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第八話 排泄物に喜ぶ豚

本日も二話投稿します。

二話目は午後五時に投稿します。

「体育だっ。早く着替えないとっ」


 わっせ、わっせ。


「あっ! 俺、スッポンポンだったわっ」


 ただ装備は換装した。

 手にはローブと棒で作った網に、短剣を装備している。


「前世も基本的にボッチだったけど、この環境でボッチは少し辛い……。しかもこれから危険地帯に行くと思うと……」


 消化されたくない。糞になりたくない。


「刺激しないようにしよう」


 ヌメヌメの体内を滑るように進み、胃へ向かう。

 途中迷いそうになったが、慈愛あふれる神様が体内地図の知識も付与してくれたらしく、第六感的感覚で進むことができた。


「いざ、宝物庫へ──ヴゥゥゥゥ……臭っ」


 ウ〇コの臭いがする。


「帰るぅぅぅ」


 くぱくぱ開く胃への入り口から、喉周辺の悪臭を超える臭いが噴き出され、それが吐き気を誘う。


「デバフ……か……」


 ──無理っ。


 俺は宝物庫の入り口から逃げ、隣の予備倉庫へ駆け込んだ。

 直後、胃へ向かって何かが流れていくのを目撃する。


「え? 今の何?」


 耳を澄ませると動物の鳴き声らしきものが聞こえ、さらに水の音も聞こえてきた。


「こいつ食事してるのか?」


 今まで地竜の食料が流れて来なかったから、霞でも食って生活しているのかと思っていた。

 しかし実際は食事をし、濁流のような勢いがつくほど水を飲んでいるではないか。予備倉庫に駆け込めたのは僥倖だった。


「食事が終わるまで戻れない?」


 必要な時間も量も分からないため、しばらくこの場所で過ごさないといけないらしい。


「そういえば、ここって予備倉庫だよね。何かあるか見てみるか」


 何よりそんなに臭くない。

 肉壁がほのかに光っていて注意すれば見えなくもない。


「あぁ、あの光は竜核が発する光なのか」


 頭の中に地図を思い浮かべると、位置的にかなり近い。

 最悪胃をスキップしてショートカットするのもありかな。


「どれどれ……石ばっかだな」


 もしかして結石か?

 普通ならいらないけど、神様がわざわざ予備倉庫と示している場所だ。無駄なわけない。

 それに、前世では鯨の結石が『竜涎香』という金と同じほどのお宝になったと聞いたことがある。

 鯨で金と同じなら、竜なら破格のお宝になるんじゃないか?


「よしっ!」


 回収回収。

 入るだけ持っていこう。

 もちろん、知識を元に選別して。

 きっと全部は持てないからね。


「えーと、角が取れて丸くなった方が熟成されて質がいいと」


 なるほど、なるほど。

 じっくり見てみても半分に満たないくらいしかない。

 相当希少だと見える。


「嬉しいけど……重いね。さすが石……はあ、はあっ」


 バックパックの入り口を開けて転がしているだけなのに、すぐに息が上がってしまう。


「そうか。空気が……薄いのか……はぁはぁっ」


 異世界初心者に低酸素トレーニングはまだ必要ないよ。

 今は基礎トレーニングで十分だと思うな。


「水、水。水をくれ」


 んぐっ、んぐっ。


「はあぁぁぁぁーー。生き返るぅぅぅ」


 初日からイレギュラーが発生したけど、今日はもういいや。

 ここで食事にしよう。


「お弁当作ってきてよかった」


 蒸留器とフライパンを並べるだけで、食事の準備は完了だ。

 味に違いはないけど、毎回美味しい肉を食べることができるだけでも十分幸せである。

 サバイバルと聞くと虫とか蛇とかを食べなきゃいけないイメージの中、異世界において最高級の竜肉を毎食食べたいときに食べられるのだ。

 幸せでないわけない。


「まさに竜の血肉で作られた体だよね」


 もちろん、神様のこともデュー君のことも忘れていませんよ。大変感謝しておりますとも。

 感謝の気持ちは決して忘れてはいけない。

 今日を生きることができているのは、全て神様のおかげである。


「さて、この後だけど……五限目の魔力吸収が問題か」


 三限目は錬金術の実技のつもりだったけど、四限目と統合して石拾いを続ける。

 できるだけ胃に来る回数を減らして、魔力吸収と魔力操作の習熟に時間を割きたい。決して臭いからではない。……違うからね。


「でもバーベ村の人たちってすごいなぁ。あの激臭の元をありがたがっているってことでしょ? 屋外で臭いが拡散するっていっても無理だわぁ」


 デュー君の記憶では、ウ〇コの山に入って荷車に載せるんだよ?

 正気ですか?

 人糞の片付けは奴隷にやらせるくせに、竜になった途端奴隷には触らせないんだって。

 おかしくない?

 同じウ〇コですけど?


「胃袋の中の宝が混じってるとか思ってるのかな? 卑しい奴らだなぁ」


 どうしよう……。

 心が折れそう。

 悪臭がするってわかってる。

 でも行かないといけない。

 先の消化器官から素材を取ってこないと、錬金術の実技がほとんどできない。


「………………うん。行かない」


 首の肉周辺で活動できる限りは、可能な限り動かない方がいいだろう。今日みたいに戻れなくなったら困るからね。

 首の拠点で活動できなくなったらどうせ胃の方向へ進まなければならないのだから、そのときに改めて挑戦する方が効率がいいだろう。


 ね? 思うよね?


 自他ともに納得できる理由を見つけたときは、正しく天啓だと思った。

 逃げの理由ではなく、むしろ今後のための攻めの理由。

 自画自賛になるが、素晴らしい案である。


 憂いがなくなったことで低酸素の中でも作業が進み、石拾いはようやく終わりを迎えた。


「早く帰りたいなぁ」


 でも、石拾いが終わったのに地竜の食事が終わらないからやることがない。

 錬金術の入門書も読み終わり、各種道具も洗浄後全て収納していつでも帰れるっていうのに、いつまで経っても食事を続けている。


「剣でも振るか」


 保留にしていた武術の修行を暇つぶしがてらやってみることに決め、バックパックを装備したまま短剣を準備する。

 集中しすぎて気づかない内に失くしていたとか、竜学ライフどころか人生が詰む。


「よし、準備完了」


 まずは素振りでしょう。

 基本である上段だからの振り下ろしを姿勢を意識して何度も行い、正しい剣路を身に着けていく。

 何度も剣を振ることで理想に近づけたり、いつでも同じ威力や精度を発揮したりするのだろうが、俺には武闘神様のおかげでうっすらと剣路が見えている。

 それをなぞればいいのだが、これが難しい。


 でも、すごく楽しい。


 ビシッと剣路をなぞれた瞬間は得も言われぬ快感が体を走るのだ。

 だから達成すればするほど、「次は? 次は?」って止まらなくなり、周囲の状況や時間を無視して自分の世界に入り込んでしまう。


「──ふぅ。諸刃の剣だ、マジで」


 本当かどうかわからないけど、巷では陽型命力の者は剣が得意で、陰型命力の者は魔法が得意なんだとか。

 はっきりしない理由は、魔法を使えるのは王侯貴族などの権力者か金持ちだけだからだろう。


 平民のほとんどは近接戦闘しかできないから、適当に言っているんじゃないかというのが最有力の説らしい。

 他には自称事情通の者は、生命魔法を独占する教会と王侯貴族の対立を表しているという説もあるそうだ。神様にもどちらが正しいかわからないらしく、噂話の情報も一応知識に入れといてくれた。


 個人的にはどちらの説でもいいけど、問題は教会が生命魔法を独占している点だろう。

 何かある度に教会に高い金を払って治療してもらわないとしけないらしく、教会が阿漕な商売をし続けたことで秘薬の価値も高まったのだとか。


 秘薬は怪我を含む体力回復から始まり、命力回復、解毒、状態異常回復と生命魔法の代わりを担うのに十分な効果がある。

 だから、得手不得手の話は教会と王侯貴族の対立が有力だと思っている。錬金術師の多くは貴族の関係者だからね。


 話は大分逸れたけど、デブが陽型命力を象徴するという意味不明な俗説があることと、平民であることから剣術などの近接系武術は必要不可欠だ。

 何故ならば、人は自分と他人を比べる生き物である。

 そして相違点を探し出し、そこが一般的ではなかった場合排除する傾向が強い。


 勝手に人の命核の型を想像し、勝手に自分の結論と結びつけて声を上げる。


「デブのくせに剣術も使えないのか」と。


 陽型命力なら近接系武術が得意だろう。

 近接系武術と言ったら剣術だろう。

 剣術を使えないなら修行をしなかったんだろう。

 つまりお前は怠け者なのだ、と。


 結果、デブが生きにくい世界が完成した。


 それに、俺の場合は陰陽二つの命核を持つことを隠さなければいけないしね。

 どちらかに偏っていた方が何かと都合が良い。

 といっても、公に魔法が使えないことを考慮すると陽型一択なんだけど。


「ありがたい才能なんだけど、我を忘れるところは少し困るというか……」


 地竜の食事が終わっていたことも気が付かず剣を振り続けるとか、場所が場所だけにすごく危険だったと現在猛省中。


「魔法はそんなことなかったのになぁ」


 ──いや。まさか、魔力吸収とか魔力操作って魔法じゃないのか?

 本当の魔法を覚えた後、剣術みたいなことになるってこと?


「ま、まさかねぇ……」


 魔導書開いて魔法陣を体内に吸収するだけだよ?

 剣術みたいに修行してどうこうってのはないでしょ。


「うんうん、大丈夫大丈夫」


 とりあえずだが気持ちの整理はついた。

 ゆえに帰る。


「先生、ありがとうございました。さようなら」


「うむ。気をつけて帰りなさい」


「ブヒッ」


 予備倉庫に一礼した後、自分の家に思いを馳せながら一目散に帰るのだった。






お読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークも嬉しかったです。

引き続きお読みいただけると幸いです。

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