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第一話 目が覚めたらドナドナされる茶豚だった

お久しぶりです。

新作書き始めました。

お時間がありましたら、読んでいただけると嬉しいです。



「──以上の理由から君たち三人には生贄になってもらう」


 はい? 今なんて言った? 生贄?

 というか、そもそもここどこ?


 二十歳の誕生日祝いで大人の階段フルコースを堪能したことと、自宅に向かう途中までは覚えている。

 それ以降の記憶がなく、目が覚めたら知らない天井どころか青い空の下。

 意味不明なことを口にするおっさんと、若者と子供がそれぞれ二人と一緒に船に揺られている。


 おっさんはローブみたいな外套を羽織っていて、どこかの神官みたいだ。

 さらに周囲をよく観察してみると、若者二人はアニメとかで見る冒険者のような姿をしている。


 鎧に剣とか……もう地球じゃないような気がする。

 生贄と聞いたときから予想はしていたけど、彼らのおかげで異世界だと確信できた。

 仮に違ったとしても、帯剣している時点で俺にとっては異世界だ。そう思って行動しよう。


 さて、異世界であるとわかったところで、現在の状況を把握するとしよう。それも詳細な状況をだ。


 まず、この船はどこに向かっているのかということだが、これは考えるまでもない。

 貯水池の上で船遊びをしているわけではないなら、唯一の陸地に向かっているのだろう。

 陸地に置いていかれたら貯水池に飛び込むしか助かる道はなさそうだが、きっと飛び込むことはさせてもらえないと思う。


「あ、あの……どうして僕たち……なのでしょうか?」


 よく言った。


 状況把握において一番気になっていたところは、生贄になった理由だ。

 最初は意識がなかったし、後半は生贄の言葉に反応して理由に気を留めていなかった。

 でも理由は重要だ。

 覆すことができれば回避できるかもしれない。


「うむ。混乱しても仕方がないだろうから、もう一度説明してやろう」


 上から目線で話すところが鼻につくが我慢だ。


「良いか、君たちは丸々太っておるだろう? それは村の食料から多くを君たちに与えて来た証明だ。開拓村という過酷な場所なのに、君たちを優遇してきた」


「え? パパに食べろって言われました……」


 無理矢理食べさせたのに優遇?


「それにデュロックは生まれつき太ってるって聞きました」


 一瞬「デュロック」って誰? って思ったけど、発言者が指で示してくれたから、疑問はすぐに解消した。


 デュロックは俺でした。

 つまり、俺は生まれつきデブってことだ。


 状況が意味不明だったせいで自分の体の把握が後回しになっていたが、確かにデブな体をしている。

 色黒というかブロンズ肌というか、健康的な肌色の巨漢デブだ。が、何故か裸ローブという変態チックな格好をしている。

 子供全員が同じ格好ということは、儀式用の衣装なのだろう。


「……彼は、彼のご家族が是非にと言って生贄を変わったんだ」


「え!? それってバーベ家の長男のハンプ様と代わったということですよね!? ダメなんじゃ……」


「うるさいっ! 農奴の分際で反論するんじゃないっ」


 えぇー……。俺って親に売られたの?

 しかも、言っちゃ悪いけど農奴と同じ扱いってこと?


「ぼ、僕はもう平民ですっ」


「生贄と引き換えにな。つまり、生贄にならないなら農奴に逆戻りだということだ。きっと歓迎会を開いてくれるだろう。抜け駆けしたんだからなぁ」


「ぐっ……」


 エグい。


 表情から察するに、俺以外の二人は農奴から選抜されたようで、生贄と引き換えに奴隷から解放され、食料も多く食べさせてもらったのだろう。

 以前の生活に戻るなんてことは本人も嫌だろうが、家族の方がもっと嫌だろう。


 解放後の行動が農奴に対して悪いものだった場合、農奴に戻った瞬間確実に詰む。

 そして子供の態度を見るに、決していいとは言えないようなことをしたのだろう。


 二人が黙り込んでしまった。

 情報を引っ張るために話してもらわねばならないのに。


 ……仕方ない。


 辻褄が合わないと困るから話したくはなかったが、俺が代わるしかないか。


「僕の家族はそんなことしないっ」


 と、微塵も思ってないことを言ってみる。

 無知な子供は、時に武器になるからね。


「私も子供を持つ親だ。彼らは本当に残酷なことをしたと思うが、本家の承諾を得た上での決定だ。私には覆しようのないことだ」


「本家ってことは貴族様ですか?」


「そうだ。辺境を守護する貴族で、爵位を持つ『ヴェジーズ準男爵』様だ」


 そいつが元凶かな?

 

「二人は平民になったみたいですが、僕の家族は何を得たのですか?」


 お金か? 金で売ったんか?


「閣下は甥のために子供を差し出してくれた御両親に感激し、今後便宜を図る約束をしてくださった。君は村のためだけでなく、親孝行もできた素晴らしい子なんだぞ。胸を張ってお役目を果たしてくると良い」


「お役目って……生贄ですか?」


「そうだとも」


「生贄はなんで出さなきゃいけないんですか?」


 喰らえ。子供のなんで攻撃を。


「君たちが食べた食料は地竜様のおかげで手に入ったのだから、御礼はしないといけないだろ?」


「地竜様? その地竜様が畑を耕したのですか? どうやって?」


「「ブフッ」」


 若者二人が咽つつ肩を震わせているけど、無視だ。

 俺だって荒唐無稽なことを言っているとわかっているが、子供とはそういうものだ。


「ち、地竜様が耕しているわけではない。糞をくれるのだよ」


「ふん? ウ〇コってこと?」


「そうだとも。それを錬金術師が堆肥に加工しているのだ。おかげで、各開拓村は毎年豊作な上、魔物の被害もほとんどない。地竜様々だ」


 つまり、その竜糞堆肥が欲しいがために生贄を差し出していると。

 どれくらいの量の糞かはわからないけど、子供三人

で満足してくれるか?

 船には他にも樽があるけど、ほぼないと言ってもいい量のものをもらって喜ぶとはどういうことなのだろうかと思わないでもないが、今はどうでもいい。


 今は助かることだけを考えるべきだ。

 他は後で時間があるときにでも考えよう。


「よって、君たちは村のためにお役目を果たしてもらう。他に質問は?」


「えっと……じゃあこの格好は?」


「おや? 知らなかったか?」


 あれ? ミスった? みんな知ってること?


「これは葬式の服装だよ……」


 農奴くんその一──便宜上『ノード』と呼ぶ──は、色々詳しいようで服装の謎を教えてくれた。

 本当は裸ローブに短剣と杖を両手に持つことが、葬儀での死者の姿らしい。


 この破廉恥な姿を下衆な表情で見る者がいないと思っていたが、死装束なら納得だ。

 変わった性的嗜好でない限り、普通はご遠慮願いたいと思うような衣装だもんな。


「じゃあ、短剣と杖を忘れたから取りに帰らないとっ」


「大丈夫だ。みんなの分は私が持っている」


 ですよねー。わかってた。


「よかったー。じゃあ僕の分をください」


「もうすぐで祭壇に到着するから、そこで渡すからな」


 やっぱり反逆対策かよ。

 子供にビビりすぎだろ。


「刃こぼれしていたらどうしましょう?」


「いいんだよ。どうせ自決用なんだから」


 刃物を出してくれたらいいなと思って言ったのだが、予想だにしていなかったところから、予想通りの言葉が降ってきた。


 内容はわかってた。

 というか、自決目的しかないだろ。

 儀礼用にわざわざ本物を渡すなんて無駄なことをせずとも、木製の模造品を持たせた方がコストが低いに決まってる。

 それに地竜がどれくらいの大きさか知らないけど、短剣程度で勝てるはずもない。


 誰もが予想できる用途のおかげで、短剣に隠された真意が見えてきた。


 それは、親からの絶縁宣言だ。


 仮に怖くなっても帰ってくるなと。

 自決してでも役目を果たせと。

 帰る場所はないと。


 それをニタニタ笑いながら告げる若者たちも、俺たちに渡すために持ってきたおっさんも、誰もが当たり前のことだと受け止めている事実に恐怖が生まれた。

 だが、同時に怒りも湧いた。


 ──絶対にお前らの思い通りになんかならない!


 と。


「……刃こぼれしていたら自決するときに痛そうですね」


「それは俺たちに言われてもなぁ。文句ならケチったそこの村長さんに言ってくれ」


 若者は肩をすくめるだけで悪びれた様子もない。

 ムカつくけど、貴重な情報を教えてくれたから許してやろう。


「ハンプ様のために代わることになったんですよね?」


 まさか目の前に交渉相手がいたとは。


「……そうだな。それがどうかしたか?」


「ハンプ様が助かるなら僕も覚悟を決めます」


「そうか! 君が我がバーベ村の村民であることは私の誇りだ!」


「ありがとうございます! 身に余る光栄です!」


 これくらいなら騎士ごっこでやっててもおかしくないだろう。

 子供はどこの世界も騎士に憧れるものだからな。


「しかし……ハンプ様は後悔していると思うのです……」


「……なんだと?」


「ハンプ様は僕のことを家臣にしてくれると約束してくれたのです」


「…………そうか」


 響かないか……。俺でも無視しそうなほど貧弱な交渉材料だもんな。


「肩トントンが……昨日のことのように覚えています」


「ん? 肩トントン?」


「叙任式のことだろ」


「あぁ。子供の頃に一度はやるやつだな」


 村長が首をひねっているところに、助け舟を出す若者二人。

 理解してもらえたことは嬉しいが、このままだと子供の遊びとして片付けられてしまいそうだ。


「子供の遊び? 僕は大人になれないから……本当かどうかはどうやって確かめるの? 二人はハンプ様の心が読めるの!?」


「「…………」」


「……わかった。息子に後悔を持たせ続けたくない親のエゴになってしまうが、君には一番良い短剣を持たせよう。家臣に下賜することは主君の務めだからな」


 元々持たせるつもりのものを渡すくせに下賜とは……。

 このおっさん面の皮が厚すぎないか?

 だがこれ以上は無理だな。


「感謝しますっ」


「うむ」


 あとは地竜の大きさ次第だけど、仮にも竜なんだから大きいと思う……多分。

 じゃなきゃ困る。


「さて、着いたぞ」


 村長が祭壇と言っていた場所は貯水池を作る際に、そこだけ掘らずに平地を維持したままの場所のようだ。多少盛り土をして浸水対策はしているようだが、想像していたような石造りの建造物があるわけではない。

 唯一の建造物といえばボロい桟橋だけ。

 壊れても簡単に修理ができそうなレベルの簡易な造りをしているせいで、足元が少し不安だ。


「では、まずはデュロックから短剣を渡そう」


「ありがとうございます」


 若者が運んできた木箱から一本だけ取り出す村長。

 それを恭しく俺に渡してくるのだが、本当にこれが一番良いものなのか疑問に思えて仕方がない。

 見た目が全く同じなのに、鞘から抜くという動作を一度もしていない。透視の能力でもあるのか?


「ついでに杖も渡しておこう」


「杖……」


 木の棒じゃん。どこから拾ってきたん?

 薪を持たせたんじゃないよな?


「全員に行き渡ったかな?」


 俺たちが全員短剣を持ったのに変わらず偉そうな態度を続ける村長だが、それもそのはず。

 護衛が剣を構えていれば、多少武装した程度の太った子供なんか怖くないだろう。


「我々は帰るからね」


「じゃあホルス村長から船に乗ってください」


「帰りも頼むね」


「かしこまりました」


 このまま帰すのは癪だけど、地竜遭遇前に斬り殺されても嫌だ。

 だから、せめて気持ちだけでもすっきりさせてもらうとしよう。


「このホルスタインめっ! 貴様らの村は近い内に、紅蓮の業火に包まれて滅亡するだろうっ! それが貴様らの運命だっ! このバーベキュー共がぁぁぁっーーー!」


 一矢報いるつもりで負け豚の遠吠えをしてみたが、意外にも効果があったようで興奮した村長が貯水池に落ちていた。


 ざまぁみろ。


「大丈夫かな……。あんなこと言っちゃって」


 気弱なのか、ここまでほぼ無口だった農奴その二が話しかけてきた。


 こいつは……レイドにするか。


「いいんだよ。今帰ってきたら巻き込まれて生贄になるんだよ。それに、裸同然の僕たちと違って服も鎧も身に着けたアイツらが落水したら、船の上に上がるだけでも大変なんだよ。戻ってくる余裕はないって」


「じゃあ……自決の用意ができるね」


「は?」


 話しだしたと思ったら、いきなり何言ってるの?


「地竜様のためなら仕方がないと思うんだ」


「それと自決がどう繋がるの?」


「デュロックは相変わらず馬鹿だな。どうせ死ぬなら、自分の死に様くらい自分で決めたいじゃないか」


 当たり前のようにディスってくるな。

 農奴二人組の普段の行動が伺い知れるってものだ。


「それなら自決しないことを選ぶよ」


 俺は農奴だったことがないから、死に様くらい選びたいって気持ちは分からない。

 まぁ前世は死に様を選ぶ余地すらなかったわけだけど。

 それなら、なおさら死ぬ時と場所を含めた死に様を自分で決めて選びたいな。


 そして死ぬ時は今じゃない。


 地竜なんかのために死ねるか。

 農奴たちが死ぬ気なら、二人を犠牲にしてでも生き残ってやる。


 ──かかって来いやぁぁぁ!


「グルォォォォオオオーーーッ」




お読みいただき、ありがとうございます。

引き続きお読みいただけたら嬉しいです。


本日は、12時と18時にも投稿する予定です。

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