システムが安定しやすい感じ。

 ・だから、耕助の生活環境とか状況に応じて

 ・少しずつシステムを拡張していくことになる。

 ・差し当たってまずは、天候周りからになると思う〕


「ああ、雨が一向に降らないのは、そういう理由もあったのか」


〔・ん。

 ・いちばんは、今の状況で天気がころころ変わると

 ・耕助があっという間に詰むからだけど

 ・システムがどうにも不安定だからっていうのも大きい〕


「そうか。まあ、俺としては助かるからいいんだけど、本来なら天気の変動で長期的に環境を安定させるんだろ?」


〔・ん。でも、耕助が来る前から

 ・天候システムを入れると

 ・破滅的なレベルで不安定になる〕


「……世界の管理って、大変なんだな……」


〔・それはそう。

 ・生態系一つとっても、とてつもなく複雑。

 ・気候変動とか、ちょっとのパラメーターの変化で

 ・恐ろしいほど環境が変わる〕


「……無責任な一人類でよかったわ」


〔・創造神なんて

 ・案外いいことない〕


 なぜか、神様の裏事情っぽいものを聞かされることになり、正直な感想を口にする耕助。


 そんな耕助の感想に対し、しみじみと思うところを告げる立て札。


 なんとなく、耕助のバラエティ番組的四苦八苦を楽しみにしている背景が漏れ出ている感じである。


〔・それはそうと

 ・耕助が社畜精神を発揮した結果

 ・無事に東屋を作るミッションと

 ・マンスリーミッションが完了してる〕


「おっ、ちゃんと終わったか」


〔・なので

 ・サンマが焼ける前にとっとと完了操作をする〕


「おう」


 立て札にせかされ、伝言板の前に移動する耕助。


 まずは長期ミッションの東屋を作ろうというミッションを完了させる。


「……なるほど。次は普通の掘立小屋のレシピか」


〔・実質、東屋に壁と扉が付いただけだけど


 ・ずっと野宿よりはかなりマシなはず〕


「そりゃまあ、そうだわな」


〔・で、次のミッションが重要。

 ・次のミッションで、待望のインベントリ的なのが〕


「おお!? ようやく遠くからでも資材を集めてきやすくなるのか!?」


〔・多分恐らくメイビー〕


「なんだよ、曖昧だな」


〔・何しろ、インベントリスキルに関しては

 ・耕助の初期容量が分からない。

 ・アイテムバッグも、現状でどの程度の容量が作れるか

 ・能力が低すぎて逆に予想がつかない〕


「……そういうことか……」


〔・そういうこと〕


 立て札に厳しい現実を突きつけられ、思わずうなだれてしまう耕助。


 能力が低いということに関しては、残念ながら否定の余地はない。


〔・まあ、耕助の能力が低いのもしょうがない。

 ・ぶっちゃけ、ネトゲの初期スペックが雑魚なのと同じ。

 ・オリンピック選手とかそのクラスでもない限り

 ・この環境で日本人の身体能力なんて誤差の範囲。

 ・技能関連にしても、宮大工か木工工芸でもやってない限り

 ・役に立つものなんて普通持ってない〕


「改めて考えてみると、十年以上の会社生活で、何も役に立つことを身に着けてないんだな……」


〔・そもそも

 ・サバイバル環境で役に立つことを覚える仕事とか

 ・それはそれでヤバいと思う〕


「……そうかもな」


 己の無能さにへこみかけた耕助に対し、慰めるでもなくそんな事実を告げる立て札。


 実際、この環境で役に立つスキルを身に着ける仕事なんて、漁師か猟師、もしくは軍人とかゲリラの類になってくるだろう。


 そんな前歴を持つ三十五歳は、少なくとも現代日本においては漁師以外少数派になるに違いない。


〔・そのあたりはとりあえず置いておく。

 ・ここまでは最初から報酬内容が決まってるミッション。

 ・次は内容がランダムなマンスリーミッション〕


「確か、レシピ一品だったよな?」


〔・だったはず。

 ・ちなみに、マンスリーだけあって

 ・報酬はレジェンダリーまで出る〕


「あんまりレアリティ高すぎても、作れなくて役に立たなさそうだよな」


〔・実際、すぐには役に立たないとは思う〕


「まあ、完了してみるわ。……やっぱ、いらんフラグが立ってるなあ……」


〔・お約束すぎる。

 ・で、何が出たの?〕


「超時空要塞のレシピ全集だとさ。材料からそれ作るための設備、動力炉から何から何まで、全部レシピに入ってる」


〔・何その神引き〕


「問題は、鋼鉄から下のレシピはないんだよな、これ。だから、超金属の溶鉱炉作るためのレンガを作る耐熱レンガとか、生産ラインに使う鉄とかはどっかでレシピ確保しないと……」


〔・ああ、なるほど。

 ・そのあたりは、そのうち報酬で出てくる〕


「後、必要な資源の採掘が、この島でできるかどうかが分からん」


〔・アプデの結果を祈って〕


「そっちにも分からないのか……」


〔・ある程度ランダムにしないと

 ・安定性が……〕


「なるほど……」


 とんでも過ぎて全く役に立ちそうにないレシピに、二人して遠い目をする耕助と立て札。


 なお、超時空要塞という名がついているが、主砲を撃つために人型に変形したり移民船団を率いて長距離ワープ的な移動をしたりするわけではない。


 単に複数の時空間に同時に存在し、干渉できる仕様の要塞だというだけである。


「まずは、洗濯機とか動かせるように、サブ動力を起動するための動力炉を目指す感じか……」


〔・それが妥当かも〕


「……まあ、そんな未来のことは今は忘れて、いい感じに焼けたサンマを食うか」


〔・ん。

 ・付け合わせにラディッシュも。

 ・ぶっちゃけ大根的な存在だし〕


「サンマには大根おろしってか。……なんだこの微妙な辛さ。ぶっちゃけまずいな……」


〔・そもそも島ラディッシュに何を期待してるの?〕


「そう言われりゃそうなんだが……」


〔・がんばって品種改良〕


「できるといいんだが……。まあ、サンマで口直しするか。……うん、うまい」


 未来への展望があるだけまし。


 そんなことを考えながら、ラディッシュの味に悶えつつ脂がのった上質なサンマの塩焼きを堪能する耕助であった。

所詮クソ胡散臭い仕様が支配している謎の無人島なので、岸壁近くの籠罠で回遊魚をはじめとした獲れるわけがないものが獲れても気にしないでください。


なお、耕助がゲットした超時空要塞のレシピですが、神の城のSF版みたいなものだと思ってください。

現状の耕助だと、仮に全部のレシピと素材をゲットしたところで、生きているうちに完成させることはできません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 種を採ることが目的でない限り、二十日大根(ラディッシュ)は花が咲く前というよりつぼみが出る前に収穫してしまうから花を見ることは無いでしょう。花が咲いたら肝心の根は養分を失って味が落ちてしまい…
[一言] やはり澪の娘?でも、伝言板の母親は澪以外のメンバーだよなー。いや、澪も成長してるはず・・・。
[一言] 連続更新、お疲れ様です。 カニは美味しいですけど、結構癖があるので、大量に食べるのきついですよね。 口を洗える食材があればよいのですが。 虫が居ないのは喜ぶべきことかと。 かなり洒落にな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ