第十一話 内視鏡と戦う寄生虫
あれからさらに一ヶ月が経過した。
魔物や魔獣の襲撃頻度が減り、竜核の魔力を丹田に限界まで溜めるという挑戦は何度も行うことができるようになっていた。
また、空いた時間で胃の手前の肉壁を掘削し、太い血管に穴を開けるという大業を成したりと、充実した生活を送っている。
「最近大人しいな」
大人しい地竜の態度にどこか不安を覚えたのだが、散発的な魔物襲撃も続いているから衰弱しているだけかと、不安に思っている自分を納得させた。
──が、翌日事態は急変する。
「クッソぉぉぉぉっ」
内視鏡の代わりに大蛇を飲み込むとか、頭湧いてるのか!?
何度もえずきながら大蛇の頭部を飲み込もうとする地竜に、俺は地竜の決戦の覚悟を見た。
「デカいのを相手できないから体内に入ったのに……」
しかも蛇っ!
「選択肢は三つっ!」
一つ目は蛇と戦う……無理っ。
二つ目は胃に飛び込み、ワンチャン敗血症に持ち込む。
三つ目は予備倉庫から心臓にダイブし、心臓を破壊する。
「二つ目と三つ目の脱出方法がない……」
竜の中でも防御力が高い地竜の鱗や皮を突き破る方法はなく、討伐後に鼻の穴から脱出するつもりだったのに。
その唯一の脱出口を、現在進行系で生理的に受け付けない生物に塞がれている俺。……どうすれば。
──大蛇の体内に入って内側からやってしまえば?
無理です。入ったらショック死します。
──狭いんだから奇襲で討伐しちゃえよ。
無理です。急所に届きません。
──ユー、武術無双しちゃいなよ?
無理です。押し出しで負けます。
…………ん? 押し出し? ──それだっ!
「備えあれば憂いなしとは、正にこのことっ」
一番強度が高い大盾を持参し、胃の方向に背中を向けて待機する。
蜥蜴くんには一応予備倉庫で待機してもらう。
これで一応の準備は整った。
「来い」
第一次豚竜大戦の大一番。
ここに開幕。
◆
んぐっ、んぐっ。
微弱な竜震を繰り返し、体内に鈍い音が響く。
地竜が必死に嘔吐反射に堪えているだろうことが窺え、辛さを知っているだけに同情の気持ちが湧かないこともない。
だが、蛇はいかんよ。
寄生虫をなんとかしたかったと思うが、今回は方法が間違っていた。
そんな気持ちが悪いもの飲み込めばどうなるか、地竜ほどの知能があれば簡単に予想できただろうに。
「ウウェッ」
想像したくもないが、一瞬脳裏を過ぎったイメージだけでも吐き気を催してしまった。
それを今実際にやっている生物がいるとは……。
「──シュー、シュー」
来やがったな。
我が生涯の天敵よ。
ここからが正念場だ。
目の前の気持ち悪い生物に、最低でも一回は一当てしなければいけない。
地竜に居場所を教えてあげなければいけないからだ。
「チャージっ」
ステータスがない世界でスキルが発動するわけないが、気合を入れる意味では決して無意味ではない。
やりたくないけど、技だと思えばなんとかなる。そういう遊びなんだと。自分に暗示をかけて、大盾での突撃をぶちかます。
「──ブッ」
巨漢デブの本気の突撃に対するリアクションが、口を閉じたときに出た空気の音だけ。
しかもきっと本来なら聞こえていなかった音。
「キモッ」
その言葉が不愉快だったかは不明だが、目の前の気持ち悪い生物が食道の高さギリギリまで口を開けて襲いかかってきた。
「──パリィッ」
予想はしていたが、一瞬竦んでしまった自分を叱咤し防御する。
大盾を左に振り、顔面を大盾と肉壁で挟み込む。
しかし、相手は筋肉の塊だ。
すぐさま頭を振って、逆に俺を肉壁を使って押しつぶそうとしてきた。
「おっと」
だが、俺も伊達に大戦を経験してきたわけではない。
相手の攻撃の予兆を読むことくらいはできるようになっていた。
大蛇の首に力が籠もったタイミングを見計らい後退すると、ターゲットがいなくなった大蛇は、自身の顔面を肉壁に打つけるという失態を演じる羽目に。
「ふっ」
そんな大蛇に対し、あからさまに鼻で嘲笑う。
もちろん作戦の一つだ。
そもそも地竜に体の一部を拘束されているから相手できているだけで、自由に動けるようになったら瞬殺されているだろう。
「怒ってる?」
「…………」
「どうなのかな?」
「…………」
「そうか。しゃべれないんだったね」
まぁ人間の言葉が分からない大蛇からしたら、俺も意味不明なことを喚いている虫にしか見えないだろう。
でも少しは怒らせることに成功したようで、必死に前に進もうとしている様子がうかがえる。
そして何度目かの前進の途中、突然槍のように大蛇が突進してきた。
「ここぉぉぉぉーーーーっ」
大蛇が前進するのに合わせて後退し秘策の準備をしてきたのだが、思いの外早く片付きそうで驚いている。
同時に一度しか使えない秘策に少し緊張している。
「エスケープっ」
大蛇の突撃を大盾ごと避け、胃の手前の掘削工事の現場に背中からダイブし、大盾で大蛇から体を守る。
反対に大蛇は突撃の勢いのまま胃の中へ。
「地竜よ、次はお前が大蛇の恐怖を味わえっ!」
大盾を少しずらして盾の隙間から蜥蜴が持っていた曲刀を使い、大蛇の胴体目掛け突き刺した。
何度も何度も同じところを突き刺し傷口を広げていき、狼の魔核で作った炸裂弾を傷口にねじ込んでいく。
「発破っ」
爆発の威力自体は大したものではないが、魔法みたいな攻撃手段が格好良くて多用している。
単純に威嚇として使えるし、今入っているシェルターも炸裂弾で工期の短縮を行えた。
素材の質の割には効率が悪く、作る者はほとんどいないらしい。でも付与の魔法陣が不要という利点がある。
無い無い尽くしの環境において、手札を増やせるというのは生存確率が上がるということ。使わない手はない。
「ほら二個目っ」
低威力でも切り傷に爆発物をねじ込まれ、爆発後は火傷も負う攻撃を嫌がらないはずない。
結果、大蛇は胃の中で大暴れすることに。
俺の大きさでも痛かったのに、大蛇のような巨大な生物が口から胃まで埋め尽くし、終いには胃の中で大暴れするというのはどれほどの苦痛なのか。
「……辛そう」
過去一番の竜震から察するに、途轍もない痛みに襲われているのだろう。
自分で口に入れているのだから、自分で引き抜けばいいと思う。が、あまりの痛さと苦痛で引き抜く余裕もないと思われる。
ちなみに、大蛇も逃げ場はない。
自分が暴れているせいで胃が刺激され、胃酸がドバドバ分泌されていることだろう。
そこに顔面を突っ込んでいるのだ。
死にたくないから暴れて出口を探し、それが原因で胃酸を分泌させる。
悪い方向で好循環が起きているはずだ。
「もう奥に進むしかないだろ? 進め、進むんだ」
肛門からウ〇コを押し出しながら外に出るしかない。
いや、自分がウ〇コになるのか?
……どっちでもいいか。
俺は自分のやることをやればいい。
大蛇を傷つけながら、我が家に向かって肉を掘り進める。
何故なら、大蛇がいるうちは魔物たちによる襲撃がないだろうから、魔力吸収に集中できると思ったのだ。
「おっ! 結局前に進んだのか」
そしてそれに気づいた地竜は、大蛇を噛みちぎって討伐することにしたらしい。
「地竜よ、それは悪手だ」
胃の先に行ってしまった場合、なかなか消化できないだろう。
それに長さが短くなっては引き抜きづらいだろうに。
「蛇は体が千切れても死ぬとは限らないし、死後には痙攣によって激しく暴れまわるかもしれなのにね」
早く口から出したくて焦る気持ちはわかるけど、やっちまったな。
「我が家に到着っ」
肉壁を掘り終えて家に到着したころにも変わらず、我らが城壁大蛇くんが入り口を塞いでいた。
どうやら大蛇くんは消化されつつあるみたいで、痙攣が治まった後、少しずつ消化するために飲み込まれている。
「でも、まだしばらくは持ちそうだな」
食事と回復を済ませた後、大蛇がなくなるまでの間ぶっ通しで魔力吸収を行うことを決めた。
可能なら今回で終わらせられるように。
というのも、命核の許容量を拡張しない限りは吸収可能な上限が定められているらしい。
俺は才能に命核二つ持ちという特殊体質のため時間がかかっているが、本来はゆっくりやっても一ヶ月で終えるらしい。
それに地属性のみ、陰陽両方のどちらでも才能があれば吸収可能だったゆえ時間が二倍かかったが、他の属性は適した命核でしか吸収ができない。
つまり時間が半分くらいに短縮できるはずだ。
「拡張した後はまた限界まで吸収することが推奨されているらしいけど」
しばらくそのような予定はない。
あっても各属性の吸収を一巡するまではやらない方がいいらしい。
「竜学ライフの最終試験だと思って頑張ろう」
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