BAD END LOG04-2「空墜ちる悪魔と死神の大槌」
こちらは第3章21-1「Choose One(Level 3)」のBルート(ifルート)その2になります。文章も、その続きからとなっています。
主人公君が呼び出した悪魔に、勝機はあるのでしょうか…?
オレを襲ったのは、猛烈な倦怠感だった。酸素を使い切った反動もあるのだろうが、それとは異なる何かがオレから奪われたようなーー筆舌し難い喪失感が全身を襲う。その隙間を埋めるように、誰かがオレの中に入ってくるのが解る。
あぁ、悪魔の代償とはこういう事かと納得しながら、オレはそのまま意識を手放した。
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「オジサンがピンチだって聞いたから飛んできたけどさーー」
そこに居たのは、黒いマフラーをたなびかせた浪士風の男だった。篭手で腕を守る割には帯刀しておらず、しかし徒手空拳で戦う者だと考えれば一見意味を為さない装飾にも意味はあるのだと納得できる。
いよいよストレスで増えてきた若白髪を隠せなくなった事に人知れず焦りを感じていた当人にとっては、髪が銀色に染まった今の姿はある種の朗報とも言えよう。
「目線高ッ!声低ッ!汗びっしょりだし、お腹周りもダプダプッ!色々混ざって気持ち悪いんですけどーッ!?」
だが、それは中身が外身と合致していればの話。悪魔の儀式によって入れ替えられた女々しい中身は、その突然の変化にただ戸惑うばかりだ。
それもその筈、カケルが呼び込んだのは現時点で彼と協力関係にある女忍者。突然身体が入れ替わり、目の前の景色まで変化した現状をすぐ飲み込めと要求するのは酷な話だ。
当然、それはつい先ほどまで獲物を追い回していた狩人たちも同様だ。
「あの男、急に変化したわ!?プリシラちゃんも凄い人間見つけてきたわね!」「これがウワサの、オチ・ムシャ…」
「よーし蹴り潰す!その顔がヘコむまで、徹底的に念入りに蹴り潰してやるわッ!!」
忌々しい敵国の女との敗戦の数々を思い出し、思わず激昂するソレイユは、しかし条件反射で動かそうとした身体が思うように動かせない。
「って身体重っ!それに痛っ!オジサン身体鍛えてなさすぎて笑えなーーいや、これもしかして」
慣れない身体だから動かしにくい、というソレイユ側の理由もあるが、それにしては呼吸の底が浅すぎる。まるで、慣れない全力疾走をした後のようなーー。
「そう。オジサンなりに、頑張ってたってワケ」
見るからに戦闘に慣れていない甘ちゃんが、必死に頑張って追手から逃げていた。たとえ相手に手心を加えていた逃走劇だとしても、命の危機から脱しようと必死に足掻いた姿が容易に想像できる。その愚かさを笑うつもりは、ソレイユには毛頭なかった。
暗殺対象と行動を共にするばかりか、彼女に利する事に手を貸すなど。太陽の国の第二王女として、今の自分の立場として、本来取るべきではない行動だ。誰かにバレたら自分はおろか、他の人間の首が複数飛ぶ程度の話では済まないだろう。
それでも、ソレイユはこの甘ちゃんを見殺しにはできなかった。一時だけとはいえ、剣になると契約した自分の言葉に、嘘はつけない。
「じゃ、あたしが少し脚を貸してあげる。今から無理するけど、頑張って耐えなさい」
ゴボッと音を立て、ソレイユの影が膨らんでいく。黒い深淵が突如現れ、慢心していた追手たちも流石に影への警戒心を顕わにする。
だが、それが彼女たちの最大の過ちだった。ソレイユ自身の影に気を取られ、廊下の奥ーー建物の壁にまで伸ばした彼女の影に、まるで気がつかない。
「アンタたちをボッコボコにするのは後回しにしてあげる。運が良かったわね」
影が壁を呑みこみ、バキリと何かを咀嚼した後の口腔内は、この食事処がウリにしているエリアス湖が一望できる。今は亡き湖の主を探しているのか、複数の子分たちが嘆くように飛び跳ねる姿を、この3階からでも見る事ができる。
強烈な破壊音と差し込んだ光に、ようやく追手たちはソレイユの意図を汲み取った。しかし、判断が数手遅い。
ソレイユは何かを背後に放り投げつつーー壊れた壁の向こうへと背中を向けずに飛び退る。自分たちに向かってこないその行動で、追手たちは最悪の想定が正解であると悟った。
影は、光源から見て後ろへと必ず伸びるものだ。故に、通常であればソレイユの位置関係では、必ず追手側に伸びてしまう。
だが、背後に更に影が伸びていたらどうだろう?ソレイユが放り投げた物質から、影が伸びていたらどうだろう。その物質が、伸ばした彼女の影を縫う苦無なら、どうだろう!
「しまった!魔力が間に合わない…!」「くっ…!」
風の魔力を全力で放り投げるが、後ろに伸びた影を伝ってソレイユは潜って逃げていく。
影の利を得たソレイユには、追手たちでは到底追い付けない。だが、態勢を整える時間は取らせてもらえない。
そこでソレイユは退いた勢いを殺さず、剥き出しになった外の世界へとダイビングした。気分は命綱のないバンジージャンプ、カケルの意識があれば到底下の光景など直視できるものではない。
「このまま着地をーー」
脱出を確信したソレイユは、自分の身体は一体どうなったのだろうかとふと考えが過ぎった。
自分の意識はカケルの身体にある、では、ソレイユ自身の身体は今どこにあるのだろう。
それ以上を考えようとした刹那、全身に耐え難い痛みがソレイユを襲った。
(何、これ…。何かに潰されたような、痛みがーー)
先の追手たちの攻撃は完全に避けた。下からこちらを狙う狙撃手はいない。何より、カケルの身体に傷はついていない。
関係あるとすれば、痛みに襲われたのと同時に何かが盛大に壊れる音がした事…くらいだろうか。内装が剥き出しになった見覚えのある部屋、その中で大量の水が大槌の形を作って、ナニかを叩いているらしい。
だが、それ以上意識を割く事はできなかった。ソレイユが見た景色は、これが最期だったからだ。
(BAD END LOG04-2「空墜ちる悪魔と死神の大槌」)
●今回の選択ミス
BAD END LOG04-1と同じく、悪魔の人選ミスです。ソレイユは赤ずきん少女の足止めの戦闘をしている為、悪魔で呼び出してしまうと今度はソレイユがピンチになってしまいます。
「・契約状態は、思い浮かべた人物の意識も借り受ける。その為、主人公が力を行使する間は、その人物が木偶の棒となる。」
この通り、取り残されたソレイユの身体は、赤ずきん少女にとっては無抵抗に攻撃を受け続ける人形。その人形が敵陣営のものであれば、生かしておく必要はありません。水のハンマーで滅多打ちにされるのも止む無し、ですね。
借りた意識の身体が過剰なダメージを受けると、当然悪魔との契約も途中で切れてしまいます。そうなれば、主人公君自身もそのまま地面へ何の補助もないまま衝突してしまう…という内容でした。
ちなみに、このルートはかなり特殊で、「ソレイユが主人公君と共闘関係にある」かつ「好感度がある程度高い状態」でなければ発生しません。通常は契約状態にすらなれず、そのまま追手たちに捕まってしまいます。この追手たちに捕まったら最後、後の展開によって二度と脱出は叶いません。
ソレイユには、このまま赤ずきん少女の相手に専念してもらう方が良いでしょう。となると、残る主人公君の選択肢も限られますね…?
●悪魔with ソレイユ
ソレイユと契約状態になると、黒いマフラーを首に巻いた浪士風の姿となります。流石にお腹を出す衣装は主人公君としても避けたかった様子…。
勿論、ただのコスプレです。衣装が変わったからと言って、ゲームよろしく性能が変わる訳でもありません。頑張って頭を使ってね!
●ソレイユの影魔術を補う苦無
実際には影魔術で創ったもので、影そのものに作用する効果があります。また、ソレイユの影そのものなので、一定範囲内にソレイユが居れば苦無の位置までワープする事も可能です。どこかの火影かな?
自分の影をその場に縫い付けたり、相手の影に突き刺して動きを制限したりと用途は様々。ただし、いずれもヒロインちゃんには無効です。浄化ってやっぱりツエーわ…。




