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夢渡の女帝  作者: monoll
第3章 夢幻を映す湖の記憶
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BAD END LOG04-1「悪魔の晩餐会」

こちらは第3章21-1「Choose One(Level 3)」のBルート(ifルート)その1になります。文章も、その続きからとなっています。

主人公君が呼び出した悪魔に、勝機はあるのでしょうか…?

 オレを襲ったのは、猛烈な倦怠感だった。酸素を使い切った反動もあるのだろうが、それとは異なる()()がオレから奪われたようなーー筆舌し難い喪失感が全身を襲う。その隙間を埋めるように、なにかがオレの中に入ってくるのが解る。

 あぁ、悪魔の代償とはこういう事かと納得しながら、オレはそのまま意識を手放した。


              ★ ★ ★ ★ ★


「おや、こんなに早く呼ばれるとは思いもしなかったが…。状況から察するに、確かに鬼札タロットの使い所だったのかもしれないね」


 袖を通さない空色の上着をマントのようにはためかせ、金杖を握る姿は強者の佇まいそのもの。恐怖が顔に張り付いていた、先ほどまでの弱者とはまるで別人の姿だ。

 悪魔の誘いに乗り、女神様(”ヤツヨ”)はここに降臨した。追い詰めていた筈の獲物あくまのその変貌っぷりに、追手エルフたちの警戒心は更に高まっていく。


「さっきの言葉は撤回するわ、ミーシャ。この人間を傷つけずに拘束するのは難しそうね」

「解ってくれて何よりよ、マーシャ。…やるわよ」


 マーシャと呼ばれた緑髪の女(エルフ)は弓に風を纏わせた矢を番え。ミーシャと呼ばれた薄緑髪の女(エルフ)は片手剣を構えながら、空いた手には小さい嵐が一つ、球状に収めてこちらを睨んでいる。それがどうやら、完全なる二人の戦闘態勢らしい。

 その警戒は正しい。”ヤツヨ”からすれば、本体オリジナルであればまず光焔の雨(小手調べ)程度で灰すら残らず散っていく雑兵たちだ。ならば、最初から加減なんてせず全力で仕留めにかかる心積もりで挑んだ方が、まだ結果は残せるだろう。


「風使い、か。キミたち程度じゃ、今のボク()()相手は難しいと思うけどね?」

「抜かせッ!」


 ミーシャが風の球をアンダースローでこちらに放り投げ、それに合わせてマーシャがこちらの心臓を射抜かんと矢を射ってくる。成程、確かに魔法と物理の二段構えは対処が難しい。

 ただし、それは常人ーーとりわけ弱者の思考だ。そして今の”ヤツヨ”は、残念ながらその弱者にまで強度が落ちてしまっている。だからここは、悪魔タロット恩恵ちからに頼る事にした。


灰燼かいじんに帰せ、黄昏の焔(ラグロック)


 金杖を構え、そこから現れた白い光焔が黒く変色し、放たれた焔弾の通った路に火柱を何本も作りながら迫る攻撃かぜに応じていく。火と風では、相性の都合で火に軍配が上がってしまうのは明白だ。今回も、その例に漏れる事はない。


「相性の勉強は大事だ、よく学んでから出直すと良い」


 ミーシャの風を取り込み、更に勢い付いた黒焔弾がエルフたちを燃やした。咄嗟に魔力のバリアを張ったようだが、それが破れるのも時間の問題だろう。

 戦闘と呼ぶには、あまりにも物足りない幕引き。たった一合のみ魔法を打ち合っただけの、一方的な蹂躙。

 狩人と獲物の立場が逆転したエルフたちは、バリアで己が身を護りながら手に持つ得物をカタカタと震わせて怯えている。圧倒的な戦力差を持ってしても戦意を失わないのは、彼を捕えるという己の使命感によるものか。この時点で一時退却すれば、その使命感を燃やしてでも命は取り留めただろう。

 だが、その使命感が命綱を自ら斬ってしまった。バリンと魔力のバリアが割れた音がし、焔の轟音が彼女らの悲鳴をも掻き消して(包み込んで)しまう。残ったのは…最期まで彼女らが手にしていた、黒焦げた弓と剣(得物)と何かを焼いた後のような異臭だった。


「…バカだね、キミたちも。天秤に掛けるモノを間違えるなんて」


 その独り言に答えを返す者は、この場にはいない。周囲に燃え広がってしまった焔の音を背景に、”ヤツヨ”は自らも脱出しようと金杖をその場に叩きつけた。どうせ地上に戻るのなら、このまま床を燃やして下に向かった方が楽に移動できるだろう。着地方法?そんなもの、悪魔タロットから多少力を貰えば良いだけだーー。


 そこで、”ヤツヨ”は違和感を覚えた。


(おかしい、さっきから悪魔タロットから力を貰いすぎている。魔力増強の為だと思っていたけど、これは一体ーー)


 何かを間違えた予感がした。なら、今すぐ違う方法を探さなくては。そう思った時には既に遅い。

 ドクンと心臓の跳ねる音が、悪魔タロットの制限時間だと告げていた。


(バカ、な。まだ時間は、1分以上ーー)


 ガラリ、と音を立てて燃やした床が崩れる。地上までおよそ3階分はある高さから、何の補助もなく墜ちるのはマズい。

 咄嗟に魔力の縄を使って脱出しようとするも、しかし元の身体の疲労感が邪魔をして腕が動かなくなっていた。


(しまったな…。これは、ボクのミスか)


 女教皇プリーステスちゃんもこのアクリス村を目指して駆けているとはいえ、彼が囚われている正確な位置までは分からない。謎の早まった制限時間によって、下層で構えているだろう敵影の対処も出来なくなったし、悪魔タロットからの恩恵ちからも得られなくなった。

 衝撃がこの身体に走るまで、あと数秒もない。()()より先に、意識が入れ替わってしまう。


(すまない。ボクは、キミの道標にはなれなかったようだーー)





 悪魔の所業、ここに極まれり。何かが潰れる大きな音が、食事処の中心に真っ赤な華を添えていった。



(BAD END LOG04-1「悪魔の晩餐会」)

●今回の選択ミス

悪魔タロットの人選ミスです。確かに、”ヤツヨ”なら戦力としては申し分ありませんが、無駄な戦闘をしてしまうと、制限時間という意外な悪魔のナイフが襲ってきます。


どうやらこの悪魔はグルメらしく、「前回呼びかけに応じた人物と同じ人物を契約すると、その時契約できる時間が半減する」ようです。同じ料理は連続で持ってくるな、という事ですね。

「そんなインチキルール、知らないよ…」?女神様も同じ感想です。連続して契約状態にならないと判明しない効果、これがハズレタロットと呼ばれる所以です。


因みに、契約状態によりどんなに強大な力を手に入れても、身体能力は変わらず主人公君のまま。戦闘を回避して脱出する事だけに注力しても、彼の疲労感を攻略する鍵がない以上、このルートの場合は必ず失敗します。


また、女神様が最後に意識したように、上の階層から主人公君が降りてくるのを今か今かと待ち伏せている敵兵エルフたちには、女神様の制限がない状態でぶつける必要があります。適材適所、という奴ですね。

では、この場合の適材適所となり得る人物は一体誰なのでしょうか…?


そういえば、女神様はヒロインちゃんの行動を把握できていましたね。もしかして、契約状態になる()()()()行動を共にしていたのでしょうか?

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