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第13話 家を建てよう

「……んあ?」


 六日目の朝。耕助は何やら、全身を押さえつけられるような感触で目が覚める。


〔・昨夜はおたのしみでしたね〕


「……定番すぎないか、そのネタ……」


 目覚めると同時に立て札にぶっこまれ、ジト目でそう返す耕助。


 今日も耕助は、シェリアに抱き枕にされていた。


〔・実際におたのしみになっても

 ・別にいいんじゃないかとは思う〕


「だから、シェリアの気持ちを横に置くとしても、今やるのは自殺行為だと言ってるだろうが……」


〔・今から仕込んでも

 ・生まれるまで一年近くかかる。

 ・そのころには、食料は問題なくなってるはず〕


「だといいけどな……」


〔・あと、多分シェリアは

 ・耕助ならいつでもOKだとおもう。

 ・翼人族ってぶっちゃけ

 ・そんなに恋愛感情とか重視しない

 ・嫌悪感がない相手なら誰でもOK〕


「それはそれで、失礼な話のような気がするが……」


 ものすごくひどいことを言い放つ立て札に対し、思わずそう突っ込む耕助。


 そのタイミングで、シェリアが気持ちよさそうに耕助にすりすりする。


「……早く起こさないと、いろんな意味でやばい……」


 種類の違う様々な柔らかさに理性をゴリゴリ削られ、そう決心する耕助。


 ここで耕助が相手の無防備さに付け込めるような人間だったなら、いろいろな意味で違う人生を歩んでいただろう。


 が、よく言えば誠実、悪く言えばヘタレな耕助には、二十近く年下の少女の無防備さに付け込んで手を出す発想も度胸もない。


 もっとも、ここで手を出せるような男だったら、恐らくシェリアに限界まで搾り取られた後に始末される未来が待っていただろう。


 そういう意味では命拾いしたと言えなくもない。


「シェリア、起きろ! シェリア!」


 理性が削りきられる前にと、必死になってシェリアを起こす耕助。


 その動作のたびにさらなる柔らかさに襲われ、どんどん追い詰められていくのが哀れである。


「……ほえ?」


「それはもういいから……」


 例のあざとい寝ぼけ声を漏らすシェリアに、そう突っ込む耕助。


 拘束が緩んだタイミングで、すっと体を引きはがす。


「あ~、耕助さん……。おはようございましゅ……」


「おはよう。ジャガイモ茹でるから、顔洗ってきな」


「ふぁ~い」


 まだどことなく寝ぼけている感じのシェリアを送り出し、火を熾して湯を沸かす耕助。


 こうして、六日目の朝が始まったのであった。








「今日から、家を建てようかと思う」


 朝の畑仕事と朝食を終え、今日の予定をそう宣言する耕助。


「ということは、私は材料集めですね!」


「まあ、そうなるんだが……」


「頑張って、たくさん集めてきますね!」


 材料が必要と聞いて、目を輝かせるシェリア。


 どうにも、とことんまで材料収集にはまってしまっているらしい。


〔・耕助、耕助。

 ・家を建て始める前に、今日のガチャ〕


「おっと、そうだな。回してくれ」


〔・りょ〕


 立て札に突っ込まれ、今日のガチャをサクッと回す耕助。


 なお、デイリーガチャには何も期待していないので、今日のガラクタは何かという方向にしか興味は向いていない。


〔・何が出るかな、何が出るかな。

 ・……お約束の、レアリティ演出。

 ・……すごい、一気にハイテク。

 ・なんと、デジタル複合機〕


「この環境で、それをどう使えと?」


〔・なお、お約束のように

 ・紙とトナーはついてない〕


「だろうと思ったよ。まあ、電気と紙とトナーがあっても、FAX機能は完全に飾りだが」


「えっと、これは何に使うものなんですか?」


「紙に書かれている文字とか絵とかを、別の紙に複写する機械。複写先に使う紙は使えるものが決まってるけど、それを踏まえても便利なものなのは間違いない」


「へ~……」


「まあ、例によって動かすための動力とかそういうものが一切ないから、基本的に現状はただのガラクタなんだがな」


〔・しかも、コピーする必要があるものも特にない〕


「だな」


 シェリアに簡単に説明しつつ、そう結論を出す耕助と立て札。


 なお、デジタル複合機なのでコピーだけでなくFAXとスキャナも組み込まれているが、シェリアに説明するのが難しいため二人とも省略している。


〔・それにしても耕助。

 ・今日まで全部石油か電気が必要なものって

 ・ある意味すごい〕


「だよなあ……」


〔・レアリティだけで言うなら

 ・ものすごい勝率〕


「まったく役に立ってないのがすげえよな。にしても、こういう文明の利器をガンガン放り込んでいいのか?」


〔・元から特に気にしてない。

 ・それで滅ぶならどっちにしてもいずれ滅ぶ。

 ・それに、この島はもともと別の世界の一部。

 ・現時点でどうなろうと

 ・本来のボクの世界には影響ない〕


「そういうもんか?」


〔・そういうもの〕


 ガチャ結果について、そんなことを言い合う立て札と耕助。


 耕助に対する返事を見るに、どうやら立て札は自分の管理する世界について割とドライな考え方をしているようだ。


「さて、お約束も回収したことだし、さっさと作業に入ろう」


「じゃあ、私は、材料をたくさん集めていますね!」


「ああ、頼む」


〔・がんばれ~〕


 デイリーガチャも消化し、本日の作業へと意識を切り替える一同。


 早くもシェリアが道具とアイテムボックスを持って飛び出していく。


〔・まあ、今日中には終わらないだろうけど〕


「分かってるって。東屋ですら、半日でぎりぎり終わらなかったんだからな」


 シェリアを見送った後の立て札の言葉に、苦笑しながらそう返す耕助。


 今の耕助だと、持っているレシピ的にも建築技術的にも、サンドボックスゲームで言うところの豆腐建築に近いものしか作れない。


 が、それとて東屋と比べると、壁と床と扉と窓が増えるので、かかる手間は段違いになる。


 材料はシェリアが大量に集めてきてくれるだろうが、それらの加工だけで下手をすれば一日以上つぶれるだろう。


〔・今日の見どころはあと、

 ・デイリーミッションの報酬と

 ・シェリアがエロトラブルを起こすかどうかぐらい。

 ・正直、撮れ高は少なそう〕


「むしろ、毎日撮れ高があるほうがおかしいと思うんだが?」


〔・まあ、それはそう。

 ・ただ、今日だけじゃなくて、

 ・しばらくは撮れ高低い気はしてる〕


「建築なんて、ある程度作業が進まないと見栄えしないからなあ……」


 立て札の言葉に、そう言って同意する耕助。


 ただただ丸太を削ったり穴を掘ったりするだけの作業というのは、それだけをずっと見ていてさほど楽しいものでもない。


 カメラワークや編集の仕方によっては、ASMR的な感じでいつまで見ていても飽きない映像にすることはできるかもしれないが、そんな面倒なことを立て札がするわけもない。


 また、生産ラインのように規則正しくてきぱきと動くのであれば無造作に映像を垂れ流しても飽きないが、耕助の作業はそこまでの領域には達していない。


 なので、現時点では撮れ高になる要素はないと言っていいだろう。


「さて、まずは、何はなくとも各種採取道具の在庫チェックと補充から……」


「ひゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 耕助が作業の段取りをつぶやきながら道具を確認しに行こうとしたところで、悲鳴とともにシェリアが落ちてくる。


 どんな奇跡か、悲鳴に気が付いて顔を上げた耕助の視界が、一瞬でシェリアのスカートの中に覆いつくされる。


 そのままの勢いで耕助の顔を股間に挟んで押し倒すシェリア。


 なかなかに破廉恥な状況である。


〔・……いくらR指定がついているとはいえ

 ・一応全年齢なのに顔面騎乗位とは恐れ入った……〕


 状況の破廉恥さを、全年齢としては危険極まりない表現で言い表す立て札。


 なお、転倒する際に妙にスローモーションだったこともあり、耕助に対する心配は一切していない。


〔・まあ、多少とはいえ、今日の撮れ高は稼げたっぽい。

 ・たぶんこの後は大したことは起らないだろうし、

 ・仕事しよう〕


 そんな無情なことを言いながら、意識の大部分を耕助たちの観察から自身の仕事へと切り替える立て札。


 その立て札の予想通り、家の場所を決め材料の加工とある程度の基礎工事を終えたところで日が落ち、非常に地味な内容で一日が終わる。


 結局この日は、デイリーミッションの報酬がはったい粉というコメントに困るものだったこと以外、特にネタになるようなことはないまま終わるのであった。








 翌日の夕方。


「飛べるって、すごいなあ……」


〔・こんなに早く完成するとは、

 ・さすがに予想外〕


「今夜から、屋根と壁のある生活ですね!」


 出来上がった家を前に、各々正直な感想を口にする一同。


 基礎工事が終わっていたとはいえ、畑仕事もこなした上で日が落ちる前に完成するとは耕助も立て札も思っていなかったのだ。


「大したサイズの家じゃないとはいえ、シェリアのおかげでものすごく早く完成した。本当に助かったわ」


〔・屋根作るのに足場いらなかったの、大きい〕


「だな。壁もやりやすかったし」


 材料の加工や基礎工事では全く出番がなかったシェリアだったが、柱を立ててから後は八面六臂と言っていい活躍を見せた。


 特に高所作業は翼人族の得意分野ということもあり、梁と屋根の取り付けはほぼシェリア一人で終わらせたと言っても過言ではない。


 とはいえ、取り付け方が一目で分かるように耕助が工夫を凝らしたからこそ、シェリアだけで作業が終わったのも事実だ。


 と、いうよりそもそも、シェリアは素材の加工や道具の製作はできない。


 なので、シェリアだけでいいのでは、とはならない。


 なお、途中で二回ほど耕助の目の前で服をひっかけて胸をポロリしていたが、耕助の動揺をよそに本人は一切気にしていない。


「さて、建物はできたが、家具は用意してないんだよな。せめて布団ぐらいは用意しとくか」


〔・諸般の事情で、その前に服をお勧め。

 ・それに、たぶん二人分の布団や敷物には

 ・毛皮が足りないはず。

 ・あと、よく考えたら

 ・今日のガチャやってない〕


「あ~、だな……」


 立て札に言われ、色々忘れていることに気が付く耕助。


 今日はシェリアのテンションが高かったため、朝食と畑仕事を終えてすぐに家づくりを始めたのだ。


 そのため、ガチャだけに限らずいろいろとやっていないことがある。


「そういや、デイリーミッションも確認してねえわ」


「あ、そうでしたね」


「今日のデイリーは……、畑仕事だから終わってるな。報酬はノンジャンルか。とりあえず完了っと」


 デイリーミッションを確認し、完了操作を行う耕助。


 出てきたのはキザラという謎の粉であった。


「なんだこりゃ?」


「なんなんでしょう?」


〔・確か、砂糖の一種。

 ・某じゃりン子に出てくる元ボクサーが

 ・カルメラ焼きっていうお菓子の材料に使ってた〕


「全然分からねえわ……」


「初めて聞きました……」


〔・さすがに昭和のころの漫画だから

 ・耕助が知らないのも無理はないかも〕


「昨日のはったい粉といい、絶妙によく分からないものが出てきてんなあ……。まあ、砂糖だってんだったら、使い道はいくらでもあるから大当たりではあるな」


 またしてもよく知らないものが出てきたため、思わず遠い目をしてしまう耕助。


 そもそも、ノンジャンルなのに調味料が出てきていること自体、大きな突っ込みどころであろう。


「じゃあ、服作るか。ガチャはその後のほうがいいんだよな?」


〔・そのほうが面白いものが見れると

 ・ボクの勘がささやいている〕


「さよか……」


 立て札の言葉にうなずき、皮を処理して服に加工する耕助。


 とはいえ、耕助の能力で作れる服など、バーバリアン的な感じのチョッキと腰巻、あとは鞣しのスキルと一緒にレシピを入手した毛皮の靴がいいところ。


 チョッキなどは言ってしまえば、ほぼほぼ裁断するだけである。


 なので、靴以外はさほど時間もかからない。


 なお、鞣すための膠は、農作物やイノシシの骨髄などから錬金術で取り出して用意している。


「……っと、こんなもんか。この靴とか、よく縫えたなあ……」


〔・おつ〕


「お疲れ様です」


 全体的にはほぼ形通りに裁断するだけの作業だったこともあり、日が落ち切る前に服が完成する。


「せっかく完成したんだし、さっそく着てみるか」


〔・そのまえに、ガチャ。

 ・ボクの勘だと、とても面白いものが出るはず〕


「……つまり、落ちとしてはろくでもないってことだな」


〔・そうとも言う〕


 その言葉に、思わずジト目を向けてしまう耕助。


 立て札が喜んでいる時点で、耕助がいじられる未来は確定していると言っていい。


「まあ、いい。ガチャを回してくれ」


〔・りょ〕


 耕助に言われ、ガチャを回す立て札。


 今日は珍しく、何の演出もなくカプセルが出現する。


〔・お、久しぶりの通常演出。

 ・つまり、レアリティ的には最高でもレア〕


「だな。つまり、実用性の面で期待が持てる、とも言う」


〔・ん〕


 耕助の言い分に、しれっと同意する立て札。


 低レアリティのものがすべて実用的かというと、当然ながらそんなことはない。


 が、高レアリティのものは使うために前提となる設備や環境が必要なものが多いため、原始的な技術しかない無人島という環境では、どうしてもガラクタになりがちである。


〔・実は、食品関係以外では初めてかも。

 ・とりあえず開封〕


 そう宣言して、カプセルを開ける立て札。


 開封と同時に、耕助の足元に布製品らしき何かがひらひらと落ちてくる。


「……トランクス、……だと?」


「わあ、かわいい模様ですね!」


〔・イチゴのトランクスとは

 ・さすが耕助、お約束を外さない〕


 本日耕助が手に入れたのは、イチゴ柄のトランクス三枚セットであった。


「……葉っぱ一枚と比較すれば、ありがたい。ありがたいんだが、どうせ出るならもっと早くに……」


〔・むしろ、服ができた今だから出たんだと思う〕


「……本当に、結果に干渉してないのか?」


〔・してない、というか

 ・するならミッション報酬として固定で渡す。

 ・ボクが特定のものを支給する場合

 ・ミッション報酬か救済措置に限定される〕


「……だよな」


 立て札の言い分に、一応納得する耕助。


 立て札に関してはいろいろと疑わしい要素がごろごろしているが、少なくともガチャに関してはカテゴリー設定以上の干渉はしていないという点は信用している。


 なので、今回も立て札は直接的には何もしていない点については、納得しなくもない。


 ただ、それとは別に、立て札はどうにも乱数をおかしな方向にかき乱す性質を持っているのではないか、という点で、彼女の干渉を疑っていたりはするが。


「……まあ、履いてみる前に、一応鑑定しておくか」


 なんとなく虫の知らせで、手に持ったトランクスを鑑定する耕助。


 鑑定結果は……


”トランクス(イチゴ模様):機能的には普通のトランクス。ランスを投げまくりながら魔界にお姫様を助けに行く騎士のころから、伝統的にパンイチといえばこれかブーメランがお約束。芸人の場合は白のブリーフもよく見かける。なお、こういう時のパンツと言えばイチゴかクマが多い気がするのは気のせいだろうか? ▼”


 という、なかなかにファンキーな内容であった。


「ランスを投げまくる騎士って誰だよ……」


〔・高難易度が売りの、古き良きアクションゲーム。

 ・8ビット時代の名作〕


「さすがに、そこまでは追いきれてないな……」


 思わず鑑定結果に突っ込んだ耕助に、どうでもいい補足を告げる立て札。


 当然のことながら、シェリアは全くついていけていない。


「……ん? この▼、もしかしてまだ鑑定内容が続いてる?」


 鑑定結果の末尾にあった”▼”マークに気が付く耕助。


 この手のマークは大体続きがあるやつだと考え、じっくり確認する。


 予想通り、まだ鑑定結果は全て確認できていなかった。


「……なになに? このトランクスには自動修復と自動浄化が施されているため、跡形もなく燃え尽きでもしない限りは半永久的に使用可能。魔力を込めることで修復と浄化の速度を速めることができる?」


「あっ、私の服と同じですね!」


「そういや、そんなこと言ってたな。しかし、家電なんぞよりよっぽどレアリティ高そうなこと書いてないか、これ?」


〔・自動修復とか自動浄化とか

 ・そこまでレアな機能じゃない〕


「そうなのか?」


「そうですね。普通の服よりかなり高くはつきますけど、旅をするのであれば基本装備みたいなところはあります」


〔・レアリティ的にはレアぐらい。

 ・つまり、ぎりぎり確定演出が入らないぐらい〕


「そういうもんか」


 立て札とシェリアの言葉に、文化や技術の違いを思い知る耕助。


 立て札だけなら担がれている可能性もあるが、シェリアも同じことを言っているので、嘘ではないだろう。


「まあいい。パンツ履くか」


〔・やったね、耕助!

 ・これで文明人に一歩前進だ!〕


「やかましい!」


 嬉しそうに茶々を入れてくる立て札にそう吠えつつ、家の陰でいそいそとトランクスを履く耕助。


 その途中で、一週間に渡り耕助の股間をガードしていた武士の情けがはらりと落ちて朽ち果てる。


「しまった。どうせだったら腰巻とチョッキも持ってきておけばよかった……」


 思わずトランクスだけ持って行ってしまったため、パンイチ姿で戻る羽目になる耕助。


 このあたりの抜けの多さを見るに、ブラックから逃げられなかったのもしょうがないところだろう。


「わあ、耕助さんかわいい!」


〔・シェリアの感覚が分からない……〕


 パンイチの耕助を迎えたのは、シェリアの黄色い声と立て札の戸惑いが浮かんだ言葉であった。


「……なんというか、独特のセンスだな……」


〔・何気に、シェリアって趣味悪そう……〕


「いろんな意味で失礼だな、って言いたいが、正直同感だわ……」


「え~……」


 せっかく褒めたのにぼろくそに言われ、不満そうな声を上げるシェリア。


 とはいえ、パンイチの耕助をかわいいなどとほざくセンスは、何を言われても仕方ないだろう。


 一応耕助の名誉のために言っておくと、別に耕助は不細工と言われるような顔はしていない。


 ただ、どうやってもかわいいと言ってもらえるような容姿や体形はしていないのも事実で、それは本人も自覚しているのである。


「まあいい。とっとと服着よう」


 深掘りすると、ろくなことにならない気がする。


 そんな予感に押され、大急ぎで腰巻を身に着け、チョッキを羽織る。


 わずか数分で、耕助の姿は見事に三下の雑魚いバーバリアンに早変わりした。


「予想はしてたが、嫌な方向で似合ってる感じだな……」


〔・ん、予想以上。

 ・なんというか、ボスに追い立てられて

 ・主人公にビビりながら向かって行って

 ・一瞬で殺される雑魚〕


「それも、腰ぎんちゃくとかじゃなくて、搾取されてパシリにされてる類な……」


 桶の水に映った姿を見て、そんな正直な感想を漏らす耕助。


 それに同意し、なかなかひどいことを言ってのける立て札。


 そんな中、なぜかシェリアが耕助を食い入るように見つめている。


「……なあ、シェリア。どうしたんだ?」


「……耕助さんは、私が守ります!」


「……えっ?」


〔・なんですと?〕


 唐突に、そんなことを宣言するシェリア。


 あまりに唐突すぎてついていけず、間の抜けた言葉を漏らす耕助と立て札。


「耕助さんを見てると、なんかいろんなところがキュンキュンしてきて、守らなきゃって気分になるんです。なので、全力で守らせてください!」


「……いや、意味が分からん」


「え~!?」


 シェリアの言葉を、真っ向から切り捨てる耕助。


 その反応に不満そうなシェリアだが、理解できないものは理解できない。


〔・……多分、本人も自覚してないけど

 ・シェリアの隠された性癖に直撃したんだと思う〕


「この格好の俺がか? 趣味悪くないか?」


〔・この場合、耕助が対象かどうかとは別次元で

 ・趣味が悪いことは否定しない。

 ・ただ、考えようによっては耕助でよかったかも〕


「……ヘタレで安全だからか?」


〔・それもあるけど

 ・耕助相手なら、悪いことにはならない確信はある〕


「だといいんだがな……」


 ささやくように表示するという器用な真似で、耕助に自身の考察を告げる立て札。


 その内容に、微妙に苦い顔をする耕助。


「まあ、晩飯にしよう……」


〔・ん。それがいい。

 ・どうせ今日はこの後

 ・全ての作業が不可能になるし〕


「どういうことだ?」


〔・いわゆるアプデ。

 ・詳細は伝言板で確認。

 ・早くご飯の用意しないと

 ・場合によっては調理も不可能に〕


 物騒な言葉で追い立ててくる立て札に従い、慌てて夕食の準備に入る耕助。


 今日は魚介類を確保していないため、イノシシ肉とジャガイモだけである。


「それで、何があるんだ?」


 あぶったイノシシ肉を片手に、伝言板のお知らせページを確認する耕助。


 お知らせページには……、


【・アップデートのお知らせ


 島の住民が、初期の原始的な最低ラインの文明を維持可能な形で獲得しましたので、島の拡張アップデートを行います。

 アップデート後は、以下の項目が追加されます。


 1.中央の山に、ドラゴンが発生

 2.島の面積が拡張され、砂漠エリアと氷河エリアが追加

 3.中央の森に、様々な動植物が追加

 4.地上及び地下に、ランダムなダンジョン及び遺跡が発生


 今回のアップデートは、一部を除き翌朝四時からの適用となります。

 また、これらの変更に伴い、謎の原生生物なども増える予定です。

 今後も、無人島開拓を頑張ってください。】


 という内容が記載されていた。


「ドラゴン!? ドラゴンですか!?」


「なんだ、シェリア? 何か問題でもあるのか?」


「お肉ですよ、お肉! レッサーか、グレーターぐらいまでだと嬉しいな!」


「食う気かよ……。てか、グレーターぐらいまでじゃないとだめな理由は?」


「エルダー以上だと意思疎通ができる上に、食べてもおいしくないんですよ」


「食ったことがあるのかよ!?」


「はい。私がまだ飛べるようになったばかりの時に、天変地異で致命傷を負ったエルダードラゴンの方が郷に落ちてきまして。その方の意向で、みんなで食べたんですよ」


「……食えって言われて食えるのも、なかなかすげえな……」


「それも、お葬式の形の一つですから。ちなみに、レッサーとかグレーターとかは、年に何回かちょっかいをかけてくるのを仕留めて食べてます」


「……なるほどな……」


 シェリアの説明に、理解できないながらも一応納得はしておく耕助。


 翼人族が見た目に反してかなりのアマゾネス集団だというのは分かっていたつもりだが、まだまだ理解が甘かったようだ。


 そんな話をしたせいか、唐突に空を巨大な影が覆う。


「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


「……えっ?」


「レッサードラゴンだ!」


 突然の出来事に硬直する耕助をよそに、非常に嬉しそうな声を上げていきなりマックススピードで飛び立つシェリア。


 そのままの勢いで、ブレスを吐こうとしていたレッサードラゴンの逆鱗をぶち抜いてワンパンで仕留める。


「……ええ~?」


〔・ここまでとは、ちょっと予想外……〕


 あまりにもあまりな結果に、いろいろと処理が追い付かない耕助と立て札。


 そこに追い打ちをかけるように、遠くから先ほどのレッサードラゴンなんて比ではないほど巨大なドラゴンが飛んでくる。


『ふむ、おかしな空間のひずみがあってレッサーどもが騒いでおるからと様子を見に来たのじゃが……、なんじゃこれは?』


 島全体を覆いつくすほど巨大なドラゴンから、なんとなく幼女っぽい感じの声が聞こえてくる。


 なお、シェリアはまだ、仕留めたドラゴンの回収から戻っていない。


「なんじゃこれは、って言われても……。正体不明の無人島としか……」


『デカいドラゴンに怯えるのは分からんではないが、取って食おうというわけではないから、そんなに硬くなるでない』


「は、はあ……」


『っと、先に自己紹介をしておいたほうがいいかの。妾はレティシア・バハムート。様々な世界のバハムートと呼ばれるドラゴンの因子が混ざった、この世界のドラゴンの頂点におるものじゃ。現在、空間が安定しておらんのでかさばる標準サイズ以外に化けられんが、危害を加えることはないから安心せい』


「えっ? バハムート? いろんなところで有名な、あの?」


『うむ』


「ええ~~~~~~!?」


 ドラゴンの衝撃的な自己紹介に、全力で絶叫してしまう耕助。


 こうして、島の大型アップデート第一弾は、アップデート直後ともいえるタイミングで特大のものが飛び込んできたのであった。

引っ張るのもどうかという内容なので、一部スキップ。

今後も同じことの繰り返しだったり数日進展がなかったりはスキップの予定。

本当は、もっとあっちこっち端折る予定だったんですが、描写しなきゃ唐突になりそうな内容が中途半端に入ってきたもんで……。


そして、ドラゴン。

うちの話では大体食材にされる下級のドラゴン。

この話でもとあるアマゾネスのせいでやっぱり食材に……。

そして、ある意味ようやく本編開始みたいな感じに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なにげに葉っぱが6日の生命。 意外と短かったのではないでしょうか。 イノシシまた狩って……レッサー種とはいえドラゴンワンパンっすか(汗) ドラゴンの皮もなにかに使えますかね(遠い目) [気…
[一言] 以前ネタ食品シリーズで甘い焼きそばが出てきたので、ネタドリンクシリーズで木村飲料はいかがでしょうかw 牛タンサイダー キムチラムネ 昆布サイダー カレーラムネ メロンパンサイダー あんパンサ…
[一言] 更新お疲れ様です。 シェリア、というか、翼人族の性行為に対する価値観はそんなものですか。 >途中で二回ほど耕助の目の前で服をひっかけて胸をポロリしていた なぜそのシーンが無いんですか!!…
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