第4話 生活環境を整えよう その3 畑を作ろう
「……よし、口直しして切り替えていこう」
鮒ずし味のポテチによる味覚と精神に対するダメージからどうにか立ち直り、げんなりした顔のままそう宣言する耕助。
口直しだからと、昼食はチョコレート味の完全栄養食バーを食べることにする。
「……濃いけど無難な味がほっとするわ……」
〔・そこまで……〕
「酒のつまみなら普通にあり、って味だったんだけどなあ……」
〔・お酒のおつまみって
・割と普通においしいものが多かった気がするけど?〕
「珍味とか言われる類のは、そうでもないぞ」
〔・そうなの?〕
「ああ。そういうのは食ったことないのか?」
〔・ん。食べたことあるのは、普通におかずにもなる類だけ。
・そもそも、お酒は特殊なものしか飲んだことない。
・神としては未成年もいいところだから
・神力の元になるお酒以外は飲ませてもらえない〕
「へえ、そういうもんか」
〔・ん。
・別に飲んでどうなるってこともないけど
・我が家の特殊ルール〕
「ほほう?」
立て札が口にした家庭事情に、思いっきり好奇心を刺激されて食いつく耕助。
どうも、立て札の食生活は、思っているより日本にいたころの耕助に近いようだ。
〔・耕助は、そういうおつまみよく食べてたの?〕
「よく、ではないな。先代の社長が飲みにつれて行ってくれた時に、お通しとかで食べることがあった程度。嫌いではなかったけど、わざわざ自腹で食おうとは思わなかったな」
〔・そっか〕
「今にして思えば、あの時にもっと社長に甘えとけばよかった」
〔・そういう方面で図々しいことをするには
・耕助は肝が小さすぎる〕
「まあ、そうだけどさ」
立て札に聞かれ、正直な気持ちを口にする耕助。
そもそも、そんなに酒を飲むほうでもなかったこともあり、酒のつまみにしかならないような珍味は興味の範囲外だったのだ。
「そういや、そっちの普段の食事ってどんな感じなんだ?」
〔・質的なものを横に置けば
・耕助が日本で食べてたものと
・メニュー的には大差ない〕
「そうなのか?」
〔・ん。
・まあ、そもそもの話
・別に飲まず食わずでも特に影響はないから
・一部のものをのぞいて、食事は単なる娯楽でしかない〕
「そういうところは、超越的存在っぽいな」
〔・逆に言うと
・案外ボク達と人間って変わらない部分が多い〕
「そういうもんか?」
〔・ん、そういうもの〕
耕助の疑問に、そんな答えを返す立て札。
特に多神教の場合に顕著だが、何気にどこの神話でも、神様の基本的なメンタリティややっていることは人間とあまり変わらなかったりする。
もっとも、大差ないメンタリティでうっかりみたいな形で大災害を起こしたり、生き物に大きな被害をだしてテヘペロで済ませたりするのも、神々というものではあるが。
〔・とりあえず、一応もう一度宣言。
・耕助のことを飽きたからって理由で放り出したりはしないけど
・度を越した侮辱や暴言をぶつけられてまで面倒を見る理由もない。
・根本的な話、この無人島の管理自体、本来はボクの管轄じゃない。
・変な事故でボクの担当する世界と変な形で融合したから、仕方なく管理してる。
・耕助にしても、ボクとは全く関係ない事故でここにきてる。
・だから、実際のところ、面倒を見る義理も義務も責任もない。
・なので、あまり萎縮する必要はないにせよ
・ネタで済まない範囲の発言はしないように注意すること。
・神様って基本的に鷹揚だけど
・割とうかつに機嫌損ねて見捨てたり祟ったりする〕
「分かってるよ」
〔・理解してるとは思うけど、念のため。
・こうやって明文化しておくと
・言った言わないだの察しろだののトラブルはつぶせる〕
「そっか。ってことは、時々ネタにしてる、異世界転移もしくは異世界転生で俺ツエー的なのは……」
〔・基本は暇を持て余した神々の遊び。
・そもそも、別に神様がミスって一個人を殺したところで
・やっちゃった、で終わるのが普通。
・言い方が悪いけど、運転してて虫とかカエルとか轢いても
・運転手はその命に責任を、とはならないのと同じ〕
「やっぱ、そういう感じか」
〔・ん。時々、死なせちゃいけないタイミングで
・死なせちゃいけない個体を死なせてしまうこともあるけど
・その事例はどっちかっていうと
・死なせた個体じゃなくて残った世界のフォローに必死になる案件〕
「死なせちゃいけないってことは、死ぬと世界全体にとって放置できない不都合がでるってわけか」
〔・ん、そういうこと。
・だから、一部例外はあれど、お詫び転生って
・その神の趣味みたいなもの。
・たまに、ミスの帳尻合わせで神様転生的なことをやる神もいるけど
・大抵は何の帳尻もあってない〕
「辛辣だな……」
〔・そもそも、一個人の人生を補填して
・なんの帳尻が合うのかっていう話。
・それで帳尻が合うシステムって
・どこにどんなバグが潜んでるか分からなくて怖い〕
「そうかもしれないけど、いろんなところを敵に回しそうな発言だぞ、それ」
〔・覚悟の上〕
「あと、こういうこと言うと見捨てられそうだけど、正直な感想言っていいか?」
〔・ん。正直に気を悪くするかもと言った耕助に免じて
・今回は相当な暴言でも許す〕
「じゃあ、お言葉に甘えて。なんつうか、ここまでの言い分が、正論なんだけど邪神とかが言いそうなことだな、って……」
〔・今の好感度や親密度だと本来はアウトだけど
・思ってすぐに言わずに許可をとったからセーフ〕
「やっぱ、邪神ってワードはアウトか?」
〔・まだアウト。
・さっきも言ったように、そこまで親密になったつもりはない。
・デブとか禿とか面と向かって言い合えるぐらいの仲でないと
・普通に破綻する単語〕
「まあ、お前は邪悪だって言ってるんだから、普通に考えて侮辱以外の何物でもないわな……」
〔・ん。ボクが善良だとは言わない。
・でも、邪神と言われるほど邪悪なことはしてない〕
立て札の主張に、まあそうだなと納得するしかない耕助。
立て札がやっていることは言ってしまえば、難破船から漂着した生存者を面倒を見る代わりに働かせているのと変わらない。
その方向性が極端に体を張る系のバラエティー番組方向に偏っているだけで、仕事だと考えれば納得できなくもない。
生産性や得手不得手の問題で仕事内容を変えてもらうよう交渉するならともかく、働かされること自体や妥当な範囲の待遇に文句を言えば、着の身着のままで追い出されても何一つおかしくない。
もっとも、ここであっさり納得してしまうから、社畜としてこき使われてしまったのだが。
〔・ただまあ
・創造神とか最上位の神自体は関与してないけど
・その部下がやらかしたのを隠蔽したり
・後始末的なことでお詫び転生やそれに類することを
・勝手にやってるケースは見ないでもない。
・ちなみに、大部分はどっかで破綻してるけど
・大体の場合、やった当事者たちはそのころにはやったことを忘れてる〕
「聞きたくない事実だな、それ……」
〔・比較的しっかりした理由だと
・輪廻転生のシステムを改修したとかのケースで
・うまく機能しているか確認のために
・不遇な人生を歩んでたり
・誰かがやらかして人生がおかしくなったりした人を
・テストケースとして異世界転生とか逆行転生とかさせて見守ることはある〕
「やっぱ、そういうシステムも改修とかあるんだ」
〔・それはそう。
・どんなものでも、使っていけばどこかに不具合が出てくる。
・特に新規に立ち上がったばかりの世界なんて
・不具合の塊だから
・ちょくちょく修正とか改修とかしてる〕
「世界そのもののシステムとか、あんまりコロコロ変えないでほしいところだけどなあ……」
〔・やらないと破綻するから無理〕
「だろうな」
耕助の苦情を、ばっさり切り捨てる立て札。
しなければ致命的な問題が出るから、運用中のシステムを運用しながら修正や改修をしているのだ。
〔・ほかの例外的な事情としては
・ちゃんとお詫び転生的なことをしないと
・致命的なウィルスになるパターン。
・ただし、これはめったにない〕
「あることはあるんだな」
〔・それはそう。
・まあ、その手の話は横に置いとく。
・ぶっちゃけ、耕助には関係ない〕
「まあ、そうだな」
〔・昼からは東屋づくりだけど
・建てる場所は気を付ける〕
「というと?」
〔・さすがに簡単に移設とかできないから
・この場所で大丈夫なのかはちゃんと考えないとだめ〕
「そりゃそうなんだけど、俺は素人だからな。ここでいいかなんて、どう判断すればいいのか分からないぞ?」
〔・ん。まあ、東屋に関しては
・単なる休憩所でしかないから
・そこまで深く考えなくてもいい。
・ただ、このあとやる本命のちゃんとした家は
・立地を考えないと後で不便な目に遭う〕
「……だろうとは思うけど、そもそも島だってこと以外、地形も分かってないからなあ。家を建てるタイミングになったら、一度外周だけでも回ってみないとだめだよなあ……」
〔・ん。でもまあ
・その時になったら伝言板がクエを出す。
・今は今後の畑仕事や採取作業を考えて
・どこに東屋があるとありがたいかを考える〕
「了解。アドバイス助かる」
〔・あと、東屋づくりのクエで指定されてる材料は多い。
・朝ならともかく、いまだと伐採しに行くのも遠い〕
「そうなんだよな……」
〔・だから、先に畑を作って鍬を使いつぶして
・ウィークリーミッションの道具更新を先に終わらせる。
・ミッション報酬でもらえる素材もカウントされるから
・一気に楽になるはず〕
「そういう仕様か、助かる。自力で採取した回数で言われると、今日中には絶対終わらないからなあ……」
〔・ん。ただし、注意事項として
・当然のことながら、使った分は採取した数から減る。
・ご利用は、計画的に〕
「で、道具の更新って、使いつぶした数か? それとも、単に作った数か?」
〔・今回は作った数と壊した数の合計。
・よく見ると分かるけど、すでにある程度カウントが入ってる〕
「あ、本当だ」
〔・ウィークリーに限り今回はサービスで
・今日の作業分がカウントされてる。
・来週分からはこんなサービスないから、注意のこと〕
「デイリーのほうではカウントされてなかったから、ちゃんと見てなかったわ」
〔・だろうと思った〕
うかつな耕助の反応に、呆れをにじませながらそう言う立て札。
デイリーが0からカウントだったから、ウィークリーのほうもそうだろうという先入観があるのは分かる。
が、そのあたりの確認をおろそかにしがちなのも、耕助が妙に不幸な原因なのではないかと思わずにはいられない。
〔・とりあえず、まずは指定された広さを耕す。
・話はそれから〕
「分かった」
立て札に言われ、最初に支給されたボロボロの鍬を手に立ち上がる耕助。
こうして、生活環境を整えるための開拓作業が、本格的にスタートするのであった。
「今後の畑の拡張性も考えると、このあたりから耕せばいいか?」
井戸の位置と海岸までの距離などを考え、とりあえずクラフト台から五メートルほど内陸側へ離れた場所をスタート地点に選ぶ耕助。
今まで草を刈っていたのが、ちょうどそのあたりである。
「で、森のほうに向かって耕していけばいいな」
周囲をぐるりと見渡し、耕す方向を決める。
土地の利用効率などを考えるなら、おおざっぱにでも測量してからやるべきなのだろう。
が、どうせ正確な測量などできるわけもないし、一番近い海岸線からして結構複雑に入り組んでいる。
さらに言えば、どうにも島のゲーム的な補正もそこまでしっかりかかっているわけでもなさそうなので、そもそもまっすぐ耕すこと自体難しそうな気配がある。
恐らくあとから場所の変更なんてできはしなかろうから、今回は畑づくりの訓練と実験と割り切ることにする。
「……かった!?」
鍬を振り下ろしてすぐに、地面の硬さに思わずうめく耕助。
道具が悪いのかそれともシンプルに地面が硬いのか、一回鍬を叩き込んだぐらいでは耕せない。
「どれぐらいで1カウントになるか分かんないけど、それまでこの鍬もつのか?」
意外と一撃で持っていかれた耐久ゲージを見て、この島に来て何度目になるか分からない渋い表情を浮かべる耕助。
作り直すだけの資材は十分あるとはいえ、なかなかやばそうな状況だ。
「……まあ、いい。とにかく耕そう」
心配するだけ無駄だと腹をくくり、何度も鍬を振り下ろす耕助。
斧やハンマーの時と違い、今回は作り直すための資材も資材を回収しに行くための道具も十分にある。
ある程度掘り返して土が柔らかくなったところで、ぼろい鍬が砕け散る。
「……これぐらいで行けたのか? 伝言板で進捗状況を見れば、畑カウントされたかどうかは分かるとして、いちいちそれで確認しなきゃならないのも面倒だよな……」
中途半端に耕され、掘り返された地面を見て、どうやって確認しようか考えこむ耕助。
どうせ鍬を作らないとだめなので、ついでに伝言板を見に行くのはいい。
が、今回はともかく、毎回それをやるのは面倒だ。
一か所耕したら一本壊れるとかならまだしも、今まで通りなら次回以降はもう少し鍬も長持ちするだろう。
なので、どうにか確認する方法を見つけておきたい。
「……そういや、鑑定で畑の状態とか確認できないか?」
いろいろ考えているうちに、ふと耕助の頭をそんなアイデアがよぎる。
どうにも鑑定結果が微妙というか大したことが分からず、それどころかさっき生えている草を刈らずに鑑定しようとしたら”地面”と表示されるぐらいの頼りなさなので、こういう時の選択肢にいまいち上がりづらいスキルではある。
が、今回の場合、畑か地面かだけ分かれば十分なので、結果が微妙な内容でも全然問題ない。
「そうと決まれば、さっそく鑑定」
思い付きを試すために耕したところを鑑定すると、普通に”地面”という鑑定結果が出る。
「ということは、これぐらいだと畑とは認識されないわけだな。まあ、そもそも畑を鑑定しても、”地面”と出る可能性もあるんだが」
結果をもとに、そう分析する耕助。
鑑定の頼りなさと信用のできなさを踏まえても、おそらくまだ畑とカウントされるレベルまでは至っていないと考えてよさそうだ。
「後は、伝言板で答え合わせだな」
ここで考察を重ねても無駄なので、鍬を作るついでに伝言板を確認しに行く。
伝言板のカウントは、予想通り0のままだった。
「やっぱ、あの程度じゃ畑認定されないか。ぶっちゃけ、スコップで浅く掘り返しただけと大差ないからなあ……」
そうぼやきつつ、鍬を作り直す耕助。
畑の土というのがどれぐらい深くまで耕さねばならないのか、まったく知識はない。
なので、先ほど耕した地面が畑認定されないのはなんとなく予想がついてはいたが、ではどれぐらいの深さと広さなら畑認定されるのかというと全く分からない。
恐らくこの程度の作業で農業とかその手のスキルが生えてくることはなかろうから、しばらくは手探りでやるしかない。
そもそも、今やっているミッションの報酬が種と農業スキルなので、作業によって習得するより先にミッション報酬で習得するだろう。
「手探りでやるしかないのはいいとして、鑑定で地面と畑の区別がつくかどうかがはっきりしないのが厄介だな……」
作り直した鍬を手に、先ほど少しだけ耕した場所に戻りながらぼやく耕助。
最終的にスキルが生えてなんとなく分かるようになるのだろうが、それまでの間の確認手段は何か欲しいところである。
「一応ちょくちょく鑑定しながらやってみるか。……というか、鑑定しながら作業できないか?」
ふと思いついたので、鑑定を意識しながら先ほどの続きを開始する耕助。
やってみた結果、鑑定そのものを継続的に発動しながらほかの作業をすること自体は問題なくできた。
ただし、同時に二つのことを考えることになるためとてつもなく疲れるという欠点と、鍬が視界の中心に入るたびに”石の鍬:ものすごく雑なつくりの石の鍬。以下略”という鑑定結果がちらつくという問題が発覚したのだが。
「……これ、ものすごくきついな……」
肉体的にではなく集中力の面で非常に疲れることを思い知らされながらも、きついのは今だけと念じながらひたすら地面を耕す耕助。
おかげで、鍬を振るたびに揺れる股間の逸物は、早々に気にならなくなっている。
大体耕助の肩幅ぐらいの広さとくるぶしぐらいまでの深さを一メートルほど耕したところで、鑑定結果が”地面”から”何も植えていない畑”に変わる。
「……一応、ちゃんと畑は畑と鑑定できるのか」
気になっていた問題の答えも出たため、思わずほっとする耕助。
使っている石の鍬がそろそろ壊れそうなので、もう少し耕して使いつぶすことにする。
「……よし、ミッションは達成になってるな」
〔・おつ〕
石の鍬を粉砕し、伝言板を確認した耕助は、ちゃんと予想通りの結果になっていたことに思わずガッツポーズをとる。
「これで、いちいち鑑定しながらやらなくても、畑が分かるようになったわけか」
〔・ん、そうなる。
・ただし、この島のゲーム的システムの影響で
・収穫したら直後に耕す前の地面に戻る。
・逆に、耕したまま放置しておいた場合
・三日ぐらいでランダムに何か生えるか地面に戻る〕
「猶予は三日か。種の準備とかちゃんと考えてやらにゃだめってことだな」
〔・ん。
・ただし、ランダムで生えるのは
・ある種の救済措置という面もある〕
「……ああ。栽培ミスって種がなくなった場合とか、そうやって回収するわけか」
〔・そういうこと。
・ランダムではあるけど、耕助の農業スキルが高ければ
・作物が生える確率は上がる。
・今だと大体25%ぐらい〕
「意外と高いな」
〔・救済措置だからというのもあるけど
・耕されてる時点で草が生えやすい土壌になってるというのもある。
・ちなみに、地面に戻る確率が25%、雑草が生える確率が50%。
・あと、現状で耕助が入手できない作物が生えることも〕
「こんなところにもガチャ要素か……」
〔・ほかのガチャに比べると、内容的にはかなり美味しい。
・耕助のスキルが育てばいいものが生える可能性が上がるし
・そもそも、外れでも作業が無に帰るだけ。
・ごみとしか言えないものは出てこない〕
「それもそうだな。作業が無に帰るのは虚無感が半端なさそうだが、それでも農業の熟練度にはなるだろうし」
〔・もちろん、熟練度は入る。
・耕す作業一回ごとに、微々たるものだけど熟練度加算。
・その後どうなろうと、加算された熟練度はなくならない〕
「でなきゃ、さすがにやってられないな……」
〔・熟練度の伸びとかは渋いけど
・そういう種類の不公平はないから安心する。
・やったらやっただけ、ちゃんと自分に返ってくる〕
立て札の説明に、無駄にならないなら助かると一瞬ほっとしかける耕助。
が、これまでの経緯や先ほどの雑談の時の立て札の言葉から、今の表現の裏を察してしまう。
「やったらやっただけ返ってくるってことは、さぼれば当然のごとく自分の首絞めるし、悪いことすれば悪い結果が返ってくるってことだよな……」
〔・ん、当然〕
耕助が思い至った事実に、よくできましたとばかりにそう告げる立て札。
そもそも現状でできる悪いことなどせいぜい立て札を蹴飛ばすぐらいだが、それでもダメなことはダメだと認識しておかないとひどい目にあいそうだ。
何しろ、立て札の言葉ではないが、神は簡単かつ迂闊に見限ったり祟ったりする。
「……まあ、世間一般で悪いとされてることに手を出さなきゃいいだろうから、そこは気を付けるとして、だ。とりあえずとっとと完了操作して報酬もらわないとな」
〔・ん。
・ちなみに、渡す種はラディッシュ。
・これは意地悪でもなんでもなくて
・耕助に一通り農作業の流れを身に着けさせるためのもの。
・次のステップでもらえる無人島ジャガイモは収穫に三日かかるし
・麦とか米とかはもっと習熟してからでないと無理〕
「ちょっと待て、いくらゲーム的な物理法則というか自然法則が支配してるからって、ジャガイモ三日はないだろう?」
〔・あくまでも無人島ジャガイモだから。
・ちなみに、ラディッシュは今日植えれば明日収穫できるけど
・これも無人島仕様のラディッシュだから〕
「そりゃそうだろうな……。まあ、無人島仕様だろうが何だろうが、その位の間隔で収穫できなきゃ飢え死にするから、ありがたいと思うしかないな」
〔・ん。
・ちなみに、普通のジャガイモもちょっと成長が早くて
・栽培から収穫まで大体二か月〕
「それが早いのかどうか、よく分からないんだが……」
〔・大体三か月半~四か月半かかると思って〕
「なるほど、三割から半分ぐらい短いわけか」
〔・ん。後、この島だと
・イモ類は通年で栽培できる〕
「イモを作り続けている限りは、カロリー的には飢え死にしないってことか」
〔・そうなる。
・各種ビタミンは、ニンジンとか大根とかで
・うまく摂取して〕
「了解。じゃあ、次やってくるわ。この種を植えて、水をやればいいんだな?」
〔・ん。
・じょうろだけは一回の水やりで壊れる程度の耐久値しかないから
・水やりが終わったら作るのを忘れないように〕
「分かってるって」
立て札の指摘に真面目な顔でうなずくと、完了操作を済ませて種を受け取る耕助。
これで、農作業についてずぶの素人よりはましになったはずである。
「さて、次の作業だな。つっても、この種を畑に埋めて水をやるだけなんだけど」
〔・ありとあらゆる作物の植え付けは
・究極的には畑耕して種もしくは苗を埋めるだけ〕
「いやまあ、そうなんだが」
〔・むしろ、そういうシンプルな作業のほうが
・技量とかノウハウを要求される〕
「そういうものか?」
〔・そういうもの。
・ちょっとした違いで、びっくりするほど差が出る。
・そこを適切にできるかどうかが技量でノウハウ〕
「……いきなり難しく感じてきたぞ」
〔・だから、島ラディッシュ。
・それはおおよそ失敗しないほど簡単な作物。
・島でしか育たない代わりに
・素人が雑に植えて適当に水をやっても
・次の日には最低一つは収穫できる〕
「……それはそれで、経験とかにはならないんじゃないか?」
〔・やり方によって、当然違いは出る。
・主に収穫量と味。
・大きさとかにも影響は出る。
・毎日採れるから、しばらくは試行錯誤すべし〕
「了解。頑張ってみるわ」
〔・がんばれ~〕
立て札に雑に応援されながら、大事に種を持って畑へ向かう耕助。
「この広さだと、種はこれぐらいの量で間隔もこんなもんだとして……」
畑と呼ぶのもおこがましい広さの耕された土地に、慎重な手つきで畝を作って種を落としていく耕助。
その後、ぼろいスコップで土をかぶせ、汲んでおいた水をかける。
畑全体が十分水を吸って湿ったところで、手元のじょうろがぼふんという音を立てて消滅する。
「……まだ種はあるから、もうちょい畑広げて植えとくか。まだウィークリーも終わってないし、さすがに畑がこれだけしかないのはさみしすぎる」
種を植え終えて畑を眺め、残り時間の使い道を決める耕助。
じょうろを作るついでに、ミッションを完了して報酬を受け取ることも忘れない。
「……ジャガイモは、種からじゃなくて種芋からなんだな」
ミッション報酬でもらった種芋を見て、そんな感想をつぶやく耕助。
とはいえ、もらった以上植えないという選択肢はない。
「今日は最低でも、この種イモ全部植えて水やりを終わらせるところまでやらないとな。ただ、この種芋、切らずに丸ごとで渡されてるから、どれぐらいのサイズに切るかが最大の問題なんだが……」
もらった種芋を手に、畑の段取りについて考えこむ耕助。
種芋を植えることで畑のミッションが進むので、植えないという選択肢はない。
「……そうだな。どうせ植えるものがなくても、75%の確率で雑草か作物が自然に生えるんだから、ウィークリーをこなせるまで耕せばいいか」
悩んだところで作業は進まないので、畑関係のミッションとウィークリーミッションの同時攻略を目指すことにする耕助。
社畜根性が染みついていることもあり、こういう作業はやっているうちに没頭してしまうもので……
「げっ、もう日が落ちるぞ……」
結局この日は、畑関係のミッションをこなしているうちに日が落ちてしまうのであった。
作者の制御を振り切って、危険球を投げまくる立て札が怖すぎる。
立て札の異世界転移転生系についての発言は、あくまでも作者が書いてる作品群での設定です。
他の作者の設定について否定する気はありません。
単に、神話とか見る限り多神教の神様だと、多分こういう価値観だろうなあというのを反映してるだけです。