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第十二話 一寸の豚にも五分の魂

 竜学の最終試験は無事に終了した。

 最初は定期的に「んぐっ、んぐっ」という飲み込もうとする音と震動が気になり、少し集中力を持っていかれていた。

 しかし、途中からゾーンに入ったとでも言うのか、全く気にならないどころか無音の世界にいるような感覚になり完走していた。


 竜学ライフ中で一番集中できた魔力吸収が最後とは、有終の美を飾ったとはこのことではないかと思う。


「よし。あとはハツ刺しを食べて卒業するだけだ」


 善は急げと言いたいところだが、未だにロックダウンは続いており、心臓を止めてしまっては脱出が困難になってしまう。

 そこで、大蛇の解体を手伝ってあげることにした。本当は心の底から嫌だけど。


 さすがに一刀両断は無理だけど、細切れにして消化を助けることはできる。


「──硬いなぁ」


 曲刀を振り下ろして見たところ、鉄の塊に叩きつけたみたいな衝撃が手と腕を襲った。


「む、無理かも……」


 死後硬直のせいかは不明だが、死後の方が圧倒的に硬い。爆裂弾をねじ込んだところからなら細切れにできるかもしれないけど、もう戻りたくない。

 それも敵である地竜のために。


「第二の手段だ。横穴を掘ろう」


 幸いなことに、蜥蜴のおかげ使用できる武器も少量ながら残っている。

 短剣でちまちま掘るよりも断然早く掘れるだろう。

 掘削位置は帰宅したときと同じく側壁にし、大盾で身を隠しながら口内に向かうようにしよう。


「最近寄生虫から土竜に進化した気がするんだよね」


 蜥蜴の曲刀で切っている肉は放置しているから食料のためというより、移動するために土を掘っているから、なおさら土竜になったという感覚が強いのかも。


「喉が削られて痛いのに、大蛇のせいで何もできないねぇ?」


 ──ざまぁ。


 絶え間なく続く襲撃のせいで睡眠を妨害されて、本当に腹が立った。

 でも、いいんだ。

 これから君が体験することに比べれば、俺に降り掛かったことなんか些末なことさ。


 だって、君は死ぬんだからね。


 怠惰なデブに負ける初めての者になれるんだよ?

 光栄に思ってくれたまえ。


「きゃっ。初めての相手だぁー」


 初めてというのは、誰にとっても特別なことだと思う。

 それが例え豚のような姿をした寄生虫だとしても。


 ブヒッ。



 ◆



「さぁっ、いよいよやって来ましたっ! 心臓に槍を突き刺す瞬間がっ!」


 当たり前だが、ド真ん中は狙わない。

 高熱を発している竜核があるから、瀕死状態の短剣で作った槍では一撃も持たない。

 それでも心臓への攻撃は、相棒のような存在である短剣で行いたかった。


 ゆえに、竜核から離れた付け根辺りを狙うことに。


「せぇいっ」


 一瞬弾力に負けそうになるも短剣が押し勝ち、肉壁に槍が突き刺さった。

 直後、激しい竜震が襲う。

 それも過去最高レベルの竜震で、初めて上下がひっくり返った。


「──は、な……す、かぁぁぁぁぁっ」


 必死で槍の柄にしがみつき、天井や壁に叩きつけられることを防いだ。

 が、もはや正確な上下の把握は困難になっていた。

 何度も何度もひっくり返る地竜に対し、俺はほとんど反撃できないでいる。

 唯一できているのは、しがみつく前のことを思い出して心臓方向に体重をかけるということだけ。


「ぐぅぅぅ……。──かっ」


 デブの重量攻撃が効いたようで、地竜にとっての火事場の馬鹿力と思われる力が振るわれ、衝撃で槍ごと肉壁に叩きつけられた。

 衝撃で意識が飛びそうになるも、ここで気を失ったら死ぬと叱咤し立ち上がる。


「状況っ」


 もう一つの短剣を使い、スパイクのように肉に突き刺しつつ匍匐前進する。

 確認したいのは槍でつけた傷。

 出血はあるのか、その勢いは?

 さらに、肉壁は再生されそうなのか。

 再生まで時間があるか、もう始まっているのか。


「よかった」


 地竜は、決して看過できるとは言えないほどの勢いで出血していた。

 ただ槍で傷つけた程度の出血では失血死は狙えない。

 激しい痛みで怒らせはできるが、ヘイトを集めて終わる。


「そうだっ!」


 一か八かだが、一つだけ勝算がある方法がある。

 大蛇がいなくなって持久戦に持ち込まれれば、再び分が悪い戦いになるのだ。

 それならば賭けに出るべきでは? と、悪魔が囁く。


「……やろう」


 予備倉庫に作られた非常脱出口から心臓近くに降り立つ。竜核に焼かれないように可能な限り心臓から離れ、少しずつ出血箇所に近づく。

 幸いなことに、地竜は再生に専念するためなのか、小揺るぎもしていない。


「大蛇が味わった苦痛を味わえっ」


 残り全ての爆裂弾と、今までの魔物や魔獣たちの爪や牙、破損した武器をまとめてローブで包み、再生中の肉壁内に突っ込む。


 そう、異世界版釘爆弾だ。


「発破っ」


 魔力操作で爆発させるといっても遠すぎても無理な上、逃げる時間もないから、持ってきた大盾で破片を防ぎつつ、爆発直後に起こる竜震で竜核に叩きつけられないようにする。


「──っ」


 作戦通りに出血箇所の傷が広がり、ところどころ繋がっているだけの状態まで悪化していた。

 地竜も爆発の衝撃や破片による攻撃は堪えたらしく、竜震の激しさはすでに比較できないものとなっている。


 俺は竜核に触れないようにすることに全力を尽くし、肉壁に弾き飛ばされたり心臓に打つかったりしても最低限の防御に留めた。


「大盾斬りっ」


 そして地竜の竜震攻撃を耐え抜いた結果、ようやく活路が開いた。

 目の前に盾を突き出せと。

 見えた剣路をなぞれと。

 自分を信じろと。


「はぁぁぁぁっ」


 体が空中にある状態から、ちぎれかかっていた肉壁に止めを刺した。

 果たして、支える部位を失った心臓はフレイルのようにぐるぐると振り回され、心臓自ら地竜を攻撃する羽目に。


 俺は巻き込まれたくないため、もう片方の支える部位をに行き、竜核から熱が失われるまで必死で耐え続けた。


「あと少し……あと少し……」


 肉に爪がめり込むほど強くしがみつくこと数十分。

 ついに念願の卒業のときがやってきた。


「やったぁぁぁっ! 竜殺しだぁぁぁぁあっ!」


 ひとまず紅の秘薬で怪我や体力を回復し、心臓を切り取ってバックパックに詰めることにする。

 他にも欲しい素材があるから解体を急がないと。

 とりあえず竜晶は確定だな。


「きっとハイエナどもが集まってくるんだろうな」


 なんかもったいない気がするが、当初の目的だった竜糞製造機の破壊には成功したから良いとしよう。



 ◆



 竜核含む心臓と竜晶をバックパックに収納した後、鼻の穴から外の様子を覗ってみた。

 それはまあすごい状況だった。


「ここで何があったの?」


 と、つい聞きたくなるくらいだ。

 もちろん、何があったかは俺が一番わかっている。

 ただ、そういうことではなく。


 環境破壊というよりも天変地異が起きたような状況になったのは何故?

 何をしたらそうなるの?


 といった意味だ。

 流星群でも落ちないとできないような巨大なクレーターがいくつもあったし、森の端が燃えていたり山が抉れていたり。

 犯人は地竜で間違いない。それも単独犯だ。


「うん、容疑者死亡でケースクローズドだ」


 そう結論づけて寝た。

 元々疲れが限界に達していたから、早々に引き上げて我が家で泥のように眠った。


「──おい。おいって」


「ふぇ? どちら様でしょうか?」


 熟睡しているところを起こされると、目の前には筋骨隆々で竜の飾りがついた甲冑を装備した偉丈夫が立っていた。

 あまりの威圧感に驚きつつも、とりあえず誰何してみたところ……。


「俺は武闘神だ」


 という、予想だにしていなかった御方だった。


「こ、これは──大変お世話になっておりますっ」


 急いで土下座の体を取り、感謝の言葉を述べる。

 武闘神様がくださった武術の才能や、環境適応能力が備わった体がなかったら早い段階で死んでいただろう。


「いい、いい。創造神の爺さんのときよりも時間が短いから、礼儀とかはどうでもいい」


「はっ」


 礼儀というより本能だ。

 ある程度の戦闘経験を身に着けたからこそ、創造神様のときには気づかなかった恐怖や不安が行動を縛り、礼を尽くさなければと態度に現れたのだろう。


「いいか?」


「はいっ」


 未だ緊張が解けていない俺の様子を見て一瞬困った顔をされた武闘神様だったが、本当に時間がないのか無視して話し始めた。


「まずは爺さんからの伝言だ。『錬金術習得の条件が達成されたから、公認錬金術師のバッジを送っておく。ただし、販売許可が出せるものは【紅の秘薬】と【藍の秘薬】のみ。短期間で習得した褒美に魔法陣を二つ贈る』以上だ」


「はいっ。ありがとうございますっ」


 詳細はあとで確認するとして、ただただ神様の心遣いが嬉しい。

 もう感謝の言葉しかない。


「次。俺からの頼みだ」


 え? 神様からのお願いだと……?

 一体何を……?


「そう身構えなくても良い。これから何かをしろというものではない」


「そ、そうなのですね……。で、では、一体?」


「お前が倒した竜をもらえないか?」


 ──えっ!? ハ、ハイエナ……ってこと……?


「えっと……」


 大変お世話になったから嫌とは言えない。

 だけども、討伐までの苦労や苦痛を考えると、さすがに即答できない。


「あぁ、悪い。省略しすぎたな」


「い、いえ」


「お前の欲しがっている部位はもらわない。竜核を含む心臓、竜晶は持っていってくれて構わない」


「ありがとうございますっ」


「いや、お前が倒したんだから当然の権利だ」


「お気遣い感謝します」


「それでだ。地竜を全部持っていくのは無理だし解体も不可能だろうから、俺からいくつか渡せるものを渡す代わりに、死体を丸ごとくれという意味だ。どうだ?」


 これは素晴らしい提案ではないか?

 現状心臓と竜晶と肉の他に、牙や爪などしか持って帰れそうにない。

 さらに、素晴らしい体をくださった武闘神様だ。

 無駄なものをくれるはずない。


「はい、ぜひっ!」


「そうか。助かる」


「で、ですが、何故必要なのですか?」


「そうか、知識になかったのか。うーん……まぁいいか。地竜は神竜の系譜なんだ。人によっては土着神扱いになるだろう」


 はいぃぃぃぃっ!?




お読みいただき、ありがとうございます。

引き続きお読みいただけると幸いです。

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