第24話 いろんなことを試してみよう その1
〔・さて、いろいろ落ち着いたところで
・本日のガチャの時間〕
エリザベスとクリスが食事を終えたのを見て、立て札がそんな風情も何もないことを言い出す。
「そういや、今日のガチャはまだだったな……」
「ドリーさんが生まれたり、エリザベスさんとクリスさんが来たりでバタバタしましたからねえ……」
「今日は十連回せる最後の日じゃったはずじゃが」
〔・ん。大規模アップデート記念の最終日〕
立て札に言われ、本日のガチャを完全に忘れていたことに気が付く耕助たち。
基本的に出るものは高確率でこの島では役に立たないものとはいえ、現状この島では数少ない娯楽である。
特に何かを消費するわけでもないので、一日一回の話の種として何気に全員の楽しみになっていたりする。
「あの、ガチャとは何ですの?」
「福引みたいなもんだな。びっくりするぐらい、何が出るか分からないが」
「一般的な福引と違って、何が出るかが一切明示されておらんからのう」
「見たこともないようなものが、いろいろと出てきますよね。そういうのって、食べ物以外は結構な確率でこの島では役に立たないですけど」
ガチャについて質問したエリザベスに対し、感想付きでざっくりとした説明をする耕助、レティ、シェリア。
それを聞いてもいまいちピンとこない様子のエリザベスを見てか、立て札が大々的に宣言する。
〔・百聞は一見に如かず。
・こういうのは実際にやって見せたほうが早い。
・という訳で耕助〕
「そうだな。ガチャを回してくれ」
耕助の宣言を受け、せっかくだからとフルバージョンの演出を表示する立て札。
いつものようにハイレア以上の確定演出が入り、カプセルが十個排出される。
中身は……
”う〇い棒 めんたい味”
”チ〇ルチョコ コーヒーヌガー”
”キャ〇ツ太郎”
”ボールペン”
”メモ用紙”
”ポケットティッシュ”
”m〇va対応型小型携帯電話”
”F〇MA対応型折り畳み式携帯電話”
”3G回線対応型液晶タブレット(4G以降非対応)”
”卑猥なおもちゃシリーズ・真ん中に穴が開いていてローションが滴るアワビ”
というラインナップだった。
「やっぱり、一個は卑猥なおもちゃシリーズなんだな……」
「卑猥なおもちゃ、ですの? アワビが?」
「エリザベスがどの程度性教育を受けてるか知らないが、正直年齢一桁の女の子に意味を教えるのは拷問だから、解説は勘弁してくれ……」
「分かりましたの。後でクリスに聞きますの」
「姫様、そういうのはもっと大人になってからにしましょう」
「大人って、どれぐらいですの?」
「そうですね……。とりあえずの目安として、胸が大きくなってきてから、ということにしましょう」
「胸ですの……?」
卑猥なおもちゃに関しての耕助とクリスの言葉を聞き、なぜかクリスの胸をじっと見て考えこむエリザベス。
次に出てきた言葉は、なかなかに残酷なものであった。
「クリスのように全く育たなかった場合、ちゃんと教えてくださいますの?」
「……奥様や一門の方々を見る限り、姫様はちゃんと育つかと思いますが……」
「アデレードおばさまとセーニャの例もありますの。物事に絶対はありませんの。それに、今のこの島の食生活だと、ちゃんと成長できるか自体が不安ですの」
「それを言われると……」
島の食生活についてのエリザベスの主張に、思わず同意してしまうクリス。
耕助たちに文句を言うつもりはないが、いくらなんでも現状の食料事情は生存のためのものに特化しすぎている。
成長もそうだが、それ以前に今のままだと、いずれ体を壊すのは目に見えている。
「食料に関しては、俺のスキルが上がるのを待ってもらうしかないんだよなあ……」
〔・でも、ドリーも増えてマスコットレベルも上がってるし
・土偶もかなり大きな補正をかけてくれるから
・そろそろほうれん草はいけるんじゃ?〕
「確実に成功するレベルじゃないんだよなあ、まだ。感覚的には勝率八割ちょっとってところだ」
〔・普通なら、三つか四つ植えて勝負かけていいぐらいの確率〕
「種の数も少ないし、俺の運を考えると普通に全滅しかねないから、今勝負かけるのは怖い」
〔・むう、耕助の場合、全く否定できない……〕
耕助の主張に、完全に同意するしかない立て札。
何しろ、成功率99%を五回連続で失敗する男だ。
成功率80%台だと、冗談抜きで種を全部使いつぶしかねない。
「飯と卑猥なおもちゃについては、置いとこう。それ以外のものは何というか、契約が必要な道具と粗品、って感じだよな」
「そうなんですか?」
「ああ。ポケットティッシュは粗品の王様だし、ボールペンとメモ帳もよく配られるな」
〔・ん。とりあえずこれ配っとけばいい、っていう鉄板。
・駄菓子類も、粗品とか残念賞の景品として王道〕
「駄菓子って、なんですか?」
「ものすごく安い、手軽に買える子供向けの菓子類だ。この中だと、う〇い棒、チ〇ルチョコ、キャ〇ツ太郎の三つだな。駄菓子界でもメジャーどころだ」
シェリアにそう説明しながら、駄菓子三種を取り出す耕助。
ガチャのほうが気を利かせてくれたのか、駄菓子三種は全部三つずつ出てきた。
「おっ、ちょうどいい数だな。エリザベスとシェリアとクリスで分けて食べればいい」
「よろしいのですの?」
「駄菓子にそこまで思い入れないし、こういうのは年下から順番にってのが相場だ。それに」
「それに?」
「シェリアはともかく、エリザベスが食べるものを、クリスがチェックしないわけにもいかないだろうし」
「それはそうかもしれませんの」
耕助の配慮に、ありがたそうにうなずくエリザベス。
中身までは知らないエリザベスだが、これらをクリスと折半するというのはなんとなくさみしい気がしてならない。
とくにチ〇ルチョコという文字が書いてあるものは、大きさ的に一口で食べ終わるものだ。
これを折半なんて、いくらなんでもショボすぎる。
なお、謎のパワーで翻訳されているようで、パッケージの文字はエリザベス達でも読める。
「姫様。お菓子だというのであれば、本日食べるのは一品にしてください」
「分かっていますの。そもそも、今後お菓子類にありつけるかどうか分からないのに、あるもの全てを一気に食べつくすなんてもったいないことはしませんの」
そういってしばらく考え込み、一度全部クリスに預けるエリザベス。
今食べたばかりなので、楽しみは後に取っておくことにしたようだ。
「それはそうと、メモ用紙にボールペンか。耕助が引いたものの中では、トップクラスに有用ではないかの?」
「だなあ」
「それとセットでこの島では役に立たんものが出るあたりは、やはり耕助じゃのう。それも、日本でももはや使えなくなったり、使えはするが機能の大半が実質的に死んでいたりするものなのがの」
「m〇vaとか、サービス終わったのがもう十年ぐらい前だもんなあ」
出てきた電子機器を見て、思わずしみじみ語り合うレティと耕助。
出てきた携帯電話やタブレット端末は、どれも型落ちもいいところである。
何しろ、耕助が飛ばされた時点で3G回線は主要三社のうち二社とその関連会社がすでにサービス提供を終了しており、残り一社も通話以外のサービスはほぼ終了、残っているものもあと二年ほどで完全に終わりという状況だ。
第四の会社として台頭してきた某キャリアに至っては、最初から自前では提供すらしていない。
タブレットはメモや電卓、注文用の端末として使えなくはないが、メモや電卓としてはともかく注文用端末など耕助の立場で使う訳もない。
そういう状況なのでアプリを入れるだけでも一苦労であり、またその世代のタブレットなので現在提供されているアプリの大部分はまともに動かない。
なので、やはり基本はゴミである。
〔・さすが耕助。
・この期に及んでも、スマホは出ない〕
「タブレットは似たようなもんだと思うけどな」
「そもそも、出てもこの島ではガラクタじゃろうに」
「あの、m〇vaとかスマホとかタブレットって、どういうものなんでしょうか?」
地球について知っている連中にしか通じない話で盛り上がる耕助と立て札、レティに対し、シェリアが首をかしげながらそう質問する。
それを聞いて、しまったという表情をする耕助とレティ。
「すまん、すまん。うちの故郷で便利に使われてる機械なんだが、どう説明していいか分からないんだよなあ、これ……」
「そうじゃのう。我らの世界には似たような概念自体がないのがのう……」
〔・かろうじて説明できるのはテレビと電話まで。
・その発展形って言っても多分理解できないと思う〕
「コンピューターをどう説明すればいいのかが、分からないからなあ……」
〔・まあ、ファ〇コン内蔵テレビが
・数十年分発達したらこんな感じになるって思って〕
「そういえば、結局ファ〇コンが何なのかも分からないままでしたね」
耕助たちの説明になっていない説明に、いろいろ納得するシェリア。
そのまま、すぐに興味をなくす。
「徹頭徹尾、何の話をしているか分かりませんでしたの……」
「そもそも、立て札の中からお菓子が出てくる時点で理解不能ですので、深く考えてはいけないのでしょう……」
「そういうことにしておいてくれ」
シェリア以上に話についていけなかったエリザベスとクリスに、そんな投げやりな言葉をかける耕助。
「そもそも、このガチャというものはどんなものが出るのですか?」
「そうだな。今までどんなものが出たか、簡単に紹介するわ」
クリスの疑問に対し、せっかくだから振り返りも兼ねてガチャの成果を説明することにする耕助。
「……本当に、意味が分かりませんの……」
「ただ、我々とは隔絶した文明の製品がいろいろ出現するというのだけは分りました」
「洗濯機とか、とても便利そうですの」
「電気が使えればなあ……」
ガチャの産物を前に、そんな感想を口にするエリザベスとクリス。
それに同意するように、心の底からのボヤキを漏らす耕助。
なんだかんだで、ガチャアイテムのおかげでそれなりに打ち解けることができたエリザベス達であった。
「で、これからの話をすると、だ。悪いとは思うが、エリザベスとクリスにもある程度仕事はしてもらうことになる」
ある程度打ち解けることができたところで、今後について耕助がそう切り出す。
「それは当然ですの」
「私が働くことに異存はありませんが、姫様もですか?」
「ああ。まあ、体力的にできる範囲で十分だし、無理にやってもらうつもりもないんだが……」
クリスの厳しい視線に、気まずそうにそこまで言って言葉を濁す耕助。
どう話すか迷った末に、ズバッと核心を告げることにする。
「ぶっちゃけた話をすると、働かざるもの食うべからず的な理由以外にも、仕事しないとすることがないっていうのがあってな……」
「「あ~……」」
耕助が告げた理由に、二人して納得するエリザベスとクリス。
確かに、こんな原始的な暮らしをしている島だと、なにがしかの仕事以外にやることなどほとんどない。
「基本的にこの島で住民がやってることって、木材の伐採に草とか木の実の採取、石とか鉱物資源の採掘と製錬、農作業、釣り、塩や道具作りにダンジョンとか遺跡の攻略って感じでな……」
「完全に仕事と分離できるような作業は、せいぜい各種攻略ぐらいじゃのう」
「さすがに、ダンジョンにエリザベスさんを連れて行くのはまずいですしねえ」
「確かに、ダンジョンなんて連れていかれても困りますの」
「さすがにその場合は、命を懸けて抵抗させていただきます」
「心配せんでも、そんな危険なことはやらんよ。まあ、耕助を連れていけるぐらい安全なやつもあるから、そういう時は別じゃがな」
ダンジョンについて、そんな風に合意する一同。
いずれ鍛えてダンジョン攻略をする可能性はなくもないが、さすがにまだ誰が見ても子供であるうちは避けるべきであろう。
「つうわけで、いろいろ試してもらおうと思うんだが、一応毎日やってほしいこともあるにはある」
「と、言いますと?」
「後で確認がてら場所は教えるから、そこにある鉱物資源採掘場と植物資源採取場で、何も取れなくなるまで採掘と採取をしてほしいんだ」
「採取はともかく、採掘を姫様にやれと申しますか……」
「普通だったらそんな真似はさせないんだが、この島でしかもシステムからもらった施設だからな。つるはしを振り上げて振り下ろせる腕力と体力があれば、多分子供でも掘れると思う」
「本当に、そういいきれますか?」
「断言まではしないけど、振り方が悪くてカス当たりした時も普通に掘れてたから、多分エリザベスでも大丈夫なはず。なんだったら、子供用の小さくて軽い奴を用意するし」
耕助の説明に、胡散臭いという表情を隠そうともしないクリス。
エリザベスも、意味が分からないという顔をする。
「そもそも、何も取れなくなるまでって、どういう意味ですの?」
「鉱物資源採掘場は、一日に採掘できる回数が決まってるんだ。それを超えると、何回つるはしを振り下ろしても何も出なくなる。植物資源採取場のほうはまだ確認してないけど、多分システムは同じだと思う」
「意味が分かりませんの……」
「そういうもんだと思ってくれ。何しろ、ラディッシュが植えてから一日で、ジャガイモが三日で収穫できる島だからな」
「本当に、意味が分かりませんの……」
「自然に生えてる木も、伐採して一晩経てばまた元通りに生えてくるんだぜ?」
〔・正確には、午前五時を過ぎるとリポップして
・伐採前の状態に戻る〕
「なんでそうなりますの!?」
かなり理不尽なシステムに、思わず大声で吠えるエリザベス。
いくら何でも、一日で伐採した木が元通りになるなんて無茶苦茶すぎる。
〔・この辺りは、神様的な事情がいろいろある。
・ただまあ、そのおかげで耕助たちが詰まずに済んでるから
・深く考えずに恩恵にあずかればいい〕
「そういうことだ。マイナス面でもいろいろ理不尽な要素があるんだから、美味しい要素ぐらいはありがたく恩恵にあずからないと、やってられないぞ?」
「……ちなみに、理不尽な要素というのは、どういうものがありますの?」
「一番大きいのは、物を作るときに努力や工夫に関係なく、確率で失敗したり呪われたりすることかな」
「……ちょっと何言ってるのか分かりませんの」
「これに関しては、実際にやって見せたほうがいいか」
いまいち理解できていない様子のエリザベスに対し、とりあえず実践して見せることにする耕助。
さて何を作ればいいか、と迷ったところで、立て札からアドバイスが。
〔・実践するなら、鉄鉱石製錬しつつ
・ファイヤーピストンがいい。
・そろそろ作れるはず〕
「そういや、そんなのもあったな」
〔・ん。初めて作った時のファイヤースターターより
・ちょっと分が悪いぐらいの成功率。
・材料が木材だからそこまでいたくないし
・耕助だから絶対一回は失敗するはず〕
「だな。まあ、成功したら失敗するまでやるだけだが」
立て札のアイデアにうなずき、溶鉱炉に鉄鉱石を放り込んでからクラフト台に向かう耕助。
木材を用意して、作業に入る。
なお、ファイヤーピストンとは、ピストンを動かすことで発生する断熱圧縮熱を利用して着火する道具である。
「……こりゃ、確かに難しいな」
〔・ん。
・でも、ほうれん草よりは分がいいはず〕
「だな」
そう言いながら作業を続けること約一分。
こういう時のお約束とでも言うべきか、最初の一つはあっさり成功してしまう。
「……よし、もう一個作るか」
「そうじゃの。この手の道具は、予備があるに越したことはあるまい」
「だな」
レティのフォローにうなずき、再び作業に入る耕助。
それを見ていたエリザベスが、渋い顔で突っ込みを入れる。
「手の動きと完成品の形状が、まったく一致していませんの。どうしてその作業でそんなものができるのか、理解できませんの」
「エリザベスさん、ここはそういう島です」
「そういう島です、だけで納得できるものではありませんの!」
「でもまあ、姫様。とりあえず、工夫に関係なく失敗する、という意味はなんとなく理解できました」
「それは確かに、ですの」
現実ではありえない現象を前に、いろいろ突っ込みながら耕助の言い分については納得するエリザベス。
そんなエリザベスの前で、耕助が二つ目のファイヤーピストンの仕上げに入り……
「うおっと!?」
ボフンという音とともに失敗する。
「とまあ、こういう感じでな。失敗すると爆発して全部なくなるんだよ」
「確かにそれは、マイナス方面の理不尽ですの……」
「まあ、これに関してはよく分かってないものでもレシピさえあればなんとなく作れるから、そういう面ではこの仕様はプラスの側面もあるんだが」
「失敗しないようにはならないんですの?」
「ひたすらいろんなものを何度も作って、スキルと設備を鍛えるしかないらしい。ここで重要なのは、鍛えるのはスキルであって腕じゃないってことだ」
「……同じもの、ではないでのすね、その言い方だと」
「そもそも、あの作業を繰り返して、腕を磨いたって言えるか?」
「それは確かに、そうですの」
耕助の主張に、一応納得するエリザベス。
納得してくれたのを見て、話を元に戻す。
「っつう訳で、とりあえず採掘場と採取場だけは、日課としてやってもらえると助かる。正直、資源も全く足りてないからな」
「分かりましたの」
「姫様?」
「ただ、まずはつるはしを持てるかどうか、試させてほしいですの」
「ああ。そりゃ当然だな」
エリザベスの主張にうなずき、先ほどシェリアが採掘に使っていたつるはしを持たせてみる耕助。
五キロだと持てないという話を考えると無理かな、という予想に反し、なぜか割と普通に振り上げることができる。
「持ってみると、妙に軽いですの」
〔・今回住民が増えた影響で
・道具カテゴリーにもレベルが導入された。
・つるはしはレティとシェリアが使いまくってるから
・軽量化と扱いやすさに大きな補正が〕
「つまり、子供でも使えるようになったってことか……」
〔・ん、そういうこと。
・ちなみに、鍬も耕助が毎日使ってるから
・エリザベスでも普通に地面を耕せる〕
「本当ですの?」
立て札の説明に、なぜか目を輝かせて食いつくエリザベス。
その様子に、クリスが頭を抱えてため息をつく。
「エリザベスさん、畑仕事に思い入れでも?」
「庭師がやっているのを見て、ずっとやりたがっていたのです。それも特に、家庭菜園的なものに興味津々でして……」
「じゃったら、体力が続く範囲でやらせてやればよかろう?」
「大公家の姫様に、そんな汚れる力仕事を……、などと言える環境ではありませんか……」
「やらせてほしいですの!」
やたら食いつきがいいエリザベスに、あきらめのため息をつくクリス。
それを見て、これはやらせてみるしかなさそうだと、とりあえず作ったばかりの鉄の鍬を手にクラフト台の前から移動する耕助。
畑エリアに移動し、エリザベスを手招きで呼ぶ。
「とりあえず、一通り見本を見せるから耕してみな」
「いいんですの!?」
「どうせ何かやらなきゃ暇だからな。遊びのつもりでやればいいさ」
そう言いながら、とりあえず地面を耕して見せる耕助。
道具の補正に慣れもあって、三度ほど地面を耕すだけであっさり畑になる。
「とまあ、こういう感じだ。植えるものは後で用意するから、まずは思う存分耕してくれ」
「はいですの!」
耕助から鍬を受け取り、元気よく返事をするエリザベス。
そのまま思いっきり鍬を振り上げ、
「ですの!」
全力で地面に叩きつける。
エリザベスのパワーでやったとは思えないほど、一撃で深く耕される地面。
それを見ながら、二度三度と鍬を振り下ろす。
「ですの! ですの!」
なんとも言えない掛け声とともに、ひたすら地面を耕し続けるエリザベス。
縦ロールでドレスの幼女が地面を耕す姿は、とにかくシュールとしか言いようがなかった。
「ですの! ですの!」
「あんまり根を詰めずに、ほどほどにしとけよ~」
「ですの! ですの!」
「ありゃ聞こえてないな」
「姫様に関しては私が様子を見て、適当にいいところで止めます」
「止められるかどうかは分らないが、頼むわ」
「はい」
何かのスイッチが入ったように、ですのですの言いながら無心に地面を耕し続けるエリザベス。
それを見たクリスが、何やら悟った様子でそう告げる。
「とりあえず俺は、予備の道具も作っとくわ」
〔・その前に耕助は、ミッション報酬を〕
「ああ、確かに見とかなきゃな」
〔・それと、このままあの家で
・ずっと雑魚寝はダメだと思う〕
「それも考えなきゃならないか」
〔・まあ、この人数だと
・たぶん何かのミッション報酬で
・大型のログハウスとかそのあたりのレシピがあると思う〕
「そりゃありがたいな」
「大型の建物が作れたら、耕助も抱き枕を卒業かの?」
「え~……」
「なんでシェリアが不満そうなんだよ……」
なぜか畑作業に没頭しているエリザベスをクリスに任せ、そんな話で盛り上がる耕助たち。
予想通り、エリザベス達を迎え入れた報酬の一つは、十人前後が暮らせる規模の大きなログハウスのレシピであった。
「じゃあ、悪いけどシェリア、ログハウスの材料集めを頼むわ」
「伐採はやりますけど、耕助さんと別の場所で寝るのは私の快眠のために拒否したいです」
「俺の快眠や世間体はいいのか……?」
「むしろ、なぜまだ世間体を守ろうとするのかが分からんがのう……」
ログハウスのレシピを前にそんなことを言っていると、体力が尽きたか一息ついたエリザベスが、目を輝かせながらふらふらと耕助の元へ歩いてくる。
「畑を耕すの、とっても楽しいですの!」
「ああ、うん。範囲的な意味ではいくら耕してくれてもいいが、体力的な意味でほどほどにな」
この娘もシェリアの同類か、などと思いつつ、とりあえずそうたしなめておく耕助。
見ると、いつの間にかクリスも、
「ウフフ……。こうかしら? これがいいのかしら?」
「どり~♪」
「うお……」
怪しい笑顔を浮かべながら、桶に汲んだ水をどばどばとウォーレンとドリーにかけている。
結局、己の意志で来たレティ以外、自分も含めてどこかおかしいんだなと達観することになる耕助であった。
活動報告にも書きましたが、恐らく本編ではエリザベスを島流しにした王太子の末路には触れません。
ぶっちゃけ、すでにこの話の時点で立て札が興味をなくしてる雰囲気ですので……
それとは別に、どうでもいいネタを一つ。
エリザベスとクリスですが、どっちも同じような体形だと面白くないからと、エリザベスの体形をサイコロで決めて、それに応じてクリスの体形を決める手法にしました。
具体的には、18歳時点でのエリザベスが普通以上にグラマーならクリスはスレンダー(ありていに言えば貧乳)、逆にスレンダーなら貧乳度合いに応じてグラマーになる設定になっています。
そして、作中で触れているように、クリスは現在絶壁です。
つまりはそういうことです。




