第9話 そろそろ島の地形を把握しよう
〔・お腹も満たしたところで
・そろそろ作業の時間〕
「だな」
焼きそばやら何やらで腹を満たし終えたところで、立て札から
〔・それで、どうする?〕
「そうだな……。まず、畑仕事は絶対やらにゃならんとして、だ。東屋がなあ……」
〔・なかなか無残な壊れ方〕
「なんだよなあ。正直、修理する必要あるのか、って気がしてるんだよ」
〔・と、言うと?〕
「今後、どの程度使うのかっていうのがな」
〔・ああ、確かに。
・休憩場所なんて別に屋根いらない〕
「そうなんだよな。あの東屋、簡易的な仕様だから、床はむき出しの地面だったし」
耕助の指摘に、素直に同意する立て札。
この東屋は地面に柱がしっかり固定されていることと屋根がしっかりしたつくりになっていること以外、運動会などでよく使われる天幕と大差ない仕様である。
あれば使うかもしれないが、壊れたものをいちいち修理してまで必要かというと、恐らくなくても特に困らないだろう。
四本の柱と梁の一部は無事なので、一から建て直すよりは修理するほうが楽なのは間違いないが、それでもそれなり以上の労力と、何より結構な量の追加の資材を必要とする。
無事な柱がもったいないと考えるか、それとも追加で資材を集めてきてまで建て直すほどの価値はないと考えるか、非常に微妙なラインなのだ。
「あの、建物の件は、本当にごめんなさい……」
「もうそれについては気にするな。なんかこう、俺の運だと、どうせ別の要因で壊れてたんじゃないかって気がしないでもないからな」
東屋の話題になるたびに、申し訳なさそうに小さくなるシェリア。
そんなシェリアから目をそらしながら、そう慰める耕助。
シェリアの体形と服装で体を縮こまらせるようなポーズをとると、そうでなくても目立つ胸の谷間が強調されて、大変目に毒である。
〔・ふむふむ。
・その視線の動き
・耕助はおっぱい星人、と〕
「……悪いか?」
〔・別に。
・犯罪を犯さない限りは
・どんな性癖持っててもどうでもいい。
・ただ、いじりネタにはする〕
「……好きにしてくれ」
耕助の様子を見て、ここぞとばかりにいじりに走る立て札。
どうせいじられると分かっていたからか、耕助のほうもあっさり受け流す。
「で、話を戻すけど、東屋の修理は余裕がありそうならってことにして、今日はいい加減そろそろ、島を一周して地形を把握しようかと思うんだ」
〔・お~。
・ようやく、半引きこもりみたいな生活から脱却?〕
「そうなるか。できたらアイテムバッグを作ってからにしたいが、それを言ってるとずっと先送りにしそうだから、腹くくって今日の畑仕事の後に行ってくる」
〔・ついでに、川とか浜辺で釣りをしておくといい。
・今日のデイリー、まだ終わってないし〕
「そういやそうだったな。デイリーと言えば、カニ捕まえてたの、どうするか」
〔・晩御飯でいいんじゃない?〕
「そうするか」
珍しく、というより初めて目先の課題以外のことで積極的に動こうとする耕助。
そんな耕助を素直に応援しながら、軽くアドバイスを送る立て札。
「ちょっと状況が分かってないんですけど、私はどうしましょう?」
〔・耕助の護衛でもすればいいと思う。
・今はリポップ制で食物連鎖とかは機能してないけど
・一応森には危険生物もいるし。
・見ての通り、耕助は現在、戦闘能力皆無〕
「分かりました、頑張ります!」
立て札に言われ、やたら気合を入れるシェリア。
やはり、いろいろ引きずっているらしい。
「そういや、結局島からは出られないのか?」
〔・いろんな意味で危険すぎて
・下手に外部と接続できない〕
「さっきのも、出られるかどうか試した結果、完全に制御を失ってああなったんですよ」
「なるほどなあ。ってことは、シェリアが郷に帰れるのは、いつになるか分からないか」
「ですねえ。まあ、どうせ婿を見つけないと帰れないので、三十年ぐらいは気にしませんけど」
「……三十年って……」
やたらのんきなことを言い出したシェリアに、思わず唖然としてしまう耕助。
そんな耕助の疑問を察したようで、立て札が補足説明をしてくる。
〔・翼人族は平均寿命三百歳、最高寿命五百歳。
・エルフほどじゃないけど、かなり長命な種族。
・ヒューマンと同じ育ち方をするのは、初潮が来る十二歳ごろまで。
・そこからは成長も老化も非常にゆっくりになる。
・なお、三百歳は日本人換算で五十代。
・だから多分、シェリアも実際は耕助とそんなに変わらない年のはず〕
「えっと、実は十六才だったりします」
〔・……童顔だと思ったら、本当に子どもだった……〕
「……やっぱり俺、死んだほうが……」
〔・その話を蒸し返すの禁止〕
実年齢で高校生、肉体年齢だと場合によっては小学生相当かもしれない相手にセクハラまがいのことをした挙句に股間をおっ勃てたと知り、またしても死のうと言い出す耕助。
その耕助の言葉をばっさり切り捨てて、話を終わらせる立て札。
〔・でも、配偶者探しの旅に出るには
・いくらなんでも早すぎない?〕
「それがですね。郷の男の子の最後の一人が、姉と従姉に囲われてしまいまして。さすがに一人で六人以上は勘弁してくれと言われたので、私を含む年少組はあぶれるのが確実となってしまったんですよ」
〔・ああ。それで早く婿を探してこいと〕
「ええ。もともと長命種の宿命として子供ができにくいうえに、翼人族は男の子ができる確率が女の子の五十分の一ぐらいなので、次の男の子ができるのを待つ余裕はない、と言い切られました」
「そりゃまた、極端だなあ……」
「まあ、別に彼については好きも嫌いも特にないので、あぶれたのはいいんです。ただ、さすがに百を過ぎても相手がいないままになりそうなのはちょっと、ということになりまして」
「それ、種族的に男が生まれにくいんだったら、どこの里に行っても同じじゃないか?」
〔・耕助、耕助。
・翼人族は、ヒューマンタイプの種族となら子供ができる。
・翼人族の場合、基本的に相手の種族に関係なく翼人族が生まれる。
・過去には絶滅の危機に瀕した集落が
・繁殖力旺盛なオークやゴブリンを襲って人数を増やした事例もある〕
「……うわあ……」
翼人族のかなりあれな話に、思わずドン引きする耕助。
最近のエロ同人では、ゴブリンやオークが逆にエルフに性的な意味で襲われるネタも多いことはバナー広告で知っていたが、それを本当に実行している種族が実在するとは思わなかったのだ。
なお、基本的に閲覧履歴で内容が決まるバナー広告でエロ同人が表示されているのは、シンプルに無課金で触っていたソシャゲのプラットフォームの影響である。
「……それ、本当にあったんですね……」
「シェリアもその話を知ってたのか……」
「聞いたことはあったんですが、伝説か誇張の類だと思っていました」
「ああ、そりゃそうだよな……」
シェリアの言葉に、心底納得する耕助。
普通に考えていくら子供が少なくて絶滅の危機だといっても、そんな女性の敵みたいな種族を襲うような真似をするとは思わないだろう。
「てか、それ病気とか大丈夫だったんだな……」
〔・翼人族は見た目に反して非常に頑丈だから
・めったなことではケガとか病気にならない。
・具体的には、対戦車ライフルぐらいの威力がないとケガしないし
・翼人族特効の病気以外は二百五十を過ぎるまでかからない。
・飛ぶために魔力を大量に使うから、魔法防御も激高〕
「えげつなく強いな、おい……」
〔・高いところから落ちるのがデフォの種族だから
・必然的にどんどん頑丈に……〕
「理由に納得しちまったのがなんか妙に悲しい……」
立て札の説明に、先ほどと同じぐらいドン引きしながら納得してしまう耕助。
先ほど東屋の屋根を吹っ飛ばして地面に突き刺さったときも、シェリアの体には怪我らしい怪我はなかった。
落ちるから落ちても大丈夫なように進化するというのは、実に合理的な話である。
「とりあえず、シェリアの事情については理解した。島の状態は俺の活動の影響を受けるんだよな?」
〔・ん〕
「で、もう一度確認だが、今は外部とは接続されてないんだよな?」
〔・完全に隔離してる。
・シェリアがここに来たのは、ものすごいイレギュラー〕
「外部との接続も、俺の活動次第なのか?」
〔・全面的に、ではないけど
・耕助ががんばれば、早くなる可能性はある〕
「ということは、シェリアを郷に帰らせるにしても婿探しに復帰させるにしても、早いとこ外部接続できるように頑張らにゃならんか」
〔・別に、急いで外部とつながるようにする必要もない〕
「いや、こんな汚い貧相な葉っぱ一枚のおっさんと二人きりとか、いろんな意味でだめだろう」
〔・……〕
自虐的なことを大真面目に言う耕助に対し、思わずどうしたものかと考え込んでしまう立て札。
シェリアも、何言ってんだこの男は、という表情で固まっている。
葉っぱ一枚はともかく汚いというのはこの世界の標準ではそんなこともないし、貧相というのも一部軍人とか貴族、体格が要求される肉体労働系を除けば、今の耕助とそれほど大きな差はない。
実のところ、頑丈さや身体能力こそすさまじいが、翼人族の男も体格や筋肉の付き方などの見た目は耕助と変わらなかったりする。
「えっと、耕助さんの国では、耕助さんぐらいが汚くて貧相という扱いなんでしょうか?」
〔・……微妙なところ。
・ひょろいとは言われると思うけど
・ガリというほどでもない。
・だから、体形的に貧相かといわれると微妙なライン。
・土にまみれてるのにお風呂入ってないから
・そういう意味では汚いと言われるかもしれない〕
「そういう基準なんですか!?」
〔・まあ、耕助的には、清潔感とかそういう部分だと思うけど
・それに関しては、世界の壁を越えてこの島に来た時点で
・耕助でなくてもみな同じ。
・だって、基本的に突発的な世界移動に耐えられる服なんて人間には作れない。
・だから、ここに来る地球人は男女とか年齢とか立場とか関係なく
・全員来た時点で葉っぱオンリー。
・清潔感もくそもない〕
「へ~……」
耕助が気にしている部分について解説されても、いまいち理解できない様子のシェリア。
この辺りは文化の違いなので、今の時点ではどうしようもない。
もっと交流が深くなって相互理解が進まないと、お互いに相手の持つ感覚など分からないだろう。
〔・後、耕助は気が付いてないけど
・島に来てから代謝のシステムが変わってるから
・ひげなんかは無精ひげのレベルでも
・生えるのに年単位の時間がかかる〕
「言われてみれば、全然ひげ生えてないな……」
〔・だから、ほぼ全裸であること以外は
・あんまり小汚い姿にはならない〕
立て札に指摘され、ようやくそのことを認識する耕助。
が、今問題にしているのはそこではない。
「というか、立て札もシェリアも、おっさんの裸見て平気なのはどうなんだ? 母親らしきコメントが娘って言ってるんだから、一応立て札は性別的には女性なんだろ?」
〔・一応性別は女性で固定だけど
・ベッドインのシチュエーションでもなければ
・男の裸なんてどうでもいい。
・そもそも、神々なんて
・全裸だったり名状しがたい姿だったりが珍しくない〕
「私たちの場合、背中の翼の関係で、男性は割と普通に腰布一枚でうろうろするんですよ。それと大差ないので、別にどうとも……」
〔・それ聞くと、むしろ女性が胸を隠してるのが不思議。
・さっきも、裸見られて胸隠しながら悲鳴上げたし〕
「他の種族との交流もありますからねえ。男性については上半身裸でも特に何も言われませんが、女性は過去にいろいろあったようで、いろいろな積み重ねで知らない男性に裸見られて悲鳴上げる程度の羞恥心は備わった感じです」
「というか、立て札よ。ゴブリン襲撃事件を知ってるのに、なんでその辺の文化的背景を知らないんだ?」
〔・あっちは種族そのものの存亡にかかわってくること。
・だから、管理者として大体のことは把握してる。
・この話は服装に関する文化の細かい話。
・このレベルの話は種族ごとにどころか
・集落単位で存在するから
・いちいち全部把握してられない〕
「そりゃそうか」
いろいろな話を聞き、それならばと強制裸族状態については基本気にしない事にする耕助。
ついでに、立て札が持つ知識がイメージよりだいぶ狭いらしいということも理解する。
「だいぶ話がそれたが、今日は畑仕事を終えたら、島をぐるっと一周してくる」
〔・がんばれ~〕
話が一段落したと判断し、再度今日の予定を宣言する耕助。
こうして、四日目にしてようやく、自分のいる島の探索を開始する耕助であった。
「まずは海岸線沿いを歩いてみるか」
「そうですね」
畑仕事をサクッと終え、拠点近くの海岸に移動する耕助とシェリア。
何はともあれ、島の形と広さを確認することにしたようだ。
「なあ、シェリア。空から見て、海岸線沿いに歩けそうにない場所ってあったか?」
「多分大丈夫だと思います。河口が二か所ありましたけど、橋がなくても渡れるんじゃないかなってぐらいの川幅でした。深さはちょっと分かりません」
「そうか。崖とかはなかったんだな?」
「はい。坂になってるところはあっても、崖になって分断されてるところはなかったと思います」
まずはいつも罠を仕掛けている方角に向けて歩きながら、シェリアに確認を取る耕助。
歩いて越えられない場所があった場合、道具を用意するかシェリアに抱えて運んでもらうかのどちらかになる。
できればシェリアに運んでもらうことは避けたい耕助としては、橋がなくても越えられる川幅の川が二つだけというのは非常にありがたい情報である。
「そんなにしっかり観察したわけじゃないので断言はできないんですけど、基本的に外周部はそんなに高低差はない感じで、中央の山に向かって徐々に高くなっていく感じでしたね」
「山? 山なんてあったか?」
「……そういえば、拠点の位置からは、なぜか山が見えませんでしたね」
「森に阻まれるぐらいの高さってことか?」
「いえ、結構高かったですよ」
シェリアの説明に、どういうことかと一瞬考えこむ耕助。少し悩んでから、さくっと考えるのをやめる。
「……この島はいろいろ変だから、山が見えないぐらいはおかしくないってことにしておこう」
「……そうですね」
深く考えるのをやめた耕助が出した結論に、同じく考えるのをやめたシェリアが同意する。
そもそもいくらそういう品種だといっても、ラディッシュが発芽も何もかもを飛ばして種を植えた翌朝に収穫できる島だ。
木を伐る際に物理的におかしな倒れ方をすることも考えると、拠点から高い山が見えなくても不思議ではない。
「しかし、この辺は結構ぎりぎりまで森が来てるんだな。だとしたら、杭を使わずに木にロープを括り付ける形で籠罠を仕掛けることもできるか」
「あの罠って、何がかかるんですか?」
「いろいろだけど、大体はタコかウツボかカニだな。一応全部食えるんだけど、カニ以外は俺の手に負えないのが厄介なんだよ」
「タコは知ってるんですけど、ウツボってどんな生き物ですか?」
「口で説明するのは難しいけど、でかくてにょろにょろしてて肉食の獰猛な魚だな。どうせまたかかるだろうから、その時見せるよ」
いつもの罠ポイントから歩くこと十分。
このあたりの海岸線はずっと崖になっており、落ちたら陸に上がるのに非常に苦労しそうな地形が続いている。
特筆すべき点としては、森が意外と海岸線ぎりぎりまで来ているということだろう。
海岸沿いは一応普通に歩けるが、二人並んで歩くのは難しい程度のスペースしかない。
そのため、一応耕助が先頭に立ち、シェリアがその後をついていく状態になっている。
耕助が先頭なのは、シェリアを前にすると翼のせいで周りがあまりよく見えないからという、割と切実な問題があったからである。
なお、武士の情けが仕事をしているため、後ろからでも耕助の分身がシェリアに見えることはない。
「そういえば、シェリアは料理ってできるか?」
「……ごめんなさい」
「……まあ、俺も大してできないから、責める気はないんだが」
獲物の話が出たところで、料理の話を振る耕助。
釣るにしても罠や網で獲るにしても、全部塩を振って串刺しにして焼くという訳にもいかないので、シェリアに確認してみたのだ。
「ちなみにできない理由は単に教わってないからか、それとも何度かやった結果やらせてもらえなくなったからか、どっちだ?」
「単純に教わってないからですね。狩りで仕留めた獲物を解体するのはちゃんとできますし、解体した獲物に塩を振って焼くだけなら野営の時に経験してるので、その位は問題なくできるんですけどね」
「なるほど、そういうレベルか。となると、魚を〆て捌くってのは?」
「やったことないので、教わらないとできません」
「そうか。俺とそこまで違いはないわけか」
シェリアの技量を把握し、少しがっかりする耕助。
別に美少女の手料理なんてものに期待していたわけではなく、単に自分より料理できる人間がいれば多少は食生活がましになると思ったのだが、世の中そううまくはいかないようだ。
「となると、魚の料理の仕方を練習しないとだめか……」
「今後のことを考えると、私も料理できるようにならないとだめでしょうね……」
お互い、食事に関して相手に頼れないと察し、どんよりした表情でそんな決意を表明しあう耕助とシェリア。
その表情から、なんだかんだでお互いに料理に対して苦手意識があることが察せられてしまう。
そんな微妙な話題に触れてしまったからか、なんとなく気まずい雰囲気になり、二人して黙ってしまう。
「……これが、シェリアが言ってた河口か?」
「そうですね。見ての通り、そんなに広くないでしょう?」
「そうだな。それに、足が付くぐらいの深さみたいだ」
料理の話題からさらに十分後。
黙々と海岸線を歩き、再び砂浜に出たところで、小さな河口にたどり着く。
「とはいえ、助走なしで飛び越えるのは厳しいか?」
川幅を見て、そう判断する耕助。
川幅は二メートル半といったところで、成人男性の立ち幅跳びの平均値は間違いなく超えている。
社畜で運動不足かつ筋肉も脂肪も足りていない耕助は、当然この手の運動能力の数値は平均以下なので、まず飛び越えるのは無理だろう。
だが、助走をつけてこの距離を飛べないほど運動能力が衰えているわけでもないので、後は踏ん切りがつくかどうかとちゃんとジャンプするときに踏み切れるかどうかだけである。
「よし、行くか」
見た感じ溺れるような水深でもなく、落ちて濡れたところで実質全裸なので被害というほどのものもない。
なので、一応飛び跳ねて地面の状態を確認した後、耕助にしては珍しくそのまま何の気負いもなく飛び越えようとする。
もっとも、こういう時に妙な運の悪さを発揮するのが耕助だ。
今回も助走をつけてジャンプしようと踏み切ったときに、なぜか地面が崩れてえぐれ、飛距離が伸びないという不運が発生する。
それも、先ほどジャンプして確認した場所である。
「うわっと」
足を取られて飛距離が伸びず、ギリギリ対岸に届かず思いっきり水に落ちる耕助。
とはいえ、つんのめったとはいえちゃんとジャンプ自体はできており、落ち方も足から落ちて普通に対岸の手前に立っている。
なので、落ちるというより正確には、河口の中に着地したと評すべきだろう。
水深は耕助の足首ぐらい。転びでもしなければ溺れることはないのは幸いといえよう。
「怖ぁ、もうちょいでコケるところだった……」
「大丈夫ですか!?」
「足が海に浸かっただけだから、問題はない。ただ、バランス崩した時は肝が冷えたけど」
さすがに肝が冷えたようで、顔を引きつらせながらシェリアにそう告げる耕助。
場合によっては顔面から突っ込んでおぼれていたので、耕助が冷や汗をかくのも仕方がなかろう。
「なんか嫌な予感がするので、私は素直に飛んで越えますね」
「そのほうがいいな」
耕助の様子を見たシェリアが、翼人族の種族特性を活かして安全策に走る。
シェリアの判断にうなずきながらも、微妙にはらはらしながら見守る耕助。
今まで、シェリアが空を飛んだときは大体墜落してエロトラブルを起こしている。
なので、今回も墜落しないだろうかという不安が、どうしてもぬぐいきれない。
しかも今回の場合は、直前に耕助が妙な事故を起こしているので、今まで以上に不安が大きい。
かといって、では普通にジャンプして飛び越えようとすると、耕助と同じパターンでつんのめって耕助以上に派手に川に落ちる、もしくは耕助の顔面に胸を押し付ける形で転倒するのではという別の不安がある。
つまり、どう転んでも不安しかないのだ。
「……さすがに、このぐらいの距離では何も起こりませんね」
そんな耕助の不安をよそに、何の問題もなく川を飛び越えるシェリア。
どうやら、ここまでフラグが立ちまくっていると、逆に立ったフラグは折れるものらしい。
「それを言うってことは、シェリアも不安はあったのか?」
「そりゃあもう。この島に来てから、空を飛ぶと必ず落ちてましたし。それに、なんとなく不吉な感じが続いてますし」
「だよなあ」
今日一日について感じていることに対し、見解の一致をみる耕助とシェリア。
正直なところ、裸族手前な郷の生活習慣や性的な接触に対する忌避感や羞恥心が薄くなりがちな文化の影響で、シェリアはエロトラブルで耕助に裸を見られたり乳を揉まれたりしたことはまったく気にしていない。
最初こそ耕助に裸を見られて派手に悲鳴を上げたが、立て札に説明したように、見知らぬおっさんにいきなり全裸同然の姿を見られれば、普通に恥ずかしいと思うぐらいには羞恥心が死んでいないというだけである。
その後も裸でこそないが普通にエロい姿を見せつけ、さらに耕助の人となりをある程度知って見知らぬおっさんではなくなったことから、完全に羞恥心の対象から外れていたりする。
が、それはそれとして、主に耕助の精神状態の問題で、この手のエロトラブルが頻発するのはよろしくないという実感はある。
あと、羞恥心や忌避感はないが、自分から脱いだり触りに行ったり押し当てたりははしたない行為だという認識もちゃんと持ってはいる。
「で、この先はどうなってるんだろうな」
「上から見た感じでは、しばらく砂浜が続いてましたよ」
「そうか。となると、もうしばらくは変わり映えしないわけだな」
「多分」
これ以上触れるとそれこそフラグになりかねないからか、先に進みながらサクッと話題を変える耕助とシェリア。
シェリアの言うとおり、この後十五分ほどは森までの距離がかなり近いこと以外、拠点のあたりとあまり変わらない地形が続く。
「この辺から、また崖になってくるのか」
「そうですね。後は山と森を挟んで拠点から反対側の位置にある砂浜までは、ずっと崖が続くことになります」
「山、ねえ……。今のところそれらしいものは……ってあれか?」
山の話題が出たところで、耕助の視界に突如かなり高そうな山が飛び込んでくる。
耕助やシェリアに山の高さを目測で測る能力なんてないが、少なくとも登山装備なしで登れる高さではないのは間違いない。
「あれですあれです。あの山です」
「もうそういうもんだって割り切ってるとはいえ、なんであの大きさの山が拠点からどころか川を越えた時点でまだ見えてないんだって突っ込みたくはなるな……」
「この島、本当に変ですよね……」
飛べるシェリアはともかく、耕助が登るのは無理なのではないかというような大きな山。
どう見ても、距離があって森に阻まれたから見えませんでしたなんて山ではない。
そんな山が見えなかったことに、疲れたように突っ込む耕助とシェリア。
この分では、ほかにどんなトンデモ地形が待っていてもおかしくはない。
「……おかしいって突っ込んだところで、見えないものが見えるようになるわけじゃないだろうから、この件についてはあきらめるとして。せめて砂漠と氷河地帯が同じ島にあるとか、そういうのはなしにしてくれよ……」
「上から見た限りは大丈夫でしたけど、見えないところでそうなっててもおかしくは……」
うんざりした様子でぼやく耕助に、自信なさげにそう告げるシェリア。
そんなこんなを言っているうちに、山を発見してからさらに十五分。位置的に山を挟んで拠点の反対側にあるという話の砂浜に到着する。
「ここが、さっき言ってた拠点の反対側の砂浜か?」
「はい、そうです」
「ってことは、ここから折り返しか」
「ですね。ちなみに、島の形は真円に近い楕円って感じです。そんな複雑な地形になってるところはありませんでした」
「なるほどな」
シェリアの説明で、大体のイメージをつかむ耕助。
ここまでで大体五十分なので、一周二時間程度の広さと考えてよさそうだ。
なお、二人とも気が付いていないが、島の広さを考えると、明らかに山が大きすぎたりする。
「基本的な地形は、拠点にしてるあたりと変わらないっぽいな。別にこっちでもよかった感じだ」
「そうかもしれませんね」
「ああ、でも、向こうに比べて木材にできそうな木がだいぶ少ないから、それを考えるとここでスタートしてたら詰んでたかも」
現在地の地形をチェックし、そんな感想を口にする耕助。
恐らく初期位置は偶然の産物なのだろうが、実によくできているといわざるを得ない。
「後、つるはしで掘れといわんばかりにそそり立ってるあの崖が気になる」
「不自然ですよね、あの崖」
「なんというか、強引に崖を置いたような感じだよな」
「ですね」
とても不自然な崖を前に、そんな話をする耕助とシェリア。
物理的にどう考えてもおかしい構造になっているのに、なぜか問題なく存在しているのが見ていてとても気持ち悪い。
RPGで言う崖のマップチップを平原の真ん中に一か所だけぽつんと配置するというのを、現実で実行したらこうなったという感じなのだろう。
「あんまり見てると脳がバグりそうだから、さっさと進むか」
「そうですね。あれを見てるとこう、すごく不安な気分になりますし」
いろいろ不安になった耕助の宣言に、心の底から同意するシェリア。
なお、耕助の「脳がバグりそう」という言葉は、シェリアには翼人族の同じような意味の言葉で聞こえている。
この後もちょくちょくおかしなことになっている場所に遭遇しつつ、前半時とほぼ同じ地形になっている海岸線を歩いて進んでいく。
出発から約二時間。島を一周し終え、ついに拠点に到着する。
〔・おかえり~〕
「ただいま」
「ただいま戻りました」
「なんかおかしなことになってるところがちょくちょくあったぞ」
〔・おかしなこと?
・どんな感じ?〕
「うまく言えないんだが、マップチップ配置がおかしいRPGのマップ、みたいな感じ」
「後、中央にある大きな山、遮蔽物がないのに見えるところと見えないところがあるんですが」
〔・なるほど。
・後で調べて、修正できるならやっておく。
・そういうところから、世界が崩壊しかねない〕
「……なかなか大ごとだな、それ」
〔・それはそれとして、釣りはしなかった?〕
「飛び越えなきゃいけない場所とかあったから、釣りポイントを確認するだけにした」
〔・なるほど〕
帰還の挨拶もかねて、道中の報告を済ませる耕助とシェリア。
なんだかんだで無事に外周部の地形を把握しながら、拠点まで一周して戻ってくる耕助たちであった。
年齢設定をソードワールド2.0か何かで見た3D6+12にあわせて、ダイスをD10に変更してサイコロ振ったら、ほぼ最低値が出た件について。
なお、最近使ってなかったせいで、ルールブックは行方不明です。
D100に変えても同じ出目だったので、シェリアはガチで子供だったんだということで納得しました。
アルチェムとかの時は似たような基準で振ってもそれなりにちゃんとした出目だったのに、何故だ……。
この島は物理演算も含めてやたらバグが多いので、立て札さんもとても苦労しています。
それこそ、耕助の絶妙な不運を見て笑わないとやってられない程度には。
そして、翼人族。
墜落とか多そうだなと余計なことを考えた結果、フィジカルエリートな種族になってしまいました。
ちなみに、別に翼の羽ばたきで飛んでいるわけではないので、実は海に落ちても普通に飛べます。
ただ、空を飛ぶための器官ではあるので、怪我をすると飛行に支障が出ます。
なお、手足と違い、翼は根元からもげたりしてもそのうち再生します。そういう種族なので。
次回は来週20日土曜に投稿します。




