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第1話 まずは状況を把握しよう

本日二話目です

「……とりあえず、ちょっとあたりを見て回るか……」


 いつまでも呆然としていても仕方がない。そう腹をくくって立ち上がる耕助。


 足元が草地、それも見える範囲で結構しっかり生い茂っているので、恐らく満潮の時に完全に水没するような場所ではなさそうだ。


 まずは周囲を見渡して、見えた景色でどうするか決めることにする。

「……なんだ、あれ?」


 起きた時に向いていた方向の左右を見渡し、結構遠くまで海岸が続いているのを確認して振り返った耕助の目に、立て札がぽつんと立っているのが飛び込んでくる。


 イメージよりかなり広かった草原のど真ん中にぽつんと存在する立て札は、なぜか一種異様な存在感を醸し出していた。


「いや本当に、なんだあれ? つうか、木の生え方がやたら不自然だな、おい!」


 そう突っ込みながら、とりあえず立札を見に行く前に持ち物をチェックすることにする耕助。


 今まで頭が回っていなかったが、よく考えたら意識を飛ばす前は財布とスマホとスーパーで買ったものが入ったエコバッグを持っていたはずなのだ。


「……エコバッグの中身は、というよりエコバッグそのものがぐちゃぐちゃになってるなあ……」


 まず足元に落ちていたエコバッグを手に取って、絶望の表情を浮かべる耕助。


 いったいどんな圧力がかかったのか、中身が全てエコバッグにしみこむレベルで圧縮されていたのだ。


 ということはもしかして、と思って財布と一緒にウエストポーチに入れていたスマホを取り出すと、画面はバキバキに割れてカバーはあちらこちらが砕けてへし折れた基盤が露出し、バッテリーがいつ火を噴いてもおかしくないぐらい膨れ上がって微妙に煙が立ち上っている。


 仮に耕助に精密電気機器を修理する能力があり、この場に機材と部品があったとしても、このスマホを修理することは不可能であろう。


 こんな惨状なのになぜか財布は中身ともども無事だったが、日本でなければ何の役にも立たない。


「……どうせ役に立たないだろうけど、これで助けを呼ぶあても消えたか……。それに飯も水もないのもヤバいな……」


 あまりに絶望的な状況に表情をなくし、虚ろな目をしながら立て札のもとへふらふらと歩いていく耕助。


 立て札には


〔・ようこそ、異世界の無人島へ!〕


 と、妙にうれしそうに書かれていた。


「異世界はまあ、そうだろうなあと思ってたけど、無人島なのか……。てか、無人島なのになんで日本語が書いてある立て札が立ってるんだ?」


〔・そこはもう、こういう話のお約束的な何かということで〕


「なんでリアルタイムに立て札の記載内容が変わるんだよ……」


〔・一応異世界転移系ファンタジーなので〕


「メタいな、おい……」


 不自然な立て札だけあって、やたらメタいことを書いてくる立て札。


 その内容に、いちいち律義に突っ込む耕助。


 本人に自覚はないが、この時耕助は、精神的にほんの少しだけ立ち直っていた。


〔・それでは、ここからはちょっと真面目な話に入ります。

 ・荒田耕助さん、あなたは天文学的な確率の不運

 ・具体的には一京分の一ぐらいの確率で起こる出来事に遭遇した結果

 ・地球とは全く違う世界のその島に飛ばされました〕


「神様の手違いとかそういうのじゃないのか?」


〔・そういうのは、最低でも素手で岩ぐらいは粉砕できる人間しか対象になりませんねえ〕


「それ、人間か……?」


〔・結構いるんですけどね。

 ・話がそれたので戻します。

 ・突発的に起きた自然現象が原因ですので

 ・人間にはそこから地球に戻る手段はありません〕


「ああ、うん。まあそうだろうな」


〔・納得いただけたようですので、そのことについては以上として。

 ・別に誰かの不手際とかそういうわけでもないのですが、

 ・あまりにも不運なのであなたが生きていくために

 ・若干手助けをすることにしました〕


「手助け? よくあるネット小説みたいにチート能力をくれるのか?」


〔・まあ、ゲームが成立するぐらいのものは〕


「ゲームなのか」


〔・ゲームです。少なくともこちらにとっては。

 ・なので、簡単に死なない程度にはいろいろ手を貸しますが、

 ・オレツエーとかは期待しないように。

 ・チート無双系は、他の神様がやってるのをチラ見するだけでも十分摂取できますし〕


「だからメタいって……」


 またしてもメタいことを表示する立て札に、こいつ絶対俺をおもちゃにするつもりだと確信する耕助。


 だが、立て札を通じて接触してくる存在の手を借りねば、三日も保たずに死にかねないのも事実である。


〔・一応すでにスキル的なものは付与済みです。

 ・まずはそれについて説明します〕


 そう表示した後、立て札に採取、伐採、採掘、鑑定などの単語が縦に並んで書き出され、それぞれの単語の横に棒グラフのようなゲージが表示される。


〔・これが、今のあなたが持つスキルです。


 ・横の棒グラフは熟練度になります。


 ・この立て札の前で熟練度を見たいと念じれば、すぐ表示されます〕


「スマホ持ってんだから、そういうのはスマホにアプリとして入れときゃいいんじゃ……?」


〔・そんなありきたりな展開は

 ・断固としてNO!

 ・そうでなくてもオリジナリティが薄いのに

 ・そこまで普通なんて敗北主義者のやること!〕


「何と戦ってんだよ……」


〔・まあ、冗談はさておき

 ・そもそもスマホなんて脆弱なものが

 ・異世界転移に耐えられるわけないじゃないですか

 ・根本的な話として、いくら私が干渉したからといっても

 ・あなたの肉体が無事であること自体、かなりの奇跡なので〕


「言われてみりゃ、そうかもなあ……」


 唐突に真面目な話をする立て札に、戸惑いつつも納得する耕助。


 エコバッグと弁当と缶ビールが分離不可能なレベルで一つになるほどの力がかかっているのだから、落としただけでもそれなりの確率で壊れるスマホが無事なわけがない。


 と、いろいろ納得したタイミングで、耕助の服と靴が崩れ始める。


「なんだなんだ!?」


〔・キャー、変態、露出狂(棒読み)〕


 あっという間に全裸になった耕助をからかうように、そんな一文を表示する立て札。


 わざわざ(棒読み)まで表示しているあたり、どう考えても分っていてやっている。


 とはいえ、変態と言われて反論の余地もない格好なのも事実で、服が完全に消失したタイミングでなぜか葉っぱが一枚耕助の股間に張り付き、きっちり逸物を隠している。


 この姿、むしろ全裸より変態チックだ。


 なお、どうでもいいことながら、後ろから見てもなぜか葉っぱがきっちり全てを隠してくれている。


 結局のところ、モザイクとか謎の光の亜種みたいなものなのだろう。


「どういうことだよ、これ!」


〔・いやだから、異世界転移に服が耐えられなかっただけかと。

 ・むしろ、よくもったほうだと思います〕


「まじか……。なのに財布は無事なんだな……」


〔・なんででしょうね?

 ・肉体が無事なのは過去に事例があったので分かるのですが

 ・さすがに財布が無事なのはちょっと謎です〕


 なぜか無事なままの財布に、恐ろしいものを見るような目を向けてしまう耕助。


 立て札にとっても本当に想定外だったようで、戸惑っている雰囲気が駄々洩れである。


〔・まあ、財布については置いておきましょう。

 ・現時点では単なる思い出の品以外の何物でもありませんし〕


「お、おう」


〔・先ほども言ったように、あっさり死なれても面白くないので

 ・これからやっていける程度の援助はします。

 ・まず、飲んでおなかを下さない程度にきれいな水が出る井戸と

 ・ないよりまし程度の開拓用具を支給します〕


 立て札がそう告げたタイミングで、近くに唐突にこれぞ井戸というビジュアルの井戸が発生し、耕助の足元に斧や鍬、のこぎり、鎌といった道具が出現する。


 井戸はご丁寧に滑車と釣瓶が付いていて、体力さえあれば誰でもすぐに水が汲めるようになっている。


 桶もロープもない状況ゆえ井戸だけあっても水を汲むことができないので、恐らく立て札がサービスしてくれたのだろう。


「これで家でも作れってか?」


〔・はい。ですがいきなりは無理でしょうし

 ・そもそも丸太使って家を建てる技術なんて持っていないでしょう?〕


「そりゃあ、普通は持ってないわな」


〔・なので、最初にやることはそのための設備を用意することです〕


「設備って、そんなもん作れるんだったら普通に家ぐらい作れないか?」


〔・この手のスローライフ系ゲームだと

 ・定番のものがあるでしょう?〕


「定番って、クラフト台とかそういうやつか?」


〔・そう、それ〕


「どうやって作るんだよ、それ?」


〔・指定した材料を集めて持ってきてもらって、立て札パワーで合成〕


「それがOKだったら、全部材料だけ集めて立て札パワーでよくないか?」


〔・面倒くさいし、材料集め以外は何でも立て札パワーだけで解決は見てて面白くない〕


「……」


 露骨に本音を漏らす立て札の言い分に、どう答えを返せばいいのか分からず言葉に詰まる耕助。


 立て札にメッセージを書いている何者かにとって、耕助はあくまでゲームの駒なのだろう。


 そのことは最初からずっと、立て札のメッセージ内容で示している。


 それはいいのだが、立て札の主はいったいどの程度の内容を求めているのかが分からないのが怖い。


「……要するに、とりあえず今からクラフト台の材料を集めればいいのか?」


〔・ちょっと待って、まだ終わってない〕


「まだ何かあるのか?」


〔・ん。荒田耕助さん、あなたは一日一回、立て札ガチャを回すことができる〕


「立て札ガチャ? なんかこう、ろくでもない結果しか見えない単語だな?」


〔・出てくるものは恐らく99%がゴミか

 ・出た時点ではかけらの役にも立たないものだから

 ・あながち否定できない。

 ・でも、回さないより回すほうが豊かな暮らしに近づく可能性があるから

 ・必ず一日一回回すことをお勧めする。

 ・特に今日はチュートリアル兼救済措置で、絶対に生存に必要なものが出てくる〕


「そっか。つうか、なんかいきなり口調が崩れたな」


〔・まじめに説明口調続けるの、疲れた〕


「お、おう……。そうか……」


 初日のチュートリアルすら取り繕えない立て札の主に、思わず微妙な表情をしてしまう耕助。


 そんな耕助の反応をスルーして、立て札が説明を続ける。


〔・ガチャの回し方は簡単。立て札の前でガチャを回すと宣言するだけ。

 ・今は一日一回で繰り越しはなしだから、十連とかそういう機能はない。

 ・ただ、島の開拓が進むと、一日に回せる回数が増えたり

 ・ガチャチケ的なものが手に入るようになったりする。

 ・それに応じて、十連機能が解放されたりピックアップガチャが追加されたりする〕


「心底、どうでもいい」


〔・むう……。

 ・とりあえず、今日は回しておいたほうがいい〕


「了解。ガチャを回してくれ」


〔・了解〕


 耕助の宣言を受け、立て札がガチャガチャマシーンのイラストを表示し、背景の色をいろいろと変化させながらゆっくりとレバーを回転させる。


 ガチャガチャマシーン独特のガチガチガチという音とともにレバーが一回転し、青色のカプセルがころりと出てくる。


「また凝ってんなあ……」


〔・たぶん、この演出を見るのも今だけ。

 ・どうせお互い面倒になってスキップして結果だけ見るようになる〕


「だろうな。やってせいぜい五回ぐらいか?」


〔・三日目には面倒になってスキップするのに一票〕


 ガチャの演出について、そんな身もふたもない話をする耕助たち。


 ならなんで用意したのかという話になるが、そこはそれ。


 ガチャを回します、〇〇が出ました、だけでは味気ないにもほどがあるので、ほとんど誰も見ないにしても演出は用意しておかねばならないのだ。


〔・一応、レアリティ演出とかもあるから、カプセルだけは表示する〕


「やっぱ、レアリティがあるんだ」


〔・本当に一応。排出率は違うけど、だからと言ってレアリティが高ければいいものでもない。

 ・例えば、この状況でドラゴンをワンパンできるスーパーレアの消費アイテムとか出ても

 ・何のありがたみもない

 ・食べ物か活動を楽にしてくれるアイテム以外

 ・現状では基本ごみ〕


「いやまあ、そうだけど……」


〔・ちなみに、今回は食べ物限定。

 ・カプセルの色はいろいろ出てくるけど

 ・ハイレア以上の黒、銀、金、虹の四色以外はどれも同じ。

 ・今回の青だと、コモン、アンコモン、レアの三種類のレアリティが混ざってる〕


「なるほど。で、これには何が入ってるんだ? てか、どうやって開けるんだ?」


〔・開封は自動で行われる。

 ・今回は説明のためにここで止めてるだけ。

 ・というわけで、OPEN〕


 そう言って、青色のカプセルをパカリと開く立て札。


 カプセルが開くと同時に、耕助の足元に結構大きめの紙パッケージがいくつか落ちる。


「えっと、なになに? 完全栄養食(ブロックタイプ)?」


〔・この状況では、比較的当たりの部類。

 ・ちなみに、ガチャの結果は完全栄養食(ブロックタイプ)三日分〕


「確かに、三日間の食料が確保できたっていうのは、あたりか」


〔・ん。ちなみに一番の当たりはハイレアの超技術保存食一年分(食器、調理器具、飲み物付き)

 ・これは、百種類以上の保存食が三食から四食入ってて

 ・保存期間が三十年という素晴らしいもの。

 ・逆に、外れはポテチ一袋〕


「ポテチ一袋とか、たまったもんじゃないな……」


〔・ん。ちなみに、確率は大当たりも大外れも同じようなもの。

 ・後、ガチャに関係して、鑑定の説明。

 ・鑑定スキルを付与してあるから

 ・一度手に持ってるものを鑑定したいと念じながら観察〕


「了解。……なになに? 完全栄養食(ブロックタイプ)。一本五百キロカロリーで四本入り。猛烈に水分を持っていかれるので、飲み水必須」


〔・それが、その完全栄養食の鑑定結果。

 ・もっとも、いまだとパッケージの裏に書いてある説明程度のことしか鑑定できない。

 ・今の熟練度だと、簡易鑑定しかできないと思って〕


「分かるだけましってことだな」


〔・そういうこと〕


 鑑定についての説明を聞き、そう納得する耕助。


 積極的に命がやばいような状況に追い込みこそしないが、そうそう楽をさせることもないというのがこの立て札の主のスタンスなのだろう。


 それを考えれば、鑑定できるだけましというのは間違いない。


〔・それじゃあ、なんでもいいから木材と石材を五つ集めてくる〕


「木材は斧でそこら辺の木を切り倒せばいいのか?」


〔・それで問題ない。

 ・石材はそのハンマーかつるはしで、これぞ石って感じの大きな石を割って持ってくればいい〕


「OK。じゃあ、ちょっくら行ってくるか」


 立て札の指示を受け、ぼろい斧とハンマーを拾い上げる耕助。


 その時、ふと気になって股間に張り付いている葉っぱを鑑定する。


 鑑定結果はというと


”武士の情け:謎の天狗面の自称空手家「儂にとてそれぐらいの情けはある!」”


 というものであった。


「おい、ちょっと待て……」


〔・何か問題でも?〕


「天狗面の自称空手家ってなんだよ……」


〔・なんだよも何も、天狗面付けた謎の空手家っぽい人。

 ・ほかに言いようがない〕


「……まあ、いいか」


 あまりにあまりな鑑定内容に、突っ込みを入れるのもあきらめて肩を落とす耕助。


 ついでなので、渡された道具類を鑑定していく。


 その内容は


”ぼろい斧:何度か使えば壊れそうなボロボロな斧。これでも普通の木なら十本ぐらいは伐り倒せるだろう”

”ぼろいハンマー:何度か使えば壊れそうなボロボロなハンマー。これでもそこらに生えている石を持ち運べるサイズに砕くことぐらいはできる”

”ぼろい鎌:何度か使えば壊れそうなボロボロな鎌。これでも雑草を刈ることぐらいはできる”

 etc……


 という、見た目通りではあるがなんとも頼りないものであった。


 その鑑定結果と一緒に、何らかのゲージが見えるのが不穏である。


「あれか……。このゲージが尽きる前に材料を集めきらないとだめってことか……」


〔・大正解〕


「……余計なこと考えないで、まずは無心に木を伐るか……」


 いろいろ不穏当な状況に腹をくくり、材料集めに出かけることにする耕助であった。







「この木、こんなクソみたいな斧で本当に伐れるのか?」


 適当に選んだほどほどの太さの木をみて、正直な疑問を漏らす耕助。


 ほどほどとはいえ自分の太ももよりは確実に太い、何なら小学校低学年の子供の胴回りぐらいはある木だ。


 耕助が斧での伐採について素人であることも含め、非常に心もとない状況だ。


 もっとも、一番心もとないのは、ほぼ全裸でぼろい斧による伐採作業をやらされるという事実そのものではあるが。


「……考えてても仕方がないから、やるだけやってみるか」


 そう腹をくくり、思いっきり斧を叩き込んでみる。


 耕助の懸念とは裏腹に、そこそこの深さまで一発で斧が食い込む。


 それと同時に、ゲージが微妙に減る。


「嘘だろ、おい……」


 あまりに非現実的な結果にうろたえながらも、もう一撃叩き込んでみる耕助。


 斧はさらに深く食い込み、あっさり全体の三分の二ほどを切り裂く。


 それと同時に、またしてもゲージが微妙に減る。


「……これ、一本伐るたびに、じゃなくて一回叩き込むたびに耐久力が減るのか……」


 ゲージの減り方から、そんな事実を推測する耕助。


 だとすると、おそらく斧の性能や耕助のスキル、伐る木のスペックで伐るために必要な回数や耐久力の減り方が変わってくるのだろう。


 そんなことを考えながら三発目を叩き込むと、割とおかしな感じで木が倒れる。


「……なんで斧を叩き込んだのと直角の向きに倒れるんだよ……」


 あまりに違和感が強すぎる現象に、思わず突っ込みを入れてしまう耕助。


 いくらゲームチックな世界とはいえ、いくらなんでもこれはない。


「……まあ、いい。とりあえず、次のを伐る前にこの一本を立て札のところに持っていくか」


 いちいち突っ込んでいてはきりがないからと割り切り、結構な重さがある木材を引きずっていく耕助。


 裸足なので足の裏がとても痛いが、不思議なことに皮もむいていない木材を素手で引きずっているというのに、特に掌にとげが刺さったり指先が切れたりはしないようだ。


 なんにせよ、股間に葉っぱを張り付けただけの男が、それなりの太さと長さを持つそこそこ立派な木を引きずってくるというのは、とてもシュールな絵面なのは間違いない。


〔・おや、お早いお帰りで〕


「伐ったのをその場に放置しとくとものすごく邪魔になりそうだから、一回一回持ってくることにした」


〔・あ~……〕


「インベントリでもくれるんだったらともかく、それはなさそうだから頑張った」


〔・ん。別にそれぐらいあげても、干渉の度合いとしてはもはや誤差の範囲。

 ・ただ、くれといわれてホイホイ渡すのは、マイルールに反する。

 ・製作可能なものにそういう機能を持つアイテムもあるから、がんばって〕


「だろうと思ったよ……。あと四本でいいんだよな?」


〔・ちょっと待って、チェックする。

 ・約一本半だから、うまく選べば三本でいける。

 ・ただし、あんまり欲張って太くて大きいの選ぶと、斧がアボン〕


「だろうな。後で斧とか作り直すための材料伐ることまで考えると、ギリギリ持つかどうかって感じなんだよなあ……」


〔・ん、大正解。

 ・多少余裕はあるけど、無駄や無茶ができるほどじゃない〕


「まあ、一本伐ってみりゃそれぐらいわかるわな。じゃあ、まあ、もうちょい頑張ってくる」


〔・いってら~〕


 立て札に送り出されて、次の木を伐りに行く耕助。


 四本目で目測を誤り予想外にゲージが減って焦る羽目になった以外は、特に問題なく伐採作業が終わる。


「次は石、の前にちょっと休憩だな……」


〔・おつ。

 ・にしても、状況的に仕方ないとはいえ

 ・耕助もよく、おとなしく作業に行く〕


「そりゃまあ、やらなきゃ詰むしなあ……」


〔・というか

 ・文句は言っても反抗する気はなさそうなの

 ・ちょっとどうかと思う〕


「反抗して、どうにかなるのか?」


〔・ならない。

 ・けど、それはそれとして

 ・すごい社畜っぽい〕


「自分でも、ちょっと社畜っぽいとは思ってる……」


 立て札に指摘され、どんよりした表情でうなずく耕助。


 現時点ではそれが功を奏している部分はあるが、なんにしてもあまり健全な状態とは言えまい。


「……まあ、それはそれとして、腹減ったけど、食うものは現状この栄養バーだけ。鑑定結果のものすごく水分を持っていかれるっていうのが、結構怖いんだよなあ……」


〔・井戸はあるから、水は飲み放題〕


「桶から直接行けってか? まあ、別にそれでもいいんだけどなあ……」


 そういいながら、痛む足をこらえて井戸に近づき、水を汲み上げる。


「さて、食うか。味は……、バニラにフルーツにチョコか」


〔・ちなみに、今回は出なかったけどメープルとチーズもある〕


「食えるだけマシなんだろうけど、個人的にはバニラよりチーズのほうがよかったな」


〔・そこはランダムだから仕方がない〕


「まあ、ガチャだからなあ……」


 などと立て札と雑談しながら、とりあえずバニラ味のパッケージを開ける耕助。


 二本ひとパックになっている個包装を開封し、一本目を口にする。


「いわゆるブロックタイプのバランス栄養食の、それも無難な味ってやつだな。この水分の持っていかれ方も、よく知ってるやつだわ……」


〔・ガチでずぼらな人のお供。

 ・これとゼリータイプの高カロリー食

 ・どっちが人間としてマシな食生活なのかは

 ・永遠の課題〕


「かもなあ。しかし、これで五百キロカロリーか……」


〔・食べた気がしないのは分かる〕


「のくせに、異様に腹にたまるんだよなあ。食えて二本だわ」


〔・三本以上は肥満に一直線〕


「いや、その前に、この環境で毎回こんなもん三本も食うようじゃ、飢え死にする未来しか見えん」


〔・同意〕


 そんな話をしながら、もう一本を食べきる耕助。


 なんだかんだでずっと何も食べていなかったので、二本ぐらいは余裕で食べることができる。


「さて、次は石か。木材とは別の方向で腰に来そうだな……」


〔・がんばれ~〕


 昼食なのか間食なのか微妙な食事を終え、次のノルマを達成しに行く耕助。


 すでに突っ込むべきことは伐採の時点で突っ込み終わっていたので、石集めはひたすら黙々と作業を進めることに。


 ゲージの減りを見ながら不自然に地面に埋まっている石をハンマーで叩いて砕き、拾い集めては立て札のもとへ運ぶこと四往復。


〔・あっ、これで必要数はそろった。

 ・おつ~〕


「そうか。四回しかやってないけど、それでいいのか?」


〔・ん。石は重量でカウントしてた。

 ・どれぐらいとか説明してもどうせ計れないから

 ・砕く石の個数で指示〕


「なるほどな。それで、クラフト台はすぐできるのか?」


〔・ん。五カウントぐらいで完成する。

 ・というわけで、立て札パワー発動〕


 耕助に問われ、淡々とそう告げてクラフト台を作り始める立て札。


 材料が光って宙に浮き、立て札にタイマーゲージが表示される。


 立て札のゲージが満タンになってすぐに、耕助の目の前にこまごまとした道具がたくさん載った台が出現する。


「これがクラフト台か。……やっぱり、耐久力ゲージはあるんだな……」


〔・ん。

 ・ありとあらゆるものにHPか耐久力がある。

 ・これが、この島の絶対的なルール〕


「てことはだ。常にクラフト台と素材を集めるための道具を作る、もしくは修理するための材料は確保しておかないと詰むってことか……」


〔・そうなる。

 ・資源は本質的には無限だけど、一度に確保できる分量は有限。

 ・ご利用は計画的に〕


「はあ……。先が思いやられるな……」


〔・がんばれ~。

 ・ボクは、期待しながら観察してる。

 ・具体的にはバブル崩壊前後ぐらいの地上波バラエティ番組の

 ・体張った企画ぐらいの四苦八苦ぶりを〕


「だろうと思ったよ!」


 立て札の要望に、思わず絶叫してしまう耕助。


 なんだかんだで、本当に必要最低限の活動基盤はどうにか確保できた耕助であった。

というわけで、ある意味ここで初めて新作が始まったとも言えます。

なお、さすがに今回の完全栄養食バーに関しては、サイコロではなく作者がこれを出すと決めています。

が、これからどんどん、ガチャの内容をはじめサイコロで決める内容が増えていきます。

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― 新着の感想 ―
感想欄見たら「看板は澪じゃね?」って思ってる人だらけで安心した 口調とかでそう思うよね
立て札の中身がフェアクロの澪に見えるな。
[気になる点] これ、立て札の中の人(?)澪で、飛ばされた原因、春菜さんでは?(最近久しぶりに読み返した)
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