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夢渡の女帝  作者: monoll
第3章 夢幻を映す湖の記憶
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第3章21-2「悪魔の手を振りほどく女教皇の腕」

こちらは第3章21-1「Choose One(Level 3)」のAルート(正解ルート)になります。文章も、その続きからとなっています。

主人公君が呼び出した悪魔に、勝機はあるのでしょうか…?

 オレを襲ったのは、猛烈な倦怠感だった。酸素を使い切った反動もあるのだろうが、それとは異なる()()がオレから奪われたようなーー筆舌し難い喪失感が全身を襲う。

 だが、変化はそれだけだった。能力下降デバフだけオレの身体に撒いた悪魔は、レイラさんへの助力(これ以上の願い)を聞き届けてもらえなかった。


「…いきなり叫び出すから何かと思ったけど、ただの悪あがきだったみたいね」

「ミーシャが断頭風(アクスゲイル)なんて撃つからでしょ!本当にあの人間が変な力を隠し持っていたらどうするつもりだったのよ!」

「まぁ、その時はその時よ。マーシャの弓の腕なら、あの人間が何をしようとも一瞬で脳天をズドン!だし」

「この向こう見ず女ぁ!」


 ファンタジー物にありがちな内容の、何の変哲もない会話がオレの鼓膜をキンキンと刺激する。全身が脱力しきってしまった今の極限疲労状態の中では、たったそれだけでも脳に大きな負荷をかけてくる。


(頭が、痛ぇ…)



 心では少しでも前へと這って進もうとしているが、現実はその場で痙攣するだけで、最早自力で何も行動ができない有様だ。今のオレは、這える芋虫にすら劣っていよう。

 くそ、と自分に悪態をつきながら、叶わぬ願いだと知りながらも腕を前へと伸ばそうとする。そんなオレの行動こころを、読み取れない追手ではない。


「ねぇマーシャぁ、あの人間どうするのぉ?」

「アンタ、その判断までアタシに丸投げするつもり!?」

「えー?だってワタシ、力仕事したくないしぃ」


 マズい、追手エルフたちの意識がオレに向いている。こちらの心を折るように、わざとらしく声を張りながらブーツを鳴らし、距離を詰めてくるのが分かる。万策は既に尽きている、もうオレの中に有効そうな手札は残っていない…!

 折角あの赤ずきん少女から逃げられたのに、このままあのエルフたちに捕まってしまったら、今度は逃がさないとトイレにもくっついて来る可能性だってあり得る。…最初からそうだったような気もするが、より過激に、過剰にくっついてくる事だろう。正直、今から恐怖で寒気がする。


「でも、このまま放置するのは良くないわね。自分の意思でこちらについて来てもらえたら楽なんだけど…」

「あのチョーシじゃ、無理なんじゃない?」

「…そうね。希望的観測であれこれ言ったって仕方ないわ」


 弓矢をしまった薄緑色の髪のエルフに、いよいよオレの身体が抱きかかえられる。…毎度ながらオレの夢の中の女性陣、逞しすぎない?誰も彼も、そんな細い腕でよくオレの体重を支えられるよな。


「男って、どうしてこんなに重いのかしら」

「さぁ、色んなモノが詰まってるからじゃない?ミーシャをムフフ〜な目に遭わせる妄想とかしているのかも…あいたぁっ!?ちょっとミーシャ、蹴らないでよーーあいたぁっ!?」

「つまり要らないモノだらけって事ね、やっぱり理解できないわ。それと、その手の色話は全部アナタに譲ってあげるから。良かったわねマーシャ、行き遅れることがなくなるわよ」

「え゛ーっ!?ワタシにも選択権欲しいよーっ!」


 悪かったな、体重80キロ超えの贅肉野郎で!それはそうと、本人を目の前にして堂々と拒絶してくれるんじゃねぇよチクショウ…。


              ★ ★ ★ ★ ★


 他人の事を重くてキツいだの、全身が汗まみれで気持ち悪いだの、言いたい放題言われて感情を刺激されない人間は果たしているのだろうか。少なくともオレは、負の感情がフツフツと湧いてくる程度には刺激されている。

 沸点が低い?それは30ウン年付き合ってきたオレ自身がよく知っている。矯正はもう諦めた。


 ならせめて言い返してやれ?それはごもっとも。だが残念ながら今のオレは、言葉を発する事すら億劫な程に疲労していた。呼吸をする事すらままならない、いわゆる廃人一歩手前の状態だ。

 …何故こうなってしまったのか、だって?そんなもの、思い当たる節は一つしかない。オレの手の中に一瞬現れた、あのカードだ。


(”ヤツヨ”とか、老司祭たちが持っていたものに、似ていた…気がする)


 命の危機に晒され必死に逃げる中で見たものだから、「幻覚でも見ていたんじゃないのか?」と言われたら否定はしない。効果を実感できていないのだから現実ではない…つまり幻覚だったとこじつける、とても苦しい言い訳だが。

 だが、夢世界いせかいの中ではあるがオレの意識は本物げんじつだ。百歩…いや一万歩譲ってオレの周囲が特殊な環境で生まれ育った設定ユメだったとして、摩訶不思議な力が急に覚醒したとか、ファンタジーあるあるが現代の人間にも当てはまってたまるものか。

 その意味でも、是非あの光景(タロット発動)は夢だったという事にしてほしい。あの手の力は、使い慣れてしまうと癖になってしまいそうなのだ。使えなくなった時の喪失感は計り知れない。


「マーシャぁ、その人間の引き渡しの時間ってそろそろだったよねぇ」

「プリシラちゃんの上司が直々に来ると聞いてるわ。それがどうかした?」

「…あの人、キライなんだよね。何というか、染まってしまったなぁって感じ?」

「その言葉、絶対に口が裂けても言わないようにしなさい」


 オレがいつまでも口を開かない為か、もしくは仕事終わりで慢心しきっているが為か。ギッチリと詰まっているらしいオレの今後の知らない予定を、隠す事なくペラペラと喋ってくれる女二人。

 それ自体は大変助かるのだが、このまま身を任せていたら、現実に帰りたいオレの意志なんて誰も聞いてくれなくなる気がする。何だったら「オレの首を獲る!」と断頭台に上げられる可能性だって否定できない。


(こういう時こそ、あの女神様(”ヤツヨ”)の出番なのだろうに。どこで何をしているんだよチクショウ…)


 残念ながら未だに念話通信は届かず。かと言って、今のオレは声すら満足にあげられない極限疲労状態だ。何をするにしても一手目から八方に障害がある状況で、一体何ができるのやら。

 溜息を心の中でつき、虚無感がオレの身体を更に重くする。いよいよ階下へ続く道が見える開けた場所に出てきた頃ーーそれは突然起こった。


 ーーーッズ、ズゥンッ!ーーーッズ、ズズゥンッ!!…


 建物全体が揺れる。…いや訂正しよう、揺れるというより何かに()()()()()()()()()

 一定の間隔で突き上げられる衝撃は、まるで地中からこの建物を宙に向けて、槌で打ち付けているような悪い想像をさせる。地の底で居心地の悪いナマズが快適さを求めて暴れているものとは違う、正体の分からない気味の悪さがこの揺れにはあった。

 思わず女二人エルフたちも、尚も続くその揺れに抗うべく、その場に足を縫わせた。


「いいいいきなり何なの、この揺れぇ!?」

「魔法の余波にしては、規模が大きすぎるような…!」


 即座に魔法ありき(その手)の思考をしてくれてありがとう、是非そのまま考察を続けてくれ。オレもなけなしの体力を振り絞って、現実的に周囲を見渡してみよう。

 幸運な事に、抱きかかえられた今のオレの視点の高さから、夢世界いせかいの住人なら簡単に階下へと飛び降りる事ができそうな吹き抜けた空間を、ほんの少し窺う事ができるのだ。


 一口に言い表すと、惨状だった。この揺れで力加減を誤って、下まで放り投げられたらどうしようとか、そんな粗雑な感想すら吹き飛ばす光景が、そこにはあった。

 無駄に豪華なエントランスの装飾の数々が、見るも無残に砕け散っている。誰かが暴れているのだろうか、いやソレイユが部屋まで突撃してきた事を考えれば当然か。


 オレを追いかけてきたエルフたちが、この二人以外誰もこのフロアには居ない事も考えると、その1階に現在も侵入者がいるのかもしれない。だが、オレが視認できたのはその情報までだった。

 とはいえ、彼ら彼女らが持つ得物の事を考えると、金属同士がぶつかり合う音や魔法による破壊音が聞こえてもおかしくはない。…正確には、現在もソレイユたちが暴れていると思われるこのフロアから破壊音は聞こえてくるが、それにしては()()()()()


 ーーーッズ。

 ズズウゥンッ!!!!


 オレの思考よゆうは、そこが限界だった。一際大きな突き上げが、エルフ二人の身体ごと宙へと放り投げる。当然、抱えられていたオレの身体など一緒に宙に浮くしかなく。しかも悪所だった事も災いし、想像通りの命綱レスのバンジージャンプを敢行するハメになった。


 ここは3階、このまま背中から階下に突撃すれば骨折どころの話ではない。

 階上には誰もいない。いる訳がない。左手の甲の紋様を消費して呼び出す使い魔なんて便利な物は、オレにはない。あればとっくの昔に回数制限を突破してでも使っている。

 身体が宙で反転する。オレの視点が、遠ざかる天井から近づく床へと切り替わっていく。どうやら放り投げられた瞬間、エルフが緩やかな回転をかけてしまったようだ。

 まだ背中から突き落とされた方が、込み上げてくる恐怖の速度はマシだっただろうに。正面を向いてしまったが最後、後はそのまま衝撃を身体全体で受け止めるだけーー。



「お迎えに上がりました、カケル様」


 手を離したエルフたちの後悔はもう聞こえない。それよりも、今オレの視界いっぱいに広がっている光景が信じられない。

 この場にいる筈のない、白と青の気品ある衣装を纏った聖職者が。その階下から天へと駆けるようにオレを抱えにきたのだから。

●ヒロインちゃん、何故ここに!?

きっかけは主人公君の悪魔タロットの力です。…え?契約状態にならなかったのに何故場所が解ったのか?

その答えは、彼女自身の恩恵ちから…浄化の恩恵です。あらゆる呪い・穢れに属するモノはヒロインちゃんには通用しません。怪しげな悪魔からの念話(呪い)なんて、即座にシャットアウトされます。


これが災いし、悪魔タロットの効果が得られなかった主人公君でしたが、逆にそれがキッカケでヒロインちゃんが呪いの元を探知できるように。10数秒でアクリス村まで駆けつけられ、BAD END LOG04-1で女神様が言及していた「正確な位置までは分からない」問題も解決しました。めでたしめでたし…。


●あの「揺れ」って、結局何だったの?

ヒロインちゃんが呪いの場所を特定できるのは平面の点座標のみ。ポイントに近付いたら、後はZ軸(高さ)を探す必要があります。

その為、吹き抜けのエントランスで単純に()()をしていました。一度目と二度目、三度目は2階の探索で120度ずつの視認、四度目で3階探索の為に跳躍しーー墜ちる主人公君を咄嗟にキャッチするというファインプレーに繋がっています。


勿論、そんな暴挙を許すエルフたちではない筈ですが…。一人残らずヒロインちゃんの拳に沈んでいる模様。戦意を喪ったエルフたちへの威嚇として、跳躍の度に衝撃を地面へと逃がす力を強めた結果、三度目で完全制圧となりました。装飾品の破壊も、この跳躍によるものです。


複数人とのリーチ差のある戦いにも関わらず、制圧する(できる)ヒロインちゃんの技術…改めてバケモノか?

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