第21話 超古代遺跡を見に行こう
「耕助さん、耕助さん。お昼食べたら、古代遺跡を見に行きませんか?」
昼食の準備中に、唐突にシェリアがそんなことを言い出す。
「……いきなりだが、なんでまたその発想に?」
「もしかしたら、何かミッションをクリアできるかな、って」
「ああ、ありそうだな。でも、俺は多分、この島で最弱の地上生物だぞ?」
「ちゃんと当てはあります!」
耕助の指摘に、強調するようにデカい胸を張って自信満々に言い切るシェリア。
その拍子にたゆんと揺れるのが、いまだにコンプライアンスとか青少年保護育成条例とかに縛られている耕助の精神を削る。
「その当てというのは、なんじゃ?」
「さっき増えた、クズ王のピラミッドです。確認したら、難易度0、危険度皆無って書いてありました!」
「……まあ、本来遺跡ってのは発見と発掘が一番のハードルで、危険地帯にあるものとか崩れそうなもの以外は危険もくそもないのが普通なんだとは思うけど……」
「名前からすると、むしろ罠とかマシマシっぽいのにのう……」
シェリアの言葉に、なんとなく遠い目になりながらそうぼやく耕助とレティ。
「というか、危険度なんぞという項目は、あったかの?」
「もう一つの古代遺跡が解放されたときに増えてました」
〔・それ、サイレント修正の類。
・錬金釜が設備に含まれてなかったのも
・一緒にこっそり修正されてる〕
レティの疑問に答えるシェリアと立て札。
「その修正は、立て札がやったのか?」
〔・このぐらい影響が薄い細かい内容は、自動修正。
・ボクが直接やるのは、物理演算とか異常地形とかのレベル。
・あの系統を自動修正に任せると
・大体はもっと悪化するし……〕
「だろうなあ……」
なんとなく遠い目をしているような雰囲気の立て札に、おもわず同情しながら同意する耕助。
自動でプログラムを作るとか調整するとかの類は、どこかポンコツというか気が利かないところがあるものである。
これに関しては、ものすごく機能的に発達しているであろう神の世界のものでもあまり変わらないようだ。
「まあ、話を戻すとして、危険度皆無なら行ってもいいな」
「うむ。たまには耕助も、遠出をするべきじゃろう」
〔・ん。拠点にこもりきりは不健全。
・難易度0の遺跡とかダンジョンは
・観光地ぐらいの感覚で大丈夫だし〕
「問題は、目的地までどれぐらい時間がかかるかなんだが……」
「そんなもの、妾の背中に乗ればよかろう。この島の広さなら、どこに行くのも五分もかからん」
「いいのか?」
「かまわんよ。知らぬ仲の人間に上から目線で要求されたら断りもするが、耕助はそのあたりはわきまえておるしの。そもそも、徒歩での移動になんぞ、妾が付きあいきれん」
「ああ……」
レティの言い分に、心底納得する耕助。
高速飛行ができるレティやシェリアからすれば、人間の歩行速度など極めて遅い部類だろう。
これが調査なども兼ねてというのであればともかく、今回のように目的地が決まっていて道中に特に見るべきものもないのであれば、わざわざゆっくり歩いていく理由はない。
人間を背中に乗せて運ぶことを気にしないレティからすれば、耕助が嫌がらない限り乗せない理由がないのだ。
「じゃあ、昼飯食ったら頼むわ。……よし、大根とニンジン、両方に火が通ったな。トウモロコシのほうも、そろそろいいだろう」
「新しい食材ですね!」
「まあ、三日だの五日だので収穫できるものじゃから、あまり期待はできんがの」
「だな。それに、トウモロコシは単に茹でただけ、大根とニンジンも一緒に煮込んだイノシシベーコンのダシと塩だけで味付けだから、多分そんなに美味くはないと思う」
そう言いながら、とりあえず味見をする耕助。
耕助の予想通り、大根とニンジンのスープも茹でトウモロコシも、とにかく味が薄かった。
「……まあ、食えなくはない」
そう言いながら、シェリアとレティにスープをよそって差し出す耕助。
耕助から料理を受け取り、一口食べてみるシェリアとレティ。
一瞬にして、その表情が何とも言えない微妙なものになる。
「……美味しくはないけど、まずいとも言い難い感じですね、これ」
「……確かに、食えはするが微妙な味じゃのう」
「だろ? 調味料とダシ素材がもうちょっと充実すればもっとましになるとは思うんだがなあ……」
シェリアとレティの感想に、渋い顔でそうぼやく耕助。
そのまま、切なそうに海へと視線を向ける。
「海があるから昆布を、と思ってるんだけど、このあたりだとわかめも昆布も見つからないんだよなあ……」
「あの種の海藻は深海でなければどこの海にもいずれかの品種が生えておるもんじゃが、見つからんということはアップデートかミッション報酬で入手するまで存在せんのかもなあ……」
「そもそも、食物連鎖もないぐらいだからなあ……」
海岸線沿いにいれば一番簡単に手に入りそうなダシ素材がない。そのことを心の底から嘆く耕助。
実のところ、昆布も採取してそのままダシ素材に使えるわけではなく、天日乾燥をはじめいろいろやらなければいけないことはあるのだが、現物を見ていない耕助はそこまでは知らない。
なお、煮干しを最初から除外しているのは、どんな魚をどう処理すれば煮干しになるか全く分からないからである。
もっとも、それ以前の話として、現時点ではそもそも煮干しに出来そうな小魚自体、見かけていないのだが。
「で、そのあたりはどうなんですか?」
〔・普通の採取や生産活動で手に入らないものは
・交易かダンジョン及びガチャでのランダム入手かアプデ待ち。
・つまり、安定して確実に手に入れたければ
・頑張って文明レベルを上げるべし〕
「だよなあ……」
手に入らないものの入手方法について、明確ながらも身も蓋もない答えを言い切る立て札。
それに対して、特に反発もなく納得する耕助。
粘土をはじめ、アプデである程度安定して手に入るようになったものは結構あるので、今手に入らないのはそういうことだと考えるしかない。
むしろ、文明レベルを上げれば次のアプデが来ると明言されただけでもありがたい、とすら思っていたりする。
「じゃあ、さっさと食って、クズ王のピラミッドとやらに行くか」
「じゃのう」
「ですね」
午後からの行動内容が決まり、あまりおいしくない昼食をさっさと平らげることにする耕助たちであった。
「ここが、クズ王のピラミッドか……」
「ちっちゃいですね……」
「形状はともかく、これをピラミッドと言ってしまっていいんじゃろうか……?」
「どう見ても、石じゃないよなこれ……」
昼食後。アップデートで増えた砂漠のど真ん中。
縦横高さ各一メートルほどの小さなピラミッドを前に、そんな感想を口々に漏らす耕助たち。
ピラミッドは、想像を絶するほどショボかった。
「耕助よ、これは本当にクズ王のピラミッドなのか?」
「鑑定が正しければ、間違いなくこいつがクズ王のピラミッドだな。鑑定が正しければ、だが」
「遺跡って、こういうのも含まれるんでしょうか?」
「俺にその辺の定義を聞かれても困るが、この島のシステム上は遺跡なんだろう、多分」
あまりのショボさに、本当にこれが目的のピラミッドなのかどうかが信じきれない一同。
現時点で島にはピラミッドはこれしかないし、座標的にもこれ以外はあり得ないのだが、わざわざ超古代遺跡と銘打って実装してきたものとしてはショボすぎる。
なので、どうにもこれを目的のものとは認めたくないという気持ちが抑えきれないのだ。
「……よし、現実を受け入れよう」
「……じゃのう」
「……他に、こういう感じのものってありませんでしたからね」
「で、この島のシステムだと、遺跡とかもクリア条件があるんだろ?」
「どうなんじゃろうなあ?」
「一応、昨日の遺跡はボスを倒したら消えましたけど……」
現実を受け入れたものの、ではこの遺跡をどうすればいいのかというと、ショボすぎて逆によく分からないという問題にぶち当たる。
「しまったなあ。来る前に立て札に、ここにもクリア条件とかがあるのかを確認しとけばよかった……」
「じゃのう」
「まあ、クリア条件があったとして、ここまでショボいと何をすればクリアになるのかも分からないんだが……」
「ボスとか、居そうにありませんからねえ……」
耕助のボヤキにうなずきながら、とてとてとピラミッドに近づくシェリア。
しげしげと観察し、何を思ったのか軽く身を乗り出して天辺の石を引っ張りはじめる。
シェリアの怪力に耐えかねたのか、それとももともと風化してもろかったのか、直方体になっている天辺の石が、メキョっという音とともに四分の一ほどもげる。
「「えっ……?」」
「耕助さん、耕助さん! これ、石じゃないです!」
「「はあ!?」」
シェリアの行動とその結果に、思わず声をそろえて驚く耕助とレティ。
そんな二人の目の前に、もいだ何かを差し出すシェリア。
「……これ、レンガじゃないか?」
「じゃのう」
「もしかして、このピラミッド、レンガでできてるんじゃないか?」
「かもしれんのう……」
そう言いながら、ピラミッドに近づいてく耕助とレティ。
その間に耕助は、レンガの鑑定を行う。
鑑定結果は
”初期型低性能耐熱レンガ:古代において、最初に発明された耐熱レンガ。それほどの高温に耐えられるわけではないが、鉄やガラスを溶かせる温度まではちゃんと耐える”
というものであった。
「間違いなくレンガだな。それも、性能は低いけど耐熱レンガだ」
「ほほう? ということは、これを持ち帰れば、使っておる窯を溶鉱炉に進化させることができる、という訳じゃな?」
「だな」
レンガの正体を確認し、期待に目を光らせる耕助とレティ。
近くで見ると、ピラミッドは四つ一組のレンガを直方体の石に見えるように積んで形成されていた。
「クリア条件も分からないし、インベントリもアイテムバッグも十分な容量が残ってるし、このレンガをありったけ持って帰るか」
「それはいいんですけど、呪いとか祟りとか大丈夫なんでしょうか?」
「少なくとも、シェリアがもいだレンガは呪われてなかった」
「ならば、妾とシェリアで回収して、耕助が収納するのが安全そうじゃな」
「ですね」
耕助の言葉に一つうなずき、そう方針を決めるシェリアとレティ。
呪いだの祟りだのに対して脆弱な耕助に、この種の作業をやらせるのはリスクしかない。
それに、素手でこのレンガを外して回収するのは、恐らく耕助には無理である。
レンガそのものは別に接着などされていないのだが、表面の継ぎ目をごまかすための塗装がなかなかにしっかり固まっており、そう簡単に外れない状態になっているのだ。
レンガとレンガの隙間が小さいことも併せて、普通の人間には道具なしでの対処は不可能だろう。
「では、さっさと回収するぞ」
「はい!」
レティの号令に元気よく答え、天辺のレンガを豪快にもいでいくシェリア。
シェリアがもいであらわになった次の段の隙間に、レティが爪を差し込んで切り離していく。
切り離されたレンガは、二人で適当に分担して耕助の元まで運んで積み上げる。
「処理が早いな……」
「大した作業でもないからのう」
「ただ、思ったより中がみっちり詰まってますよね」
「空洞になっておるかと思ったが、そうでもなさそうじゃな」
山積みになったレンガを前に、そんな話をする耕助たち。
ピラミッドは、結構ぎっちりレンガが詰まっていた。
「のう、耕助よ。予想と違ってほぼ見たままの量があるようじゃが、全部入るか?」
「インベントリの容量は結構増えてるけど、この分量はアイテムバッグがなきゃ厳しかったな」
「そうか」
「資源用倉庫を設置できれば楽なんだが、感じからいって実効支配しているっていう条件を満たせてる気がしないんだよな」
どんどんインベントリに収納しながら、レティの疑問にそう答える耕助。
そもそも砂漠のど真ん中で往来の手段もレティ頼りの時点で、実効支配などできていない。
「耕助さん、レティさん! 真ん中にレンガ四つ組み一つ分ぐらいの空間が!」
「ふむ。まあ、まずはレンガを全部どけてしまおうかの」
「はい!」
最後の一段になったところで、ついにピラミッドらしい謎の空間が出てくる。
それについて調査をする前に、とりあえずレンガを全部回収することにするレティとシェリア。
単純に、なんとなく邪魔だったようだ。
「……ふむ。ツボのようなものと羊皮紙が埋まっておるの。どけてみるか」
「その下に、なんか悪趣味なメダルがあります!」
「副葬品か何かかのう?」
レンガをどけながら、中央の空間に埋まっていたものを確認するレティとシェリア。
あと少しだけレンガが残っているが、回収作業の邪魔になったので先に発見物をどけることにしたようだ。
「のう、耕助。これは何かの?」
「あ~、ちょっと鑑定してみるわ」
インベントリに入りきらなかった分をせっせとアイテムバッグに詰め込んでいた耕助が、レティとシェリアから渡されたツボと羊皮紙、鎖付きのメダルを鑑定する。
鑑定結果は
”クズ王の骨壺:火葬されたクズ王の骨が入っていたツボ。ピラミッドの中心に封じられてはいたものの、長い年月をかけて骨はすべて崩れて消失している。ミイラ処理をされず火葬されている時点で、クズ王の生前の行いや民の評価、死後の扱いが察せられる”
”埋葬責任者の手記:クズ王の葬儀および墓づくりを行った責任者の手記。いろいろなことが赤裸々に語られている”
”副葬品のメダル:クズ王が生前最後に大枚をはたいて購入した趣味の悪いメダル。一見金に見えるが真鍮メッキで、中身はそれっぽい重さの何の価値もない石をそれっぽく加工しただけのもの。クズ王の見る目のなさを象徴する一品。当然のことながら、特別な効果はない”
となっていた。
「……ものすごく、しょっぱい気分になるのはなんでじゃろうなあ……」
「……なんか、この手記も読まなきゃよかったって思うような、ろくでもないことが書かれていそうな気がします……」
「……とりあえず、これがお宝だとしたら見た目や難易度表記にふさわしい代物なのは間違いないな……」
鑑定結果に全員でしょっぱい顔をしながら、口々にそんな感想を言うレティ、シェリア、耕助。
もともと大して期待できるものではなかったが、その期待すら下回られた気分である。
「せっかくだから、手記のほうも見ておきましょうか」
「だな」
「うむ。というか、読まねば読まんで、ろくなことにならん気がするしのう……」
どうせろくなことは書かれていまいと知りつつ、内容が気になるので一応手記を読むことにする一同。
手記にはこんなことが書かれていた。
『壮絶な押し付け合いの結果、上司が権力闘争に負けて貧乏くじを引かされたので、愚痴とともに状況や経過を記録する。
唾棄すべきクズ王の埋葬は、予算が最初から全くないという予想された事態により、いきなりつまずくことになる。
言うまでもなく、クズ王のために身銭を切るなど誰もやりたくはない。
私だってやりたくない。
労役にしても、あのクズのために巨石の運搬なんぞやってくれる民はいまい。
だが、余計な祟りを起こしそうなので、埋葬しないわけにもいかない。
どうにかして、ただ同然で墓を作らねばならない。
悩む私を見かねてか、左官工事を生業としている男が、とてもありがたい申し出をしてくれた。
左官業者が言うには、新型の耐熱レンガに置き換わった関係で、中途半端な性能の旧型耐熱レンガが使いどころに困る量で余っているらしい。
なので、どうせ廃棄するしかないそれを集めて、作れる一番大きなピラミッドを作ればいいと提案してくれた。
しかも、どうせ廃棄するものだからと、レンガはただで提供してくれるという。
太っ腹なことに、ピラミッドの建設も廃棄作業の代わりということで、全員に食事と酒をおごるだけで引き受けてくれる。
それを聞いて一も二もなく飛びついた私は、協力してくれる設計士とともにピラミッドの設計と場所の選定を行うことに。
王の遺体はミイラ加工など全く手も付けられておらず、普通に腐敗が始まっていたためさっさと焼却処分。
何も埋めないのもあれなので、残った骨を適当にツボに詰めて保管。
ピラミッドの設置(建設というには小さすぎるのでこう言わせてもらう)のときに、この手記とともに中央部に埋めることにした。
副葬品は、見る目がないクズ王が生前最後に国庫を空にして買った真鍮メッキのメダルだ。
普通に祟られそうなことをいくつもやっているが、それだけのことをあのクズはやっている。
この手記を読んでいる誰かがいるとすれば、こんなショボいピラミッドを盗掘したということだろう。
まさしく骨折り損のくたびれ儲けというやつだが、私の愚痴とクズの末路が後世に伝わるのは悪くない。
ただ、もしかしたらなにか祟りのようなものが起こるかもしれないので、それだけはどうにか頑張って収めてほしい』
「祟りか……」
「こういうクズほど、逆恨みで大規模な祟りを起こすものじゃからのう……」
「実際のところは、どうなんでしょうね?」
手記の内容に、さらにしょっぱい気分になりながら、そんな話をする耕助たち。
こんな島なので、祟りとかが普通に起こっても何の不思議はない。
不思議はないのだが、問題はどんな祟りがどの程度の規模で起こるのかと、それを今の段階で察知することができるのか。
少なくとも、耕助には無理であることははっきりしている。
「なあ、レティ、シェリア。祟りが起きそうかどうか、察知することってできるか?」
「はっきりとは分からんが、怨念のようなものは感じる。故に、何かが起こっても不思議ではなかろう」
「私は、というより翼人族は、そういうのにすごく鈍いんですよね」
「おぬしらは、基本的に聖属性寄りで呪いや祟りをはじくからのう。そのくせ、対抗属性に強烈な耐性を持っておるから、エンシェントドラゴンとは別方向でたちが悪い生態をしておるわ」
耕助の疑問に、そんな風に答えるレティとシェリア。
レティはともかくシェリアの場合、起こったことの対処はできても起こる前に察知して備えるのは無理なようだ。
「でも、耕助さん、レティさん」
「なんだ?」
「何か気になることでもあるのかの?」
「ここ、システム上はダンジョンとかの分類ですよね? 祟りとかがあったとして、敷地の外に出るほどの何かが起こるんでしょうか?」
「「あ~……」」
アホの子なイメージが強いシェリアからの、まさかの鋭い指摘。
その内容に、言われてみればと納得する耕助とレティ。
ゲーム的な部分はとことんゲーム的でシステマチックな島だ。
ゲームシステム上ではダンジョンの亜種としての遺跡と定義されている以上、その範囲を超えることはないだろう。
「そもそも、難易度0、危険度皆無の遺跡で、そんな厄介な祟りとか起こせないと思います」
「確かに、いくら耕助の運がなかろうと、危険度皆無と銘打たれた場所で祟られるようなことはなかろうしなあ」
「というかそれ、もし俺が祟られてえらい目を見たりしたら、立て札が残業的な意味で泣きを見るやつだよな多分……」
シェリアの言い分に、心底同意するレティと耕助。
「で、それを踏まえたうえで、レティ的には何かヤバそうな空気とか感じてるのか?」
「うっすらと怨念は漂っておるが、どちらかというとこの場所そのものに向いておる感じじゃ。ゆえに、濃度的にも指向性の面でも、我らに向くことはあるまい」
「つまり、今の時点では気にしなくていい、と」
「うむ。それに、これぐらいじゃと、仮に耕助が祟られたところで、シェリアに抱き枕にされれば一瞬で消え去るわ」
「ということは、長くても一晩っていうことですね!」
「俺を抱き枕にする前提で話すの、やめてくれ……」
怨念についてレティが出した結論に、無邪気に明るくそう宣言するシェリア。
それについて、一応耕助がげっそりしながら抗議をする。
いまさら気にしてもしょうがないのだが、それでもコンプライアンスに引っかかりそうな要素に対してはどうしても腰が引ける。
それだけブラック企業時代にいろいろあったということなので、そっち方面のトラウマを吹っ切るまでもうしばらくかかりそうだ。
まあ、そもそもの話、この島に飛ばされてまだ十日は経っておらず、シェリアと出会ってからでもまだ五日ほどだ。
そんなに早く吹っ切れるようではトラウマとは言わないし、染みついた価値観はそう簡単に捨てられない。
特に、耕助のような真面目で社畜体質の人間だと、そのあたりの切り替えは容易ではあるまい。
「なんにしても、これ以上集めるようなものはないし、とっとと戻って溶鉱炉にアップグレードするか」
「そうですね」
「うむ。では、ドラゴンになるから、さっさと背中に乗るがよい」
耕助の提案に同意し、帰宅準備に入るシェリアとレティ。
と言っても、必要な作業はレティがドラゴンに化けるだけで、耕助とシェリアは特に何もする必要はないのだが。
「では、飛ぶぞ」
耕助が落ちないように声をかけ、ゆっくり飛び上がるレティ。
シェリアも自前の翼でそれに付き従う。
一行が地上百メートルほどの高度に到達したあたりで、クズ王のピラミッド跡地に変化が起こる。
「レティさん、レティさん! ピラミッドがあったところが光ってます!」
「む? ふむ、本当に光っておるな」
「あっ! 光が消えました! ピラミッドが復活しています!」
「そのようじゃな。どうやら、根こそぎ持っていって一定の距離まで離れればリセットがかかるんじゃろう」
クズ王のピラミッドの挙動について、目の前で起こったことを踏まえてそう考察するレティ。
復活したピラミッドに、何やらうずうずしているらしいシェリア。
「とりあえず、荷物一杯だから、何をするにしてもいったん戻ってからな」
「じゃのう」
「早く帰りましょう!」
シェリアにせかされ、急いで拠点に戻るレティ。
耕助がせっせとレンガを資源用倉庫に詰めている間、二人して伝言板を確認する。
「ふむ、クリア回数1回か。つまりあれで攻略はできておったということじゃな」
「難易度表示が0.1になってますね。危険度は相変わらず皆無のままです」
「クリアするたびに、難易度が上がる設定なんじゃろうな。しかし、小数点以下で刻むとはのう……」
「どれぐらい変わったんでしょうね?」
「そればかりは、直接確認せんと分からんのう……」
伝言板の情報をもとに、そんな話をするレティとシェリア。
ついでに、ミッションのページを開いてクリア済みになっているものがないか確認する。
そこに、レンガの整理が終わった耕助がやってくる。
「何か分かったか?」
「あれでクリア扱いじゃということと、クリアするたびに難易度が上がるらしいということは分った」
「なので、今からもう一度見に行こうかと思いまして」
「……ないとは思うけど、持ち帰るものが増えると運べなくなるから、行くにしてもアイテムバッグは増やしておく必要があるな。で、何かミッションはクリアになったか?」
「高級耐熱レンガのレシピがもらえるミッションがクリアになってました。後は、指定の回数ピラミッドを攻略すると報酬がもらえるミッションが増えてます」
「ふむ。……ああ、これか。あと四回クリアすれば、次の超古代遺跡が解放されるのか」
「それぐらいだと、今日中に行けそうな気がしますね!」
「あの内容だしなあ……」
なぜかやたらやる気に満ちているシェリアに、微妙に引き気味になりながらそう答える耕助。
「という訳で、行きましょう!」
「お、おう」
「まあ、暇じゃし、付き合うかの」
シェリアの勢いに押され、再びクズ王のピラミッドに向かう一行。
「ちょっとデカくなってるな。……鑑定によると、一辺が二十センチ長くなってる」
「難易度0.1アップは、そういう内容か。しょぼいのう……」
「でも、レンガがたくさんもらえます! 今の状況だと、レンガはあればあるだけいいと思います!」
「まあ、それは否定しない」
微妙としか言いようがない変化に、どこまでもショボいという気持ちを隠し切れない耕助とレティ。
そんな二人とは裏腹に、やたらやる気に満ちたシェリアが元気いっぱいにポジティブな発言をする。
結局この日は、ただサイズが大きくなるだけのクズ王のピラミッドを、次の遺跡が解放されるまで解体し続ける耕助たちであった。
というわけで、クズ王のピラミッドでした。
友達とクズ王のピラミッドについて駄弁ってるうちに、なぜか耐熱レンガ製のショボいサイズの形だけピラミッドになっていたわけですが。
何気にこのクズ王関係の設定、いろんなところにつながっていきそうな予感。




