優しい天使が、研究ばかりで人付き合いの苦手な僕に嫁いでくれた結果。
「今日からよろしくお願い致しますわ」
にっこり微笑む妻に、夫となったばかりのジャンはとても困った顔をした。
妻となった彼女はリナ。それなりに大きな商会の末娘だ。
リナの実家は、一応貴族の端くれである男爵家との繋がりのため。ジャンの実家は、リナの実家から用意された支度金目当てで結婚を決めた。
まあ、当然ながら実家同士の思惑があっての政略結婚。お互いに愛はない。
それなのに、可愛らしい笑顔を向けられて…あまり人付き合いの得意ではないジャンはどう振る舞えば良いかわからないのだ。
「えっと…うん、よろしく」
やっと口から出たのは、そんな平坦な言葉。ジャンは自分に絶望する。
しかし、そんなジャンの手をリナは両手で包み込んだ。
「優しそうな旦那様で良かった!」
屈託のないその笑顔。ジャンは、リナに恋をした。
「旦那様、何をされていますの?」
夫婦となった二人。何度も言葉を交わし、少しずつ距離を詰めていくがお互い知らないこともまだ多い。
「あ、えっと、これは趣味で…」
「まあ!もしかして魔道具の開発ですの!?」
本来なら、貴族のすることではない。魔法を得意とする平民達が、生きていくために行う仕事だ。だが、ジャンはどうしてもこの趣味を捨てられなかった。両親もそんなジャンを放っておいてくれるので、好きにしていたが…リナに、嫌われるだろうか?
「まあまあ、面白そうな魔道具!どう使いますの!?」
しかし、リナはノリノリだった。
「え?あ…えっと、血液を調べて特定の病気の検査に使う感じかな…」
「まあまあまあ!もう実用段階にあるんですの?」
「うん、ふつうに使えると思う。ただ…趣味で作ったものだから、特にどうする気もなくて」
それを聞いたリナは、パッと笑顔になった。
「旦那様、もしかして実用段階にありながら発表していない魔道具…たくさんあるのではなくて?」
「え?う、うん」
「ふふ、その研究内容…私に、託して見ませんこと?」
リナの言葉に、ジャンは目を丸くした。
結論から言おう。ジャンの男爵家は、それはもう大金持ちになった。ジャンのこれまでの様々な研究成果と、それを活かしたリナのおかげである。
「リナ、ありがとう。おかげでうちは裕福になったよ。領地改革にお金も回せて、領民達にもたくさん還元できた。両親も領民達も、みんな喜んでるよ。まだ幼い妹にも、将来結婚支度金を多めに持たせてあげられる。本当にありがとう」
「いえいえ、コツコツ研究を続けて魔道具を生み出してきた旦那様の成果があってこそ。私はその研究内容を、魔道具を作っている平民達へ与えただけですわ。代わりに、儲けの10%を男爵家へ返還するという契約でね」
ジャンが行ってきた魔道具の開発研究の成果。幼い頃からジャンがずっと続けてきたそれは、膨大な量になる。しかも、誰も手をつけていなかった医療分野における魔道具開発だった。治癒魔術でこと足りると、誰も医療分野の魔道具は作っていなかったのだ。
しかし、実はかなり需要はある。治癒魔術の発展していない外国への輸出を考えれば、かなりの利益になるのだ。
リナは旦那様がそれを今まで公にしていなかったのはちょっともったいないと思いつつも、だからこそ自分が嫁いできてから莫大な利益を得られたとホクホクする。商会の末娘として交渉に長けたリナだから、魔道具作成を生業とする平民達と良い契約を結ぶことが出来た。
「これからもまだまだ、彼らが得た利益の10%は男爵家に還元され続けますわ。でも、旦那様が研究を続けてくだされば更なる利益も見込めます。どうぞ、これからも頑張ってくださいませ。交渉は私に任せてくだされば大丈夫ですわ」
「うん、ありがとう。おかげで領地の景観も良く出来たし、領民達への教育にもお金を回せるし、領民達への税も軽く出来たし。もっと頑張って、もっと家族や領民達を楽させてあげられるよう頑張るよ!」
「ふふ。領民達に利益を還元すればその分、さらに男爵家に利益がもたらされるというもの。旦那様の頑張りは、旦那様の大切なものを全て幸せにしてくれますわ」
こうして、二人の奇跡的な掛け算によって男爵家は一気に発展した。領内ももちろんものすごく発展した。魔道具を作成する平民達も、大きな利益を得られた。その平民達から商品を仕入れて輸出しまくったリナの実家も、それはもうものすごい儲けを得た。
結果、ジャンが爵位を継ぐ頃にはその功績を称えられ子爵家に格上げされた。リナがジャンとの三人目の子供を産む頃には、リナの両親には商会の魔道具の輸出による国への金銭的貢献から男爵位を授けられた。
ジャンとリナの結婚は、みんなが幸せになる奇跡的な掛け算となった。
そしてジャンとリナの子供達も、それぞれ医療分野における魔道具の開発やそれを製品化する際の交渉などの腕を日々磨いている。
小さな領地…どころか、国全体がジャンとリナのもたらす利益により豊かになっていった。子供達も、やがて国に利益をもたらす天使となるだろう。
「リナ、君は僕の天使だ」
「ふふ、なら旦那様は私だけの天使ですわね」
今日も無邪気な笑顔を自分に向ける妻に、ジャンは優しく微笑んだ。
【長編版】病弱で幼い第三王子殿下のお世話係になったら、毎日がすごく楽しくなったお話
という連載を投稿させていただいています。よかったらぜひ読んでいただけると嬉しいです。