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第12話 家を建てる準備をしよう その2 資材を集めよう

〔・とりあえず、耕助。

 ・これで葉っぱ一枚からは解放される〕


「……ああ、言われてみれば」


 いい感じにブロックごとに解体されたイノシシ肉を処理中、立て札が唐突にそんなことを言い出す。


「しかしこの葉っぱ、あれだけいろいろあったってのに、耐久ゲージが一ミリも減ってないのなんでだよ……」


〔・それは当然のこと。

 ・だってその葉っぱ

 ・この島にあるどんなものより頑丈。

 ・シェリアが全力を出してもちぎれない〕


「待て待て待て……」


〔・ただし、頑丈なのは耕助が全裸の間だけ。

 ・腰蓑かパンツをゲットしたら

 ・役目を終えてはらりと落ちる。

 ・その後は、普通の葉っぱ〕


「それはそれですげえな……」


 やたらと耕助の股間を隠すことに執念を見せる仕様を聞き、怖れとあきれと感心が入り混じった感情が湧き上がる耕助。


 どうにも、男の逸物なんぞ見せてたまるかという何かがにじみ出ている。


「にしても、朝に桶いっぱい塩を作っておいて正解だったな。そうでなきゃ、大部分の肉を無駄にするところだった」


〔・その代わり、塩漬け用の樽を作るのに木材使ったし

 ・燻製のためのかまどに石使ったから

 ・その分が集めなおし〕


「それはもう、必要経費だと思うしかない」


 立て札の指摘に、苦笑しながらそう答える耕助。


 現状では資材と食料なら、食料のほうが圧倒的に重要である。


〔・それはそうと、スペアリブ焼くの

 ・シェリアに任せて大丈夫?〕


「不安がないとは言わないが、さすがにこの作業が終わる前に焦がしたりはしないはず」


 立て札の言葉に、微妙に不安になりながらそう答える耕助。


 現在シェリアは、昼と晩に食べる分として、スペアリブ的な部分を大きな串に刺してぐるぐる回転させながら焼く作業を行っている。


 体力的には大変ではあるが、作業としてはそんなに難しいものではない。


 が、能力的にはすさまじくハイスペックなのに、どこかポンコツさとアホの子っぽさがあるのがシェリアだ。


 単に速すぎない速度で肉を回すだけという作業でも、何をやらかすか分からない怖さがある。


「……よし。塩漬けはこれで行けるだろう。燻製のほうは、煙が消えたら完成だな」


 鑑定で状態を確認し、大丈夫だとお墨付きをもらったところで、シェリアのほうを確認しに行く耕助。


 幸いなことにというか残念ながらというか、シェリアも塊肉を焼くぐらいはちゃんとできていた。


「たぶん、もう少しだと思います」


「そうだな。後三分ぐらいで焼ける」


 シェリアの言葉にうなずき、鑑定で確認したことを告げる耕助。


 モツを全部取っ払い、ある程度以上の塊で切り取れる部位を切り取った後の背骨から肋骨にかけての肉を、そのまま丸焼きにしている。


 なので、肉塊の総重量は数十キロある。


 骨の割合が高いことを踏まえても、耕助だけだと下手をすると一か月分ぐらいの肉になるが、シェリアだと三日もあれば食べ終わるらしい。


 空を飛ぶ上に肉体的にハイスペックな分、翼人族はとにかく燃費が悪いのだ。


 なので、どうせ温存しても腐るだけなので、とっとと食べきってしまうことにしたのだ。


 なお、燃費の悪い翼人族だが、平常時の肉体的スペックと蓄積魔力を落とすことで地球人並みまで消費カロリーを落とす省エネモードも一応あるらしい。


「もう一度確認だが、焼いておけば、防腐の魔法で三日ぐらいは保つんだよな?」


「はい。それ以上はちょっと無理ですけど」


「なら、三日間は少なくとも食うに困らないわけか」


「そうですね」


 とても重要なことを確認し、満足げに一つうなずく耕助。


 だいぶ余裕ができているとはいえ、食料関係は基本的に綱渡りだ。


 少しでも無駄なく消費できるに越したことはない。


「でも、内臓は食べなくていいんですか?」


「食えるように処理するだけで今日の残り時間がつぶれそうだから、今回はあきらめる」


〔・それが賢明。

 ・翼人族だと問題なくても

 ・耕助だと無茶苦茶手間をかけないと

 ・あっさりお腹壊す〕


「ということだ」


 立て札の解説に同意する耕助。


 それを聞いて、またしても耕助の種族のひ弱さを認識するシェリア。


 なお、シェリアは理解していないが、翼人族と同等レベルに頑丈で、繁殖力以外にこれといった生態的弱点を持っていない種族などエルフ系の種族ぐらいである。


 ドワーフは頑丈さはともかく体格的に泳げなくて水に弱いという弱点があるし、ヴァンパイアは昼間に能力がガクンと落ちる上に生き血を定期的に摂取しないとだめという面倒な制約がある。


 ドラゴンだって寿命や身体的な能力はエルフや翼人族など足元にも及ばないほどの高みにいるが、逆鱗という致命的な弱点を持っている。


 翼人族も一応は翼をやられると飛べなくなるという弱点はあるが、たいてい三日もすれば飛べるようになるので他の種族ほど致命的なものではない。


 これらの種族は多少日が過ぎたモツを生で食った程度で腹を壊したりはしないが、それ以外の種族は度合いの差はあれ、処理が悪かったり新鮮ではなかったりするモツで腹を壊す。


 なので、別に地球人が際立ってひ弱なわけではない。


「さて、焼けたし切り分けて食うか」


「はい!」


 いい色に焼けたスペアリブを見て、そう宣言する耕助。


 耕助の宣言に、嬉しそうに声を上げるシェリア。


 見た目に反していろんな意味で肉食系の種族なので、やはり肉となると上がるものがあるようだ。


 もっとも、調味料が無いも同然のため、味付けは塩のみではあるが。


「そういや、立て札。インベントリとアイテムボックスの仕様って、どうなってるんだ?」


 スペアリブを切り分け、一本目を食べ終えたところで、今回イノシシを処理している途中で気になったことを質問する耕助。


 なお、シェリアの処理がよかったのかそれとも動物は例外的に味がいいのか、塩だけだというのにスペアリブは臭みも少なく非常にうまかった。


〔・というと?〕


「容量とかはまあ、実際に試せばいいとして、具体的には保管したものの時間経過がどうなってるのかってのがな」


〔・ああ、そういう。

 ・確かに、食料が腐る的な意味で

 ・実際に試すのは怖い〕


「そうなんだよ。だから、事前に確認しておこうかってな」


〔・今の耕助がゲットできるインベントリは

 ・時間経過をほぼゼロにできる。

 ・アイテムバッグとボックスは

 ・経過時間百分の一ぐらい?〕


「なるほど。すごいっちゃすごいけど、過信はできない感じか」


〔・最終的に

 ・どっちも時間経過を完全に止めたり

 ・食べ物が腐らなくなるようにはできるようになる〕


「つまり、入手したら鍛えろってことだな」


〔・ん、そういうこと。

 ・ぶっちゃけ、持ってるだけでも

 ・ものすごく有利だから

 ・その位の努力はしてほしい〕


「だな。問題は、インベントリなんてどうやって鍛えたらいいのかってことなんだが……」


〔・普通に使ってたら

 ・そのうち育つ。

 ・なお、同じ場所で何の目的もなく出し入れしても

 ・一切育たないから注意〕


「それ、目的があればそういう使い方しても育つってことだよな?」


〔・ん。資材の整理とか

 ・家具なんかのレイアウト調整とか

 ・そういう使い方なら

 ・その場で頻繁に出し入れしても育つ〕


「そいつはありがたいな」


 インベントリスキルの大雑把な仕様を聞き、欲しているものに近いことを知ってほっとする耕助。


 やや頼りないところはあるが、そんなものはいつものことだし、インベントリに関しては自力習得など絶対不可能な類だ。


 内容的に不完全ではあっても、あるだけでもありがたい。


〔・そうそう。

 ・よくあるインベントリから飛び道具を射出は

 ・別のスキルが必要になる。

 ・さすがにインベントリだけでできるほど

 ・便利でも万能でもない〕


「そこは期待してないっていうか、できたとしても俺が使いこなせるわけがないから気にしてない」


〔・諦めがよすぎるのは良くない。

 ・もっと熱くなれよ!〕


「どこの暑苦しいテニス選手だ……」


〔・突っ込みありがとう。

 ・通じないかと思った。

 ・まあ、それはそれとして

 ・飛んできたものをインベントリで回収して防御は

 ・耕助の反射神経次第でできなくはない〕


「そっちはできるんだな」


〔・収納という機能から逸脱してないから

 ・できることはできる。

 ・炎とか魔法とかに関しては

 ・インベントリスキルの熟練度次第〕


「現象まで収納できるようになるのか……」


 思ったより高性能なスキルに、驚きを隠せない耕助。


 耕助が習得できるようなスキルなので、さすがに物体だけだと思っていたのだ。


〔・ぶっちゃけると

 ・耕助が生きてる間にそこまで到達するのは

 ・たぶん無理。

 ・せめて寿命の壁は突破しないと〕


「それを聞いて、安心した」


 立て札がつけた落ちに納得し、二本目のスペアリブをかじる耕助。


 なお、シェリアは耕助と立て札の会話を完全にスルーして、ひたすらスペアリブをかじっている。


 すでに四本目を平らげ終えているが、その勢いはまだ止まりそうにない。


「とりあえず、シェリア。晩の分も残しとけよ?」


「分かってます。さすがにこれ全部は無理ですよ」


「いや、言わなきゃ食い尽くしそうな勢いだったからな……」


「むう……」


 あまりの勢いに突っ込んだ耕助に、微妙に不満げな声を上げるシェリア。


 そこに、立て札が口を挟む。


〔・とりあえず耕助。

 ・皮のなめしは耕助しかできないと思うけど

 ・いつやる?〕


「悩むところなんだよな。スキルはもらったっぽいけど、なぜか今回はにかわとかもらえなかったし」


「今日は資材優先でもいいかもしれませんよ。主に、お肉の保存のために」


「だなあ……」


 シェリアに言われ、そちらのほうに心が傾く耕助。


 質が悪くなるだけで、一日ぐらい遅れても鞣せなくなるわけではない。


 もっと言うなら、インベントリとかアイテムボックスが手に入れば、保留扱いでいったん置いておくこともできる。


 いろいろと足りていないことも考えると、今日やる作業ではない気がする。


 なお、耕助がもらったスキルは皮革と広範囲なものなので、鞣しだけでなくいろんな加工が可能である。


「そういや、ミッションクリアでスキルもらえるの、なんで俺だけなんだ」


〔・シンプルに、シェリアのキャパシティがギリギリ。

 ・だから、現時点では対象外。

 ・そのうち、シェリアも対象になる時期は来る〕


「なるほど。まあ、分らんではないか」


 シェリアの基礎スペックを思い出し、そりゃそうかと納得する耕助。


 この分だと、生まれながらの強種族は、新しくスキルを得るにはものすごく頑張る必要がありそうだ。


「よし、今日はインベントリを最優先だ。悪いけどシェリア、回収した資材の運搬を頼む」


「はい」


 何を置いてもインベントリ。そう結論を出す耕助。


 こうして午後からは、無人島に来て以来最もハードな時間を過ごすことが確定するのであった。







「これで、このあたりの木と石は終わりか」


 三十分後。シェリアとの連携作業により、耕助は拠点近くの資材をすべて採り終えていた。


「これで多分三十カウントぐらいのはず。さっきかまどとか作った感じからして、予備の道具類を作るために下加工してあった材料は、カウントに含まれてないはず。なら、森に行く前に、斧とハンマーを作れるだけ作っておいたほうがいいな」


 手元の斧とハンマーの耐久ゲージを見て、そう結論を出す耕助。


 最近だと、斧一本で大体十本ちょっとの木を伐採できるので、余裕を見て八本あればクリアできるだろう。


「よし、目標は今日中にどちらかクリアだ」


 いろいろ考えて、そんな恐ろしい目標を立てる耕助。


 今のペースなら、四時間ほどで終わらなくはないのは事実だ。


 そして、日没までの時間も大体そんなものである。


 が、それは休憩を一切考えなければであり、耕助はもちろん、シェリアの負担もガン無視である。


 恐らくシェリアなら文句も言わず、というより下手をすると嬉々として従うだろうが、やっていることは下手なブラック企業よりブラックだ。


「さて、山ほど作るか」


〔・耕助が、なんか恐ろしいこと考えてる……〕


「何がだ?」


〔・いくら社畜根性が染みついてるとはいえ

 ・3K仕事を休憩なしはブラックすぎる〕


「一応適宜休憩はとる予定だが?」


〔・休憩入れたら

 ・今日中には終わらない。

 ・しかも、作業はシェリアの協力前提。

 ・シェリアを使いつぶす気?〕


 分かっていない耕助に、そう指摘をする立て札。


 耕助の社畜的思考と行動に関しては、東屋の時をはじめとしていろいろ前科がある。


 言っておかねば、シェリアを巻き込んで同じことをしかねない。


「……ああ、シェリアのことまで考えてなかった……」


 立て札に言われ、素直に反省する耕助。


 社畜思考にありがちな問題だが、耕助はとにかく自分の作業しか意識がいかない傾向がある。


 これまでは全部耕助一人でやっていたので問題ないが、昨日の時点ですでにシェリアと協力していろいろなことをやっている。


 この思考で行動した場合、いずれ致命的な破綻を招くだろう。


 そこに、耕助が放置していた資材を全部回収し終えたシェリアが戻ってくる。


 歩いて回収していたため、耕助より戻るのが遅くなったのだ。


「全部集めました」


「ありがとう、助かった」


「この後は、森のほうでたくさん集めるんですよね?」


「ああ。まあ、休憩考えたら今日中には厳しいだろうけど」


「それ、耕助さんだけが伐採とか採掘やって、私は運搬しかしない前提ですよね?」


「まあ、そうなるが……」


「壊れかけのでいいから、斧を借りていいですか?」


「……もしかして」


「せっかくだから、今日中に終わらせてしまいましょう!」


 なぜか、耕助以上に前のめりなシェリア。


 その様子に、思わずドン引きする立て札。


〔・……せっかく耕助をたしなめたのに

 ・シェリアが全部台無しに……〕


「……まあ、今日終わるに越したことはないし、やる気があるうちにやる気がある範囲でやっちまうか」


〔・……ん。それでいいと思う。

 ・にしても、シェリアが予想以上にゴリラ〕


 斧を持って飛び去って行ったシェリアを見送り、そんな感想を口にする立て札と耕助。


 華奢で可憐な美しさを誇る見た目とは裏腹に、シェリアはどこまでも力こそパワーというタイプの脳筋キャラのようだ。


「……早いとこ、斧を作って作業に戻るか」


〔・そのほうがいい。

 ・あの分だと、あっという間に斧を壊して戻ってきそう〕


「というか、もうすでに二本伐り倒して運んでるんだが……」


 空を見上げながら、そんなことを言う耕助。


 耕助の視線の先には、自分より大きな木材を二本ぶら下げて飛んでいるシェリアの姿が。


「ぶっちゃけ、百本ぐらいだったら俺いなくても、今日中に終わるんじゃないか?」


〔・……否定はできない。

 ・というか、本当にシェリアがゴリラすぎる……〕


「まあ、どっちにしても、斧がなきゃ話にならないから、数は作るんだが」


〔・うん、そのほうがいい。

 ・さすがに、耕助が作るより

 ・シェリアが壊すほうが早いことはないはず〕


「だといいんだけどなあ……」


 そう言いながらも、斧を作るペースを上げる耕助。


 三本目を完成させたところで、シェリアが戻ってくる。


「耕助さん、斧が壊れました!」


「適当に持って行ってくれ……」


「はい!」


 新しい斧を手に、元気よく飛び出していくシェリア。


 それを見送った後、ふと気になって伝言板を覗く耕助。


「……嘘だろ? もうすぐカウントが五十じゃないか……」


〔・壊れるまでに、十本は伐り倒してる〕


「あの斧の耐久ゲージ、そんなに持ったっけ?」


〔・多分、パワーでごまかした〕


「……できるのか?」


〔・できなくはない。

 ・耐久ゲージの減り方はほぼ一定。

 ・でも、一撃で材木に与えるダメージは

 ・熟練度と腕力、器用さがダイレクトに影響する。

 ・シェリアのパワーだったら、もしかしたら

 ・器用さと熟練度を無視して一撃二撃で伐り倒すかも〕


「マジかよ……」


 立て札の説明に、思わず天を仰ぐ耕助。


 ちょうどそのタイミングで、シェリアがさらに二本、材木を追加する。


「……今ので五十を超えたな」


〔・ん、超えた……〕


「正直、資材集めは俺、いらないんじゃないか……?」


〔・本気で否定できない。

 ・でも、常にシェリアの手が空いてるとは限らない。

 ・耕助自身も、鍛えておくに越したことはない〕


「そりゃまあ、そうだな」


〔・ただ、どう頑張ったところで

 ・最終的に耕助の役割は

 ・ここで畑の世話をすることと

 ・資材を加工することになりそうだけど〕


「何もできないよりはましだと思おう……」


 あまりにも身も蓋もない流れに、いろいろあきらめる耕助と立て札。


 その間にも、石斧づくりの手は止まっておらず、何気に六本目が完成する。


「俺がやるより斧一本あたりの伐採できる数が多いんだったら、これぐらいで十分か?」


〔・だと思う。

 ・ただ、さすがにシェリアのことはデータ不足過ぎて

 ・何が起こるか予想できない〕


「まあ、来てから一日ちょっとだしなあ」


〔・それもあるけど

 ・耕助と違って元の世界の存在だから

 ・ボクのスキャンを受けていない〕


「俺、スキャンなんかされてたのか?」


〔・当然。

 ・詳細は伏せるけど

 ・よその世界から異物が来た時点で

 ・ちゃんとスキャンして対処しないと危険〕


「……まあ、分からんでもない」


〔・だから、正直な話

 ・シェリアより耕助のほうをよく知ってる状態〕


「でも、シェリアについても、調べようと思えば調べられるんだろ?」


〔・現在調査中。

 ・さすがに、いくら目立つ少数民族とはいえ

 ・星の数ほどいる原生生物の中の一個体だから

 ・検索に時間かかる〕


「なるほどな」


 立て札の事情を理解しつつ、どんどんハンマーを作っていく耕助。


 その間にシェリアが大量に木材を運び込む。


 伐採をシェリアに任せきりになって一時間で、あっさりミッションクリアに必要な数以上の木材が揃う。


「おーい、シェリア! 木材は必要量が集まったから、休憩していいぞー!」


「はーい!」


 ミッションの完了操作のついでに、大声でシェリアに声をかける耕助。


 耕助に呼ばれて、いそいそと戻ってくるシェリア。


 その顔はとても楽しそうに赤く上気している。


「耕助さん、耕助さん! すごく楽しいです!」


「そうか、そりゃよかった」


「次は石ですよね!?」


「まあ、石だな」


 やたらテンション高く次の作業を確認するシェリア。


 その様子に微妙に引きながら、かなり適当な返事をする耕助。


 別に苦行というわけではなかったが、正直伐採作業の何が楽しいのか分からない。


「使いかけは、このハンマーですか?」


「そうだけど、ちょっとは落ち着け」


 すぐにでも行きたそうにするシェリアを、どうにか落ち着かせようとする耕助。


 体つきは立派だが、どうにも行動原理が幼児のそれに近い気がしてならない。


「どれぐらい疲れてるか分からないんだから、ちゃんと休憩しようぜ」


〔・社畜の耕助が言うと

 ・全く説得力がない。

 ・油断すると、すぐ休憩って概念を忘れる〕


「……それについては、俺も反省する……」


 シェリアをたしなめようとして、立て札にブーメランを指摘される耕助。


 島に来てからこっち、休憩なしでずっと畑仕事を続けたり、日が落ちているのに休憩なしの体で無理して東屋を完成させたりと、耕助もいろいろと前科がある。


「とりあえず、燻製ができてるから、休憩がてら火であぶって試食だな」


「はい!」


 燻製と聞いて、先ほどとは別方向に顔を輝かせるシェリア。


 実に本能に忠実な少女である。


「そういや、インベントリスキルはもう解放されてるんだったか」


 念願のスキルが使えるようになったことを思い出し、せっかくだからと試しにイノシシの燻製を収納してみる耕助。


 二十キロほどのブロックがあっさり収納されると同時に、あとどれぐらい収納できるのかなんとなく把握できる。


「……なるほど。今のところ、総重量百キロ程度、品数は個数じゃなく種類で十種類まで収納可能か」


 そうつぶやき、ついでに処理していないイノシシの毛皮を収納する。


 なお、インベントリスキルは、視界内であれば見えていなくても、存在が分かっているものは手を触れなくても収納できるようだ。


「おお!?」


「インベントリスキルが解放されたから、ちょっと試してみた」


 目の前で毛皮が消え、目を丸くして驚きの声を上げるシェリア。


 そんなシェリアにそう言いながら、まな板の上に先ほど収納した燻製肉を出現させる耕助。


「よし、ちゃんと取り出せるな」


「すごいです!」


「これで、運搬は一気に楽になったな」


〔・ちなみに、一部の無脊椎動物は

 ・生きたまま収納可能。

 ・具体的には、ズワイガニより小さいカニ、エビ、貝。

 ・ナマコとか昆虫類もそう〕


「タコイカは無理なのか?」


〔・どういう設計でそうなったのか

 ・イカはいけるけどなぜかタコは無理〕


「なんでだよ、って突っ込みたいけど、この手のスキルってそういうもんだよな……」


〔・本当に、意味不明。

 ・どうデバッグしても、解決しなかった〕


 自分で作ったスキルに振り回されている様子を見せる立て札に、こいつも案外ポンコツなのでは疑惑を持ってしまう耕助。


 実際には立て札自身がポンコツというより、母親譲りの体質で時々誰の手にも負えない形で妙な結果が出るだけなのだが、当然そんなことは耕助が知るわけもない。


「まあ、燻製肉を焼くか」


「おー!」


 耕助の言葉に、元気よく答えるシェリア。


 何気に、いつの間にか火を起こしていたりする。


「……とりあえず、こんなもんか。あんまり切りすぎるとすぐなくなるし」


「はい!」


 あぶるのにちょうどいいぐらいの大きさを切り取り、串に刺してシェリアに渡す耕助。


 シェリアのほうも、間食にそんな大きな塊を要求するつもりはなかったようで、二口三口で食べ終わる大きさのそれを特に文句をつけずに受け取る。


「……なかなかうまいな」


「……美味しいですね」


 意外にも、よく分からないまま雑に煙を起こして燻して作ったとは思えないほど、燻製肉はうまかった。


「なんか、すごく元気が出てきたので、石を集めてきますね!」


「……了解」


 これ以上休めと言っても無理そうなシェリアに、いろいろあきらめて好きにさせることにする耕助。


 そのまま、自身もハンマーを手に立ち上がる。


「耕助さんも行くんですか?」


「インベントリスキルの訓練も兼ねてな」


 不思議そうにするシェリアに対し、苦笑しながらそう告げる耕助。


 二人がかりで作業することになったため、当然のごとくシェリア一人より採掘作業は捗り、三十分ほどでノルマを大幅に超過する形で達成する。


「次のミッションを出すには、アイテムバッグとアイテムボックスを作らないとだめか。シェリアは好きにしてていいぞ」


「分かりました」


 ノルマが終わり、手が空いたというのに、斧とハンマーを持って森のほうへ飛んでいこうとするシェリア。


 よほど伐採と採掘が楽しかったらしい。


「あ~、できたらでいいんだが、ゆず以外の果実とかないか探してくれるとありがたい」


「分かりました!」


 耕助の要求を受け、斧とハンマーを置いて森のほうへと飛び去るシェリア。


 その間に木と石でアイテムバッグとアイテムボックスを作り上げる耕助。


「……まんま木箱のボックスはともかく、木と石で作ったアイテムバッグが布っぽい質感と重さなのはどういう理屈だ?」


〔・それはもう

 ・サービス以外なんでもない〕


「……まあ、そのほうが助かるからいいか」


 立て札の言葉に、それならありがたく恩恵にあずかることにする耕助。


 実際問題、布を用意しろと言われても困るのは確かだ。


「さて次は……」


 アイテムバッグとアイテムボックスを作り終え、ミッションの完了操作を行う耕助。


 次はいよいよ、家を建てるための資材加工らしい。


 なお、スキルやレシピをゲットするために大量に要求された資材だが、アイテムバッグとアイテムボックスの作成にはほとんど使っていなかったりする。


「耕助さ~ん!」


「シェリアか? ……またか」


〔・またしても、大物〕


 さて、資材の加工をというタイミングで戻ってきたシェリアが、先ほど仕留めたものより大きなイノシシをぶら下げて戻ってくる。


「解体道具貸してください」


「……はいよ」


 シェリアに言われて、解体道具を用意する耕助。


 結局この日は、二頭目のイノシシの処理で日が落ちるのであった。

立て札ではありませんが、シェリアが書けば書くほど予想を超えてゴリラになっていって……。

それ以上に行動原理の子供化が酷い。

楽しいからいつまでも続けたいって道具を根こそぎ持っていくのは、小学生の行動原理なんよ……。

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― 新着の感想 ―
ブレーキかけてやらんとトップギアではしゃぎまくった挙句 唐突に電池切れ起こす幼児のようw
[一言] 更新お疲れ様です。 葉っぱから開放されないほうが良いのではw 流石にイノシシ一頭だと肉の量が凄くなるんですね。 某農業漫画で見ました。 シェリアが居て助かりましたね。 インベントリは現…
[良い点] シェリア「やーけまーしたー」 3日で治るとか治癒力も相応にやべーな… 森の賢者(物理力極振り)様かな? [気になる点] ドラゴンの逆鱗は色々なパターンありますね ・素手でも壊せる ・剥が…
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