第18話 技術革新をしよう その1 レンガを作ろう
「……どうにか食料貯蔵庫もできたか……」
二個目の資源用倉庫が完成してから三十分後。
残っていた材料の半分以上を消費し、ようやく食料貯蔵庫が完成する。
「これで、イノシシやドラゴンをいっぱい狩っても大丈夫なんですよね!?」
「……さすがにまだ、そこまでの容量はなさそうだな」
保存に制限がかからなくなると食料貯蔵庫の完成を喜ぶシェリアに対し、そんな無情な事実を告げて水を差す耕助。
実際問題、所詮レベル1の倉庫が一個増えただけなので、シェリアが好き放題狩っても大丈夫なほどの容量はない。
それでもさすがに倉庫に分類されるだけあって、アイテムボックスよりは大量に保存できるようだ。
具体的には、今までシェリアが狩ってきた獲物を全部入れて、まだ一頭分ぐらいの余裕がある。
「倉庫のレベルアップの条件は、俺のインベントリと同じっぽいな」
「えっと、どんな感じでしたっけ?」
「シンプルに、収納してる量と時間、必要な出し入れの回数に応じて成長する。倉庫の場合、収納されているものを取り出さずに加工しても経験値になるっぽいな」
〔・実は、耕助のインベントリも
・中身を出さずに加工できるようになってる〕
「それは知らなかったな」
シェリアに対してレベルアップ条件を説明していると、立て札がそんな補足を入れる。
立て札の補足に、そうなのかと感心する耕助。
現在、インベントリの中身はほぼ食材で埋まっているため、クラフト台での加工の時には気が付かなかったのだ。
「しかし、こうなってくるとアイテムバッグはともかくとして、アイテムボックスの存在意義は怪しくなってくるなあ……」
〔・でもない。
・倉庫は一度設置すると耕助しか動かせないけど
・アイテムボックスは誰でも動かせる。
・さらに言うと、倉庫の設置は耕助にしかできないけど
・アイテムボックスは誰でも配置できる〕
「そういう制限があるのか」
〔・ん。
・設備とマスコット関係は
・使用回数とか恩恵は関係者全員に影響するけど
・設置とか移設、改造、強化は耕助専用。
・あと、現時点では食料でも資源でもないものは
・アイテムボックスで保管しなきゃならない〕
「ああ、そりゃそうだ」
〔・最終的に全カテゴリーの倉庫ができたとして
・個人で管理したいものとか絶対出てくる。
・なので、アイテムボックスがいらなくなることはない〕
アイテムボックスについて、そんな解説をする立て札。
アイテムバッグのように持ち運びに向いているわけでもなく、かといって倉庫に比べれば容量が小さく使っているうちに増えるわけでもないアイテムボックスだが、それはそれで使い道があるのだ。
「まあ、倉庫とアイテムボックスの違いはそれでいいとして、この後何に手を付けるか……」
「このまま設備を増やしていくのはダメですか?」
「そうだな。となると、まずは何を増やせるかの確認だけど、その前に……」
シェリアの提案にうなずきつつ、資源用倉庫の中身を確認する耕助。
シェリアが調子に乗って集めまくった木材と石材だが、度重なる失敗と呪い付きのせいでかなり残量が心もとなくなっていた。
特に木材の量は危険領域で、早急に集めねばならない。
「悪いけど、木と石を集めてきてもらえないか? 比率としては木を3で石を1ぐらいで。俺も近場のはやっとくから、シェリアはできるだけ遠くに行ってくれ」
「分かりました!」
シェリアに指示を出し、自身も採取作業に入る耕助。
たまにはやっておかないと、いつまでたっても腕が上がらないのだ。
この際、大した回数ではないことには目をつぶることとする。
「倉庫が半分ぐらい埋まったら、昼の準備かな?」
近場の木を伐りながらそんなことを考える耕助。
なんだかんだで、耕助が周辺の木と石を集め終えたぐらいで倉庫がいい感じに埋まり、昼食にちょうどいいぐらいの時間になるのであった。
「調子はどうじゃ?」
昼食の準備を終え、シェリアが戻るのを待っていると、レティが拠点に顔を出す。
「主に俺の運が悪すぎて順調とはいいがたいが、まあまあ進んでる。レティのほうは、住処を整えるのはもういいのか?」
「まあ、暮らす分には問題ない状態にはなったでな」
「そうか。単なるドラゴン肉の塩焼きだけど、昼を食うか?」
「せっかくじゃから、馳走になるとするかの」
ドラゴンにドラゴン肉を勧めるという暴挙を行う耕助に対し、特に気にした様子もなくあっさりご相伴にあずかるレティ。
所詮レッサードラゴンだからか、レティ的に割とそのあたりはどうでもいいらしい。
「それでじゃ。何か面白いことはないかの?」
「面白いの基準が分からないが、手伝ってもらえると助かることはある」
「ほう? 言うてみよ」
「多分、レティだったらすぐ終わるとは思うんだが、鉱物資源採掘場を今日の採掘回数上限まで掘ってほしいんだ」
「ふむ、妾に鉱員の真似をせよというのか、面白い」
「まあ、普通はバハムートにそんなこと頼まないよなあ……」
やたら面白がるレティに対し、苦笑しながらそう応じる耕助。
自分でも無茶を言っている自覚はあるのだ。
「そもそもバハムート云々以前の問題でな、ドラゴンに採掘作業なんぞやらせた日には、有り余るパワーで坑道そのものを崩落させるのが落ちじゃて」
「言われてみれば、そうだよな……」
「まあ、雰囲気的にその鉱物資源採掘場とやらは立て札の絡んだ設備じゃろうから、破壊できる仕様になっておらんじゃろうとは思うがの。問題は、素手で掘れるのかどうかのほうじゃ」
「素手でって……。ああ、俺が作る工具が、レティのパワーに耐えられないかもしれないってことか」
「うむ。まあ、シェリアが大丈夫なら、妾が使っても大丈夫じゃろうがな」
そう言いながら、焼けたドラゴン肉を受け取ってかぶりつくレティ。
それを見ながら、自分の分にかぶりつく耕助。
歯切れは良いが異様にしっかりした歯ごたえの肉を噛みしめると、ドラゴンの持つ野趣あふれるうまみの暴力が口の中を蹂躙する。
「……ドラゴンの肉って、うまいんだな……」
「うむ。下級のドラゴンは、食肉として一級品じゃからな。とはいえ、うまみが強すぎて、塩焼きだけじゃとすぐ飽きるのが難点じゃが」
「そうだな」
ドラゴン肉に対して、そんな感想を口にする耕助とレティ。
なお、ジビエ肉の究極系ともいえる肉なので、ただ焼いただけでは間違っても柔らかいとか口の中で溶けるとかいう評価は出てこない。
筋張った硬さとは違うので食べやすくはあるが、それなりに顎が強くないと厳しい肉なのだ。
この点に関しては、部位が変わってもさほど違いは出ない。
「塩以外の調味料が気軽に使えるだけ欲しい……」
「設備と作物を充実させるしかないじゃろうな。もしくは交易じゃが」
「そういや、まだ交易のページは見てなかったな。ミッションがいろいろ終わってるはずだから、完了操作のついでに確認するか」
「そういうのは、こまめにチェックしておかんといかんぞ」
「分かってるんだけどなあ……」
レティに注意され、ばつの悪そうな顔でそう言い訳する耕助。
目先の作業に意識が全集中しがちな耕助の欠点と、大規模アプデや新要素が大量に解放された直後にありがちなやることが多すぎて全部チェックできない問題が、悪い方向で相乗効果を発揮した形である。
「まあ、ちょうどいいタイミングだし、ちょっと確認するわ」
「うむ」
「……スペパププにチェチェモゲラにモケケピロピロって、どんな種族か全く想像もつかないぞ……」
「すまん、妾にも分からん……」
〔・まさかのモケケピロピロとは……〕
「知ってるのか、立て札?」
〔・知ってるといえば知ってる。
・とあるTRPGグループのリプレイでよく出てくる名前。
・ぶっちゃけ、出てくるたびに説明が違うから
・どんなものかははっきりしない〕
「なんだそりゃ……」
立て札の実質何も知らないと言っているのと変わらない説明に、思わずジト目を向けてしまう耕助。
この分では、他の種族もよく分からない存在なのだろう。
「交易品もよく分からないものばかりだから、とりあえずしばらくは放置でよさそうだな」
「うむ。さすがに妾が知らんものが出てくるとは思わなかったぞ」
〔・ん。
・誰かの好物とかで名前は出てくるけど
・どんなものかの描写が一切ないっていうのが結構出てるし
・しばらくは、どころか今出てる種族はずっと放置で問題ないと思う〕
「……レティどころか立て札すらよく分からないって、どうなってんだよ」
〔・何度も言ってるけど
・この島に関しては本来ボクの管轄外。
・どういう管理をされてたかも引き継ぎがないから
・実質ほぼ何もわかってない状態。
・基本システムの整備と安定化は終わったけど
・それ以上のことは実質手つかずだから
・何が出てきても不思議じゃない〕
耕助のボヤキに対し、それ以上のボヤキをぶつける立て札。
基本的に互換性がない、どころかOSすら違うシステムを強引に統合しているような状態なので、どんなバグや想定外の挙動が潜んでいてもおかしくない。
実際、すでに特殊テイムでペットと設備のシステムが解放されるという、想定外の挙動が起こっている。
もともとは管理する設備が複数になることがトリガーの予定だったので、想定としては耕助がワープポータルか倉庫を入手することで解放されるはずだったのだ。
今回は実質的に大した差はなかったので問題ないが、全部が全部結果オーライでいけるとは思えないのが、管理者として頭が痛いところである。
「この分だと、今後も基本的に交易は当てにできないと思っておいたほうがよさそうだな……」
「じゃのう……」
〔・悪いけど、そのつもりで。
・それこそ、要求品に用意できるものが出てきたらラッキー
・ぐらいの感覚でよろ〕
「まあ、もともとそんな感じだろうから、考えようによっては大差ないっちゃないんだよな。用意できるものが出てくる確率が絶望的になっただけで」
「何が絶望的なんでしょうか?」
交易について方針が決まったタイミングで、シェリアが戻ってくる。
「お帰り、シェリア。相手が要求する交易品が正体不明なものばかりだったもんだから、用意できるものが要求される確率は絶望的だなって話をしてた」
「へえ、そうなんですか? ……確かに、種族名も欲しい品物の名前も全然知らないものばかりですね」
「だろう?」
「あっ、でもこのシェロモギラっていうのは知ってます」
「「〔・えっ?〕」」
予想外のことを言い出すシェリアに、思わず間抜けな声を上げてしまう耕助、レティ、立て札。
立て札すら知らないようなものを、シェリアが知っているのは意外にもほどがある。
「……それ、どんなものなんだ?」
「同じものかどうかは分からないんですけど、近くのホーンビートルマンの集落で食べられてる食べ物です。四角で丸くて三角でにゅるにょろって感じの見た目で、へにょっとしつつしゃきっとした食感の、ピリッと甘辛いけどまろやかな食べ物です」
「……全然分からん」
「言葉で説明できるようなものじゃないんですよ……」
「……ちなみにそれ、作れるか?」
「ホーンビートルマンが分泌する酵素が必要らしいので、無理です」
「結局絶望的なわけか」
シェリアの説明に、改めて交易は捨てることにする耕助。
どうせ、どんなものかは分からない。
「分からないものは置いておこう。とりあえず、シェリア。ドラゴン肉焼いておいたから、適当に食ってくれ」
「はーい」
「で、俺のほうは完了できそうなミッションをつぶして……。……レンガを作らないと、先に進まないっぽいな」
シェリアが肉を食べている間にミッションをチェックし、そう結論を出す耕助。
そのものずばりなレンガを作ろうというミッションがあり、その報酬が耐熱煉瓦とそれを焼ける窯のレシピなのだ。
恐らくそこを乗り越えないと、鉄鉱石を扱えない。
また、食料貯蔵庫と資源用倉庫を揃えたことでもらえた宝物庫のレシピにも、レンガそのものが必要だったりする。
「じゃあ、レンガを作ってみるか」
「では、ちょっくら掘ってくるとするかの。当面は毎日五回掘ればいいんじゃな?」
「そうしてくれるなら、ありがたい」
「基本暇じゃから、それぐらいはやろうではないか」
そう言ってつるはしを担ぎ、とてとてと鉱物資源採掘場に歩いていくレティ。
それを見送って、一応設備とペットのページを確認する耕助。
設備総合レベルの影響がよく分からないので、もしかしたら説明が増えているのではないかと期待したのだ。
「……さっき失敗しまくったのが効いてるのか、クラフト台のレベルがものすごく上がってるな。今日追加した設備と比べて二十倍以上ときたか……」
〔・そもそも、使用回数そのものが
・他の設備とは段違い〕
「そりゃまあ、そうだが」
〔・ちなみに、耕助のクラフトも
・かなり熟練度が上がってる〕
「シェリアに伐採とかの作業もってかれてるから、基本クラフトか料理しかしてないもんなあ……」
〔・ん。
・なので、何気に料理スキルが生えて
・伐採や採取、採掘の熟練度を追い越してる〕
「微妙に泣けてくるんだが、それ……」
そうぼやきつつ、設備総合レベルの表示を触ってみる耕助。
残念ながら伝言板にはそういう機能はないらしく、詳細説明が出てくることはなかった。
「……やっぱ、ちょっと古いゲームとかの仕様になってるな。かといって、ヘルプページもないんだよな。……各項目を鑑定すれば内容が分かるとか、そういう落ちか?」
ふとした思い付きに、その可能性は大いにあると念のため鑑定してみる耕助。
その思い付きは正しく、きっちり設備総合レベルについての説明が見える。
なお、設備総合レベルの仕様は
1.設備総合レベルとは、所有する設備のレベルを全部合計した数値である。
2.設備とはカテゴリーが設備となっているものを指し、農地と家は含まない。
3.全ての設備は、容量、耐久度が設備総合レベル%増える。
4.生産に使う設備は固定失敗率が設備総合レベル/10%減少する。
5.設備総合レベルが50ごとに、生産を行う設備の最大算出数が1増える。
6.設備総合レベルが75ごとに、生産を行う設備の最小算出数が1増える。
7.設備総合レベルが100ごとに、一日の生産回数制限が1増える。
8.そのほか、設備ごとに固有の補正が存在する。
となっている。
どうやら、先ほどシェリアがやたら大量に採掘できたのは、設備総合レベルの補正も入っていたからのようだ。
ただし、今の時点では最大数にしか補正がかかっていないので、耕助のように爆死としか言いようがない結果になることも普通にある。
「大体のことは分ったから、レンガを作るか」
〔・がんばれ~〕
「の前に、結構酷使してるから、クラフト台の耐久値もチェックしとかないと」
〔・おおっと
・耕助がそういう細かいことに気を回すとは〕
「言われると思った……」
そう言いながら、クラフト台の耐久値をチェックする耕助。
大分酷使しているように思ったクラフト台だが、消耗はまだ一割程度であった。
「思ったより減ってないな。いや、設備総合レベルの補正も入ってるから、実際には二割ぐらい削られてた感じか」
〔・さっきの失敗と呪いの嵐は
・設備総合レベルの補正がなかったら
・下手したら壊れる寸前までいってたかも〕
「ああ、耐久値そのものだけじゃなくて、減り方にも補正がかかってるのか……」
〔・ん。
・クラフト台の場合むしろ
・耐久値が減りにくくなるほうに大きく補正がかかる〕
「それは、非常にありがたいな……」
立て札の説明に、本気でありがたそうにうなずく耕助。
この島で耕助が行う作業は、ほとんどがランダムに結果が決まる類のものである。
逆に言うと、作業そのものに努力や工夫の余地があまりないということだ。
なので、基本的に運がマイナスに大きく振れている耕助の場合、失敗のペナルティを軽減してくれるタイプの補正は成功の効果を増強してくれるものよりありがたいのである。
「そういえば、このクラフト台が壊れた場合、設備総合レベルとかはどうなるんだ?」
〔・新しいクラフト台を作れば、設備レベルそのものは引き継ぐ。
・ただし、裏で蓄積してたクラフト台そのものの熟練度は
・当然のごとく全損。
・例えると、カテゴリーとして片手剣のレベルがあって
・それとは別にアイアンソード一本一本に独立したレベルがあるとか
・そういう感じで考えて〕
「ああ、そういうパターンか」
立て札の説明に、なんとなく概念を理解してうなずく耕助。
やりこみ系のゲームで散見される、キャラのスキルレベルと武器自体のレベルが同居しているタイプの仕様。
それが設備にも適用されていると考えればいいのだろう。
恐らくだが、設備総合レベルおよび設備カテゴリーのレベルは耕助と紐づけされているが、個別の設備レベルは設備そのものと紐づけされていると考えられる。
そう考えれば、いずれレベルが上がった設備は上位の設備へと進化させたりできるのだろう。
「となると、早めに修理関係のスキルが欲しいな……」
「確かに、資材の消費速度を考えれば、修理できるに越したことはないのう」
「ああ、おかえり。終わったのか」
〔・おか~〕
「うむ。いいのか悪いのか、粘土が二十五個じゃ。一応倉庫に入れておいたぞ」
「今日に関しては、大いに助かるって感じだがな」
〔・シェリアもだけど、レティも大概豪運〕
「むしろ、耕助の運が悪すぎなのじゃ」
そう言いながら、耕助の作業を見守るために、やや後ろのほうで偉そうに腕を組んでふんぞり返るレティ。
いわゆる後方師匠面というやつである。
「じゃあまあ、レンガ作るわ」
〔・呪われる可能性はあるけど
・失敗はしないから安心して。
・設備総合レベルが低かったら
・固定失敗率に引っかかってた可能性はあるけど〕
「そういうレベルか……」
〔・クラフト台と錬金術は、大体において代替手段。
・なので、よっぽど簡単なものか救済措置的なもの以外
・結構高めの固定失敗率がある〕
「なるほど。まあ、レンガなんて本来は陶器焼く窯で焼いて作るもんだしなあ……」
そう言いながら、クラフト台で粘土を加工する耕助。
立て札の言うとおり、最初のレンガは素直に何のトラブルもなく完成する。
「うお、二個できた……」
〔・おめ〕
「説明通りとはいえ、本当にクラフト台でも複数できるんだな……」
耕助にあるまじき幸運で、二つ完成したレンガ。
もっとも、レンガに関しては二つやそこらあったところで意味がないのだが。
「どっちも呪いも何もついてないとか、奇跡だな……」
〔・本来は、それが普通なんだけど……〕
「耕助じゃからのう……」
二個できたレンガがどちらも問題なしと分かり、感動に打ち震える耕助。
それに対し、なんとも生温い視線を向けてしまう立て札とレティ。
「……よし、これで土器を焼く石窯のレシピが手に入る。それを使ってもうちょい使いやすい食器と調理器具作ったら、ありったけの粘土でレンガを作るか」
「それはいいんじゃが、残りの粘土はせいぜい三十ちょっとなんじゃろう? そんなに大量に作れるのか?」
「石窯だとレートが変わるから、俺の運を差し引いてもこのままクラフト台で作るよりはだいぶましなはず」
「だといいんじゃがのう……」
耕助の言葉に、どうにも懐疑的な反応をせざるを得ないレティ。
まだ一日に満たない付き合いだが、耕助がかなり運がないタイプなのははっきり理解している。
入手手段が限られている素材を、そんな楽観的な考えで使って大丈夫なのか、非常に不安である。
「レティの不安も分かるんだが、後々のことを考えると、今の時点でどれだけ壊滅的な結果になろうと他の選択肢がないんだ……」
「ふむ、というと?」
「石窯でやって壊滅するんだったら、結局クラフト台でやっても壊滅するんだよ。だったら、石窯のレベルと陶芸の熟練度を少しでも上げたほうが身になる……」
「ふむ、そういうことなら理解できる。が、材料の残量が微妙なのも事実じゃぞ? 一応他の当ても用意しておかんといかんのでは?」
別に勢いだけでやろうとしているわけではないと知り、一応納得しつつもそこを突っ込んでおくレティ。
そのレティに対し、ドラゴン肉を十分に堪能したシェリアが意見を言う。
「それですが、アップデート前に採掘できそうな場所をいくつか見つけてるんですよ。なので、そこをちょっと掘ってみるのもありかなって」
「ふむ。なるほどのう。で、シェリアの本音は?」
「採掘も楽しかったので、もっと掘りたいです」
「うむ、よろしい」
シェリアの正直な言葉に、満足そうにうなずくレティ。
「そういう訳ですので、耕助さん。つるはしいっぱい作っておいてください」
「了解」
「採掘に便利な場所が見つかったら、ワープポータルを置くのもいいかも」
「その辺の場所の選定は任せる」
シェリアの欲望駄々洩れでありながら、実に効率的で効果的な提案を全部了承する耕助。
そのまま、つるはしを十本ほど作り上げる。
「……残念、二本に呪いがついてる。まあ、そのうち一本はなぜか祝福もかかってるが……」
「ちょっと使ってみて、不利益があったら砕けばよかろう」
「そうですね」
耕助らしい結果に苦笑しつつ、呪いなど気にしないという感じでつるはしを根こそぎ持っていくレティとシェリア。
どうやらランダムでつく程度のしょぼい呪いでは、レティやシェリアのような強い存在に害をなすのは不可能らしく……
「使ってみたところ、若干呪いが付きやすい気がする程度じゃった」
「結局普通のつるはしや祝福が付いたつるはしでも、呪いが付くときはつく感じでしたので、気にせず使ってもいいかなと」
「そうか。ってか、どうやって呪いがついてるかどうか、確認したんだ?」
「あそこまであからさまじゃと、見ればわかるもんでな」
「ですねえ」
という、なんとも耕助の雑魚さが際立つ結果に終わったのであった。
ことあるごとに、耕助の雑魚さと運のなさが強調される件について。
雑魚いのは地球人LV0スタートの時点でどうしようもないにしても、運のなさはガチでひどい。
信じられるか? これちゃんとダイスで判定した結果なんだぜ?
後、モケケピロピロとスペパププが大丈夫なのかどうか不安な件。
ここでしか出てこない名前とはいえ、もろに元ネタがあるのが……。
スペパププは偶然ダブったネタですが、他に名前のネタがない……