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第七話 蹄合わせ錬成

本日二話目です。

 ──グオォォォォ……。


「あっ、予鈴だ」


 起立、礼、着席。


「本日は竜学生を紹介する。デュロック君だ。気軽にロックと呼んでやってくれ」


「あいっ」


「うん。よろしい。じゃあロックは後ろの肉側の席を使ってくれ」


「ブヒッ」


「それでは、一限目の魔力吸収を始めるぞ。準備はいいか?」


「ブヒッ」


 …………はぁ。虚しい。


 喉がカラカラだから、あまりしゃべりたくはないんだけどね。独り言でも言ってないと、喉の上の方にある輝石まで登っていく気力が湧かないんだ。

 近づくほどに熱くなっていく熱気に晒され、どこか燻製されている気分になる。


「バックパックの重量軽減の実証実験ができたのは良かったかな」


 血液で満杯の蒸留器を入れても全く重さ変わらず、最初から変わらぬバックパックの重量だけ。


「まだ……まだ……血をすするわけにはいかない……」


 まだ人間をやめたくない。


「──はぁ……はぁ……。着いたぁ」


 瞑想、できるかな。

 ジリジリと肌を焼く熱気に集中力を奪われ、熱のせいで喉の乾きが加速する中、息を整え心を静め瞑想する。


「むっずぅぅぅ」


 才能よ、今こそ出番だっ!

 そして頑張れ、俺。

 俺ならできる。才能があるからなっ。


「コオォォォォ……ハッ」


 気合を入れて胡座を組んで座り、見様見真似の座禅の手を作って瞑想を始める。


 まずは魔力を感じることが重要。

 だが、今回は発生源が明確にわかっている。

 熱気が来る方向に意識を向ければいいだけだ。


「──うっ」


 本当に正しいのか疑問に思うほどの違和感が体を襲う。

 地竜から吸収しているせいか、常に幻影の竜に襲われているように感じるのだ。

 襲われる瞬間、ついつい避けるように体を傾けてしまう。

 それがまた余計な体力を使う。


「鬱陶しいなぁ」


 イメージの補完をし、自分はメトノロームだと思い込む。

 回避行動と正位置に戻る行動をメトロノームの振りだとし、それを吸収のリズムにして集中を深めていく。

 すると、体内にヌルっと侵入してくる何かを感じた。


 これが魔力だろう。


 重要なのは、ここから。

 素質がないものは弾かれるらしいが、俺は弾かれない。

 しかし操作が粗雑になれば融合に失敗し、失敗すれば魔力に侵食されて魔力暴走を起こしてしまうらしい。

 個人の力である命力よりも、地竜などの怪物や世界を構成している魔力の方が強大であることは間違いない。


 本来なら監督者がいる場所で、指導を受けながら安全に吸収を行うようだ。

 中には【霊丹】という吸収を手助けしてくれる薬を使うものもいるらしい。それほど危険を伴うということなのだろう。


 だが俺は大丈夫。

 才能があるからね。

 きっと大丈夫。……きっと。


「ふぅぅぅ……」


 深呼吸の吸気で吸収し、呼気の瞬間に融合する。

 焦らず、ゆっくり丁寧に。

 そして時間を掛けるも遅すぎず、決して巧遅にならないように。


「やばい……止め時が分からない……」


 最初は下地を作った時点で終了した方が良いと知識にあったが、下地ってどこまでのことを言うの?

 命核全体をコーティングするって言うなら、全く足りていないんだけど。

 でも喉が……限界なんです……。


「大人……やめる。俺は──僕は八歳ですっ」


 汗なのか地竜の体液なのか不明だけど、水分のある腕をペロペロする決意をした。

 気持ち悪いけど。

 不潔だけど。

 子供がやることだ。

 子供がやったことだから許して。


「──オェッ」


 口内に唾液は戻ったけど、とにかく臭かった。

 これが体臭じゃないことを祈る。


「命核のコーティングまで続けよう」


 何事も最初が肝心だ。

 手抜きしたことが原因で才能が無駄になりましたとか、悔やんでも悔やみきれない。


「あと少し」


 時折地竜の幻影が激しく暴れるときがあるが、概ね順調に魔力吸収が進んだ。


「──ふぅーー。終わったぁ」


 余韻に浸りたいところだが体力がある内に寝床に帰り、蒸留器で水の精製を行う。


「鍋敷きはどれがいいんだ?」


 なになに。

 取説によると、汚染された水なら『浄化』で良い。


「そもそも水じゃないからぁ。違うか」


 次に水分の取り出しについては、『抽出』の鍋敷きに抽出するものを示す。


「付属の水滴模様のメダルを使うのか」


 鍋敷きの凹みにメダルをはめて、蒸留器をセットする。

 あとは鍋敷きの端に指先を当てて命力を流せば、優秀な蒸留器が勝手に水を作ってくれるらしい。


「アレやりたいよね。手合わせ錬金術」


 無意味とわかってていてもついやりたくなってしまうから、もうルーティーンにしてもいいかも。


 ──パンッ!


「錬成」


 鍋敷きにタッチして少しずつ命力を流していくと、鍋敷きの魔法陣が徐々に輝き出した。

 魔法陣に命力が行き渡ったようで、魔法陣が放つ激しい光が蒸留器を包み込んだ。


 直後、鍋蓋の取っ手部分から黒っぽいものが排出された。


「あっぶなっ」


 危うく顔面に付くところだったが、ギリギリで避けることができた。

 デュー君は運動もできたのかな。

 才能があっても体がついてこなかったら、きっと避けられていなかった。


「……終わった?」


 いつの間にか光が消えていたことに気づき鍋蓋を上げてみると、そこには透明に澄んだ水があった。

 急いで鍋セットからお玉を取り出して掬って飲む。


「──水……だぁっ」


 美味いっ……美味いっ!


「しかも命力が回復してる気がする?」


 命力自体大して使ってないからほぼ誤差みたいな感触だが、胸の辺りがほんわかして活力が漲ってくる気がするのだ。


「癒やされるぅ」


 ふぅぅーー……。



 ◆



 ──はっ! 寝てたっ!


「水、水はっ!?」


 よ、良かったぁ……。

 無意識に収納してたみたいだ。


「そういえば水も確保できたことだし、行動方針を決めとこうかな」


 まずは、【霊物】の竜晶ドラゴンジェムから魔力を吸収し尽くす。

 次に、食料や水を製造するついでに錬金術の修行を並行していく。せっかくの竜肉だから干し肉とも作れたらいいなぁ。


 続いて、胃袋内と胃袋横にある臓器から財宝を発掘する。

 といっても、胃酸で溶けないもの限定らしいけど。

 まぁ魔導書は溶けないものに分類されるらしいから、少しだけ期待が持てる。


 最後に、竜核ドラゴンハートを目指して体内を進み、ハツ刺しを食べる。

 もちろん、竜核からも魔力を吸収し尽くす予定だ。


「武術はとりあえず保留かなぁ」


 やることを絞らないと、結局どれも中途半端になる気がする。

 いつまでも寄生虫ライフを送れるとは限らないだろうから、竜の体内でしかできないことを優先した方が後悔を残すこともないだろう。


 転生したからには「あのときこうしていたら……」という後悔を残した行動は、できるだけしたくない。


「決まったところで、まずは食事でしょ」


 しばらくはお腹が空いたらいつでも毎食首肉のステーキだ。

 時間がわからないから仕方がないのだが、食べすぎて太ったらどうしようかと思っている。


「本日も本当に美味しゅうございます」


 むぐむぐ……。


「水も美味しゅうございますよ。もはや甘露水でございますよ」


 食べながら具体的なスケジュールを決めよう。


 起床したら食事を済ませる。

 一限目は食休みも兼ねて錬金術の講義を行う。

 二限目は体育だ。胃袋周辺を探索して素材や宝物を回収すると同時に、体力や筋力もつける。

 帰ってきたら食事をし、三限目と四限目は一限目と二限目を繰り返す。

 そして帰宅後、食事をして五限目に魔力吸収を限界まで行い、就寝すると。


 イレギュラーがない限り、このスケジュールを遵守していこう。


「ごちそうさまでした」


 フライパンに命力を流して洗浄し、バックパックに収納する。

 いくら紐付けされているから大丈夫だとわかっていても、気持ちがソワソワするんだよね。


 だから、入門書以外の全てをバックパックに収納して背負い、二宮金次郎状態で講義を受ける。


「ふむふむ」


 人の手で作れる薬は【妙薬】【秘薬】【霊丹】が代表的で、他には風邪薬などの治療薬に、狩りなどに使われる毒薬などがある。

 薬類の調合を【錬丹】と総称し一纏めにされることが多いが、錬金術が特に必要な錬丹は代表的な三つの薬類らしい。


「妙薬はまだ無理だなぁ」


 これが例の【霊物】を使用して作れる薬だ。

 失敗したときが恐ろしい。


「霊丹も無理だなぁ。ここに植物なんかないし」


 そういえば、ヴィーガンだったら餓死するんじゃないかと思うほど、偏食な生活だよね。

 栄養失調とかで死なないよね?

 強靭な体だから大丈夫だよね?

 一気に不安になってきた……。


「なんか栄養剤みたいなものないかな」


 ペラペラとレシピをめくるも、そもそも霊丹が栄養剤に分類されているようで、霊丹が作れないなら無理ということになる。


「ということは、秘薬だけか」


 素材があれば短剣の強化もできるらしいけど、技術的に失敗しそうだから保留だ。

 二本あると言っても数少ない武器であり、大切な包丁でもある。無駄遣いのような形で失うのはご免だ。


 ちなみに既に手遅れだけど、錬金術は無属性のままの方が命力を純化する道具を必要うとしないから、属性を得ない方がいいらしい。

 ただ、戦闘では貧弱すぎて守ってもらわなければいけないから、御先真っ暗な飼い殺し生活を送らなければいけないらしい。


「道具くらい買え」


 と言いたい。

 まぁ俺は頂いたわけだけど。


「神様、ありがとうございますっ!」


 自分が恵まれていることを再確認して、秘薬の説明に集中する。


 秘薬は全部で四種類。

 それぞれ上中下と階級があり、基本的に色の濃淡で階級を判別する。

 色が濃いほど質が良く、効果も高い。

 当然価格も高い。

 売値も買値もともに高く、秘薬製造だけで生活するのが錬金術師の理想らしい。


 理想ということは一握りの者にのみ許された生活で、他の多くの錬金術師は家庭教師をしたり研究のために冒険者になったりと苦労をしているらしい。

 世知辛い世の中だ。


 俺も金持ちになるために秘薬製造はマスターしておきたいな。


 地竜の体内では四種類全ての秘薬が作れるそうだが、素材を取りに行かなければいけないらしい。


「紅の秘薬と藍の秘薬はなんとかなりそうだけど、問題は緑と黄の秘薬かぁ……」


 竜の肝臓ってどこだよ……。

 レバー炒めのために探す?

 うーん……保留で。


「座学はここまでにして、二限目の体育に移ろうかな」


 起立、礼。


「ありがとうございました」





お読みいただき、ありがとうございます。

引き続きお読みいただけると嬉しいです。

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