第28話 おやつを確保しよう
「よもや、倉庫の増設だけでなく、魔石でレベル上げまでせにゃならんとは……」
山積みになっていたグレータードラゴンの処理を終え、ため息交じりに耕助がぼやく。
拠点の倉庫は資材に続き、食料庫まで容量がひっ迫する羽目になってしまった。
「せっかくドラゴンから取れた魔石も、全部容量の拡張に持っていかれてしまったのう」
「かといって、一頭丸々この場で食べるとかも、さすがにちょっと難しいですしねえ」
「妾が本来のサイズになれば余裕ではあるが、単にドラゴンを食うためだけに巨大化するのも間抜けじゃしのう……」
「まあ、無理して食べなくても、そろそろ最初の一頭は食べ終わりそうでしたし」
解体の時に出てきた余禄が全部消えてしまったことを嘆くレティを、笑顔のシェリアがそうなだめる。
実際のところ、シェリアが非常によく食べることもあって、レティが来た前後の肉はそろそろ消費が終わりつつある。
そのペースを考えるなら、倉庫からあふれそうな数のグレータードラゴンも、半年は持たない可能性が高い。
「ドラゴンで倉庫があふれるなんて、初めて聞きましたの……」
「あの数ですからね。王城や砦の類でもなければ、収納しきれる倉庫なんてそうそうないはずです」
どことなく呆然とつぶやくエリザベスに、遠い目をしながらそう告げるクリス。
レティやシェリアは片手間で倒すように最小限の攻撃で仕留めているが、本来ドラゴンは亜竜のワイバーンや最下位のレッサードラゴンですら犠牲者なしで仕留めるのは困難なモンスターだ。
さらに言うと、こんな一山いくらという感じで積み上げられるほど出現するモンスターでもない。
なので、いかにサイズが最低十メートル以上といえど、普通は倉庫が埋まるほどの量は手に入らないものなのだ。
「それにしても、倉庫に設置上限があるとは思わなかったな……」
〔・倉庫で土地が埋まると困るから
・上限はちゃんと設定されてる。
・ちなみに、他の設備とかも同じ。
・さすがに道具類に制約はないけど
・そっちは物理的に管理できる限界があるし〕
「今後のことを考えると、今の設置上限じゃ不安なんだが……」
〔・実効支配してるエリアが増えると
・設置上限も増える。
・という訳で、開拓ガンバ〕
「実効支配、なあ……」
立て札の言葉に、渋い顔をする耕助。
そもそも、どうなれば実効支配したと判定されるのかが分からないが、それ以上に今の人数でこれ以上管理するエリアを広げるのは無理がある。
何せ、拠点にしているあたりですら、平野部分は八割が雑草を刈る程度の利用しかしていないのだ。
「とりあえず、いい加減朝飯にするか」
「そうですね。ドラゴンがいっぱいでテンションが上がって、すっかり忘れてました」
耕助の宣言に、自身が空腹であることに気が付いたシェリアが真っ先に賛成する。
他の人間も特に異論はないようで、そのまま朝食の支度に入る。
「朝はイモとドラゴン肉でいいか」
「朝からですの!?」
「姫様、いろいろ思うところはあるかと思いますが、それぐらいの勢いで食べないと消費が終わらないかと……」
「もっと言うと、もともとイノシシとレッサードラゴンはローテーションだった」
「意味が分からないですの!」
朝から重いにもほどがある食事に、思わず全力で突っ込むエリザベス。
そんなエリザベスを無視して、グレータードラゴンのサーロインをほどほどの厚みに切り落として塩焼きにする耕助。
なんだかんだで普段より一時間ほど遅くなった朝食は、普段よりかなり重い内容になってしまったのであった。
「全然お腹が減ってきませんの……」
「さすがに、エリザベスには朝からドラゴン百五十グラムは重かったか」
「普通の女性は、朝に限らず百五十グラムのお肉は割と重いのではないかと思いますの……」
十二時過ぎ。そろそろ昼食をどうするかと相談しようとしたところ、エリザベスからそんな返事が返ってきた。
なお、現在耕助とエリザベスは、家に置く椅子やテーブル、机、たんすなどを作っている。
もっとも、椅子、テーブル、机はともかく、たんすは現状、中に入れるものがほとんどないため、ほぼ飾りにしかならないが。
他のメンバーはそれぞれにダンジョンにもぐったり、地形の調査をしたりと自由に行動している。
「となると、エリザベスは三時ごろにおやつを軽く、のほうがいいか」
「そのほうがありがたいですの……」
とても昼食どころではない腹具合に、情けない顔で耕助の提案を受け入れるエリザベス。
そこに、砂漠の調査から戻ったレティが口を挟む。
「まあ、そもそもの話、グレータードラゴンの肉自体、極端に栄養価が高い食品ではあるからの」
「ああ、帰ってきたのか」
「うむ。オアシスを見つけて、ついでにサボテンを採取してきた。生物もいくつか確認はしたが、今のところ倉庫を圧迫してまで狩る価値があるものはおらんかったの」
「そうか。まあ、元から砂漠にはそんなに期待してなかったしなあ」
「じゃのう」
ついでだからと、軽く報告を済ませるレティ。
今のところ、砂漠にはクズ王のピラミッド以外、これといって美味しい資源はないようだ。
「で、話を戻して、じゃ。ドラゴン肉、それも特にグレータードラゴンの肉はほぼほぼ完全栄養食じゃからの。さすがに肉じゃから食物繊維は少ないが、逆に言えば足りないのはそれぐらいじゃしの」
「と言うと、食べ過ぎは危険ってことか?」
「現状では、そんなことも言うてられんが、まあそういうことじゃな。すくなくとも、エリザベスの年齢と体格じゃと、二百グラムでほぼ一日分のすべての栄養を摂取できるはずじゃ」
「そりゃすげえな……」
グレータードラゴンの肉について恐ろしい情報を聞き、顔を引きつらせる耕助。
その話が本当だとすると、毎日食べ続けると肥満一直線なのではなかろうか。
「まあ、言うても肥満については心配いらんのじゃがな」
「そりゃなんでだ?」
「ドラゴンの肉の特性としての。食いすぎたらしばらく何も食えなくなるというのと、余剰分は肥満にならんよう食うたものの肉体を改造するというものがある」
「それ、大丈夫なのかよ!?」
「何も食えんほうはまあ、問題ない。肉から摂取したエネルギーを使い切れば、腹が減るからの。ただ、肉体改造のほうは……」
「ほうは……?」
「平たく言うと、シェリアみたいな肉体になると言えばいいか? この島にいる分には問題なかろうが、お主らが元の国に帰ることになった場合、ろくなことにはならんじゃろうな」
グレータードラゴンの肉についての危険な情報に、思わず青ざめる耕助とエリザベス。
シェリアの身体能力は、どう考えても異常の一言に尽きる。
今のところ翼人族全体があんなものだという話なので深く気にしていなかったが、レティやシェリア、エリザベスの世界でヒューマンと呼ばれている、魔法が使えること以外は地球人類と変わらない種族があれだけの身体能力を持つと、異端などという表現では済まない扱いになるだろう。
「あの、シェリアさんのような肉体になるというと、唐突に翼が生えたりするんですの?」
「いや、そういう種類の変化はせん。外見やそれに関連する種族特性は、ヒューマンのままで変化せん」
「じゃあ、食いすぎたからってドラゴンになったり、名状しがたいおぞましい化け物になったりとかはないんだな?」
「逆に聞くが、肉を食い続けただけでそんな変化をするというのは、どんな呪われた食材なんじゃ?」
エリザベスと耕助の質問に、何を言い出すのかという表情のままそう答えるレティ。
どうにも、シェリアのような肉体になるという表現が非常に紛らわしかったようだ。
「言い方が悪かったようじゃからちゃんと説明するが、要するに寿命が延びて老化が遅くなり、大抵の病気にかからなくなって身体能力と魔力がヒューマンの領域を大きく超えるようになる、という訳じゃ」
「その反動で、シェリアみたいなある種のポンコツになるってことは?」
「あれはもともとの性格じゃからな。耕助はまだしも、エリザベスはああはなるまいて」
「俺はまだしもってどういうことだ、って言いたいが、今までのあれこれを考えると反論しづらいな……」
「じゃろう? あと、いくら大量にグレータードラゴンを食って超人化したところで、運のなさまではどうにもならんからな」
「それこそ、食うだけで運が良くなるってどんな食材だよ……」
レティの最後の一言に、思わずそう突っ込む耕助。
だが、その突っ込みに対して思わぬところから横やりが入る。
「伝説の生き物であるゴールデンゴッドマイマイが、食べたものに神に祝福されたがごとき幸運をもたらすと言われていますの」
「マジかよ……」
「そういえば、そんなものもおったの。あれなら確かに、運を良くすると言うても間違いではない作用があるの」
「あるのかよ……」
「まあ、正確には運を良くするのではなく、最終的に食うたものにとって一番いい結果になるよう因果律を調整する作用があるんじゃがな。その作用でも、耕助の運がどの程度ましになるかはなんとも言えんのう」
「因果律ってまた壮大だな、おい。しかも、そこをいじっても大して影響ないって、俺の運はどんだけ悪いんだよ……」
「元が悪ければ、因果律をいじっても限界があるからのう……」
ガチャに続いてまたしても出てきた壮大な単語に、思わずげんなりする耕助。
何がげんなりすると言って、因果律をいじった程度ではたいして良くならないと言われたことであろう。
そのレティの言い分を、耕助自身もなんとなく納得してしまっているのが精神的にとても痛い。
なお、ゴールデンゴッドマイマイとは名前から想像がつくように、全身が金色で神々しいオーラを放つ食用のカタツムリである。
ある種の突然変異で、モンスターを含むありとあらゆる種類のカタツムリから唐突に生まれる上に数十年に一度一匹だけという頻度で、しかも普通に鳥などに捕食される。
なので、人間が発見して食べるとなると奇跡といっていい巡り合わせが必要となるので、伝説の生き物と呼ばれるのも当然だと言えよう。
因果律をいじって幸運をもたらすカタツムリが普通に捕食されているという事実については、深く考えてはいけない。
「まあ、ゴールデンゴッドマイマイについては、置いておくかの。今のところ、この島でカタツムリは見かけておらんから、手に入ることはなかろうしの」
「この島には、カタツムリはいませんの?」
〔・食物連鎖がまだ未整備だから
・そういう中間的なポジションの生き物は
・大部分が未実装。
・そのうち実装するけど、まだ先になると思う〕
「そうでしたの……」
「まあ、天気自体が今のところ、薄曇りの晴れでずっと固定されてるぐらいだからなあ……」
〔・何度もシミュレーションしてるけど
・天気にしても食物連鎖にしても
・今実装するとエネルギーとリソースが過剰に消費されて
・何をどうやっても破滅的な暴走を起こして
・ボクが元から管理してた世界と一緒にアボン〕
未実装のシステムについて、そんな恐ろしいことを告げる立て札。
どうやら、思っている以上にこの島が持っているエネルギーとリソースの量は膨大でかつ、扱いが難しいようだ。
「その辺の話は置いておくとして、グレータードラゴンの肉についてじゃが」
「ああ」
「はいですの」
「逆に言うと、元の国に帰る気がないのであれば、気にせず食いたいだけ食えばよかろう。シェリアの部族にしても、定期的にドラゴン系の肉を食っておるからあれだけ強い、という理由もあるじゃろうしな」
〔・多分、本人たちに自覚はないと思うけど
・恐らくシェリアはその集大成。
・少なくともボクは
・翼人族の神種なんて初めて見た〕
「……神種ってのがどの程度すごいかは分からんが、まあシェリアが普通じゃないのは予想がついてた」
「同意しますの。わたくしが知っている翼人族の方は、ドラゴンを一撃で倒すほどのパワフルさはありませんでしたの」
さらに立て札から叩き込まれた爆弾発言に対し、そりゃそうだという反応を示す耕助とエリザベス。
翼人族が強い種族なのは否定しないが、それでもみんながみんなシェリアのように、ドラゴンをあっさりワンパンできるスペックを持っているとは到底思えない。
なお、エリザベスが知っている翼人族というのも女性で、さすがにドラゴンを余裕で仕留めるほどの強さこそなかったものの、それでも空を飛ばず魔法を使わないという条件で大公家の精鋭百人を一人で倒しきるぐらいの戦闘能力はあったりする。
そして、翼人族の本来の平均スペックは、この女性ぐらいである。
〔・なんにしても、グレータードラゴンは
・たくさん食べるといい。
・クリスはいろんな意味で手遅れだけど
・エリザベスなら今からしっかり食べれば
・シェリアみたいな悩殺ボディになれる〕
「がんばって食べますの!」
立て札にそそのかされ、あっさり陥落するエリザベス。
とはいえ、今日のところは少なくとも夕食までは、ドラゴン肉どころかまともな食事自体無理っぽいが。
「耕助さ~ん!」
「湖畔の調査が終わりました。重大な報告があります」
そこへ、話題のシェリアとクリスが戻ってくる。
「重大な報告? 何かおかしなものでもあったのか?」
「はい。おかしな城がありました」
「危険はなさそうだけどなんだかとても変だったので、とりあえず伝言板を見てそれっぽいのがないか確認してから、耕助さんに現地で鑑定してもらったほうがいいかなって」
耕助の質問に端的に答えるクリスと、自身の感想も含めた詳細を説明するシェリア。
その情報に、今日はなんだか忙しいなあとどこか他人事のように考える耕助。
エリザベス達が流れ着いた翌日、正式な住人になった初日はなかなかに忙しく状況が動くのであった。
「ここか。確かにおかしな城だな」
シェリア達に案内されて現地に着いた耕助は、城を見てそんな感想を口にする。
なお、ここまではいつものようにレティの背中に乗って移動している。
「遠目で見たら普通のお城でしたのに、近くで見るとお菓子でできてるなんて変ですの!」
耕助の隣で、見たままの感想をエリザベスが言う。
そう、ダジャレではないが、その城はお菓子でできた奇妙な城であった。
「まあ、一応鑑定しておくか」
そう言って、最初の目的通り城を鑑定する耕助。
鑑定内容は
”超古代遺跡・お菓子の城:お菓子でできた超古代の城。超技術によりお口で溶けて手で溶けないし、クリーム類が手や服についたりもしない。一応食べても問題ないが、バッチいので食べるのはやめよう。お菓子ばかり食べるのは健康に悪いので、攻略できるのは一日に一人一回だけ。遺跡レベル0、難易度低、危険度皆無”
となっていた。
「難易度と危険度は、伝言板で見たとおりの情報だな」
「ふむ、健康に悪いから一日一回ということは、報酬は菓子の類かの」
「だろうな、多分。問題は、クリア条件なんだが……」
「それは入って確認したらいいと思います。危険度皆無だから、エリザベスさんでも安心ですし」
鑑定と伝言板の情報をもとに、そんな話し合いをする耕助とレティ、シェリア。
シェリアの頭の中には、足を踏み外すぐらいしか危険な要素がなかったクズ王のピラミッドが浮かんでいる。
「こんな得体のしれない城に姫様を入らせて、本当に大丈夫なのですか?」
「得体が知れないという点は否定せんがの。逆に、妾とシェリアが一緒でエリザベスに危険が及ぶようなものが、ここにあると思うのかの?」
「……それは……」
側仕えとして苦言を呈したクリスに対し、レティがにやりと笑ってそう答える。
レティの答えに、思わず言葉に詰まるクリス。
クリスは護衛としての訓練も受けているため、ある程度の危険度は察知できる。
その感覚が、ここには物理的な意味では一切危険がないと告げているのだ。
「まあ、レベル0で難易度低の時点で、報酬は大して期待できないんだがな」
「ですねえ」
クズ王のピラミッドという前例をもとに、そんな予想で意見を一致させる耕助とシェリア。
入手できた耐熱レンガは大層ありがたいアイテムだったが、あれは報酬というよりどちらかというとドロップアイテムの類である。
「まあ、入るぞ」
「入りますの」
ここでうだうだやっていてもしょうがないと、さっさと中に入っていく耕助。
その後をとてとてとエリザベスがついていく。
城に入ってすぐのところには、伝言板のようなホワイトボードがおかれていた。
「なになに……。ようこそ、お菓子の城へ……?」
「本来は難易度選択だけど、今回は初回なので一番低い難易度だそうですの」
ホワイトボードには、この城の攻略ルールだと思われるものが書かれていた。
その内容を抜粋すると
・全十問の問題を解くとクリア。正答数と難易度に応じて報酬がもらえる。
・必ずしも全問正解しなくても次の難易度に行けるが、初回は簡単なので全問正解でないと次の難易度は解放されず、報酬ももらえない。
・難易度十五までは算数のみだが、そこからいろいろなジャンルが入り混じるようになる。
・理科や社会、語学などは挑戦者が所属していた社会で通用しているものだけが出題される。
・難易度が上がってくるとパズルや運動なんかも入ってくる。
・チャレンジはすべて個人戦で、複数人で来たとしても挑めるのは自身がクリアして解放した難易度のみ。
・一定以上遺跡レベルが上がると、集団戦機能が解放される。集団戦のみ、参加者が攻略した難易度のうち一番高いものまで選べる。
・チャレンジは一日一回で、攻略しなくても回数の繰り越しはなし。
・回数を増やす方法も一応あるが、お菓子の食べ過ぎは健康に悪いので避けましょう。
となっていた。
「ふむふむ。つまりは、クイズを解いて賞品をもらえばいいということじゃな」
「だな。ちょっとやってみるか」
「やってみますの!」
本当に危険はなさそうだと判断し、クイズにチャレンジするレティと耕助。
それを見て、躊躇う様子を見せずにエリザベスが後に続く。
シェリアはすでに、机に向かっている。
「あ、あの、姫様……」
「大丈夫ですの、クリス。大して難しい問題ではありませんの」
あまりにも無警戒に席に着いたエリザベスを見て、大いにうろたえるクリス。
そんなクリスに、微妙に論点がずれた言葉をかけるエリザベス。
エリザベスが大して難しくないと言ったように、クイズの問題は答えが二けたにならない一桁の数字二つの足し算十問であった。
「……簡単とは言いますが、この問題だと姫様の年の平民だと解けない人間も多いのでは?」
「あ~、 識字率の問題とか、そういうやつか」
「貧民層じゃと、そもそも年齢関係なく計算以前に文字が読めんのが普通じゃからのう……」
サクッと問題を解き終えたクリスが、先に問題を解き終えたメンバー相手にそんな疑問を口にする。
その疑問に対し、言われてみればという顔をする耕助とレティ。
逆にシェリアは、何が問題なのか全く分かっていない様子を見せる。
驚くことに、シェリアの郷では実際に使うこともあるからと、連立方程式ぐらいまでの学問は教えているのである。
なので、シェリアも算数に関して言えば、小学校で教えている内容ぐらいは問題なく解けるのだ。
「まあ、そのあたりの問題は、文字が読めなくて計算できない人が住民になった時に考えればいいんじゃないか?」
「ですの。少なくとも、ここにこの程度の問題が解けない人間はいませんの」
「ですです」
耕助の結論に、エリザベスとシェリアが即座に同意する。
現状完全に切り離されてる世界の、それも基本的に関わり合いにならないであろう人たちのことまで知ったことではないのだ。
そもそもその手の教育の問題は、支配者層の大人が考えてどうにかすることであり、支配者層に属するとはいえもともと特に権限もない上に追放されて島流しになったエリザベスが、今ここで考えることではない。
「で、報酬のお菓子は……」
解答用紙を提出し、ファイナルアンサーボタンを押してクリアを確定する耕助。
解答用紙が消え、提出箱の上にポンっという音とともにお菓子が出現する。
「う〇い棒か……。まあ、難易度的にそんなもんだよなあ」
「妾はか〇焼きさん太郎じゃな」
「大体十円ぐらいで買える駄菓子か。ってことは、明日は多分二十円ぐらいだな」
「そんなもんじゃろう」
ものすごく簡単なテストでもらえる報酬だけに、特に不満もなく受け入れる耕助とレティ。
他の三人も似たようなものだが、う〇い棒が当たったシェリアとエリザベスはかなりうれしそうだ。
「あの、この薄いものは何でしょう……?」
「ああ、クリスもか〇焼きさん太郎じゃったか。まあ、食うてみよ」
クリスにそう促しながら、自身も入手したおやつを食べるレティ。
レティに従い、か〇焼きさん太郎を口にするクリス。
「……これは、硬くて噛み応えがすごいですが、不思議な味ですね……」
「うむ。好みは分れるかもしれんが、美味かろう?」
「はい。これ単品も好きですが、恐らくお酒にもあいそうです」
「うむうむ」
クリスの感想に、満足そうにうなずくレティ。
「さて、帰還ポータルで帰るか。……ん?」
一日一回ということで、さっさと帰ろうとしたところで、ホワイトボードに追記があったことに気が付く耕助。
その内容は……
・初回クリア報酬として、本拠地ポータルと直通のポータルを設置しました。これで毎日通うのが楽になるでしょう。
というものであった。
「なんか、妙に気が利いてるな……」
「一日一回を強調するくせに、絶対に通わせるという固い意志を感じるのう……」
立て札に近いレベルで自己主張が激しいお菓子の城に、思わずそんな感想を漏らす耕助とレティ。
なんだかんだで、この島の住人に新たな日課が増えるのであった。
やっと予定してたお菓子の城が出せました。
なんで駄菓子なのかは単純で、アカシックレコードを参照してもその値段で出せるお菓子がなかったから。
なお、あと十日もやればブ〇ボンプチのリッチとかが出てくるようになります。
一カ月もすればシャ〇レーゼのケーキだって出てくるように。
ただし、一カ月後というと高校ぐらいの難易度になってきて耕助がそろそろつらくなってきますが(笑)




