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夢渡の女帝  作者: monoll
第3章 夢幻を映す湖の記憶
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第3章25「水面に浮かぶは隠者の影6」

 視線同士の膠着状態が続く中、木偶の棒(オレ)にできるのは今置かれている状況を整理する事だけだ。確認は時間が許すのであれば何度やっても良い、実行してしまったら後には戻れないのだから。


 現在、オレの目の前でレイラさんたちと老司祭たちが会敵し、視線で火花を散らしている。レイラさんの目的はともかく、老司祭の目的は、追手エルフの言葉を信じるのであれば()()の確保。…我ながら天を仰いで「マジかよチクショウ」と呟きたくなる推測だが、いくらオレ自身の思考回路のバグを疑っても事実は揺らいでくれない。

 「オレにそんな価値があるのか?」と自嘲しながらも、しかし「大事なオレの身体いのちをどちらに預けるか?」と聞かれれば、レイラさんたちだと即答できる事を確認する。


(考えろ。戦う二人より余裕を持って考える時間が多い事だけが、今のオレの優位点(アドバンテージ)だ…!)


 まずはオレたちの勝利条件、それはこの場を切り抜けてフローア村の教会に戻る事だ。知らない人間に連れていかれる知らない場所になんて、少なくともオレは行きたいとは思わない。どれだけ歳を重ねても、幼少期に刷り込まれた教えは生き残るものなのだ。

 つまり、オレたちは最低でも老司祭の撃破を求められる事になる。逃げる最中、遠距離から光の矢で狙撃されたら目も当てられないからな。うぅ、脚を狙われた記憶トラウマが鮮明に蘇る…。


 そして赤ずきん少女の対処は…彼女の出方次第、だろうか。あのダメージを負った脚なら、距離を離せば追走はされまい。

 だが、老司祭の攻撃に合わせて彼女も襲ってくるのであれば、格闘姫たちに迎撃してもらう他ない。ただし、その場合はレイラさんの先の一言が引っ掛かってくる。


(あの瓦礫の中に、まだ生きている人間が本当にいるのなら…)


 幸い、レイラさんとソレイユの戦闘スタイルは徒手空拳。剣やら槍やらの刃物を扱わない彼女たちだからこそ、致命傷を与える事はないだろうと信じているが…。

 それでも彼女へ与えるダメージを最小限に抑えられるよう、立ち回ってもらった方が良いかもしれない。レイラさんの忠告は、素直に受け入れるべきだ。


「レイラさん、あの赤ずきんの動きを止める事はできますか?」


 とはいえ、赤ずきん少女には相手の力を吸い取る水がある。それを無力化する為には、レイラさんの浄化の恩恵ちからが必要だ。

 いくら赤ずきん少女が弱っているとはいえ、少しでも力を取り戻されてしまったら戦局は大きく変わってしまう。ソレイユに頼る事も一度考えてみたが、ここは安牌を取るべきだ。


「今の彼女相手であれば、無力化も容易だと思います。ですがそれはーー」

「ソレイユを赤ずきんにぶつけるよりは、冷静に戦ってもらえそうなので」

「な、成程。ぐうの音も出ない正論ですね」

「おいコラ頭猪ボロア女、誰が導火線の短い爆弾女だって?それとオジサンは後で覚えておきなさい」


 オレの身体にソレイユの靴跡ムチが飛んでくる未来が確約されてしまった…。何故だ、オレなりにちゃんと考えた結果マッチングだというのに!?


「相談事は終わったようですな。では、待たせていただいた分…溜めた魔力を受け取っていただこうかのう?」


 番えていた矢の先端が、大きく肥大している。一か所を貫くというより、全てを呑みこんでき切るだろうその光量は、恐らくレイラさんの浄化では防ぎきれない。

 しかもあの老司祭、オレたちの立ち位置まで計算していやがる!仮にレイラさんたちがオレを連れて避け切ったとして、その後ろにあるのは赤ずきん少女が守る瓦礫の山。彼女の水の魔力でどれだけ防ぐ事ができるのか未知数だが、レイラさん以上の防御力が発揮できるとは思えない。


「やり方がきたねぇぞ、チクショウ…!」

「汚さも波風立てず受け入れられる寛容な心、それが長命の秘訣ゆえ」


 思わず口から出たオレの悪態も虚しく、老司祭に軽く一蹴される。言葉で返すより、身体いのちで返せって事かよチクショウ…!


祝福の弓矢雨(ディヴァ・レイン)


 ほとんど二人と相談する時間もないまま、老司祭の弓から光の洪水が放たれる。何も手を打てなければ、ただかれるだけ。だがオレには、その手とやらが何もない。

 大の男、その身体の大半を覆えそうな洪水だんがんを、どうやって避ければ良いんだーー。


「カケル様、失礼します!」


 瞬間、地面が爆ぜ散った。同時にオレの視界が、白やら茶色、灰色やらと。遊園地のコーヒーカップも目を剥く驚きの速度で、目まぐるしく景色を変えていく。

 定期的に地面が抉れ、音が耳を衝く中で微かに聞こえるレイラさんの緊張した吐息。この一文だけ聞けば、甘い予感のする密着具合を想像するかもしれないが…。残念ながらここは戦場、甘さを含めば死神が微笑む事だろう。


 そう、オレは今。レイラさんに抱かれ、光の弾丸の雨を躱す只中にいる。お姫様抱っこされているオッサンの図、と言えば解りやすいだろうか。…恥ずかしさで死にたくなってきた。

 そんな戦闘の玄人に木偶の棒を守ってもらっている手前、言葉を挟むのはお門違いだと百も承知だが…どうかこれだけは言わせてほしい。


(ぐ、グラビティが…キツ、い)


 日頃から貯めてしまっている脂肪が余計に内臓を圧迫し、レイラさんの方向転換の度に悲鳴をあげる。しかし、それでも何とか意識を保てているのは、ひとえにレイラさんの浄化の恩恵ちからによる回復のおかげだ。

 つまりレイラさんは、浄化じぶん恩恵ちからを防御の為に使わず、この老司祭の猛攻を避けているのだ。…マジかよ格闘姫レイラさん、やっぱり人間辞めてないですか?


「ほっほ、避けますなぁ。流石は『戦巫女』、一筋縄ではいきませ、ぬーー」


 飄々(ひょうひょう)と気分よく言葉ちょうはつを並べようとし、しかし言葉と攻撃の手が途中で詰まる。老司祭の視線は、ある一点に釘付けになっていた。

 レイラさんが回避以外に何か反撃に繋がる行動を起こしていたから?違う、それは間近で見上げているオレがよく知っている。ただでさえ得物こぶしが使えない現状で、反撃に転じる事なんて出来る訳がない。

 ではソレイユの蹴りが老司祭の背後から見舞われたから?違う、それは自動展開されたと思われる光の盾によって阻まれていた。「チッ!」と舌打ちが聞こえ、有効打にすらなっていない事が伺える。


「ピカピカと騒がしいから足を運んでみれば、何やら楽しそうな事になっているじゃないか」


 それは、身長ほどにもなる金の宝杖を、片手で携えている少女の形をしたモノ。薄いピンクの髪と空色のカーディガンを焔のようにはためかせ、宙に浮く姿はまるで意地の悪い女神様のよう。


「どうせなら、ボクも混ぜてくれると嬉しいな」


 ただし、その表情は。老司祭同様…いやそれ以上に掴めない、妖しさに満ちていた。

●唐突に始まる、夢世界いせかいの住人による主人公君争奪戦

やったね主人公君、人気者モテモテだよ!なお夢世界いせかいの住人たち大半の思考は生死問わず(デッドオアアライブ)の模様。ファルスたちのような生け捕り派は貴重だったりします。


ファルスの生け捕り指示がなければ、そもそも赤ずきん少女(プリシラ)の水牢に入れられた時点で主人公君は詰みでしたし、アクリス村への拉致は主人公君を絶望の渦中に放り込むようなものです。

ヒロインちゃん(と女神様)が目を光らせているとはいえ、立て続けに主人公君が狙われたり気を取られるような出来事があると守りが薄くなるので、なるべく主人公君には友好関係を築いて、自分の守りが薄くならないようにしてもらいたいですね。


祝福の弓矢雨(ディヴァ・レイン)

法王を起動しないファルスの最大技です。つまる所は光の矢の滅多打ちですが、一撃がそこそこ重たい癖に精度は抜群に良いので、ヒロインちゃんの浄化であっても受け続けるのはとても危険です。下手したらヒロインちゃん諸共、主人公君が貫かれてしまいます。


その為、作中のように主人公君を抱えながら回避し続けるのがこの技の対策となります。…光の矢を()()()()()()()()側の強さも大概ですねぇ。

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