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第三話 目指すは豚バラ人生

本日三話目です。

「すまん。違う体に転生させてしまった」


「えっと……どちら様ですか?」


「一応神やっとる」


 最初白い人型の靄みたいな存在が声をかけてきたのだが、神だと意識し始めてから白く長いひげをたくわえた老人の姿へと変化した。

 まるで仙人のような風体をしているのだが、この世界では神様らしい。


「はじめまして。お会いできて光栄です」


「……恨んでおらんのか?」


「二度目の人生がもらえたことは大変感謝しています。それも魔法がある世界に。……ありますよね?」


「あるが、我々が考えていた使用法とは違っているからのぅ……」


「えっと……僕は使えます?」


「お主はこの世界で唯一の全属性持ちになるな」


 さっきから微妙に論点をズラされているような気がする。


「べ、別にズラしてなどおらんよ?」


「やっぱり心が読めるんですね」


「まぁお主の夢の中にいるからの。今は憑依しているようなものだから、儂もお主になっておるということだ。今の姿もお主の想像に合わせた結果だ」


「僕が神に……?」


「まぁ……そうとも言うか……」


「それで、魔法は使えるんでしょうか?」


「使える。……が、買わないとな」


「買う? 買うってどういうことですか?」


「まぁその話は少しややこしいから、横においといて」


 横に置くジェスチャーをして無理矢理話を変えてきた神様。

 そうまでして話したい内容とはなんだろうか。


「まずは転生の話をさせてもらいたい」


「はい。やることが何かあるとか?」


「特にない。これ以降干渉することもないだろうしな」


「じゃあ悪役に転生してしまったとか?」


「いや、養豚も行う兼業農家の次男ってだけだぞ。生まれつき太りやすいが大食漢ってこともなく、家の手伝いも率先して行う良い子だ」


「じゃあ生贄以外は問題ないのでは?」


「生贄は本来起こり得なかった。体の持ち主は生贄が決まったショックで亡くなってしまったから、お主に関して言えば、その子に転生していなければ生贄とは無縁だったぞ」


 じゃあ俺は死体に入ったってことか?


「概ね合っておるが、いくつか違う点があるのぅ。まずは本来の転生先は村長夫人の体内に宿る新しい命だった。何故か弾かれて、たまたま近くにいた彼の体に魂が入ったのだ」


 あの家かぁ……。

 幸せになれたのかな?

 一生ウ〇コの加工をさせられていたかもしれないと思うと、間違ってよかったのではないかと思わなくもない。


「それと、死体に入ったわけではない」


「え? それはどういう……?」


「死亡の定義が体から魂が抜けたとするならば、彼はまだ死んでいなかったということだ。魂が完全に抜ける前に魂の人格や記憶の部分だけが融合して、魔力を司る部分は連結したという特殊な事例が起きた」


「珍しいことなんですか?」


「この世界では初めてのことかのぅ」


「それは大丈夫なのですか?」


「本来は大丈夫ではない」


「そ、それはどうすればっ!」


「安心するが良い。今回の事故の補償で加護を授けるのだが、それで大丈夫な体にしておく」


「ありがとうございますっ!」


「うむうむ」


 補償なんかする必要がないはずなのに、なんて慈悲深いのだろうか。


「補償の話が出たついでだ。簡単な内訳を伝えようかのぅ」


 内訳が必要なほどもらえるのか?

 そんなにもらっても良いのかな?

 何もしなくていいのに。


「良い良い」


「ありがとうございますっ」


「うむ。まずは儂からの加護だ。先程話に出た魂に関することだが、簡単に言うと魔力を使うときに使用する神経の強化などかのぅ。それと錬金術の才能を授けよう」


「ありがとうございます。やっぱり錬金術とかもあるんですね」


「うむ。錬金術の才能は最初付与する予定はなかったんだが、地竜の体内に入るなんて面白いことをしたからのぅ。その褒美だ。地竜の体は余すことなく最高級素材だから、修行環境に適してると思うぞ」


 早く留学をやめたいのに、魅力的な言葉に惑わされ始めている自分がいる。


「それと体の持ち主の記憶や経験を引き出せるようにしておくから、目が覚めたら村での生活とか基礎知識とかも思い出せるはずだ」


「助かります」


 白く長いひげを揺らして頷きながら、懐からメモ帳を取り出す神様。

 まだいただけるようだ。

 それもメモしないと忘れてしまう数を?

 なんか……少し怖いんだが……。


「次は叡智神から、お主が気になっている魔法関係の知識と才能だ」


「ありがとうございます!」


「次は武闘神から、環境適応能力が備わった強靭な肉体と武術の才能だ」


「ありがとうございます!」


 強靭な肉体かぁ……デブを卒業できるのかも。


「最後に三つの宝物を授ける。いずれも迷宮から出土されるものだが、人間では使えない空間魔法に関するものを授けることにした」


「え? 空間魔法ってないんですか?」


「あぁーー……ないのぅ」


「では、異世界の定番の生活魔法はどうです?」


 生活魔法の中に空間魔法系が隠されている可能性も、ワンチャンあるかもと思ったのだ。


「転生してくる者はもれなく聞くのぅ。残念ながら、それもない。普通の魔法を弱めて使えば生活魔法というものに改変できるが、迷宮から出土される宝具の模倣品である魔導具があるからのぅ。わざわざ魔法を使う理由がないというか……のぅ」


 なんで魔法の話になると歯切れが悪くなるんだ?

 なにか言いたくないことがあるのか?

 まぁ今はもっと気になることを聞いてしまったのだが。


「あ、あのー……転生者がいるのですか?」


「今はいない。何百年に一人いるかどうかってくらいだ」


「昔の人も生活魔法とか知ってるんですかね?」


「いや。時間軸が違うのでな。別の年代に送り込んだだけだ」


「な、なるほど」


 良かった。

 余計なトラブルに巻き込まれずに済みそうだ。

 乙女ゲーム勘違い女とか、人間をNPCと思っている現実逃避者とか、サイコ野郎とか、考えるだけでも面倒な存在だろう。


 そうだ。

 面倒な存在ついでに気になっていた者についても聞いてみよう。


「あのー、本来の転生先の子には別の誰かが入ったのでしょうか?」


「いや、その者は亡くなった。死産だのぅ。しかももう産めない体になったはずだ。まぁ事故が原因であろう。儂の力を弾くような力が近くで発生したなら、異変が起きてもおかしくはなかろぅ」


「そうですか……」


 弾かれた原因が人災なら復讐しようかと思ったんだけど、原因がわからないんじゃ仕方がないか。


「もうそろそろ時間切れだが、何か気になることはあるか?」


「うーん……」


「あっ! 先程の心の中での疑問だが、無理だぞ」


「えっと……なんのことですか?」


「デブの卒業だ」


「えぇぇぇぇぇーーー! なぜっ!?」


「言い忘れていたか。体の持ち主の魂がある状態での不完全な転生だったことと、肉体の状態は魂に引っ張られることの二つの理由により、デブの体を記憶を持った状態で固定されてしまったのだ」


「……分離はできないのですか?」


「無理だ」


 俺のジュニアは肉に埋もれている状態なのに、既に凶器なんだぞ?!

 痩せさえすればバラ色の人生が待ってるだろうと、安全確保とダイエットという一石二鳥をモチベーションに短剣を振ったのに……。

 無駄だったということか?

 ……いや、安全確保ができたから無駄ではないと思う。

 思うけど、そういうことじゃないんだよっ。


「それならば……いくら食べても太らないってことですかね?」


「……違う。最小体型が今の大きさというとこかのぅ。その子は本来太りやすい体質だったわけだから、油断してるとスライムみたいになるかもしれんのぅ」


「豚……オークから、スライム?」


「そこは大丈夫だ。テラホルトのオークは猪寄りだからのぅ。毛むくじゃらの筋肉戦士をデブとは言わんだろう」


「大丈夫、ですかね? ツルリンでいるうちは、大丈夫かもしれませんが……」


 遠回しにオーク以下と言われている気がするのは、俺がひねくれているせいなのかな?


「それも安心するが良い。安全な永久脱毛の技術があるらしいぞ」


 安心できないよ。

 結局、オーク扱いされたときの対処法がわかっただけで、俺がバラ色の人生を送るためにはデブ専を探さなければいけないってところは変わらないんだから。


「デブ専……い、います……かねぇ?」


「うーむ……いるんじゃないかのぅ?」


「本当のことを言ってくださいっ」


「お主が転生した『テラホルト』という世界は魔物や魔獣による危険が常に付きまとうから、武術を習ったり体を鍛えたりする者がほとんどだ。一部の常に守られていることが当たり前の者たち以外は、基本的に健康的な体をしておる」


「つまり……僕は、珍獣ですか?」


「……平民出身で太っているということは、つまり怠惰の象徴で……侮蔑の対象になる……」


「ぐっ……」


 補償ってそういう……。

 ただより高いものはないというのは本当だった。


「あとなぁ……お主は金と銀のオッドアイなんだが、それも気味悪がられる対象というかなぁ……」


「た、魂のせいですか?」


「うむ。まぁお主は糸目だから気にならんのではないか?」


「え?」


「──あっ! 時間だっ! 達者に暮らせよぉーー」


 最後が悪口なの?

 逃げたってこと?

 だって、まだ夢空間みたいなの消えてないもんね。


「神様の話を簡単にまとめると、フュージョンに失敗してデブ版になったが、効果時間はポ〇ラ合体バージョンってこと? そりゃないって……」


 同じく珍獣であるデブ専を見つけるまでは、日常生活を送る上で重要な処理を自分でしなければいけないわけだ。

 手っ取り早く使えそうなものはないかと思い、自分の巨乳に手を伸ばす。しかし、触っても触っても虚しい以外の感情が湧いてこない。


 夢だからかな?

 それとも、そういうもの?


「くぅぅぅ……異世界らしい種族の可愛い彼女が欲しいのに……」


 ──ん? 待てよ? 一部の守られる立場の者はデブでもおかしくないんだろ?

 俺がその立場につけばいいのでは?

 さらに金持ちになれば、地球で言う札束で殴るというエセハーレムが築けるのでは?


 ならばなるしかない。お金持ちってやつに。

 そして、豚でもバラ色の人生を送れるってことを証明してやる。





お読みいただき、ありがとうございます。

引き続きお読みいただけると嬉しいです。

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