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第10話 いろいろなものを集めよう

「さて、昼飯だな」


 一息ついて落ち着いたところで、火を起こしながらそう宣言する耕助。


 やたら濃い事件が連続で起こった四日目も、気が付けば半日が過ぎようとしていた。


「お昼ですか。食べるのは、さっきもらった焼きそばとかですか?」


「いや、このカニを茹でる」


 シェリアの問いに、桶の中でおとなしくしているベニズワイガニを見せながらそう告げる耕助。


 そのカニを見て、シェリアが首をかしげる。


「そういえば、このサイズのカニは初めて見るんですが、どうやって食べるんですか?」


「普通に丸ごと茹でて、足とかを関節で折ってもいでから、殻を割って身を食べる」


〔・他にも、足だけ切って網で焼くとか

 ・いろいろ調理方法自体はある〕


「網で焼くんだったら絞めてからバラすんだろうけど、カニの絞め方なんか知らないから、雑に丸茹でしてる」


〔・まあ、仮に絞め方を知ってても

 ・今ある材料や道具だと難しいとは思うけど〕


「へえ。この殻って、熱を加えれば割れるようになるんですか?」


「さすがに、切り込みを入れてある程度割っておかないと、素手では無理だけどな」


 カニを茹でる準備をしながら、シェリアの疑問に答える耕助と補足を入れる立て札。


 その間にお湯が沸き、足を縛られたカニが生きたまま鍋に沈められる。


「これで、甲羅が赤くなったら食べられる」


「楽しみです」


 耕助の言葉に、わくわくした様子を見せるシェリア。


 どうやら、本当に楽しみらしい。


 その間に、殻を割るための道具を用意する耕助。


「カニ切り鋏とか作れたらいいんだけど、材料的にも技量的にも無理っぽいんだよなあ……」


〔・さすがに、そこらの適当な石で作った鋏なんて

 ・大したものは切れない。

 ・石斧のほうがまだ役に立つ〕


「だろうな。というか、そもそもものを切れる鋏になるのかどうか自体、怪しくないか?」


〔・さすがに、ちゃんと刃が立っていれば

 ・ものによっては切れる、はず〕


「どっちにしても、俺が作る限りは無理っぽいなあ」


〔・ぶっちゃけ、石である程度切れる鋏を作るより

 ・鉄の刃物を作れるようになるほうが早い。

 ・無駄なことは考えない〕


「だな」


 立て札のダメ出しに、特に気を悪くする様子も見せずに同意する耕助。


 そもそも自分でも分かって言っているので、正直な話をするなら、できると言われたほうが困る。


「えっと、それで殻を割るんですか?」


「ああ。つっても、全体をきっちり割る必要もないんだけどな」


 そう言いながら鍋の中を覗き、いい感じで茹で上がっているのを確認してカニを取り出す耕助。


 カニの足を縛っていた紐を手際よく外し、まだ熱いカニの足をやけどしないように慎重にもいでいく。


 爪と足を全部もいだところで、みっちり身が詰まった足を一本台の上にのせ、楔を当ててハンマーを振り下ろす。


 いい音とともにカニの甲羅に亀裂が入り、どんどん広がっていく。


「こういう感じで殻を割って、一か所でいいから完全に縁が切れたらあとは素手で剥いていくんだ」


「なるほど。ちょっとやってみていいですか」


「おう」


 シェリアの言葉にうなずいて、楔とハンマーを渡す耕助。


 だがシェリアは、何を思ったのか楔だけを受け取る。


「シェリア……?」


「えっと、こういう感じで押し当てて、こう」


 戸惑う耕助を横目に、まだ熱いカニの足を素手でつかんで台に乗せ、割りやすそうなポイントを見つけて楔を押し当て、いわゆる掌底を叩き込むシェリア。


 見た感じ軽くたたいたように見えたのに、先ほどの耕助以上にいい音を立てて甲羅が割れる。


「えっ?」


〔・……さすがは身体能力特化種族。

 ・やっぱり、カニの甲羅ぐらいは素手でいける〕


「まあ、これぐらいの硬さなら。ただ、楔を使わないで素手で割ろうとすると、中の身が飛び散って悲惨なことになりそうですけど」


 立て札の言葉に、苦笑しながらそう応じるシェリア。


 その隣では、今の出来事についていけなかった耕助が、完全に固まってしまっている。


〔・とりあえず、シェリア。

 ・殻をむいたら、身はそのままパクっと。

 ・筋があるから注意〕


「はい。……美味しい!」


「……そりゃよかった。それなら、できたらでいいんだが、他のも先に割っといてもらっていいか?」


「はい、任せてください!」


 耕助の頼みを快く引き受け、機嫌よさげにどんどん殻を割っていくシェリア。


 実に圧倒的なパワーである。


「これ、楽しいですね!」


「だったら、次からカニ茹でたときは、任せていいか?」


「はい!」


 あっという間にカニの甲羅を割り終えたシェリアが、とてもいい笑顔でうなずく。


 殻を剥くのはカニを食べるうえでのある種の醍醐味ではあるが、剥けるように下処理するのはかなり大変だ。


 それを楽しんでやってくれるのであれば、全面的に任せても問題あるまい。


 いろんなことから目をそらしつつ、一人でそう勝手に納得する耕助。


 そのまましばらく、二人して黙々とカニを食べる。


〔・それにしても、現状使い道がないとはいえ

 ・せっかくのカニのダシがもったいない〕


「そのダシでゆでたり煮込んだりする食材がないからなあ……」


 食べ終わって一息ついたあたりで、カニのゆで汁について立て札がそんなことを言い出す。


 立て札の言葉に同意しつつも、現状ではどうにもならないとあきらめの表情を浮かべる耕助。


 取っておいてもすぐ腐るので、本当に現状ではどうしようもない。


「米も麦もまともな野菜もないの、本気でつらいわ……」


〔・魚だけはいくらでも手に入るから

 ・何気にダシ素材は十分〕


「あるのはラディッシュだけだから、本気で宝の持ち腐れだなあ……」


〔・明日はジャガイモが収穫できる。

 ・せっかくだから、煮込んでみれば?〕


「島ジャガイモは、煮込みに向く品種なのか?」


〔・これを言うとがっかりするかもだけど

 ・そもそもどの調理にもいまいち向かない〕


「……マジか……」


 立て札の非情な言葉に、絶望的な表情で天を仰ぐ耕助。


 食の楽しみが、本気でカニぐらいしかないのがはっきりした瞬間であった。


〔・そもそも、植えて三日で収穫できるイモが

 ・美味しいわけがない〕


「そりゃまあ、そうだな……」


「三日でって、そのイモ大丈夫なんですか?」


〔・飢えさせないための作物だから

 ・ジャガイモに求められる栄養価は

 ・最低限よりましな程度には含有されている〕


 不安そうなシェリアに、そう断言する立て札。


 恐らくシェリアが心配しているのはそういうことではないのだろうが、立て札が言及しない以上は、島のシステム的に大丈夫なようになっているのだろう。


「えっと、食料品って畑と魚介とガチャから出るもの以外、手に入らないんですか?」


〔・実績で、いくつかアンロックされた。

 ・東屋建てたので動物が

 ・島の地形を把握したので果樹の類が

 ・森の中に湧いたはず〕


「じゃあ、私はそれを探してきますね」


〔・ん、がんばれ〕


 立て札に食料について確認し、今日の目的を決めるシェリア。


 いろいろやったほうがいいことは思いつくが、やはり現状は何を置いても食料だと考えたようだ。


「じゃあ、行ってきます」


 思い立ったら即実行、とばかりに飛び立つシェリア。


「……どんなものが湧いてるのかとか、確認しなくて良かったのか?」


〔・たぶん、そんなこと考えてもないと思う〕


「だよなあ……」


 あっという間に飛び去って行ったシェリアを困った顔で見送りつつ、そう意見の一致をみる耕助と立て札。


 それなりに広い森なので、探すものの情報なしでうろうろして見つかるのかどうかというと、かなり疑問である。


「一応確認しておくけど、増えた動物とか果樹って、全部食えるものなのか?」


〔・今回は、食べられるものばかり。

 ・ただ、食べられるのは食べられるけど

 ・ぶっちゃけ薬味、みたいなのも〕


「ああ、ゆずとかカボスみたいなのか」


〔・ん。

 ・さすがに全部そのまま食べられるっていうのは

 ・いろいろ問題がある〕


「だと思ったよ。ちなみに、リポップは?」


〔・基本的に一日一回。

 ・だから、狩る必要がある肉類はともかく

 ・果実に関しては味とかはお察し〕


「やっぱり、品種改良が必要か……」


 またしても立て札からもたらされた絶望的な情報に、真顔でそう漏らす耕助。


 もっとも、ラディッシュとジャガイモの時点でなんとなく予想がついていたので、今回はそこまでショックは受けていない。


「さて、俺も頑張ってくるか。まずはいつものように、見えてる範囲の木と石を資材に変える作業から」


〔・がんばれ~〕


 ポップするようになった諸々について横に置き、いつもの作業に入る耕助。


 なんだかんだで、この三日間とさほど変わらぬ感じの午後が始まるのであった。








「気のせいか、だいぶ作業が早くなった気がするな」


〔・そろそろ熟練度が1ポイント上がるから

 ・その影響だと思う〕


 一時間ほどで見える範囲の木と石を回収し終え、壊れた斧とハンマーの代わりを作った耕助が、状況を確認してそうつぶやく。


 そんな耕助のつぶやきを受け、立て札が重要な情報を提供する。


「へえ。やっとというべきか、もうというべきか悩むな……」


〔・いろんな意味で、こんなもの〕


「そうなのか?」


〔・ん。早くもなく遅くもない。

 ・上がるまでの作業量も多くもなく少なくもない。

 ・農業のほうも、ジャガイモ収穫して次のを植えたら

 ・たぶん上がる〕


「そっか。なら、頑張らないとな」


 熟練度に関する情報を聞き、気合を入れる耕助。


 どうせ熟練度とかレベルの類は、上がれば上がるほど上昇が渋くなるのだろうと分かっている。


 が、それでも作業を続けて鍛えないと困るのは自分だし、そもそも熟練度の伸びに関係なく生きていくうえでこれらの作業をやめることはできない。


 なので、次の熟練度アップまで頑張るという目標は、モチベーション維持にとても重要なのだ。


〔・で、耕助に朗報。

 ・熟練度5ポイントぐらいまでは

 ・熟練度アップに必要な作業量は据え置き

 ・なので、そこまではちょっとだけ早く上がる〕


「そりゃありがたい」


〔・まあ、上がっても大した差は出ないけど〕


「知ってる」


 いちいち水を差す立て札に対し、苦笑しながらそう答える耕助。


 そもそも、ネトゲなどに準拠したシステムであるならば、こんな序盤も序盤のレベルアップでそんな大差がつかないことぐらい容易に想像がつく。


 それに、0と1、1と2ではかろうじて実感できる程度の差しかなくても、0と2ならば僅かであってもはっきり違いが分かるぐらいの差は出るだろう。


 その積み重ねを考えれば、熟練度5ポイントというのはなかなか馬鹿にできない違いになるはずだ。


「とりあえず、もうこの辺じゃ集められるものもないから、ちょっくら河口まで釣りに行ってくるわ」


〔・行ってら〕


 デイリーを終わらせるため、釣り竿と桶を手にそう宣言する耕助。


 ついでに道中の資材回収用の背負い籠と、帰る前に仕掛けるつもりの罠を一緒に持っていく。


 その後、特に何事もなく河口に到着した耕助は、ちらっと見て魚影があることを確認して、適当にルアーを投げ込む。


「さて、さほど得意でもないんだが、ちゃんと釣れるのやら……」


 ほぼやったことがないルアーフィッシングに、どうにも不安が隠せない耕助。


 先ほど海で釣りをしたときには、波の力で勝手に泳いでいるような挙動をしてくれたルアーではあるが、このあたりの流れが穏やかな場所で、何の芸もなく放り込んだだけで魚が反応するのかというと疑問である。


 が、ではどう竿を動かせばそれっぽくなるのかなんて分かるわけもなく、そのまま適当に竿を振り回しながらぼんやりするしかない。


 そんな適当な釣り方でも、釣れる魚はいるもので……


「……おっ、なんかかかった。……フナか。小さいけどこれ、食えるのか?」


 釣りを開始してから五分ほどで、五センチほどの小さなフナを釣り上げた。


「……鑑定してみるか」


 あまりの小ささに不安になり、鑑定で確認することにする耕助。


 鑑定結果は


”無人島ブナ:無人島に棲むフナ。一応食用だが骨が多く食べるところは少ない。十センチ未満は食べられる身などほぼないと思っていい。この個体はちょうど五センチ。骨は人間のあごではどうやっても食べられない”


 というものであった。


「実質食えないなら、逃がすか」


 鑑定結果を受け、そう決める耕助。


 そのままサクッと川に放り込む。


「てか、考えてみれば、こんな浅いところで釣っても、大した魚はかからないか」


 水深が足首ぐらいまでだったことを思い出し、もう少し上流の深さがありそうなところへ移動する。


 十分ほど上流へ移動すると、突然水深が深くなる。


「この辺なら、もうちょい大きなのが釣れるか?」


 見てわかるぐらい深くなったのを確認し、そんな期待を抱く耕助。


 とりあえず、食えるサイズのが釣れてくれと祈りながら、先ほどと同じようにルアーを投げ込む。


 そのまま適当に竿を揺らすこと十分、先ほどとは比較にならないほど強い引きがかかる。


「……強いな、これ。リールなしで釣れる気がしないぞ……」


 そうぼやきながらも、一生懸命リールを巻く耕助。


 あまり強く巻きすぎると糸が切れるのでは、という思い付きで途中巻くのをやめて緩めたりもしながら、五分ほどかけて三十センチほどのマスを釣り上げる。


「デカいな。……いや、この種類の魚は、このサイズがデカいのか? まあいい。とりあえず念のために鑑定」


 釣り上げたマスの大きさに喜びつつ、食用に適しているかどうかも含めて一応鑑定しておくことにする耕助。


 そもそも、耕助が見て確実に見分けがつく魚などイワシとサバとサンマとアジだけ、それ以外はあれほど特徴的なウツボですらアナゴと区別がついていないぐらいである。


 川魚に至っては全然知らないので、鑑定なしでは種類も食用に適しているかもわからない。


 鑑定結果は


”無人島マス:無人島に棲むマス。食用に適する。最大サイズは百二十センチ。この個体は三十二センチなので小型の部類だが、十分に食べるところはある。骨は人間のあごではどうやっても食べられない”


 というものであった。


「よし、食えるな」


 問題なしと判断し、桶の中に入れておく耕助。


 鑑定の情報は味に一切言及していないが、元から塩コショウしか調味料がない時点でさほど期待していないので問題ない。


「デイリーが確か六回だったから、もう一匹何か釣ればクリアだな」


 デイリーの回数を思い出し、もう一度ルアーを投げ込む耕助。


 なぜ六回という中途半端な回数なのかは分からないが、まかり間違って大物がたくさん釣れたり籠罠にかかったりしてもそれはそれで困るので、ちょどいい回数と言えなくもない。


 そんなことを考えながら、先ほどと同じく適当に竿を揺らすこと十分。マスの時と比べると弱めのあたりが来る。


「なんかかかったか? ……かかってるな」


 かかったふりをする魚もいるらしいというにわか知識でいろいろ疑いつつも、軽く巻いてみて魚がかかっていることを確信する耕助。


 先ほどより抵抗が弱いこともあり、あっさり釣り上げる。


 釣ったのは全長八センチほどのブルーギルであった。


「なんか毛色が違う感じだけど、これなんて魚だ? 食えるのか?」


 日本で川や池で釣りをしたことがあれば、おそらく一度は釣ったことがあるであろうブルーギル。


 だが、淡水魚について全く知らない耕助は、その正体が分かっていない。


「分からないなら、鑑定だな」


 マスなんて有名な魚すら見てわからなかったこともあり、たいして悩むことなく鑑定に頼る耕助。


 鑑定結果は


”ブルーギル:なぜか無人島にも棲んでいるブルーギル。日本では明仁親王がシカゴ市長から贈呈されて入ってきた経緯を持つ、有名な外来種。見ての通り、この個体は小さめなので食べるところは少ない”


 というものであった。


「ほほう、これがあの有名なブルーギルか。まあ、食うところが少ないみたいだし、逃がすか」


 鑑定結果に何となく感心しつつ、身が少ないのであればとあっさり逃がす耕助。


 日本ならともかくこの無人島の場合、生態系だの外来種だのの問題とは今のところ無縁、というよりゲーム的な仕様でリポップするのだから、逃がそうがどうしようが環境に対する影響など全くない。


 これが日本でなら、ブルーギルと知った以上は、たとえ焼け石に水であってもリリースなどしなかったのは言うまでもない。


「さて、シェリアの分も考えるなら、一応もう一匹ぐらいは釣っておいたほうがいいんだろうけど……」


 ブルーギルを逃がしたところで、どうしたものかと悩む耕助。


 正直なところ、一回の釣りにかかる時間と釣果のバランスを考えると、日が暮れるまでにここでもう一匹いいのが釣れる気がしない。


 小さなものしか釣れないのは恐らく腕の問題なのだろうとは思うが、だとすればゲーム仕様的な熟練度を上げる方法での解決は良くて数日、実際には最低でも半年はかかるだろう。


 なので、先のことを考えるならもう少し釣りを続けるべきなのだろうが、素材や食材を考えると今日は別のことをしたほうがいいかもしれないという気もしてしまうのだ。


「……よし、もう一回だけやっておこう」


 少し迷って、もう一回だけチャレンジしようと釣り竿を振る耕助。


 どうせ熟練度の上がり方は何かを釣り上げた回数だろうとあたりを付け、一回でも回数を稼いでおこうと考えたのだ。


 そんな考えで釣りをしたのが悪かったのか、すぐに何かがかかったのだが……


「……なんか、やたら手ごたえが軽いな……。……って、ちょっと待て……、いや確かに、釣りと言えばお約束なんだろうけど……」


 ルアーの針に引っかかった予想外のものに、思わず突っ込みを入れざるを得ない耕助。


 そう、釣り竿の先には、見事な空き缶が引っ掛かっていた。


 なお、缶の種類は桃缶で、缶切りで開けられている。


「……何かのネット小説で、釣れた空き缶から鉄のインゴット作るってネタがあったな、確か。一応持って帰るか」


 どう見てもゴミなので捨てようかと考え、ネット小説のネタを思い出して素材扱いすることにする耕助。


 なんとなく嫌な予感がするので、釣りはいったんここでおしまいにしておく。


「よし、罠を仕掛けて戻るか」


 当初の予定通り、籠罠を仕掛けてその場を立ち去ろうとする耕助。


 そんな耕助を呼ぶ声が、頭上から聞こえてくる。


「耕助さ~ん!」


「シェリアか、どうした?」


「果物を見つけたんですが、私だと籠を背負えなくて、そんなに採れなかったんですよ」


「果物ってそれか?」


「はい」


 耕助に問われ、抱えていた柑橘を見せるシェリア。


 シェリアが差し出してきた柑橘を見て、悩ましい表情を浮かべる耕助。


 基本ものを知らない耕助だが、代表的な柑橘ぐらいは見分けがつくので、さすがにそれが何かぐらいは一目でわかっている。


「……もしかして、食べられないんでしょうか?」


「俺が知ってるものと同じなら、そのままじゃ食えないな」


「……え~……」


 耕助の言葉に、がっかりした顔で不満の声を上げるシェリア。


 シェリアが持ってきた柑橘は、どう見てもゆずであった。


「一応鑑定はするか。……ゆずだな」


「ゆず、ですか? 知らない果物です。本当に食べられないんですか?」


「一応、ジャムとかにすれば食える。そのままだとちょっと無理」


 ジャムと聞いて、絶対無理だと理解したシェリアが絶望的な表情を浮かべる。


「もっと食材や調味料が充実してたら、これはこれでとてもいいものなんだけどな。基本的な使い方が、魚に絞ってかけるとか、刻んだ皮をスープに浮かべて風味をつけるとか、そういう感じなんだよ」


「……そうなんですか」


「だから、今だと一個か二個あれば十分なんだよな」


 そう言いつつ、シェリアからゆずを受け取って籠に入れる耕助。


 現状、どんなものでもないよりはいい。


「ほかに、どんなものを見つけたんだ?」


「イノシシを発見しましたが、今ある道具だと、仕留めるのはともかく解体が無理なので今回はあきらめました」


「……仕留められるのか?」


「あのぐらいの大きさのイノシシなら、素手で簡単に」


「あのぐらいってのがどのぐらいかは分からないんだが、俺たちはそもそも猪そのものを素手で仕留める能力なんて持ってない」


「……え~……」


 耕助の言葉に、そんな馬鹿なという感じで力なくうめくシェリア。


 郷でも現在最年少であるシェリアは、当然のごとく戦闘能力も最下位だ。


 そんなシェリアでも簡単にできることを、種族レベルで不可能だと言い切った耕助が信じられないようだ。


 なお余談ながら、年齢と実戦経験の問題で郷での戦闘能力が最下位であるシェリアだが、同年齢だった時期で比較すればぶっちぎりでトップであり、現状でも一個上の世代との力量差は誤差の範囲だったりする。


「素手で仕留めるって言っても、背中に飛び乗って頸椎をへし折るだけですよ?」


「それができる地球人は、どっちかっていうと少数派だろうな」


「……え~……」


 耕助のダメ出しに、またしてもそんな馬鹿なという感じで力なくうめくシェリア。


 翼の有無ぐらいしか見た目や体格に差がないのに、そこまで貧弱だとは思わなかったようだ。


「……まあ、どっちにしても、獲物をしとめても解体できないなら、まずはそのための道具作りからだな」


「そうですね」


 これ以上は不毛だと判断し、獲物をしとめた場合の話に話題を変える耕助。


 耕助の言葉に、それはそうだと同意するシェリア。


「ただまあ、解体できたとしても、保管の問題があるから、貯蔵用のアイテムボックスのほうが先だろうな」


「運搬用のアイテムバッグも必要ですよね」


 結局、最優先はアイテムバッグやアイテムボックスというのは変わらないにしろ、同じぐらいの優先順位で解体をはじめとした各種作業用の道具が必要だということで意見が一致する耕助とシェリアであった。







〔・おかえり~〕


「ただいま」


「ただいま戻りました」


〔・どうだった?〕


「微妙だな。いろいろ釣れたけど、食えるのは小さめのマスだけだった」


「獲物は見つけましたが、大きすぎて解体が無理だってことで諦めました。果物も、そのまま食べられるものではありませんでしたし」


〔・残念だけど、ある意味妥当〕


 いつものように、帰還のあいさつとともに成果について立て札に報告する耕助とシェリア。


 その報告に、まあそうだろうなとうなずく(気配をだす)立て札。


「なんにしても、アイテムボックスとアイテムバッグは必須だろうってことと、解体とかの道具を用意しないとどうにもならんってことになって、今日はいろいろ切り上げた」


〔・おつ。

 ・ということは、まずはレシピ確保のために

 ・家の資材を集めないと〕


「だな。明日はシェリアにも運搬を手伝ってもらって、森のあたりで木材をメインに回収してくる」


〔・それで問題ないと思う〕


「シェリアも頼むぞ」


「はい!」


「それとは別に、空き缶が釣れたから、こいつを溶かして別のものを作れないかと思ってるんだが……」


〔・家が完成するころには、たぶん可能になる〕


「そうか。なら、釣れた時に残しておいてもいいな」


〔・ん。

 ・鉄鉱石から作るのに比べて品質に難はあるけど

 ・どうせ今の耕助だと大した差はない。

 ・熟練度を鍛えるついでにつなぎの道具作るには

 ・たぶんちょうどいいと思う〕


 耕助の考えを肯定する立て札。


 立て札のお墨付きをもらい、ならば集めておくかと改めて心に決める耕助。


〔・で、今日のデイリーと

 ・シェリア来訪記念の食料ガチャ〕


「……一個ぐらい、ネタじゃないやつが出るといいな」


〔・それはボクにも分からない〕


 ガチャと聞いて、遠い目をする耕助。


「まあ、まずはデイリーの完了操作だな」


〔・ん〕


 どんなものでも、基本的にはないよりまし。


 そう腹をくくって、本日のデイリーミッションを完了させる耕助。


 出てきたのは……


「牛乳無いと作れない商品とか……」


〔・おかしい。

 ・さすがに今回はそういうの出ないはず……。

 ・……今確認したら

 ・別の食料ガチャと同時になったから

 ・制限が解除されてる……〕


「……マジか……」


 牛乳と混ぜて冷やして作る定番デザートの素であった。


〔・まあ、特別ガチャのほうは

 ・主食に限定されてるから……〕


「この流れだと、主食つっても妙なものが出てきそうなんだよな……。まあ、回してくれ」


〔・りょ。

 ・……雑穀。

 ・コメントに困るレベル〕


「ああ、これなら、私も料理の仕方が分かります。と言っても、しつこくしつこく炊くだけなんですけど」


 耕助のガチャから出てきた雑穀を見て、シェリアが妙に嬉しそうに説明する。


「ああ、シェリアたちの主食はこれか」


「小麦粉も食べますけど、これも多いですね」


「なら、俺が食いきれなくてもシェリアが食ってくれるな」


「任せてください」


 シェリアの言葉に、なんとなくほっとする耕助。


 いくら無人島で食生活が貧相になったとはいえ、日本でそれなり以上にクオリティが高いものを食べてきた耕助が、ろくな調理器具もなしに調理した雑穀を食べられるとは思えなかったのだ。


「私のほうは……。……なんか、ひよこっぽい絵が描いてある袋? っぽいものが出てきたんですけど」


「なん……、だと……?」


〔・元祖鶏がらとは恐れ入った……〕


 耕助とは正反対の、妙な豪運を見せつけるシェリア。


 なお、シェリアが引いた元祖鶏がらは五食パックだったりする。


 この後のガチャも、シェリアだけが小麦粉やそば粉など比較的扱いやすいものを入手する傍ら、耕助はキャッサバイモや誰も調理方法が分からない謎の穀物など妙なものを引きまくるのであった。

そもそも三日で実る作物に、味とか栄養価とか求めてはいけない。

なお、まずくはない模様。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前話もそうですが、今話でも分かるとおり、こんな小さな島に多くのものを詰め込みすぎなので、システムが不安定になるのも当然ですね。 空き缶なんて貴重な資源を手に入れられたのは幸運ですね。平たくし…
[一言] 関西人ならカニには『むきむきみっちゃん』ネタほしいなww (以前ビールのCMでイチローと共演した北陸?の女将さん)
[一言] ちとフェアクロ読み直していたら、春菜ちゃん頑張る編の後書に >諸般の事情で300年後のフェアクロ世界を舞台にしたスピンオフを企画。 と書いてあったのに気づく。 読んだ時はなんだろうな? …
感想一覧
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