第二話 寄生虫ライフの始まり
本日二話目です。
俺の決意に返事をするかのように咆哮を上げて飛来する地竜……様。
冗談だったんです。本気じゃなかったんですよ?
ブタックジョークですよ。
可愛い子豚の強がりだったんですから、大目に見てやってくださいって。
「あっ……あっ……あ、あ、あぁぁぁ……」
「ヒュー……ヒュー……」
「おい、二人ともどうした!? それに、なんか臭くないか?」
……はい、漏らしてました。
二人より少し前に出て様子を伺ったところ、異臭の原因が漏れ出していた。
不幸中の幸いなのは、前からだけだったことだろう。
自決すると言ってた割に覚悟が決まっていない二人は放っておいて、俺は生存確率を上げる準備でもしておこう。
「──タンッ、タンッ、タンッ」
「さ、さ、さ、さっきから……なに、を?」
ビビりすぎだよ、レイド。
「いやぁ長縄跳びがあんまり得意じゃなかったから、リズムを合わせているんだよ」
「は?」
「そんなことより……怖く、ない、のか?」
ノード、お前もか。
まだ空の上なのに。
「怖いよ。あんなにデカいとは思わなかったし」
ジャンボジェットよりも大きい乗り物を知らないし見たことがないから例えようがないのだが、ジャンボジェットより大きく感じる。
もしかしたら恐怖のせいで誇張されているのかもしれないけど、短剣と木の棒で勝てる大きさではないことは間違いない。
「き、きたよぉぉぉぉぉ……」
「き、来たねぇぇぇぇ……」
真似しているように見えるかもしれないが、決して真似して遊んでいるわけではない。彼らに同調するふりをして、ビビってないならという理由で先鋒を任されないようにしているのだ。
ただでさえ馬鹿にされている上、多数決で負けることがほぼ確定している。それゆえ、譲らなければいけないような理由は作らないに限る。
「ふ、ふ、二人は自決の覚悟が……あるんだよね? じ、じゃぁ……先に譲るよ……」
ついでに、無理な提案をされる前に阻止しつつ、先鋒を押し付けてしまおう。
「「え?」」
「こ、怖いなら……み、みんなで……その……行こうよ!」
無理な提案の後にまともな提案を出す。
交渉術の基本だ。
彼らはきっと乗って来るだろう。
「「行こう」」
──あざっす。
これで少しは希望が見えて来ました。
二人のことはできる限り覚えています。
◆
方針が決まったところで、ちょうど祭壇広場に地竜が着地した。
さっきまでは貯水池の近くで用を足していた。
おかげで、新鮮な糞が山のように積み上がっている。
「グルルルゥゥゥ」
ワンチャン会話出来れば助かるかなと思ったけど、会話する気がないのか話せないのかわからないけど、見た瞬間無理だと悟った。
やっぱりプランAだな。
それしかない。
「行くよっ!」
「「おぉぉーーー!」」
扇動しつつも、鈍足のフリをして二人の後ろを走る。
ここからが重要だ。
何があっても気を逸らさず突き進む。
そう何度も自分に言い聞かせて走る。
「「うわぁぁぁ──……」」
「ここぉぉぉぉっ!」
二人がパックンチョされたせいで血飛沫が飛ぶが、構わず前に突き進む。
牙と牙の隙間に体を入れ、二人の体を口内に入れるために開口した瞬間、すかさず口内に転がり込んだ。
簡単に自分の体の傷をチェックし、自分の装備と二人の装備の内、持てる分だけ持って喉奥に急ぐ。
咀嚼は論外、ユッケになる。
嘔吐も論外、ユッケになる。
口内も論外、炙り焼きになる。
嚥下も論外、ウ〇コになる。
俺に残された住処は喉奥寄りの鼻孔の奥。
とりあえずの避難場所としてはマシな方だと思う。
だが、プランAは避難が目的の作戦ではない。
本来のプランAは竜殺しが作戦目標だ。
地竜を討伐するには、地竜に匹敵する強大な生物になるしかない。
そう、俺はなる。
人間版アニサキスにっ!
幸いなことにアニサキスによる腹痛は味わったことはないのだが、それに匹敵する腹痛をアナフィラキシーで体験したことがある。
なぜ匹敵するかわかるかというと、痛がり方などで真っ先にアニサキスを疑われたからだ。
その腹痛のときは本当に死ぬかと思ったし、その後は全く関係ないとわかってるのにアルコール消毒を手放せなくなるほど神経質になった。
とにかく二度と味わいたくないと思ったほどの腹痛なのだ。
いくら硬い鱗に守られた頑丈な竜でも、体内からならなんとかなるんじゃないかなと思う。
それに、最悪倒せなくても外に出ればいいだけ。
まぁ勝算はかなりあるけどね。
心臓を目指して食べ進めれば良いんだから。
「持って来れたものは、短剣と棒が二つずつか……」
意外に動けるデブということが判明したことが一番の収穫だったけど、それぞれ予備があるのは嬉しい。
「まずは鼻の奥に行かないと……」
正直既にへとへとだ。
初めて人が死んだのを目撃したことで精神的に参っているのに、太った体での生死をかけた行動。疲れないはずがない。
でも、安全地帯まで行かないと全てが無駄になる。
だから動く。とにかく動く。
「さて、刺さるか?」
ローブを脱いでたすきのように斜めがけにし、背中に棒を背負う。
両手には短剣を、それぞれ逆手で持つ。
「せいっ」
普通に刺さった。
筋肉も多少動いただけ。
「この程度なら気にも止めないということか。これは良い誤算だ」
ヌルヌルした体内のせいで足場が安定しないばかりか、デブのせいで両手がプルプル震えているのに、痛みで暴れる竜の対処とかウ〇コになる未来しか見えない。
しかも臭い。
体内だから仕方ないし、自分で入ったから仕方がないと言えば仕方がない。
でも言わせて欲しい。
めっちゃ臭い。
「ここから出られたら、スメハラだけはやめよう」
脱出した後のことを妄想しながら気力を振り絞り、なんとか鼻の奥に到着した。
この場所で起こる事故で一番怖いのは、やはりくしゃみだろう。
人間のくしゃみでもすごい力が働いていると聞く。
ならば伝説の生物である竜は?
巻き込まれただけで木っ端微塵になりそうな気がする。
「あれ? ここ危なくない?」
竜の体内には安息の地はないのか?
だから最強の生物なのかも……。
「気が抜けたせいで頭が痛いのに……。もう動きたくないのに……」
論外の選択肢からまともそうなものを選ぼう。
即死しなければ、一休みできる場所であれば。
「嚥下かな……。胃液に触れなければなんとかなるか? 食道をぶった切って物理的にウ〇コ回避とか……いや、無理か」
竜の身体構造もわからないし、医学の知識もないからぶった切った結果どうなるかわからない。
そもそも短剣で切断って、何年かかるんだよ。
「喉の近くで横穴でも掘ろうかな」
棒の先を尖らせて穴の入り口に刺しておけば、安全バーになるんじゃないかな。
とりあえず少し寝たい。
「脂でギトギトだ……」
前の人格のデュー君含め、前世も今世も生肉を切った経験があまりないせいで、既に腕がパンパン。
そこに短剣の切れ味が鈍るというバッド効果が付与されると、中身が二十歳というアドバンテージがあっても心が折れそうになる。
全裸のデブが臭い場所で、全身ギトギトになりながら一心不乱に肉を切る。
「俺、何やってんだろ……」
せめてデブはやめて欲しかった。
大きすぎる体に合わせた穴を掘る必要があり、時間も労力も余計に使う羽目になっている。
「デュー君、器用だったんだね」
木工は結構やってた感があって、安全バーは比較的簡単に作り終えた。
「では、少しだけ寝るか」
もう一生体験することがないだろうけど、今後もお世話になる肉ベッドに包まれて仮眠をとる。
「おやすみ」
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