第3話 生活環境を整えよう その2 伝言板を作ろう
〔・朝~、朝だよ~〕
「どわっ!?」
翌朝。妙な振動音と圧迫感で目が覚めた耕助は、起き抜けに視界に飛び込んできた立て札のドアップに驚いて飛び起きる。
はたから見れば股間に葉っぱ一枚で寝ている変態が、いきなり生えてきた立て札に襲われているというとてもカオスな絵面である。
「な、なんなんだ、いったい……」
〔・古の起床の儀式。
・ちなみに原典をパロった作品だと
・ネ右一覚醒させて学校行くよ~、と続く。
・なお、ネ右一と書いてゆういちと読むらしい〕
「なんで原典じゃなくてパロったほうを出してくるんだよ……」
〔・ダイレクトにネタにして大丈夫か不安だったから、
・とりあえずちょっとだけ逃げてみた〕
「何がどう不安なのかは分からないが、ネタをやめるって選択肢がないのだけは分った」
〔・ん。ネタをあきらめるなんて
・存在意義にかかわってくる〕
「そこまでか……」
朝っぱらからネタに全力投球な立て札に、ドン引きしながらかろうじてそう返す耕助。
「というか、その立て札、動けるんだな」
〔・ん、当然。
・ただ、それなりに面倒だから
・動かすのは必要な時だけ〕
「朝からいらんネタぶっこむのは、必要なことなのか?」
〔・もちろん〕
「そうか……。まあ、そうだよな……」
今日も朝から絶好調としか言いようのない立て札に、いろいろあきらめる耕助。
いないといろんな意味で困る時点で、立場としては自分のほうが圧倒的に低い。
〔・という訳で、今日のガチャを〕
「分かった分かった。ガチャを回してくれ」
〔・りょ〕
立て札の押しに負けて、本日のガチャを回す耕助。
二度目となるガチャマシーンのハンドルが回る演出をぼんやり見守っていると、突如カプセルの排出口が派手に輝く。
「なんだなんだ?」
〔・スーパーレア以上の確定演出。
・出てきたのは銀カプセルだから
・スーパーレア〕
「そうか。いいものが出ると助かるんだが……」
レアリティの高さに、がぜん興味がわく耕助。
そんな耕助が見守る中カプセルが開き、目の前にずどんと何かが落ちてくる。
「な、なんだなんだ!?」
〔・お~。
・見事にレアリティが高いガラクタ〕
「でかいな、これ。てか電化製品の類か……」
〔・ん。だから、ガラクタ。
・この世界だと、電化製品は希少価値が高いから
・最低でもスーパーレア〕
「希少価値をレアリティに反映してるって言われちまうと、反論できねえ……」
そう言いながら、出てきたでかい箱を鑑定する耕助。
鑑定結果は……
”業務用洗濯機:アメリカ仕様の業務用洗濯機。いろいろな仕様が違うため、日本で使うためには電源の変換をはじめいろいろな処理が必要”
であった。
「そんな気はしてたけど、やっぱ洗濯機かよ!!」
〔・m9(^Д^)プギャー
・NDK、NDK〕
「レアリティ演出で期待させやがってクソが!」
〔・お~、荒れてる〕
「何が腹が立つかって、物自体はレアリティ相当にすげえ便利なのに、今だと二重の意味で何の役にも立たないのが腹立つんだよ!」
〔・確かに。
・そもそも電源がないから使い物にならないけど
・仮に動かせたところで洗うものが何もない〕
耕助の怒りについて、それはそうだろうと納得する立て札。
股間に武士の情けと名付けられた葉っぱを張り付けているだけの耕助に、洗濯物など存在するわけもない。
耕助からすれば裸族であることを揶揄されているようなもので、その前の期待からの落差も併せれば怒るのも無理はないだろう。
なお、立て札が言ったNDKとは、「ねえ、今どんな気持ち?」の略である。
「そういや、今回は棒読みってつけてないな」
〔・久しぶりに、本気で笑った〕
「……おい」
〔・まあ、こんなおまけのことは置いておく。
・さっさとご飯食べて、今日の作業に入るべし〕
「……だな」
ひとしきりいじって満足したからか、サクッと切り替えて話を進めようとする立て札。
耕助も立て札の言葉に同意し、昨日開封した完全栄養食の最後の一本を取り出す。
〔・まずは昨日のリザルトから。
・食べながら確認して〕
「おう。……あれだけやったのに、各種スキルは全然変わってねえんだな……」
〔・あの程度の作業量でスキルが育つとか、甘いとしか言えない。
・最初の一レベルが上がりやすい仕様になってるネトゲでも
・あれ位だとものによってはレベルアップしない〕
「そういうもんか」
〔・ん。
・この島はだいぶゲーム的な仕様になってるけど
・習熟関係まではゲームじゃない。
・スキルそのものの習得が簡単なのも
・あくまで救済措置の類〕
「そっか。つまり、甘えるな、と」
〔・そう〕
時々見せるシビアな面で、耕助の甘えをぶった切る立て札。
立て札的には詰みさえしなければいいので、そんなにスキルをバカスカ習得させて成長させるつもりはない。
その手の俺ツエーはすぐに飽きるし、あまり早くに開拓が終わっても面白くないのである。
「甘えるなと言われてる状況でこれ聞くのもどうかと思うんだけど、この島に来てから救済措置で習得したスキルって、将来的に取り上げられたりはするのか?」
〔・さすがにそこまでシビアにはしない。
・そもそも、その位の能力だと
・小さすぎて取り上げるのも難しい。
・熟練度の数値が上がるころには自力で習得したのと変わらなくなるから
・そういう意味でも取り上げるのは実質不可能〕
「そうか、それなら助かる」
立て札の説明に、ほっと安堵のため息をつく耕助。
しょぼいスキルとはいえ、今の耕助にとっては生命線だ。
何らかの理由でそれがなくなってしまうと、冗談抜きで詰む。
〔・報酬とか救済措置とかで渡したものは
・能力でも物品でも取り上げたりはしないので安心して。
・で、これはさすがにアドバイスしないと分からないと思うから
・今日やるべきことを言う〕
「助かる。当座の最終目標は飯の安定調達と屋根と壁のある建物、それから服だってのは分ってるんだけど、そこに至るまでに何をどうすればいいのかが手探り過ぎてなあ……」
〔・ん。
・どっちにしても、調達できる資源も足りてないから
・耕助の努力だけでどうにかするとなると何年かかるか分からない〕
「だよなあ……」
〔・なので、今日は昨日最後に桶作ったことでアンロックされた
・『伝言板』を作るべし〕
「伝言板? なんでまた?」
〔・作ればわかる。
・何でも教えるのは、面白くない〕
「了解。材料は……、結構いるな。場合によっちゃあ、途中で斧かハンマーを作らにゃならんかもなあ」
〔・だと思う〕
「とはいえ、伝言板ってことは黒板とかホワイトボードの類なんだよな?」
〔・ん〕
「木材はともかく、なんで石を使うんだ?」
〔・強引にレシピ化してるから
・そこは気にしたら負け〕
「ああ、うん。まあそうか」
〔・そもそも、それ言い出したら
・現状、石が絡んでるレシピ全般
・意味不明なことになってる〕
「だよなあ……」
立て札の指摘に、おっしゃる通りでという感じでうなずく耕助。
自分で作ったわけではないとはいえ、そもそもクラフト台の時点で、材料になった木材と石だけでは作れるはずがないものである。
立て札の言うとおり、そこは気にしたら負けだろう。
「しかし、この量はつらいな」
〔・なんで?〕
「昨日、近場の木と石はおおよそ採りつくしてるから、結構遠くまで行かないとだめなんだよな……」
〔・ああ、運搬〕
「そういうこと」
〔・そんな耕助に朗報。
・軽く周囲を確認するべし〕
「えっ?」
立て札に言われ、軽く周囲を見渡してみる耕助。
そこには、昨日伐り倒したはずの木や、刈りつくしたはずの雑草が堂々と生えていた。
「ど、どういうことだ?」
〔・マップ移動や宿泊でリソースが復活するのは
・ネトゲやサンドボックス系ではお約束〕
「いくらゲーム的な仕様だっつっても、さすがに早すぎないか!?」
〔・実のところ、資源周りのこの仕様は
・ゲーム仕様にする以外にも、こちら側の事情が絡んでる。
・別に救済措置とかそういうのじゃないから
・存分に恩恵を受けるといい〕
「今日のところは恩恵だけど、これ将来的にいろいろたたりそうだな……」
〔・そういうのは、その時考える〕
「だな。とりあえず、材料集めてくる」
〔・いってら〕
今は深く考えても仕方がないと、立て札に見送られながら道具を手に取って素材集めに出かける耕助。
こうして、無人島生活二日目は、割と穏やかにスタートするのであった。
「……さすがに疲れた……」
〔・おつ〕
二時間後。レシピに必要な材料を集め終えた耕助は、クラフト台の前でぐったりしていた。
「やっぱ運搬がネックだな……」
〔・それは見てて思う〕
「今はまだいいけど、インベントリ的な能力かアイテムがないと、そのうち一日じゃ何も進まなくなりそうだな」
〔・切っては運びをするだけの画面をずっと見てても面白くないから
・一応どうにかする予定はある。
・ただし、それがいつになるかは耕助次第〕
「ああ、レシピか何かを用意はしたと」
〔・そんなところ〕
立て札の言葉を聞いて、しばらくはこのままかと落胆しつつ覚悟を決める耕助。
何度もそう簡単に楽をさせるつもりはないと言っている以上、そんなすぐにインベントリが実装されることはないだろう。
そもそもの話、今の時点でも普通に木を伐ったり石を砕いたりすることを思えば、十分に楽になっている。
見える範囲にある素材で間に合ううちは、それこそ生存にかかわる要素以外のテコ入れはないと考えるべきだ。
「まあ、伝言板を作るか」
〔・ん〕
いろいろ思うところはあるが、伝言板を作らなければ先に進まない。
それだけは確かなので、せっせと伝言板を作る。
例によって例のごとく、板や柱を作るような分かりやすい作業の合間に、石をこね回して薄く延ばすといった何のためにやるかは分かるがどうしてそれができるのか意味不明な作業が挟まる。
それらに突っ込みを入れるのをあきらめて、黙々と作業を続けること十分少々。
ついに、伝言板が完成する。
「……できたな」
〔・ん、おつ。
・じゃあ、とりあえずどこでもいいから立てて〕
「おう」
立て札に言われ、伝言板をとりあえず立て札の隣に適当に配置する耕助
伝言板を建てると同時に、大量のメッセージが同時に書き込まれる。
どんな内容が書き込まれているかというと……
・十八時にハチ公前で まっちー
・お前が好きだ! お前が欲しい!
・私たち、結婚しました
・チチキトク スグカエレ
・求:先〇者 出:ゲッ〇ー炉
・娘の遊びに付き合ってくださって、ありがとうございます。度が過ぎるようならきっちり叱りますので、遠慮なくお申し付けください。
・XYZ
などなど、雑多な内容で統一感は全くない。
「……で、これが何なんだ?」
〔・ちょっと待って。
・今アップデート中〕
「お、おう」
〔・ん、おk。
・たぶん、クエストが表示されてるはず〕
「……ああ、クエストボードってやつか」
〔・ん。
・ただ、見ての通り
・それ以外のメッセージもたくさん〕
「……だなあ。これ、誰が書いてるんだ?」
〔・ボクの知り合いとか関係者。
・何気に母にも見つかってる……〕
「……親がいたのか……」
〔・ボクを何だと?〕
「いや、見た目立て札だし、神とかそういうのって突然発生したりするのかと思って……」
〔・ないとは言わない。
・けど、ボクはちゃんと両親から生まれてる。
・そもそもこの立て札は、急ごしらえの端末〕
「そ、そうか。てか、考えてみれば、日本神話の神々って、普通に子供産んでたな。妊娠出産の方法が、全部人間と同じかは分からない感じだったけど」
〔・ん、そういうこと。
・ちなみに、ボクは両親が人間ベースだから
・普通に人間と同じように生まれてる。
・ただし、妊娠期間とかが人間と同じかは知らない〕
「なるほど」
妙な誤解をしていそうな耕助に対し、一応そんな風に釘をさす立て札。
とはいえ、耕助からすれば立て札の主がそもそも人型をしているかどうかすら分からないので、人間と同じようにと言われてもピンとこない。
一応ないとは思っているが、立て札的な外見の何かが折り重なって子作りをしている可能性も、現段階では否定できない。
〔・なんか不穏当なこと考えてる気配。
・でも、突っ込むと藪蛇になりそうだから置いておく。
・とりあえず、伝言板の各種メニューをチェック〕
「考えてることを読んだりしないのか?」
〔・してもいいけど、面倒くさい。
・それに、基本的にこういうのは
・分からないほうが面白い〕
「そういうもんか」
〔・そういうもの。
・話を戻す。
・さっさと、伝言板のメニューをチェックする〕
「ほいほい」
立て札にせかされ、伝言板をじっくり観察する耕助。
よく見ると、右下の隅っこのほうに、メニューボタンのようなものが描かれている。
「これを触れば、切り替わるのか?」
〔・ん。タッチパネル形式〕
「こいつはいいのか」
〔・全部立て札方式は、お互いに不便〕
「まあ、そうだわな」
立て札の主張に同意しつつ、とりあえず四つあるボタンを左上から順番に押していく耕助。
周りを線で囲われている左上のボタンは、押しても変化がなかったので恐らく伝言メッセージを見るためのボタンなのだろう。
そう考えて左上のボタンを押すと、左上のボタンを囲った線が消えて右上のボタンが線で囲われ、伝言板に書かれている内容が一瞬で変わる。
「今日の課題と今週の課題?」
〔・ん。要はデイリーとウィークリー。
・クエストというよりミッションって感じだから
・次からはそう呼ぶ。
・マンスリーミッションは、まだ解放されてない。
・ウィークリーミッションを一個クリアで解放〕
「ソシャゲじみてきたなあ……」
〔・何かの報酬って形にしないと、バランスが取れない。
・与えるだけだと、人間は腐っていく一方。
・それに、こんな何もない無人島で
・ボクからのお恵みだけで生きていくとか
・ものすごく退屈じゃない?〕
「……かもなあ……」
言われて、ものすごく納得してしまう耕助。
立て札に衣食住全てを十全に用意されてしまうと、耕助のやることが全くなくなってしまう。
そうなると、立て札以外に話し相手も居ないので、間違いなく病む自信がある。
「今日の課題は……、なんでもいいから材料を十回集めろ、か。伝言板を作る前のはカウントされてないんだな」
〔・残念ながら〕
「まあ、どうせ今日この後も素材はとりに行くんだから、十回ぐらいあっという間だろ」
〔・たぶん〕
「で、報酬が食品もしくは飲料か。何がもらえるんだ?」
〔・昨日のガチャの下位互換。
・具体的には、一番いいものでも一日分までになった。
・例えば昨日出た完全栄養食(ブロックタイプ)だと
・最大で一箱までになる。
・当然のごとく、ポテチ一袋っていう項目も残ってる〕
「……デイリーミッションだし、そんなもんか」
正直しょぼいと思いつつも、デイリーミッションの報酬ということで納得はする耕助。
そもそも、課題の内容が特別に意識しなくてもクリアできるものなのだから、報酬がしょぼいのも当然だろう。
「これ、毎日同じ内容なのか?」
〔・ミッション内容と報酬のカテゴリーは、毎回ランダムで別のもの〕
「そうか。で、ウィークリーが、道具を十回更新と。それぐらい使うな」
〔・少なくとも、石の道具の時点でそれぐらいは余裕〕
「そもそも、更新ってのが単に道具作るだけでいいんだったら、それこそやろうと思えば今日中に終わるしなあ」
〔・ウィークリーミッションって、割とそんな感じ。
・更新した日に終わらないのって
・ログイン日数とか一日の挑戦回数が決まってるコンテンツのクリア回数ぐらい〕
「だな」
そう言いつつ、なんとなく左下のボタンを押す耕助。
次は、長期目標と書かれたページであった。
「なになに? 生活を安定させよう?」
〔・ん。当面の生活環境を整えるための長期ミッション〕
「……なるほど。ここにある細かいミッションをクリアしていけば、最終的に家と畑ができると」
〔・そう。
・とはいえ、あくまでも最終的には、の話。
・まずはそこに書いてある通り
・畑と雨宿りできるレベルの東屋を作るところから〕
「ああ、なんとなく意図が分かった。畑はともかくいきなりまともな家なんて絶対作れないから、まずは屋根のある建物からってことだな」
〔・そういうこと。順次進めていくことで
・ほかにも無人島開拓に必要なスキルとか資材が手に入る〕
「となると、今日のところはデイリーとの兼ね合いで木材を集めろってのをある程度進めて、そのあと地面を耕そうってやつだな」
〔・ん。妥当なところだと思う〕
内容を確認して予定を立てたところで、最後のボタンを押してみる。
なお、長期目標のミッション報酬は、木材集めが木工スキルと追加の木材、地面を耕そうが農業スキルと種がいくつかである。
最後はお知らせと書かれたページだった。
「お知らせか。要は、アップデートとかメンテナンスの通知だな」
〔・ん。それ以外にもイベントとかもここで告知。
・イベントミッションは、デイリーとかのページで告知する予定〕
「つうことは、今日の課題のページは、期限が切られてるミッションを通知するページになるわけか」
〔・ん、そうなる〕
お知らせのページにある、「伝言板が設置され、以下の機能が解放されました」という文章と解放された内容を眺めながら、そんな風に自身の理解が間違っていないか確認する耕助。
耕助の確認に、それで間違っていないと肯定する立て札。
「そうなってくると、最初の伝言板のページが意味不明だな」
〔・あれはシンプルに
・生配信とかに視聴者がコメント飛ばすページ。
・もしかしたら、いずれスパチャとか干し芋とか
・そういうシステムも解放されるかもしれない〕
「かもしれないって、確約はないんだな」
〔・さすがにそのあたりになると
・ボクの独断では追加できない。
・何せ、よその神とかが絡んでくる〕
「なるほどなあ」
立て札の説明を聞いて、神々の世界も大変なんだなあと他人事のように思う耕助。
一応見世物にされている当事者ではあるのだが、こちらから干渉できることでもなく、またそのあたりの実務は立て札が勝手にやることなので、耕助の立場としては完全に他人事である。
「じゃあ、まあ、木を伐ってくるか」
〔・いってら〕
「また運搬に時間と体力もってかれるんだな……」
そうぼやきながら、斧を手に取る耕助。
なお、昨日最初に作った斧はすでに壊れているので、この斧は予備のやつである。
「そういや、斧ももう一本か二本作っとかないと、やばいな」
〔・そういえば、それラストだっけ?〕
「だな。となると、結構遠出が必要か……」
運搬のことを考えて、うんざりした表情を浮かべる耕助。
一日で復活するとはいえ、現時点で見えている範囲の半分以上の木材は伐り終わっている。
斧を作り直すことを考えると、相当の遠出が必要となる。
「まあ、ぼやいてもしょうがない。頑張ってくるか」
〔・がんばれ~〕
立て札に送り出され、テンション低く樵をやりに行く耕助。
最終的に一キロ近く先まで遠征することになり、しかもそこで斧が壊れて心が折れる耕助であった。
「ただいま……」
〔・おか~〕
「遠いわ……」
〔・結局どこまで行った?〕
「あの遠くにうっすら見えてる森」
〔・うわあ……。
・本気でおつ〕
かなり遠くから木材を引きずってきた耕助に、心の底からねぎらいの言葉を告げる立て札。
とはいえ、この状況を改善するための仕込みがすでに終わってしまっているので、現時点では直接何かする予定はない。
〔・とりあえず、デイリーは終わってる。
・完了報告で食べ物をもらうといい〕
「了解」
立て札に勧められ、伝言板の前に立つ耕助。
「今日の課題完了」
耕助の宣言を受け、伝言板からゲーミングな感じで輝く光の玉が飛び出してくる。
光が徐々に収まっていき、中から出てきたのは……
「ポテチの小袋かよ……」
〔・フラグ立てすぎたかも。
・ごめん〕
「いや、謝られても……。というか、結果に干渉できないんだろ?」
〔・ん、無理。
・やろうとすると本業に障害が出るぐらい消耗する〕
「だったら、俺の運が悪すぎるだけか……」
ちょくちょくネタにしたポテチだった。
あまりの運の悪さにがっくり来ながら、どんなフレーバーかと確認すると
「鮒ずし味ってなんだよ、鮒ずし味って……」
〔・一時地域限定かつ期間限定で売ってたやつ。
・まさかそんなものまで入ってるとは……〕
本当に一時期しか売っていなかった、なぜそれを選んだとあちらこちらから言われていたフレーバーであった。
「……これ、うまいのか?」
〔・食べたことないからわからない〕
「そうか……」
そう言いながら、覚悟を決めて袋を開ける耕助。
袋を開けた瞬間、ものすごい勢いで漂ってくる鮒ずしの強烈なにおい。
正直、耕助の苦手なタイプの匂いである。
この時点でいやな予感しかしないが、無駄にできる食料などかけらもない。
袋をいったん足元に置き、ちょっと離れて深呼吸して気合を入れ、袋を回収して思い切って口にする。
「……うん、まずくはない、まずくは」
〔・そうなの?〕
「ただまあ、俺の苦手な味ではある」
〔・うわあ……〕
「ビールがあれば、もうちょい食える気はする」
〔・お酒は自力で入手して。
・具体的にはガチャか自分で醸造〕
「ああ、知ってる……」
申し訳なさそうに告げる立て札に、無表情になりながらそう答える耕助。
耕助の二日目午前は、絶賛不幸全開だったのであった。
立列何番の横列何番をサイコロで決める、いわゆるD6*D6形式で決めたら、見事にピンポイントでネタフレーバーのポテチ一袋を引き当てやがった件について。
なお、チャートについては紙で書いたので転載が非常に面倒くさいという理由で省略しますが、基本的に悪くて小麦粉500グラムとか現状で使い勝手悪いやつ、大部分はパンかインスタントラーメンか完全栄養食バー、もしくはカップめし系のいずれかのフレーバーになってました。
なんで一個だけ、それもゾロ目じゃないところに仕込んだやつをピンポイントで引くのか……