第十三話 腐れ縁になる予感
二度目の夢世界で地竜の本当の立場を聞かされた俺は、驚愕のあまり夢の中で気絶しそうになった。
え? 俺、神を殺したん?
「まぁ落ち着け」
「むむっむむむ無理ですぅぅぅっ」
「人によっては、だ。全員じゃない」
「で、でも……神竜は神様の眷属で、その系譜でしたら神様に近しい生物なのでしょう?」
「神竜は俺の眷属だ」
──終わったぁぁぁぁ……。
「大丈夫だ、終わってない。神竜のことは今はどうでもいいからな。その系譜っても言われても、俺とはほとんど関わりがない」
……少しはあるんだぁ。
「地竜は、お前が竜糞製造機って呼んでいるように土地を豊かにしてくれるから、地竜を豊穣の神とする土地もあるし、去ったときは厄災の兆しと言われるんだ。土着神と言われる所以はウ〇コのおかげだ。その他は竜人族くらいか」
全然大丈夫な内容じゃない。
だって、天変地異みたいな状況を見た後だもん。
厄災と呼ぶには十分な規模だと思うぞ?
「地竜の紹介はここまでにして、地竜の死体が残った場合が困るんだ」
なんか嫌な予感がする。
「一つ目、腐っても竜だ。死体を食べたことで格が上がる魔獣が現れるというのは避けたい」
ん? ちょっと待って。
死体を食べて格が上がるなら、新鮮な肉を食べ続けていた俺はどうなるの?
あとで聞いておかなきゃ。
「二つ目は、地竜の転生までの時間を早めたい」
「──え? い、今なんて?」
思わずタメ口になってしまったが、それどころじゃない。
「転生?」
「こ、こ、こ、こいつ……転生するんですか!? き、記憶は……」
「ある」
あぁっぁぁぁぁっ! 終わったっ!
「で、でも、ぼ、僕の姿は知らないですよねっ!?」
「それについてはなぁ……」
「なんです!? 教えてくださいっ!」
「あとで話そうと思っていたが、まぁいいか」
頭を抱えてうずくまっていた俺の姿を見て同情でもしてくれたのだろうか、話しにくそうにしつつも言葉を濁した訳を教えてくれた。
「正直なところ、俺たちは地竜を倒すとは思ってなかった。それどころか竜核からも吸収するとは思わなかった。普通なら体が耐えられなくて破裂するんだ」
「ふぇ? 破裂?」
確かに、初回は激しい痛みのせいで死にかけた。
あの時ってそんなに危険な状態だったの?
「そうだ。それにも関わらず吸収を続けるし、体内で循環させて別の場所に核を作り始めた。爺さんにも言われただろうが、特殊な事例だ。もちろん、命核が二つだからこそ可能なのだろう」
今この話をするってことは……いやいや。希望を捨てるなっ。
「倒せるように才能をたくさんくださったのでは?」
「いや、違うぞ。地竜は、お前の村から南に行ったところにある大樹海の中央付近の山の上で暮らしている。一応地竜が頂点に君臨しているが、それでも他が弱いわけではない。お前も戦った大蛇たちが多く生息している場所から抜け出すために、気休めと思いつつ才能を渡したのだ」
確かに、閉所である場所だからこそまともに戦えた。
もし山や森で戦っていたら才能なんか気休めにしかならない。
数の有利も地の利も全て敵側にある。
個人の才能なんか数の暴力の前では無に等しい。
「多勢に無勢……、確かにそうだろう。だが、お前はもう違う。三つ目の核は小さいながらも竜核になっているし、激痛の中魔力を循環させたことで神経も適応した。体は肉を食べ続けたおかげで竜に近づき、竜気を操る土台は完成した。結果、地竜はお前を分身のように感知でき、神竜の系譜はお前がどこにいてもわかることだろう」
最悪だ……。
竜種のストーカーとかいりませんけど?
もう誰とも戦う気も関わり合う気もないんだよ?
勘弁してよ。
「どうした? 喜ばないのか? 無限の生命力を得たのだぞ? 俗物共が欲しがる不老長寿に、男の力も世界最高峰だ!」
「嬉しいですよ。復讐されなければ……」
「まぁ大丈夫だろ。興味は湧くだろうが、欲張った地竜が悪い」
「え?」
「そもそも生贄は必要なかったんだ。ウ〇コを遠くに捨てたかったのが目的だったのに、ウ〇コが美味しいお酒になるとわかったときに欲が出たんだ。そして何回か取引したときに何があったか知らんが、数が揃わなかったんだと。約束が違えられたときに縁を切ればよかったのに、脅しとして子供を連れ去ったんだと」
「それがどうして生贄なんてことに?」
「権力者は思ったはずだ。放っておいても生まれてくる子供と、金を払わないと手に入らないお酒、どっちが安いかと。約束を反故にしても子供が三人だけで済むって思えば、倫理に反したことだとわかっていても生贄を奨励するだろうよ。自分たちは知りませんでしたって言ってな」
「子供は勝手に増えませんよ?」
「この世界はというか、お前の村みたいな田舎だとやることがないんだ。仕事の時間が終わったら、今度は村民を増やす時間ってわけだ。ただ、農奴の子作りは許可が必要だから、生贄に捧げる目的に買われた奴ら以外は雑用の時間だけどな」
日本でも娯楽のせいにする人がいたな。娯楽が増えたことが少子化に繋がったんだとか、そんなわけないのに。
そもそもお金がないから結婚も子作りもできないって言っているのに、娯楽に回すお金があるわけないだろ。
生きるのも死ぬのにもお金がかかるわけで、総じて何をするにしてもお金があるかないかで判断するんだから、娯楽がどうのというのは後付理由でしかない。
そればかりか、大人向けの映像作品のせいにする阿呆もいた。
わかってないんだよ。
それはそれ、これはこれって切り分けができてるのに。
ある日、好きな芸能人ができました。
でも、その人が結婚したいくらい可愛かったとしても何もできないとわかっているわけでしょ?
だから、ファンでいつつ他の人と結婚するし、会える機会に会えるように仕事を頑張ろうとするわけだ。
男性も女性も性別に関わらず、その点は同じだと思う。
大人ジャンルもファンとして作品を見ているだけなのに、未だに偏見を主軸にした考えを言う人がいるんだよね。
話は逸れたけど何が言いたいかというと、バーベ村は娯楽がないとかという理由だけではなく、元々向上心がない人達の集まりだということだ。
本来の仕事が終わったなら、竜糞堆肥がなくなったときに備えて農地改革をしようと考えたり、子供を生贄にしなくても良いように収入を増やす方法を探すとか、色々やることはあるはず。
人手が欲しくて子作りをするならまだしも、生贄にするために子作りをするとか意味不明。
怠惰で強欲な虐殺者たちと、それに加担した地竜か。
どっちもどっちかなぁ。
「その通りだな」
「──す、すみませぇぇぇんっ」
ボーとしながら色々考えていたが、俺の考えでは武闘神様のことを否定したことになってしまう。
決して、そういう意図はなかったのに。
「いや。確かに、他の国は仕事の後に武術を習ったり迷宮に行ったりしている。やることがないというのは、他では当てはまらないことだろう。言葉が足りなかった」
「いえいえいえいえっ」
「まぁそれでズルズルと関係が続いていたわけだが、その結果が自分の死亡だ。今回は説教してから転生させるから、復讐は心配しなくていい」
「ありがとうございますっ」
「おう。それと、何だっけなぁ」
武闘神様の気遣いに感謝を示し頭を上げると、前回の創造神様同様に懐からメモ帳を取り出してチェックマークを付けていた。
「そうそう。渡すものについて話してなかった。が、その前に確認なんだが、他に欲しいものは?」
「えーと、短剣の強化用などに爪とか牙ですかね」
「それなら大丈夫だ。内臓系と言われると困るが、竜角、牙、爪は痛みで苦しんだおかげでそこらに散らばっているし、竜鱗は定期的に生え変わるから住処に転がってるぞ。新鮮な竜鱗は砕けたものが多いぞ」
「砕けたものもいいのですか?」
「いいぞ。胃の内容物とウ〇コと、住処にあるものは好きにしてくれて構わない。周囲の状況を考えれば、しばらくは誰も近づかないだろうしな」
そりゃあ天変地異が起きた場所に近づきたい者はいないだろうなぁ。
人間はまず大樹海の真ん中まで来ないと、山に登ることすらできないわけだしね。
「それに合わせてバックパックの容量を十メドルまで拡張しておく。これに関しては地竜を倒せた褒美だ」
「ありがとうございますっ」
ちなみに、メドルとはメートルのことらしい。
発音が近いところは助かっている。
前世の記憶がある分、単位が違うと混乱するからね。
「一つ気になったのですが、内臓の腐敗が始まったらどうするんですか?」
「それは大丈夫だ。内臓はもうない。というか、お前のバックパックに入っているもの以外の死体は既に回収してある。肉については、全部位を常識的な量で切り出してバックパックに入れておいた」
「ありがとうございます。で、では、僕はどこに寝てますか?」
「地竜の住処だ。一応全裸だしな」
「そういえばそうでした」
「一つ聞くが、ちょこちょこローブを具現化してたよな。何で服を具現化して着なかったんだ?」
バックパックに魔核を放り込むと人がいらないようなものなら具現化できる機能だが、魔物たちの襲撃が始まって素材が回収できるようになった頃から使い始めていた。
最後の爆弾を包んだローブも具現化したものだ。
「服を着てもヌルヌルして気持ち悪くて……」
「いや、確かにそうなんだが……。そのヌルヌルは長時間触れると肌を溶かす効果があるんだ」
「え? え?」
夢の中なのに体をペタペタと触って無事を確認する。
「いや、お前の場合は風呂に入っていただろ? アレが良かった。秘薬も入れているから溶ける前に回復していたし、抵抗力もついたはずだ。当然体の中にも入っていただろうが、秘薬を飲んでいたから毒の耐性もついたんじゃないか」
「よかったぁぁぁ」
「よし。じゃあお互い疑問が解決したところで、地竜の対価を伝える。一つ目は行き先を書いたメモだ。次の魔力吸収は金属性のある地で行うのだろう? メモの場所は近くに水場もあるし、何より武術を習うのに最高の場所だ」
「武術ですか?」
「そうだ。先ほど多勢に無勢と言ったが、世の中の強者はそのような状況を魔法なしで覆すことが可能だ。お前には他が持っていない力もあり、才能も素質もある。鍛えないのはもったいないし、なるのだろう? 最強のデブに」
「──もちろんですっ!」
「ならば良しっ」
武闘神様も心なしか嬉しそうだ。
「二つ目は、そこに向かうために必要な地図だ。一応格は低いが所有者固定型の宝物になる。機能は自分の位置確認と縮小拡大しかないが、成長する宝物だから他の機能を集めるのもいいだろう。だが、縮小拡大は自分が行ったところのみ可能だ。今回は特別に目的地までの道のりを縮小拡大できるようにしておいたから、頑張ってたどり着け」
「はいっ! 頑張りますっ!」
「うむ。最後は起きてからのお楽しみだな。もう時間がない。細かいことは行き先を書いた紙に書いておく。では、お前が最強になった時、また会おう。──さらばだ」
「ありがとうございましたっ! 精進しますっ!」
直後、夢世界は破裂するように消え、俺も夢の中で寝落ちしていくのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
第一章は終わりで、次から第二章になります。
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